『―――どうしても守りたかったモノなのに、いつだって守らなきゃいけなかったモノなのにどうしてどうしてどうしてどうしてッ!!
  …どうして、こんなことになる……どうして、こんな、答えが……!』


 全てが終わったら、彼女たちと星を見たいとか。
 帰ったら、仲間と一緒に悪ふざけをしたいとか。
 明日にはまた、違う一日が始まるとか。

 そんな普通の日常を、
 そんないつもの風景を、
 そんな小さな幸せを。

 特別なことがなくても笑顔がこぼれてきたり、
 嫌なことがあってもふと忘れてしまったり、
 譲れない意地を張りあって泣いてしまったり。

 誰もが心から笑って、
 触れた手の温かさに安らいで、

 そんな、温かい幸せで満ちていた頃。

 そしてそれは、何の音も立てずに壊れてしまった。


『何も分かっちゃいなかった何も理解しなかった何も考えなかった何を……オレは何をしていたんだ……オレ、は。
 違うじゃないか嘘じゃないか偽りだろうが!変えて見せろよ、この真実を!!
 こんな真実があってたまるか!こんな、嘘に塗れた証明が、あってたまるか!!』


 真っ白な部屋で愛想笑いを浮かべ、俺は左手で敬礼をする。
 そして、つらつらと事務的な言葉を並べると、向かい合っていた二人の軍人は
 ほっとしたように笑い、茶色の薄い封筒を差し出した。
 俺はまた笑うと、その封筒を受け取った。


『…うううぅゔぐぁぁあ゙あ゙あ゙!!――怨むぞ、怨むぞネウロイ!!どうしてオレを殺さなかった!
  何故未来を奪った!どうして、この右腕と共にオレを殺してくれなかった!!』


 得た物は黄金の飾りと揺るがぬ地位。
 失くしたモノは己の誇りと小さな一。


『ネウロイよりも何よりも、オレは、オレを殺してしまいたい』




                         ◇◇ ◇◇




 第501統合戦闘口腔団へ正式に赴任したこの男の最初の要望は、
 一緒にご飯を食べてください。と、なんとも拍子抜けするものだった。


エーリカ「いっただきー!」

俺「…………」


 皿の上の最後の芋がタッチの差でエーリカに奪われる。
 行き場を失ったフォークがカチン、と虚しい音を立てて皿とぶつかった。


エーリカ「…にぃにぃ、今すっごい顔してるよ」

エイラ「オマエ本当にウィッチナノカ?怖すぎダロ」


 エーリカの口に消えた芋を今だ見つめ続ける俺は、まずカタギの顔をしていない。
 極悪人か、殺人鬼か。元々の顔も充分怖いのに、今の顔は恐ろしいに入るかもしれない。


俺「エーリカ、その芋は本当に最後の芋だったんだぞ……もう全て食べてしまったんだぞ……」

エーリカ「え?ウルスラの持ってきた芋全部食べちゃったの?」

宮藤「はい。あとお米もありません」

ミーナ「そういう訳なので、朝食が終わったら全員ブリーフィングルームに集まってください」


                                    ◇◇ ◇


ミーナ「ということで、臨時補給を実施することになりました」


 少なめだった朝食を終えると、どうやら補給をする事になったらしい。
 食糧などが足りないと聞き、ふと謹慎中のことを思い出す。
 おいしそうな匂いだったが、とても食べる気になれず、全て魔法で分解していたのが申し訳なかった。


ミーナ「――ロマーニャの土地勘があるのはルッキーニさんなので、この任務は二人にお願いします」

リーネ「えっ」

シャーリ・ルッキ「了解!!」

坂本「敵の襲来がいつ来るか分からんので人数が出せなくてすまんな」


 謝る坂本と反対に、ぴょんぴょん跳ねて喜ぶルッキーニと嬉しそうに大事は無いといった感じに話すシャーリー
 トラックで補給なんて懐かしい。まあ補給なんてものでもなかったが…
 そんな感じにぼうっとしていると、不意に声がかけられた。

ミーナ「では宮藤さんと俺さん。お願いね」

宮藤「はい!」

俺「――む?」

リーネ「私は待機なので、俺さんお願いします」


 突然の指名に目を向いて固まる俺の袖をリーネが引く。
 困ったように笑うリーネからミーナへと視線をずらすと、彼女はふっと微笑んだ。


俺「え、あ…いいんでしょうか?隊長」

ミーナ「ええ、もちろんよ。何か問題でも?」

俺「しかし……」

坂本「三人を頼んだぞ」

俺「…了解」


 あまりにもまっすぐ目を見られたので、そのまま頷いてしまった。
 どうにも熱い何かが込み上げて来る。

 人として扱われるのはこんなに嬉しいものだったのかと思うのと、
 こんなに普通に扱われていいのだろうかと迷うのだ。
 しばらくは慣れないだろうなと、俺は一人苦く笑うのだった。


