応接室





「お久しぶりです。ミーナ中佐、坂本少佐」

「遠路遥々ご苦労だったな、大尉」

「本当に久しぶりね、サーシャさん。そちらの方は大丈夫?」


ピシっと型通りの敬礼を取る少女に、美緒のみならずミーナも同様に笑いかけた。

癖のある麗しい長い金髪に、とても軍人には見えない華奢な身体をした北方美人が二人の前に立っていた。
彼女の名前は、アレクサンドラ・I・ポクルイーシキン大尉。第502統合戦闘航空団“ブレイブウィッチーズ”の戦闘隊長を任される若き天才である。


「此方の戦線も芳しくはありませんが、かといって悲観するまでには至っていません。皆、頑張ってくれています」


その言葉に、美緒はかつて指導を受け持っていた下原定子を、ミーナはグンドュラ・ラルやヴァルトルート・クルピンスキーの顔を思い出す。
だが、定子の顔は泣きっ面で、豪放磊落なラルと享楽家な伯爵に一抹の不安を感じてしまう。

二人の心中を感じ取ったのか、サーシャは端正な顔を苦笑に歪める。


「それで、我々が戦ったネウロイに関してなんですが――」


それから、時間をかけてそれぞれの部隊で得た情報を交換していく。
そもそも彼女の目的は情報交流だったのだ。当然といえば当然だろう。

応接室のソファーに腰掛け、ミーナは三人分の紅茶を入れた。
語られる情報は様々で、新型ネウロイの考察や空戦における新たな戦術、挙句の果てに各国軍上層部の思惑など、それぞれ貴重なものを得たようである。

たっぷりと三時間以上も話し、サーシャが乾いた喉を潤そうと、すっかり冷めてしまった紅茶を口にする。
今だな、とばかりにタイミングを見計らっていた美緒が、今回の情報交流で一番聞きたかったことを口にした。


「――――強化外骨格開発部隊、を知っているな?」


その言葉に、ピクリとサーシャの肩が揺れる。
動揺を表には出すまいと努力しているようだが、残念ながら完全には隠しきれてはいなかった。


「それを何処で?」

「わざわざ隠し立てする必要もないか。ミーナ、構わないな?」

「……そうね。つい先日、強化外骨格開発部隊は、この基地に配属されたわ」

「そう、ですか。俺さんが……」

「我々としても、ああも秘密の多い部隊はどうしたものかと持て余していてな」

「……………………」

「我々に教えられる範囲で構わん。あの部隊や強化外骨格、そして俺少尉について教えてもらえんだろうか」


それから暫く、応接室に沈黙の帳が降りた。
サーシャはどう答えたものかと悩み、美緒とミーナを辛抱強く彼女が口を開くのを待った。

一体、どれだけの時間が過ぎただろうか。やがてサーシャは意を決し、口を開いた。


「申し訳ありません。お答えできることはありません」


明確に、美緒の頼みを拒絶した。
はぁ、と二人は大きく溜息を吐き出す。何となく、そんな言葉が返ってくるのは予想していたのだ。


「……それは、箝口令が布かれているということか?」

「はい。ブリタニア空軍からや正規の命令ではなく、チャーチル首相からの個人的な要請ですが」


ふむ、と顎に手を当て、美緒は考え込んだ。苦し紛れに放った言葉に、思いも寄らぬ返答があったからだ。
布かれた箝口令――その出所が分かるとは思ってもいなかった。

ブリタニア空軍からではなく、チャーチル首相からの要請となれば、チャーチル首相が尽力して設立した部隊の内情を知っているものは極めて少ないのかもしれない。
それこそ、ブリタニア空軍内部においても――もしかしたら、あのトレヴァー・マロニーですら。


「そして、私の意思でもあります」

「貴方の、個人的な感情に流されてのことかしら?」


暗に、惚れた男を庇いだてしているのではというミーナの台詞に、カっとサーシャの白い頬が赤く染まる。
それが怒りによるものなのか、図星を突かれた故の羞恥によるものなのかを判断することは出来なかった。


