• もし何かが違っていれば、違う選択肢を選んでいたら俺達はどうなっていただろう-----






1940年1月 スオムス内上空

「あーめーが振ってもきーにしーナイー」

 木々が雪化粧を纏い、息が凍てつく程の寒さの中色素の薄い髪色の短髪をなびかせながら
小柄なウィッチが魔法シールドを張らずに訓練用のペイント弾を器用に回避していく

「かーぜーが振っても気ーにしーナイー」ババババババババ…

 シールドも張らずに回避行動を取るウィッチはその合間にペイント弾の入った
スオミM1931と呼ばれる短機関銃で眼をつぶって彼女を攻撃して来たウィッチに反撃を行う

「やーりーが振っても気ーにしーn、うわあああぁぁぁあああ!?」ドカアアアアアア…

 反撃されたウィッチは「はわはわ」と慌てて旋回し射程外に行ったにも関わらず
小柄なウィッチは何かに当たり撃墜されたように錐揉み回転しながら柔らかい雪の化粧を施した大地に墜落した

キャサリン「またやってるネー…」

ビューリング「これで何回目だ?」

ウルスラ「…5回目」

エルマ「はわわわ…わ?」

ハルカ「か、勝ちました!勝ちましたよ智子しょーい!」

智子「はぁ…『扶桑1番』より『雪女』へ、訓練終了 補習教育中の新人二人は衝突の末墜落 両名を回収して帰等します」

 赤く短い袴を着た巫女装束の穴吹智子がコールサイン『雪女』、基地の管制士官であるハッキネン大尉に任務終了の通信を喉頭式マイクで送るとコールサインの通りの冷たいような声色の返答が帰ってくる

ハッキネン「了解『扶桑1番』二人を頼みましたよ」

智子「了解、じゃあエルマ中尉とウルスラ着いてきて、ユーティライネン軍曹達を回収しにいくわよ」

ハルカ「智子少尉!私もお供しますよ!」

 新人ペアの一番機をただ追っているだけで撃墜した迫水ハルカ一等飛行兵曹が激しく声を上げて名乗り出る

智子「…あなたが来たら帰りが遅くなるでしょ、先に基地に帰ってなさい」

ハルカ「で、でも!智子少尉に男を触らせるなんて…!」

智子「女とか男とかじゃなくて仲間を助ける為なの、早く行って」

ハルカ「で、でもぉ…」

キャサリン「諦めるネーハルカ、午後から吹雪くみたいだから早く帰るねー」

ハルカ「わかりました…」

 食いついてきた迫水ハルカ一等飛行兵曹がシュンとしながら智子に背を向けて基地に飛び出す
それに合わせるかのようにエルマ・レイヴォネン中尉とウルスラ・ハルトマン曹長以外のメンバーがハルカに合わせて基地へ帰ってゆく




エイラ「いったぁ…おい俺!なにすんだよマッタクー!」

俺「仕方ないだろ!この寒空と強風に煽られたらバランスを崩すって…」

エイラ「それでもカールスラント軍人なのカー?」

俺「所属に飛行能力と戦闘能力はあんまり関係ないと思うけど…」

エイラ「私はこれでもナ、お前が来るまでは撃墜どころか被弾すらしたことが無いンダ。その私を撃墜するなんてある意味才能ダゾ…」

俺「初陣もまだの新人軍曹にそれを言われてもなぁ…けどそれって褒められてる?」

エイラ「ウルサイッ!褒めるわけないダロー!さっさとドケー!」

俺「そうしたいけど雪が邪魔で俺も身動きが…」

 新雪に埋もれた短髪で小柄な女の子の上に冴えない顔に高くも無い背丈の青年が覆いかぶさっており、下にいた女の子が声を荒げていると
その上空から魔道エンジンの音が近づいてきて俺の体が引き上げられる

ウルスラ「…おまたせ」

 ストライカーユニット、He112の魔道エンジンと共に俺の体はウルスラに引き上げられる

俺「っ…手間かけさせて悪いな」

智子「全くね…スオムスでの飛行に慣れてないのは分かるけどここまで酷いと呆れるわ…」

エルマ「大丈夫ですか?ユーティライネン軍曹」

エイラ「アア…毎度の事でなれてきた気がするヨ…」

 エイラと同じ軍服を着たエルマに手を差し伸べられ引き上げられる

智子「二人とも飛べる?」

エイラ「私は問題ないみたいダ」

俺「…無理です少尉」

 エイラのストライカー、リベリオン製のバッファローは快調とは言いがたいがそれなりにエンジン音を上げて飛行を開始するが
俺の履いていた細身のカールスラント製Bf109-D型はうんともすんとも言わない

