1940年1月カウハバ基地 ハンガー内

エルマ「全員せいれーつ!」

 いらん子中隊と呼ばれるスオムス義勇軍独立飛行中隊の面々は隊長のエルマ中尉の号令の下
穴吹智子少尉以外軍人とは思えないバラバラな足取りでハンガー内に整列していた

エイラ「なあ俺、あれは何をしてるンダ?」

俺「ん…?」

 エイラの隣に整列していた俺はその中で一際異彩を放つ人物に目が移る

 迫水ハルカ一等飛行兵曹だ

智子「…ハルカ一飛曹、何をやっているのかしら?」

ハルカ「智子少尉の臀部を撫でているであります…じゃなくて、智子少尉殿の臀部を左手で包み込むようにして触っているであります」

智子「陸式にすれば言いってものじゃないのよ!手を退けなさい」

ハルカ「智子少尉は嘘を付きました…あの時私を抱くって約束したのにアホネン大尉と入れ替わるだなんて…」

俺「ブーッ!?」

智子「そ、それは…」

エイラ「オレー、抱くってナンダー?」

 今日もカウハバ基地は通常営業で飛ばしている中俺は昼ドラ真っ青なやり取りをする上官2名に横槍を投げる

俺「知らんでいい!あと智子少尉、ハルカ一等飛行兵曹そういうのは夜にコイツが居ない所でやってください!」

エイラ「?」

キャサリン「そうねー、イチャイチャは夜の個室でやるねー」

智子「イチャイチャじゃない!」

ハルカ「これは愛の営みです、イチャイチャとは違い神聖なもので…」

俺「だからそういうのはコイツの居ない所でやれと…!」

 わーぎゃーわーぎゃーと軍隊らしからぬ言い合いをしている中、中隊長のエルマ中尉は震えながらその様子を見ながらも
両手を胸元に置き搾り出すような声で命令を伝える

エルマ「あのぉ…、そのぉ…これからぁ…出撃でぇ…」

 よく見たら涙目だ…

智子「は、はい、分かってます、中隊長殿!」

エルマ「わたしの命令を聞かなくてもいいんですけどぉ…智子少尉はエースですし…でも一応わたし中隊長ですしぃ…ぐす…」

俺(一応エルマ中尉のほうが階級は上だから中隊長なんだろうけど…というか泣き出したよ…)

 そんな様子に嫌悪感を抱く事も無く少し可愛いと思ってしまった邪な心を俺は捨て平常心を心がける

ビューリング「智子、中隊長を泣かせるな」

智子「泣きたいのは私よ…」

ハルカ「わたしも泣きたいです…智子少尉がぜんぜんなびいてくれないから…」

俺(10歳ぐらいの子供を前にこんな会話をする中隊って…というか出撃前だよなコレ)

 会話を聞かずその場を見ただけなら平和そのものなやり取りの中、ハンガー内に据え付けられたスピーカーから
ハッキネン大尉の怒鳴り声が響いた

ハッキネン<何時までやってるんですか!第一中隊はとっくに出撃しましたよ!>

エルマ「は、はい! では俺軍曹、エルマ軍曹の両名は補習教育が済んでないので基地内待機を 
 ハッキネン大尉の指示があるまで待機してください」

俺・エイラ「了解」




 エルマ中尉を先頭に『いらんこ中隊』の面々が滑走路から飛び出していく
 それを扉を開けっ放しのハンガーで見送った俺とエイラはハンガー隣にある待機室に足を運ぶ

俺「さみぃ…」

エイラ「俺はまだまだダナ、これくらいの寒さを耐えられないなんて」

俺「その割にオマエも震えてるのな」

エイラ「こ、これは違うンダナ!」

俺「はいはい…しかし出撃待機って暇だなぁ」

 待機室にある背もたれの無いパイプ式の椅子に座った俺は出撃待機のわりには完全に猫背で
若干寒さで震えているがリラックスムードである

エイラ「ずいぶん落ち着いてるナ…緊張とかしないノカ?」

俺「多少はするさ、多分空に上がればガッチガチに緊張するだろうぜ」

エイラ「そんな風には見えないけどナー…」

俺「エイラは緊張してるのか?」

 その質問にエイラは黙ったまま、俺から視線を外す

俺(なんだかんだ言っても初陣もまだの新人ウィッチだもんな…って俺もそうだが無理も無いか)