「これは私達、第502統合戦闘航空団全員の意思と受け取ってもらって構いません」

「………………そうか。大尉達に、そこまで言わせるか」

「はい。私達は俺少尉が信頼に値する人物だと信じています」


その言葉に嘘はない。恐らく、他の502の隊員に同じ質問をしても返ってくる答えは同じだろうと二人は判断する。
そうせざるを得ないほど、サーシャの言葉は信頼に満ち溢れたものだった。


「ごめんなさいね。勝手に立ち入るようなようなことを聞いてしまって」

「いえ。男性と一緒に戦う機会なんてウィッチとしては限られてきますし、ましてや極秘部隊ですから。ミーナ中佐や坂本少佐の心配も尤もだと思います」


サーシャは何を聞かれても必要なことしか語らず、自己の評価を他人に任せきりな俺を思い苦笑する。
言葉で語らず、行動で語る人間なのだ。男らしいと言えば男らしいのだろうが、それを好意的に受け取れるのかは人によるだろう。


「そうだ。久しぶりに顔でも見せてきたらどうだ? 今日は隊での訓練もない。少し話すくらいの時間はあるだろう」

「よろしいのですか?」

「よろしいも何も、ただ知り合いに会いに行くだけだ。我々に止める権利などありはせんよ」

「そうね。こんなご時世だもの。会える時に、話せる時には会っておくものよ」


二人の好意と裏にある思惑を感じながらも、久しぶりの再会に思いを馳せ、サーシャはソファから立ち上がった。


「じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます」

「強化外骨格部隊は外の倉庫を使っている。隊舎を出て直ぐのところだ」

「分かりました。では、失礼します」


見惚れてしまうほど綺麗な礼をすると、応接室を出て行く。
その背中を見送り、ふうと大きく溜息を吐き出す。


「俺少尉に関しては、私達の杞憂だったようね」

「そうだな。もっとも、先日の戦闘でそれは分かっていたようなものだがな」


秘密主義を俺と部隊に、あらぬ誤解と疑念を抱いていた二人であったが、サーシャの言葉を聴いて、或いは先日の戦闘によってそれも解消さえれたようだ。
事実として、俺は命を危険に晒して状況に相対し、バルクホルンの命を救う一助となった。

まして、同じウィッチであるサーシャが、あれほどまでに信頼しているのである。
何がしか複雑な問題を抱えているとしても、少なくともウィッチや隊にとって不利益や不義理な行動を働くような人物ではないようだ。


「まあ、私は悪い人間ではないとは思っていたがな! はっはっは!」

「もう、よく言うわ。最初はあれだけ疑っていたのに」

「いやぁ、それはだなぁ」


今までの真剣な空気を払拭する為か、大きく笑う美緒であったが、ミーナの指摘にしどろもどろの返答を返す。
参ったな、と頭を欠く彼女に、口元を隠しながらミーナは上品に笑った。

ふと、窓の外に目を向ける。
外は眩しいほどの快晴だ。日差しは強いが、気候は穏やかだ。再会の喜びを分かち合うにはもってこいの天気である。
これなら、サーシャと俺は、さぞ穏やかな時間を過ごすことになるだろう。

差し当たって、ミーナの出来ることと言えば――――


(飛行訓練の許可、出してあげることかしら?)










基地内倉庫





今日も今日とて、それぞれの研究に命を削るような気迫で望む開発班。

そんな彼らを尻目に、俺は出口付近に備え付けられた机と椅子に座り、いくつかの本や報告書に目を向けていた。
それは部隊の事務仕事に関係するものではない。そもそも、そんな仕事は午前中で終わってしまっている。
彼が読んでいるのはウィッチの教本や数々の戦線で考案された戦法を詳細に記した報告書だ。

自分には才能というものがない。それが彼の持つ自己への評価である。
故に、常に自己を高めることに余念がない。
エースにありがちな、なんとかなるさという覚悟があるんだかないんだか分からないような精神状態で戦場に立つことはなかった。