智子「今度やったら本当に置いて帰るわよ?ウルスラは右側を、私は左側を持つわ…それじゃあ帰るわよ」

俺「了解、オネガイシマス少尉殿…」

 自分よりも多少小柄な女の子2人に担がれて回収メンバーはスオムス国内、カウハバ基地に帰ったのだが
智子が男を担いで帰った事に、基地で待っていた彼女の2番機であるハルカは激しく声を荒げていた






カウハバ基地内 ミーティングルーム

智子「やっと部隊がまとまって来たと思ったらコレだものねぇ…」

ビューリング「俺の事か?」

 各国の選りすぐりの人材を集めた…という建前でワケありで2級メンバーが集められた
スオムス義勇独立飛行中隊、通称『いらんこ中隊』は午後の訓練の予定を吹雪の為変更して
警戒待機になりミーティングルームで俺とエイラを除いて各々好きに過ごしていた

智子「ええ…彼の存在にも驚かされたけど飛行にも驚かされるなんて…」

ビューリング「男のウィッチなんて私も初めて見たからな、驚くのも無理は無い…が」

 紙巻のタバコを咥えて火を探している銀髪の長髪が眩しいエリザベス・F・ビューリング少尉は
マッチを切らせているのを思い出して咥えていたタバコを箱に戻す

智子「カールスラント空軍とスオムスの新人が入ってくるって聞いて嫌な予感はしてたんだけどね…」

ビューリング「ユーティライネン軍曹は優秀だろう、だが…」

智子「俺軍曹は飛行自体が危ういと…しばらく訓練漬けにしてスオムスの空に慣れさせるしかないわねぇ
 ほんと、どうしてこうなったのかしら」

 暢気にトランプタワーを作っているスオムス義勇独立飛行中隊隊長のエルマ・レイヴォネン中尉を目尻に
穴吹智子少尉はミーティングルームの椅子に座り、長い長髪に手を沿える形で頭を抱えながら少し前の事を振り返っていた






                        • 回想--------------
数日前 カウハバ基地ミーティングルーム

ハッキネン「お待たせしました」

 スオムス義勇独立飛行中隊のメンバーが全員集められたミーティングルームの教卓のような机にハッキネン大尉が立ち
各々好きに過ごしていたメンバー達を見据える

智子「皆を集めてどうしたんですか?まさかまた大型ネウロイでも…」

ハッキネン「いや、ネウロイではありません。本日増援として2名の補充員が来る事になりました」

エルマ「急ですね~…」

ハッキネン「ええ、ですが戦力増加は嬉しい限りですよ 入ってください」

 ハッキネン大尉の言葉に続いてミーティングルームの扉が開かれて2名の補充員が入ってくる
 一人はエルマ中尉と同じく青い軍服を纏い、薄い色素の髪の短髪に小柄な体はそれこそエルマ中尉に似ているがその容姿は幼く、10~11歳程度に見える
 その姿に何か興奮しているエルマ中尉以外は普通に見ていたが、次に入ってきた人物に皆目を疑った

智子「え?」

ハルカ「なぁ!?」

キャサリン「あらー?」

ウルスラ「…男」

 小さなウィッチの後に続いたのは高くない背に冴えない顔をした男だった

ハッキネン「今日から配属された…」

智子「ちょ、ちょっと待って!一人男よね!?それ間違いなく男よね!?男装した女の子とかそういう事じゃなく…」

ビューリング「落ち着け智子」

キャサリン「どう見ても男ねー、男装少女に興味でもあるのかネー?」

智子「そういう事を言ってるんじゃないの!男の補充員って…整備…兵?」

ハッキネン「違います、彼もウィッチです、男性の」

ハルカ「ええええええ!?」

ハッキネン「ユーティライネン軍曹、俺軍曹、皆に紹介を」

 ハッキネン大尉に促されて、幼く見える少女が先に身を一歩前に出て敬礼と共に自己紹介をする

エイラ「エイラ・イルマタル・ユーティライネン、スオムス空軍軍曹ダ」

エルマ「今度こそ…今度こそ普通そうな子ですよね…特殊な趣味のない少女ですよね…」ブツブツ

ハッキネン「どうしたんですかエルマ中尉?」

エルマ「いえっ!?何でもありません、すみません大尉…」

 ぶつぶつと独り言を喋るエルマ中尉はハッキネン大尉の言葉に、身を縮こませてミーティングルームの椅子に座る
 それを確認してからハッキネンはエイラの隣に立っていた男のウィッチに手のひらを見せるようにして 次どうぞ という合図を送る
 その合図を見た男性ウィッチは一歩前に出て敬礼し自己紹介をする

