心地いい感覚だった、何か、海にでも漂っているような。
そして、これが長続きしないということも分かっていた、これは夢だ、いつかは覚める。
俺(……夢?)
いや、夢など見れるはずもないのだ、そうだ、俺は死んだのだから、あの時、東京上空で。
俺(……そうだ、俺は死んだはず……なのに夢を見ている…?)
だが、この感覚は夢を見ているのに近いものがあった。
永眠という言葉が示す通り、死んだ人間は一生眠り続け、こうして夢を見続けるのか?
いや、それとも――
俺(これが…死後の世界、ってやつか?)
だとしたら、俺はどうなるのか、それが気になった。
軍上層部の宣伝によれば、国のために戦ったなら天国に逝ける、と聞いたが、確かにこの心地よさは天国と言えなくもない。
だがあくまで宣伝だ、その上層部の連中が一度天国とやらに行ったならともかく、そんなことがあるはずもない。
それに相反する感情もあった、聞くところによると、天国とやらは善良な人間の逝ける場所ということだ。
俺「くっははは………!」
笑ってしまう、俺が善良?馬鹿馬鹿しい話だ、俺が善良な人間ならば、俺に殺された奴らは悪人だとでもいうのか。
俺(まあ、考える必要もないか……もう死んだんだ、俺は)
そうだ、必要ない、もう殺す必要もなければ、守る必要も、生きる必要もないのだ。
眠ろう、時間は無限にある、これからどうなるかにも興味はなくなった。
少なくとも、絶望しなくてすむのだから、もういい。
―――
――
―
―――ロマーニャ 501基地 格納庫――
坂本「このストライカー……扶桑のものに雰囲気は似ているが……」
謎の男が降ってきた翌日、501の少女たちは格納庫で男が穿いていたというストライカーを見ていた。
そのストライカーは分析によって現状存在するどのストライカーとも一致しないという報告を受けたからだ。
宮藤「これ…もしかして」
ミーナ「そうね、見た感じだと、宮藤さんの震電に似てるわね…」
整備士「ですが、中は全く別物です、しかも一部はブラックボックス化されていますから分析は困難ですね」
バルクホルン「……結局、あの男が目を覚ますまでは何もわからない、か」
結局のところ、結論はそこに落ち着いた、男の着ていた服、階級章らしきもの、そしてストライカー。
どれを調べても男の素性につながるものはなく、分かることは扶桑人に雰囲気が似てるという、一目見ればわかるようなことだけだった。
整備士「……難しいですね、規格外のパーツも相当ありますから、損傷も結構なものですし」
シャーリー「そっかぁ残念だな、どんなもんかあたしが試してやろうと思ったのに」
ルッキーニ「やだよシャーリー、これなんかヤな感じがする……」
バルクホルン「私も同じ意見だリベリアン、歯痒いがあの男の口から聞くしか――」
タッタッタッタ
医者「あ、あの、例の男性が目を覚ましました!!」
駆け込んで来た基地専属の医者の一言が一瞬、何かと騒がしかった格納庫を沈黙させた。
ごほん、と坂本が口を開く。
坂本「…噂をすれば、だな」
――501基地 医務室――
目が覚めて最初に見たものは、天国とは程遠い、ただの天井だった。
どたどたと誰かが慌てて部屋から出ていくのが端に見えたが、今は意識を割く気分ではなかった、白衣を着ているということは医者だろう。
それよりも心を占めるものがあった。
俺「……結局、夢かよ」
心の底からの失望をつぶやく、結局、俺はまた生きてしまったわけだ。
なぜ生きてるのかには特に興味はわかなかった、知ったところでどうにかなるわけでもあるまい。
俺「とりあえず体を起こすか……ん?」ガチャ
俺「……手錠?」
両腕は手錠によってベットに拘束されていて、体を起こせるくらいはできるだろうがベッドから出ることは無理だろう。
ついでに着ている服も軍服ではなく、簡素な寝間着に近いものに着替えさせられていた。
俺「ここは……軍の施設…か?」
辺りを見回す、どうやらここは医務室らしい、だが医療品が整っている所を見るとあの日本とは考えづらい。
そもそも軍とは関係ない場所であることも考えたが、窓の外から見えた軍用のトラックを見るに、やはり軍関係、おそらく基地だろう。
だが敵国の捕虜にされたにしては、逆に明らかに扱いが甘い、全面戦争下だというのに敵であるはずの俺に軍人の見張りすらつけないとは。
俺(どういうことだ?どっかの国が介入でもしたのか?)
他にもあらゆる可能性を考える、が、結局のところどれも妄想の域を出ない。
ここで得られる情報が少なすぎる、今いる国すらわからないのではどうしようもない。
と――
コッコッコッコ
俺(足音……)
先ほど出てったい医者だろうか?、いや、それにしてはやけに落ち着いた歩き方をしている、
まったく状況を整理する暇もない、とりあえず両腕の拘束は解いてもらいたいが、そこまでうまく事を進められるだろうか……
ガチャ
来たのは女だった、下半身の露出が凄いのが気になったが、その辺は無視しておこう、俺の部下にもそういう趣味の女がいた。
外見や背中にしょっている刀(おそらく日本刀)を見る限り日本人のようだ、眼帯が目を引いたがなかなかの美人だ。
しかも若い外見で軍施設にいることなどから考えるとこいつは――
俺(日本の魔女、か……)
となると、ここは日本でいいのだろうか?断定するのは速いが…。
坂本「思ったより元気そうだな、目覚めてさっそくで悪いが…おっと、自己紹介がまだだったな、私は連合軍第501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズ所属、坂本美緒少佐だ」
俺「……!!!」
俺(坂本…美緒…!?)