そして、現在も教本や戦闘報告書から、ネウロイの類型に合わせた有効な戦法を模索していた。
それは現状の己に対して、限界を感じているからに他ならない。
理由は定かではないが、少なくとも自身の性能が限界値まで高められているのは間違いないと考えている。


(かつての俺ならば、限界などという言葉を使うことすら許さなかっただろうな)


年を重ねたからか、或いは別の理由か、心の中で一人ごちた。
だが、嘆いてばかりもいられない。これからも戦いは続いていくのだ。
それを分かっているからこそ、努力を怠らない。

性能で届かぬのならば戦法で、戦法でも駄目ならば戦術で、戦術ですら意味をなさぬのなら戦略で。
可能性は無限に存在する。己の性能を正確に把握し、状況を把握し、様々な手を使って敵を討つ。
今までも続けてきたことである。何のことはない。

差し当たり、ネウロイに対して有効な戦法を獲得し、強化外骨格のスペックを向上ないし新たな兵装を――――


「…………ん?」


珍しいノックの音に、目を通していたオラーシャ軍用の教本から目を離す。

そもそも、隊の人間はこの倉庫に近寄らない。部隊の秘匿性を慮って、もしくは俺の恫喝じみた言葉によって。
尤も、こんな場所に来た所で喜ぶのは極一部の人間だけである。年頃の少女達がこぞって集まる理由はないだろう。
となれば、急な召集命令か、部隊内で何らかの連絡事項が発生したのか。ともあれ、仕事に関連してのことは間違いあるまい。

やれやれ、タイミングの悪いことだ、と呟き、扉の前に立つ。
念の為、倉庫内部が見られないように、簡易更衣室のような形で設置された黒いカーテンを引いておく。


「すまない。待たせ――――」


扉を半ばまで開いた瞬間、ガツンと何かにぶつかる音がした。
間の悪いことに、ノックの主は俺のゆったりとした行動に痺れを切らしてもう一度ノックをしようとした所、扉が開いたようだ。


「…………大丈夫か? すま――――んん?」


額を押さえて蹲っている少女の後頭部を眺め、謝罪も半端に首を傾げる。
はて、こんな金髪の少女は居ただろうか? クロステルマンやハルトマンとも服装や髪型が違う。かといって、彼女以外に金髪を持つウィッチはいない筈。


「お、お久しぶりです、俺さん」

「ああ? ポルクイーシキン? お前、何でこんな所に……」


涙目になりながら額を押さえ、痛みに耐えてサーシャが笑顔と共に挨拶をした。

俺は珍しく、苦笑や皮肉げな笑み以外の呆然とした表情を貼り付け、挨拶すら返さずにかつての戦友の顔を眺める。
完全に不意を撃たれた。そういった様子は口にせずとも伝わってきた。
ついでに言えば、先程まで読んでいた教本を作り上げた人物であるというのも、彼の忘我に拍車をかけている。


「………………氷嚢でも持ってこようか?」

「………………是非、お願いします」


再会の言葉にしては、何ともとんちんかんな受け答えであった。










基地内テラス





二人は、俺がよく煙草を吸いに来るテラスに移動していた。
あんな堅苦しさ全開の倉庫では、リラックスできないだろうという俺の配慮である。


「待たせたな。こんなことなら、来客の準備でもしておくべきだった」

「いえ、そんな。此方の方こそ、連絡もなしに押しかけてしまって」

「気にするな。何分、オレ達の行方を追うのは不可能に近い」


ストライクウィッチーズの面々に見せる表情とは、また違った気さくさを見せ、穏やかな無表情を見せる。
何とも矛盾したような表情を見せている限り、どうやら俺もそれなりに再会の喜びというものを感じているようだ。


「しかし、締まらんな。以前、別れ際にもう二度と会うこともないだろうなどと格好つけてしまって、これではね」

「いいことだと思います。私は嬉しいです」


そうだな、と短く返事をし、用意していたティーポットとカップを机の上に置く。無論、彼の私物などではなく厨房から拝借してきたものである。
十分に蒸らした紅茶を最後の一滴までカップに注ぎ、サーシャの前に置いた。一人分しか持ってこないところを見る限り、彼は飲まないつもりはないようだ。
更に砂糖の入った瓶とジャムを乗せた小皿を置く。オラーシャではジャムを舐めながら、紅茶を飲む習慣がある。それを配慮してのことだろう。