俺「カールスラント空軍所属の俺軍曹です、歳は18、原隊はカールスラント空軍第27戦闘航空団です宜しくお願いします」

智子「カールスラントから?でもウルスラが居るし…まさか交代なんて言うんじゃ」

ハッキネン「その心配はありません、彼は純粋な増援としてカールスラントから派遣されてきました…というより
 ユーティライネン軍曹と俺軍曹はスオムスのインモラ基地からの異動です」

ビューリング「元々は別の基地への派遣員だったって訳か」

キャサリン「ウルスラー、27戦闘航空団ってどこねー?」

ウルスラ「…多分前線部隊」

智子「前線部隊にいたウィッチ…それは楽しみね、単純な戦力増加は嬉しい限りだわ!よろしくね二人とも!」

                              • 回想オワリ---------------






再び現在に戻ってカウハバ基地ミーティングルーム

智子「前線部隊に居たって聞いて期待した私が馬鹿だったわ…補習教育も終わってない新人なんて…
そうよね…ここに送られてくる子ってみんな…ふふふ」

ビューリング「お、おい、戻って来い智子…」

 乾いた笑いを上げる智子に
常に冷静な声のビューリングが少しだけ焦りを纏った声で彼女に呼びかける

智子「それで、問題児は今どうしてるかしら?」

ビューリング「自分のストライカーを自分で壊したからって言ってハンガーで治してる最中だ」

智子「行動はまともなのに戦闘ではダメって扱い辛いわねぇ…」

ビューリング「そう言ってやるな、ようは慣れの問題だ。スオムスの空に慣れれば戦力になるだろう」

智子「そうかしら…」






カウハバ基地内 ハンガー内

俺「さみぃ…火気厳禁ってのは分かるけどこの中で整備し続けたら凍死するんじゃないか…?」

 厚手の防寒服を手袋からハーフズボンまで完備し、自分で壊してしまったBf109のD型を治している

俺「壊れているって言っても多少曲ったりとかしただけだしなぁ…えーっと…あれ、マニュアル何処に行ったっけ」

エイラ「これダロ?」

 暖房すら無くスオムスの肌が切れそうなほど寒い風が入らないように締め切られたハンガーの中、
俺の背後から防寒服を着込んだエイラがストライカーのマニュアルを彼に差し出した