 少し昔、一ヶ月ほど前の事を思い出す
 カールスラントからここスオムスに派遣されてからの最初の基地を

俺(インモラ基地に俺が配属された時に新人ウィッチとして一緒にしごかれたもんなぁ…)

エイラ「カールスラントは激戦だって聞いた…だから平気ナノカ?」

俺「ん…俺自体は戦闘飛行した事ないからなぁ」

 飛ばせてもくれなかったしな
 俺はそう心の中で自分の言葉に付け足した

エイラ「それじゃあワタシと同じじゃないカー!」

俺「だからインモラ基地で一緒に訓練でしごかれたんだろ!」

エイラ「あ、それもソウカ 俺はワタシより早くウィッチになったのに今だ新人のヘタレナノカ」

俺「何故かオマエにだけは言われたくないな…」

エイラ「ドーイウコトダー!」

俺「あっはっはっはっは!」

 ちびっこいエイラの怒る姿が面白くてつい声に出して笑ってしまう
少し時間が経ち俺の笑いとエイラの怒りが収まった所でエイラがぽつりと呟く

エイラ「エルマ中尉達、大丈夫カナ」

俺「ふざけてる様に見えて智子少尉やビューリング少尉はかなりの腕前だからな、大丈夫だろ」

 歳はも行かぬ少女の前で余りにも刺激的過ぎる会話をするような面子でもな、そう言いたそうな顔をしながら俺は
エルマ中尉達が飛び立った空を待機室の窓から見上げる

エイラ「他のメンバーはあえて言わないのナ…でも嫌な予感がするンダ」

俺「そんなの気のせいって事にしておけ、どのみち今の俺達には戦闘は出来ないし祈る事しか出来ないからな」

エイラ「…わかった」

 そんな当てずっぽうな俺の期待は、カウハバ基地に耳障りなアラームが鳴り響く事によって泡となる

俺・エイラ「!?」

 緊急事態を知らせるアラームを聞いた俺とエイラは反射的に立ち上がりハンガー内へと走って戻った




カウハバ基地ハンガー内

俺「装備のチェック確認!」

エイラ「こっちは大丈夫ダ!」

 俺はスオムスで『メルス』と呼ばれるメッサーシャルフD型に足を突っ込むように飛び乗り、両足と一体化した細身の機体の
魔道エンジンに火を付け、現地で配給されたスオミM1931短機関銃を確認する
 エイラはその背丈とはミスマッチな大型のリベリオン製F2Aバッファローを両足に装備し
俺と同じM1931短機関銃を点検している

俺「出撃は何時でも?」

エイラ「アア!」

 ブオオオオオ っとハンガー内に2つのストライカーのエンジン音が響いてる為二人とも
大声で掛け合い、エイラの返事を聞いて俺は喉頭式(こうとうしき)マイクに指をかける

俺「こちら俺軍曹!司令室、俺軍曹およびユーティライネン軍曹の出撃準備完了 現状報告お願いします」

ハッキネン<こちら司令室、俺軍曹出撃は…っ!?>

エイラ「うわっ!?」

 ドオオオオオオオオオン
という大きな爆発音がハッキネン大尉の無線をさえぎり、基地内が大きく揺れる
 それを皮切りに同じように大きな爆発音が続く

俺「くぅ…こちら俺軍曹!司令室現状報告と指示をお願いします!司令室!…」

 何度か喉頭式マイクに叫び、ノイズの入った返答がようやく帰ってくる

ハッキネン<こちら…令室!俺…現ざ…基地上空に爆撃機が…俺ぐ…ティライネン軍曹…出撃…!>

俺「了解、聞こえたなエイラ!」

エイラ「お、おう!」

俺「俺軍曹より司令室、俺軍曹およびユーティライネン軍曹出撃します!」

ハッキネン<…て、しゅつげk…>

 再び帰ってきた司令室からの無線は基地の真上から聞こえた爆発音と共に途切れた

俺「エイラの正面の滑走路は穴だらけだ!悪いが俺の後ろから付いてきてくれ!」

エイラ「わ、わかった!」

 エイラの返答を聞くと、俺はメッサーシャルフD型のエンジンの回転数を上げ
滑走路に出て離陸を開始した




カウハバ基地上空

 俺に続きエイラは滑走路を出て離陸をし上昇を始める

俺「基地の真上に居やがった…!」

エイラ「あれが…ネウロイなのカ…」

 いまだ上空は100メートルも満たない所でエイラは後ろを振り向き、黒の装甲に覆われた両翼にエンジンの付いた
爆撃機型ネウロイを見る
 幸い爆撃機型ネウロイは基地を挟んで反対側でこちらに尾翼を見せている、爆撃した後だろう