見た目は無骨な軍人だが、こういった心配りは執事のそれである。
そんな見た目と中身のギャップに、サーシャは感謝と同時に感心せざるを得ない。
尤も、共に戦ってきた時からそんな感じだったので、寧ろ変わらずにいる俺に対する喜びの方が強いのかもしれない。


「お茶請けを用意できなくてすまんな。できれば、チョコかクッキーでもあればよかったのだがね」

「……前々から思っていたんですけど、俺さんの中で私はそんなに食いしん坊な印象なんですか?」

「ふむ。食いしん坊というよりかは、甘味に目がないといった感じだな。間違ってはいないだろう?」


むう、といった感じに押し黙るサーシャ。普段の彼女からは考えられない可愛らしい表情である。
確かに甘いものは好きだが、目がない訳ではない……筈なのだが、クッキーを出されていたら、目を輝かせていたであろう自分を安易に想像できて、否定は出来なかった。
そんな内心を察して椅子に座りながらくつくつ笑う彼の姿に、サーシャは自分の頬が赤く染まっていくのを感じた。

煙草、いいか? と聞く俺に快く応じる。
煙草の匂いも煙も好きではないが、そこを汲んでわざわざ風下を選んで座った彼の数少ない楽しみを奪うのも気が引けた。


「それで、皆元気でやっているか?」

「ええ、相変わらずラル中佐は仕事を丸投げしてきますし、ロスマン曹長とクルピンスキー大尉は仲良く喧嘩しています。
 下原さんは可愛いものに抱きついてますし、ニパさんと菅野少尉は――――頭痛の種ですね」

「本当に変わらんなぁ。元気なのはいいことだが、成長というものが見られん。特に最後の二人……」

「オレさんに出会って、色々と思うところがあったらしくて、以前よりはマシになったんですが……」


闘争心剥き出しのサムライガールと不運がストライカーユニットで空を飛んでいるような少女の二人を思い浮かべ、苦笑を禁じえない。
その二人にヴァルトルート・クルピンスキーを加えたトリオは、そのストライカーユニットの全損率からブレイクウィッチーズなどという不名誉な渾名をつけられている。

彼女は何事も抱え込む人間である。更に生真面目な性格が災いして、目上の人間に対して愚痴を溢すのも気が引けた。
その点を鑑みれば、階級が下とは言え年上である俺にこうして愚痴を溢すのは珍しい。


「僕さんもジョゼさんも、相変わらずですね」

「何だ。あいつら、まだくっついてなかったのか」

「ええ。見てるこっちがやきもきするくらいです」


はあ、と大きく溜息を吐く二人。

僕というのは、第502統合戦闘航空団の隊員であり、珍しい男のウィッチである。
二人の言葉から察するに、同隊員であるジョーゼット・ルマールはそういう関係に極めて近い付き合いにあるようだ。


「あの馬鹿弟子め」


そして、俺とはただの戦友ではなく、師弟の関係でもあるようだった。
だが、僕が一体どんなウィッチなのか、どんな固有魔法を持っているのか、それを語るべきは別の話である。

馬鹿弟子と語る表情は嬉しげで、それほど親しくない人間には決して見せない表情をしている。
僕を罵るような言葉も、決して馬鹿にしている訳ではなく、愛弟子に向ける愛情が隠れしているように思えた。

それを皮切りに、サーシャはどんどんプライベートな話を展開していった。
俺は元来聞き上手な上、相手に話させることに長けているのか、愚痴とは違った話も引き出していく。
重要な話から意味のない馬鹿馬鹿しい話まで。そうやって話を続ける二人は、誰がどう見ても仲の良い兄妹にしか見えなかった。