                             ◇◇



バルクホルン「まったくハルトマンめ!食事の後にすぐ寝るとは……牛になるぞ!」

宮藤「朝食の時はいたのに……」

俺「まったく、エーリカらしい」

バルクホルン「大尉!それですませないで頂きたい!」

俺「はは、申し訳ありません」


 むっとした感じのバルクホルンに小さく笑って頭を下げる。
 すぐにそっぽを向かれるが、今では可愛い仕草としか思わない。


宮藤「私先に行きますね!」


 部屋まで後少しの所で宮藤が走っていく。
 相変わらず空気に敏感な子だと思う。


バルクホルン「あ、宮藤?」

俺「大尉」

バルクホルン「ん?何だ俺大尉」

俺「赤鼻で構いませんよ」

バルクホルン「……うう、そ、そういう訳にもいかんのだ」


 宮藤がノックを繰り返すが、どうも返答が無いようだ。
 困ったように腕を組み、扉を睨んで唸っている。


俺「いいんです。もう意味が違うんですから」

バルクホルン「…俺、一つ言っておくがな」

俺「何でしょう」

バルクホルン「一つの言葉にあまり意味を詰め込むな」


 それと同時に部屋の前に着いた。
 それだけを聞いた宮藤はきょとんとしていたが、何故かなるほどといった顔をしている。
 そして一人で固まる俺。どうやら考え込むと固まるようだ。


バルクホルン「起きろ、ハルトマン!」

エーリカ「うえー……あと九十分………」

バルクホルン「兵は神速を尊ぶのだ。さっさと起きろ!」


 方やきっちりかっちり、質素なまでに何も無いバルクホルン側。
 そして一度俺が片付けたのにもう元に戻ったエーリカ側。
 エーリカ側に踏みいれると、なんとなくバルクホルン側が輝いて見えた。


宮藤「あの、お買い物に行くんですけど、何か欲しいものありますか?」

エーリカ「おかし!」


 即答である。


バルクホルン「――お前に必要なのはめざまし時計だッ!」

エーリカ「ええー!?おかしおかしおかし~~!!」

バルクホルン「ええい、うるさい!」


 枕に顔をうずめてわめくエーリカを尻目にバルクホルンと宮藤は出て行ってしまう。
 ううと唸って、まだ顔を枕に押し付けるエーリカに近付く。
 エーリカの部屋はベッドだけは綺麗だった。
 そこに座って頭を撫でる。二、三撫でるとエーリカはそっと顔を上げた。


俺「あまり困らせては駄目だよ」

エーリカ「…にぃにぃが言えた事じゃないよ」

俺「エーリカ」

エーリカ「……理不尽だぁ~」


 ごろりと仰向けになって俺の右手を取る。
 ついでに白布も外され、軍服も脱がされ、肩のシャフトを入れられた。
 バチンと爆ぜるような音と共にめまいがしたかと思うと、頭に数字と文字とが羅列する。


―――Azoth…魔導経路アクセス承認.神経接続速度順調..73.6628915xX...誤差修正.. Viel Glück.―――


エーリカ「たまには普通の人らしく歩きなよ。これ、目立つし」

俺「そうかな」

エーリカ「そ、にぃにぃが思ってる以上にね」


 撫でる手を止め、俺が立ち上がる。
 簡単に右手の動作を確認すると、床に落ちていたレポート用紙に何かを書き込む。
 そのままドアノブに手を掛けた所でエーリカに呼び止められた。


エーリカ「欲しい物言ってもいい?」

俺「ああ。何が欲しい?」

エーリカ「……アイスクリーム」

俺「ふむ、溶けてしまうな」

エーリカ「今度作ってよ」

俺「エーリカが良い子にしていたら作ってあげるよ」


 そう言って部屋から出る。
 バルクホルンの姿はすでに無く、宮藤だけが待っていた。


宮藤「何を話してたんですか?」

俺「ん?それほどの事じゃないさ。それよりそれ、貸してもらえるかい?」


 宮藤の持つメモ帳を指す。
 色々と欲しい物が並んでいるが、真ん中らへん、枕の辺りで筆跡が代わっていた。


宮藤「あ、はい……何を書くんですか?」

俺「最近甘い物が欲しくてね。バッチが食べたいんだ」

宮藤「…俺さんでもそういう時ってあるんですね」

俺「はは、変かな?」

宮藤「うーん……あ、ちょっと分けてください!」


 きらきらした目で宮藤が隣に来た。
 並んで歩き、準備をするまで少し話をした。
 こちらの甘い物は甘過ぎて少し苦手だとか、お菓子を作れることだとか。
 今度一緒にお菓子を作ると約束した所で外に着いた。


                               ◇


 俺のいなくなった部屋でレポート用紙をまとめながら寝転がる。
 稼働時間は魔法力との連動だから問題は無い。
 動作も、関節がしっかりしているのから違和感は無いはず。


エーリカ「良い子にしてたら、か」


 オイルも問題なし。駆動音も気にならない程度。
 稼働のON、OFFは俺の意識に任せていればいい。


エーリカ「言えるわけないじゃん。欲しいものなんて」


 空気を変えようと窓を開けると、ちょうどシャーリーが車両を出した所だった。
 バルクホルン側と唯一共有しているテーブルの水差しを取る。
 コップに注ぐとほのかに柑橘類の香りが漂った。
 こういう小細工をするのは宮藤やリーネ、それか俺。
 もしかしたらバルクホルンかもしれないが、どうでもよかった。


エーリカ「昔の貴方が欲しいって言ったら、俺は怒るかな」


 それとも、困ったように笑うだけ?
 エーリカは一つ溜息を吐くと、コップの中の水を飲み干した。





最終更新:2013年02月03日 16:36