501統合戦闘航空団ストライクウィッチーズ、まったく聞いたことのない名前だ。
だが、彼女の名前は、聞いたことはあった、確かに日本に実在した人物だ。
だがありえない、彼女が俺とこうして会うことなどできるはずがないのだ、なぜなら――
俺(まさか…ここは本当に……)
坂本「さて、手荒な真似をして済まない、だがここは軍の施設なのでな、何もしないというわけにもいかないんだ……そう心配するな、質問に正直に答えさえすれば解放しよう」
俺の動揺をよそに、坂本は続ける、しばらく考え込みたい気分ではあったが、そうもいかないだろう。
とりあえずこの場をなのとか凌がなければ、やはり軍の施設であることを考えると、下手を打てば刑務所ないし収容所送りも考えられる。
正直に答えれば解放すると言っていたし、ここは下手に隠すより正直に言った方がいいだろう、目の前の坂本が本物であるかどうかはともかく
少なくとも、嘘をついて人を陥れる人物には見えない……違ったなら、強行手段をとってでも脱出しなければならなくなるかもしれんが。
俺「……おっしゃる通りです、申し訳ありません」ペコ
坂本「うん、なかなか素直じゃないか……さて、お前は何者だ?」
俺「はい……自分は、大日本帝国陸軍近衛第2師団所属、第二魔女隊隊長、俺、です、階級は少佐」
最早再編成されまくってさして意味がないことではあったが、所属まで含めて全て言った。
というのに、坂本は怪訝な表情を浮かべるだけだった。
坂本「大日本…帝国……?何だそれは、お前は扶桑の人間ではないのか?どうも軍人のようだが……」
俺「……へ?」
…何を言っているんだ?日本を知らない、日本人なのに?
いや、たとえ日本人でなくとも、日本の名前ぐらい聞いたことがあるはずだ、軍人ならばなおさら。
俺「坂本少佐……日本を、知らないのですか?」
坂本「残念だが、そんな名前は聞いたことがないな……」
俺(日本を知らない……いや、まさか…どうなってる…!?)
嘘を言ってるような顔には見えなかった、少なくとも彼女は本気で日本を知らないと言っている。
こちらとしても扶桑という言葉は聞いたことがなかったが、それを言ってもおそらく噛みあわないだけだろう。
坂本はますます俺を怪しんでいる様子だった、いい言い訳も浮かばないまま時は過ぎていく。
坂本「……では次だ、お前が穿いていたあのストライカー、あれはなんだ?、あれも、…大日本帝国とやらが作った、というのか?」
俺「いや……」
訳が分からない、本当にこれは現実なのか、まだ夢を見てるんではないかとすら錯覚してしまう。
と――
ファーンファーン
突如警報が鳴り響いた、日本のものと少し違ったが妙な懐かしさすら感じてしまう。
体が反射的に立ち上がろうとしてしまい、手錠に引っ掛かった手首が少し痛かった。
ガチャ!
バルクホルン「少佐、ネウロイが!!」
扉の外で待機していたのだろう、もう一人、茶色の髪を二つにまとめた女が飛び込んできた。
そして、その女は先ほどの話で動揺していた俺をさらに混乱させた。
俺(外国人だと……)
確かに日本はいくつかの外国と同盟を結んでいた、何度か会ったこともある。
だが、あの状況の日本に外国人などいるわけがない、ましてや軍人ともなれば祖国に戻っているのが普通だ。
となれば、やはり、ここは日本ではない……?いや、坂本の口ぶりを考えればむしろ――
俺(――日本は、存在していない?)
坂本「分かっている!……俺といったな、話はまた後だ!」タッタッタッタ
混乱する俺をよそに、坂本はそう言うと、かなり急いだ様子で出て行った。
俺「……はあ」
一応助かったといえるのだろうか、確かに考える時間が与えられたのは確かにありがたい。
正直ぶっ飛んでいるこの状況に対して思考停止して寝てしまいたかったが、そういうわけにもいくまい。
俺「それにしても……ここも平和というわけではない、か……」
警報が鳴った時の坂本とあの外国人の行動の手馴れ方からして、この事態がまったく想定外の事態というわけでもないようだ。
恐らくここも戦時中で、彼女らは敵と戦いに行ったのだろう、俺と同じように、だが、引っ掛かるものがあった。
違うのだ、似てはいるが俺と彼女らとでは、何かが決定的に違っていた、その何か、までは分からなかったが、確信していた。
俺(何だ?……俺とあの二人……何が違う……?)
そしてもう一つ、俺の中である言葉がやけに引っ掛かっていた。
俺「……あの外国人、ネウロイとか言ってたよな……」
相変わらず聞いたことのない単語だ、恐らく敵の名前だろうが、国名だろうか?
いまさら知らない国が出てこようがさして驚かんが、何か引っかかった。
俺「誰か、説明してくれよ……」
誰もいない医務室で、俺はそんなことをつぶやいていた。
――――以下続きます
最終更新:2013年02月04日 15:05