「あー、随分話したな。時間の方は大丈夫か?」

「ッ!? いけない、もうそろそろ出発しないと!」

「そうか。輸送機で来たのだろう? 見送りくらいはしよう」


俺はそう言って立ち上がる。ティーセットの後片付けは、後回しでも大丈夫だろう。


「……どうかしたのか?」


自分だけ立ち上がり、座ったままのサーシャを見下ろす形になり、不思議そうに話しかける。
何か戸惑うように口ごもる彼女の様子は、愚痴を聞いていた俺であっても始めてみる姿であった。

やがて、何かを堪えるような顔をして、口を開く。


「一つだけ答えてください」

「答えられることであれば」

「…………俺さんの考えは、まだ変わっていませんか?」

「無論だ。それこそが、オレの選んだ道だからな」


彼女が一体何について聞いたのかは定かでない。
だがその問い掛けに、俺は何の迷いもなく即答した。
今までのような冗談交じりの言葉ではない。
炎のように熱く、氷のように冷徹な、断固たる意志を以って彼女の問いに答えた。

迷いのない意志に、彼女は安堵の表情よりも悲しげな――泣き笑いのような顔をする。
何となく……いや、初めから分かっていたのだ。どんな言葉が返ってくるかなど。
彼は一度そうと決めれば、それが正しいと信じれば、それこそ冷酷なまでの意志を以って己を貫く男だと。


「だったら、もう一つお願いがあります。これは、私だけではなく第502統合戦闘航空団全員の言葉だと思ってください」

「……そうか。戦友の願いだ、無碍にはできん。だが、確約するかは内容によるな」

「そんなに難しいことじゃありません。ただ、貴方の戦いが終わった後に、私達の所へ来て欲しいんです」

「確約しかねる。そもそもオレの戦いが終わる前に、502が解散している可能性もある。そうなった場合、君達全員が集まるのを待っていられない」

「そうですか。……なら、全てが終わった後、思い出してみてください」

「――君達のことを? それとも、人として当然の義務を?」

「いいえ。これまで歩んできた、貴方自身の人生を――」


彼女は真っ直ぐと俺の目を見据え、謳うように告げる。

オレ自身の人生ね、と呟く俺。
今この瞬間において、彼女の言葉はその程度なら直接会いに行くよりかは簡単だな、程度の認識しか今の彼にはない。


「了解した。その程度ならば何とかなりそうだ」

「約束ですよ? それだけは、必ず守ってください」

「ああ。――――ところで……」

「――はい?」

「今の、誰が考えた? どう考えたところで君の台詞ではないな」


分かりますか、と乾いた笑みを洩らすサーシャ。
長い付き合いでこそないが、共に死線を潜り抜けた仲である。人柄くらいは把握している。

彼女が言葉で伝えるのはもっと感情に任せたものだ。殊更、仲間に対しては。
そう考えると、今の彼女の台詞は、どこか芝居がかっているような気がした。実際、それは的を射ていたようだ。


「クルピンスキー大尉とロスマン曹長です。誰かが俺さんに出会ったら、必ず伝えようと」

「成程。あの馬鹿女とロスマンの台詞なら納得だ」


脳裏に浮かぶ、自分よりも背の高い、女好きの享楽主義者の彼女と逆に子供のように背の低い新人教育係の二人を思い出す。
一番日常的に苛立たされて、迷惑をかけられた女であったが――一番世話になったのも彼女である。
そして、俺自身のことを思い、大いに怒り、大いに悲しんだ教育係の涙もまた、俺の心を打った。
ならば彼女達の言葉くらい、素直に聞いておかねば義理に欠くだろう。


「二人に伝えてくれ。必ず思い出す。オレ自身に誓ってな」

「はい。私も信じています」


ニッコリと微笑むサーシャに、俺もまた薄く笑った。
そして、二人はまた他愛のない会話をしながら、テラスを後にする。

彼の戦いが終わり、全てが終わった時に、俺は誓い通り二人の言葉を思い出すだろう。
そして恐らく、その言葉こそが――――


後に残ったのは、優しく降り注ぐ陽光と、遠くから聞こえる俺とサーシャの楽しげな笑い声だけであった。
最終更新:2013年02月04日 14:19