俺「エイラ!出来るだけ高度を取るんだ!もっと上がれぇ!」

エイラ「りょ、リョウカイ!」

 空で緊張の塊のようにガチガチなエイラは俺に指示されてようやく機首を上げて高度を上げ始める

俺「こちら俺軍曹、司令室聞こえるか!誰か聞こえないか!」

 何度か司令室に連絡を取ろうと喉頭式マイクに叫ぶがザー…というノイズのみしか聞こえない

俺(エルマ中尉達は確か国境付近に出撃したんだったよな…司令室には繋がらない…エイラは…)

 自分の後ろを飛んでいる少女の表情を見ると目は俺の方向を見ているが焦点が合ってないのか
俺が振り向いてることに気がついてない

俺(俺より旨く飛べるはずだけど…どうする?)

俺<エイラ、大丈夫か?>

エイラ<あ、アア!私が前に出れば…お、おれ!わ、私の後ろに…>

 いきなり振られた質問に何とか答えようと応答するがエイラの声がどもってしまい
俺はその声を聞いて自分を落ち着けようと一度だけゆっくりと深呼吸し、喉頭式マイクに向かって喋る

俺<ふぅ…階級は同じだけど任期は俺のほうが長い、俺の後ろに着けエイラ>

エイラ<で、でもだな!>

俺<俺は射撃を正確に当てられない!>

エイラ<は、ハァ!?こんな時に何を言って…>

俺<だから俺が前に出る、オマエなら後方からでも当たるだろ射撃を頼むぞ!>

エイラ<そ、そんな事言ったって…>

俺<エルマ中尉達も戻ってるはずだ、時間を稼ぐだけだ威嚇射撃だっていいさ>

 無線でエイラに中隊が戻るなんて事は言ったがそんな事は聞いてない
けどこの状況では必死に戻ってるだろうし…少しでもエイラの精神安定になればと思ったが

エイラ<りょ、了解!>

 緊張こそしているがガチガチに固まっている状況よりはまだましな声だった

俺<高度1500!左旋回!敵の高度は思ったより低い、インモラ基地の訓練でやった一戦離脱戦法で行くぞ>

 エイラは無線で戦法まで確認し、俺に続いてゆっくりと左旋回し正面の遠くに基地を見据える
 その奥には黒い爆撃機の横腹が見え、エイラはM1932短機関銃を握り締めた




 複数の爆撃機型ネウロイは再びカウハバ基地に空爆を仕掛ける
 空爆を仕掛ける前は射程外だったが、空爆を終えて基地から離脱する所で俺とエイラはネウロイに追いつく

俺<一番最後のネウロイに攻撃を仕掛ける>

エイラ<了解!…っ!俺!ネウロイから攻撃が来ルゾ!>

俺<ぐっ!>ブウウウウウウウン

 エイラの無線を受けて俺はネウロイを確認せずにすぐさま左にロール(横回転)し、空に腹を向けたところで機首を上げて
高度を落とす
 その数秒後にネウロイからの赤い閃光弾らしき物がいくつも俺の居た場所を通り過ぎる

俺<後方機銃か…?助かったぞエイラ!>

エイラ<お、オオウ…ここはやっぱりお決まりの後で一杯奢r…うわあああああ!?>

俺<被弾したか!?>

エイラ<弾が横切っただけでダイジョーブダ!>

俺<さっきなんて言いたかったんだ?>

エイラ<な、何でもナインダナ!次来るゾ!>

俺<はぁ?ってうおおおお!>

 俺とエイラの存在に気がついた爆撃機型ネウロイは基地を奇襲、爆撃する為に落としていた高度をゆっくり上げる
 エイラはそれでもネウロイよりも高い高度に居たが、俺は2度目の攻撃でネウロイよりも低い高度になってしまった