俺「ありがと、どうしたんだこんな所で?」

エイラ「私を撃墜したその顔を恨めしそうに見てやろうかッテナ」

俺「見るのは良いけど邪魔はするなよ?」

エイラ「どうしよっかナ~」

俺「悪かったって…邪魔されたらこの寒すぎるガレージに引き篭もる事になるんだから…」

 げんなりした顔で悪戯顔をしたエイラを見る俺の背中に甲高く嫌味たっぷりな声がかけられる

「貴方が噂の男性ウィッチなんですの?貧相な顔立ちですわね」

俺「ん?」

エイラ「ゲッ…」

「ウィッチと聞いてどれほどの物か見に来ましたがとんだ期待はずれですわね」

 振り返る俺とエイラの目に映ったのはウィッチであろう少女達に囲まれ、ロールされた髪をなびかせた青い軍服を纏った少女

アホネン「申し送れました、私ミカ・アホネン大尉ですわ 私の第一中隊の足を引っ張らないようお願いしますね」

俺「アホ…ネン?…プッ…」

エイラ「どうした俺?」

俺「いや…なんでも…くく…」

 小声で呟いた俺の声が聞こえなかったのかアホネンは俺が何故笑っているのかは分からないが
不快感を感じたのか最初から悪そうだった機嫌が更に悪くなる

アホネン「上官に対して失礼ですわね!カールスラント軍人と聞きましたが躾はなってないのかしら?」

俺「いえ…くく…失礼しました大尉殿、俺軍曹です 隊に貢献できるよう精進します」

アホネン「そうね、新人のように何も無い所で墜落しないように頑張って頂戴 あと私の妹達に手を出したら…ただじゃおきませんわよ」

エイラ「妹達って…その後ろに居るノカ?」

アホネン「ええ、私の可愛い妹達…この神聖なウィッチ隊に殿方が加わるなんて我慢なりませんが命令では仕方ありませんからね」

エイラ「…俺が居るのは独立飛行中隊なんだケドナ」

アホネン「何か 言 い ま し て ?」

 アホネンは複数のウィッチに囲まれながら手を腰に当て前のめりになりエイラに強く言い、その剣幕にエイラは少し下がる

エイラ「な、なんでも無いんだナ…」

アホネン「よろしい事で、それでは行きますわよ私の可愛い妹達」

 はい、お姉さま とそれぞれ声を上げて去ってゆくアホネンに着いていく彼女の取り巻き達
適度に去っていった所で俺はエイラにこう切り出した

俺「エイラ、スオムスではああいうのが主流なのか?」

エイラ「イヤ…アレはアホネン大尉の趣味ダロ…」

俺「そうか…」

 自分をお姉さまと言い聞かせる人種を初めて見た俺はあまりの物珍しさに呆気に取られていたが
すぐにBf109、メッサーシャルフD型の整備を思い出してアホネンを見てげんなりしていたエイラから
マニュアルを取り上げて整備に取り掛かった






カウハバ基地 下士官の部屋 夜

俺「ただいまっと…」

 スオムスの雪が横殴りに吹雪く夜、俺は割り当てられた部屋へと戻る

エイラ「オカエリー」

俺「なんだ居たのか」

エイラ「なんだはナイダロ…ここは私の部屋でもあるんだからナ」

俺「前のインモラ基地では部屋はバラバラだったのにな」

エイラ「この基地は何処の部屋も一杯みたいダナー」

俺「まあ俺がここに突っ込まれる位だからなぁ…」

 俺に割り当てられた部屋は下士官が集団で寝泊りする部屋
つまり元々は迫水ハルカ一等飛行兵曹とウルスラ・ハルトマン曹長に割り当てられた部屋だったが
俺が来た事でハルカそれを理由には智子の部屋に滑り込み、ウルスラはキャサリンの部屋に連れて行かれ
今は俺とエイラだけが使っている

エイラ「ハーレムじゃなくて残念ダッタナ」

俺「どこでそんな言葉を覚えるんだ…まだ子供だろうに…」

エイラ「ナ、ナンダトー!?」

 子供という言葉に反応したのか、色素の薄い髪色の短髪が逆立つような勢いで今だ小さく幼い体をつま先まで
ピンと伸ばして俺に抗議する
 身長は低い方の俺だがそれより小さいエイラには背伸びしても追いつかない

俺「ハイハイ、怒らない怒らない」ナデナデ…

エイラ「子ども扱いスンナー!」

俺「そうして欲しかったらもう少し成長するんだな~」

エイラ「ぐぬぬ…」

俺「そうだな、エルマ中尉位になったら大人だって認めてやっても良いぞ?」

エイラ「エルマ中尉くらい…」

 俺よりは身長も低くエイラとしても追いつきやすそうな対象のエルマ中尉を想像して

エイラ「アレくらいの胸が良いのか?」

俺「ぶっ!?」

 身長や性格ではなく胸を対象にエイラは比べていた

エイラ「意外とありそうだナ~」

俺「胸の話じゃねぇ!!」

エイラ「身長もソコソコでアレくらいのバランスなら丁度俺好みと…後でエルマ中尉に教えておいてヤルヨ」

俺「やめてくれ…俺のここでの肩身が狭くなってしまう…」

エイラ「私を子ども扱いしないって誓ったら良いぜ?」

俺「分かった、分かったから…子ども扱いしないよ」

エイラ「判ればよろしい」

 エイラは勝ったとばかりに優越感に浸っているのか今だ成長が見えない胸を張って誇らしげだ

俺「今日も訓練でくたくたなのに余計な体力を使った気がする…」

エイラ「オツカレサマ」

俺「お前のせいだろ…もう寝るぞ」

 飛行訓練にげんなりして、ハンガーでげんなりして、そして夜の自室でもげんなりした俺はよろよろと自分の寝床…
とはいっても空いているハルカやウルスラが使ったベットを使うのに抵抗があったため、シーツに丸まって地面に寝転がる
 エイラはそんなの気にせずに彼女達どちらかが使っていたであろうベットに滑り込み部屋の明かりを消す

俺「…?」

 部屋を消し、心なしか明かりを消す前よりも静かになった部屋に隣の部屋から声が聞こえる

「智…尉、約束通り…」

「いらっ…い、私…可愛いいも…」

ウギャー、アホネンタイイ!?ドウシテココニ!
ソンナコマカイコトキニシナイノ
ショーイ!ヤクソクガチガイマストモコショーイ----!

俺(一体何なんだこのカウハバ基地は…)


続く
最終更新:2013年02月04日 14:50