俺<俺より高い高度に行きやがった…って後方機銃が来ないな>

エイラ<こっちは集中攻撃されてるぞオレエエエエエエ!>

俺<機体上部にしか後方機銃が無いのか…なら!>

 エイラはネウロイの後方機銃を何とか避けながらゆっくりと降下し始め
 俺はエンジンをフルスロットルにしてネウロイの腹部へ後方から上昇しつつ接近する
 万が一に備えてシールドを張りながら

俺「…700…600…500…400…300…200!あたれぇ!」

 距離200m、その距離でも射撃があたるか怪しい俺の腕だったが祈りを込めてM1932短機関銃の引き金を引く

 ガガガガガガガ…

 敵の胴体に火花が飛び散り金属と金属が激しくぶつかったような音はする物のネウロイは一向に弱った気配はない

 数秒で71発も入ったM1931のドラム型弾倉を空にした俺はリロードする為に円状の弾倉を外し
予備の縦に長い弾倉を装着し、コッキングレバーを引いてM1931に新たな弾丸を再装填する

俺(こんなに早くドラムマガジンが空になるのかよ…胴体は利かないからエンジンに攻撃を集中させるしかないけど…)

 着々と俺と爆撃機型ネウロイの距離は近づいて居るが接近し始めた頃より近づいてる速度が遅くなっている
 一刻一刻と事態が進んでいく中、後方機銃を避ける為にネウロイより高度を落としていたエイラが俺の少し上部の
後方まで追いついてきた

エイラ<俺、アイツの左エンジンを狙おう>

俺<…俺もエンジンを狙うのは考えてたけど…距離がまだ遠い>

エイラ<牽制でもイインダロ?私も左エンジンを狙えばいくつか当たるダロ>

 牽制でも良い、というのは張ったりで実際いつエルマ中尉達が戻るか分からない台詞だったんだけど

俺<…そうだな、それで行こう 射撃のタイミングはエイラに任せるどうせ俺は当たらない!お前の一番良い距離で頼む!>

エイラ<偉そうに役立たず宣言するなヨナー…了解、それじゃあ…>

 今はエイラの長機、全部が嘘という訳ではないが自分の発言を今更覆せないし覆してはいけないと思い腹を括る

 エイラは力の抜けるような俺の通信を受けつつもバッファローのエンジンのスロットルを全開にしてネウロイに接近する
俺もスロットルを全開にしているが、エイラより先に上昇を開始した為か中々速度が上がらない

 エイラが俺と並んだ所で

エイラ<そろそろ行くぞ!>

俺<了解、号令宜しく>

エイラ<3…2…1…撃てエエエエエエエ!>

 エイラの叫びと同時に爆撃機型ネウロイの左翼に付いているエンジンに
エイラと俺の短機関銃の弾丸を送り込んだ

 いくつかハズレながらも最初よりも接近したとあって俺の弾丸がいくつか当たり
エイラの弾丸は多少エンジンの周囲を掠める弾丸があったがほぼ当たっていた

 精密であろう部分に集中攻撃をされた為か爆撃機型ネウロイの左エンジンから火が出る

エイラ<倒したノカ!>

俺<いやまだだ…>

 爆撃機型ネウロイの左エンジンは火を噴いたがかろうじでその反対にある右翼のエンジンで飛んでいる

エイラ<だったらまた!>

俺<いや、ここで旋回、基地に戻ろう…>

エイラ<何でダ!もう少しなのに>

俺<俺たちが攻撃してるのは最後尾の爆撃機、その前には複数敵が居る>

エイラ<だったら尚更倒したほうがイイダロ!>

俺<今の飛んでる位置を見ろ>

エイラ<あ…>

 俺とエイラは敵を追うことばかり考えて基地からずいぶんと離れた場所まで来ていた

俺<…それにこいつら基地に旋回する様子もない、こっちの弾もそんなに多くない>

エイラ<…>

 考えたくは無いがこいつら、俺たちを…

俺<…戻ろう、深追いは禁物だと訓練で教えられたしな>

エイラ<…了解>

 俺たちは片方のエンジンから火を噴くネウロイを目前に旋回し周囲を警戒しながらカウハバ基地へと戻る
その道中で俺はエイラに

俺<すまん…>

 己の力の無さか、無能な指示か、無駄足を踏ませてしまった意味合いなのか…
多分全部だろうな、そんな気持ちを込めてエイラに謝罪し俺たちの初陣は
基地が大きな被害を受け、敵ネウロイの撃墜無しという結果で終わった


続く
最終更新:2013年02月04日 14:50