D.H.N俺 第9話「全天と暗雲の使者」
中編
―エイラ&サーニャの部屋
部屋に入る前に表情を整えてからはいることにする。
特訓に失敗したので暗い気分になってしまうのは仕方ないが、少しでも暗い顔などサーニャに見せたくもないからだ。
私は扉の前で2,3度頬をぺしぺしと叩いて気分を変えて、部屋にはいった。
エイラ「……ふぅ」
だがやはりため息がでてしまっていた。
しかしこんなことではいけないと思い、顔を上げて部屋中を見渡す。
するとソファに自分の懐かしいコートが掛けられていて、私はふと思いたちそのコートを両手で持ち上げる。
エイラ「これは……」ヒョイ
サーニャ「エイラの、コートでしょ?」
エイラ「ん?」
サーニャ「成層圏は寒いから」
エイラ「そっか。そういえばこれも久しぶりだな!」
サーニャ「で、どうだったの?」
エイラ「……え?」
サーニャ「俺さんとペリーヌさんとリーネさんの特訓」
エイラ「な、なんだ……知ってたのか」
サーニャ「うまくできた?」
サーニャは期待あり気に尋ねているのだろう。
しかし私にとってあの結果はある意味すこしばかりショックで、サーニャの微妙に期待のはいった眼差しに私は目を合わせることが出来なかった。
乾いた笑いを伴いながら知りたがっている結果を話す。
エイラ「あはは……ムリ。だめだった……」
サーニャ「そう……」
横目でサーニャの表情を見る。
結構な時間一緒にいるからこそ微細な表情の変化ですら感じ取ることができるのが自慢ではあったが、今はそれがもどかしい。
……サーニャががっかりしたのがすぐにわかったからだ。
エイラ「……ん?あれ、マフラー、そんなに持っていくのか?」
サーニャ「ああ、これ?エイラと私と芳佳ちゃんのよ」
エイラ「……宮藤!?」
サーニャ「芳佳ちゃん、扶桑から何の用意もしないできちゃったから貸してあげようと思って」
エイラ「……」
サーニャ「でも……エイラも張れるようになるといいね、シールド」
エイラ「ムリだよ……やっぱり慣れないことはするもんじゃないな」
サーニャ「エイラ、諦めるの?」
エイラ「できないことを……いくらがんばったって仕方ないじゃないか」
サーニャ「できないからって諦めちゃだめ!諦めちゃうから……できないのよ……」
サーニャが私を心配して元気づけようとしているのはわかる。
だが、今の私にその言葉はとても辛辣で、非常に心に堪えた。
当たり前だ……私ががんばろうとしたのはサーニャのためだったのに、それが自分の長年の癖のせいでできないのだから。
つんつん
メガネだって、リーネだって、俺だって、私のためにやってくれたのに自分ができなかった……それも含めて。
私はいらいらが募った心をむき出しにし、サーニャに背を向けて、心の内に溜めていたものをついに吐き出した。
エイラ「じゃあ最初からできる宮藤に守ってもらえばいいだろっ!!」
私は大声で怒鳴るように言い返した、今までサーニャに見せたことがないような声で。
振り返ってみなくてもわかる、きっとサーニャが悲しい表情をしていることが。
自分でも思う、なんて醜い嫉妬なんだろうと。
サーニャ「……!エイラのバカ!!」ブンッ
エイラ「サーニャのわからずや!!―――あっ」
なんでわかってくれないんだ、という言葉に返ってきたのは……辛い想いと以前サーニャにプレゼントしたクッションだった。
……それが飛んでくることはわかっていたのかもしれない、だけど私は避けなかった。
いや、避けることが出来なかった、というのが正しいだろう。
エイラ「おふっ……!」バフッ…
柔らかい感触と共に私の顔面へと当たる。
ぽふりとあたったクッションは一回だけ私の顔で跳ねて、すぐに重力に従って地面に落ちようとした。
受け止めようと思ったが、私はクッションが落ちて開けた視界の先にあるものを見て、やはり動けなくなったのだ。
エイラ「―――!」
サーニャ「……」
悲しさと辛さと怒りが混じった表情のサーニャが……私の視界の先に立っていたからだ。
サーニャは続けて何かを言おうとしたが、それに耐え切れなくなったのか、目の端にわずかな涙を浮かばせる。
エイラ「あ……」
サーニャは私を責めることなしに何も言わずに……呆然とした私をおいて、涙目のまま部屋を走ってでていった。
一気に罪悪感と申し訳なさと後悔が心の内のズシリとのしかかる。
その時、間違いなく私は……嫌われたと思った。
なぜなら、サーニャにあのような表情を向けられたのは
初めてで、過去に例を見ないものだったからだ。
エイラ「サー……ニャ」
ぼそりとつぶやくと同時にドアがこんこんとノックされる。
私は首を向けることなしに突っ立ったまま、返事もしなかった。
俺「失礼。さっきサーニャが悲しそうな顔で部屋を走って出ていったが……どうした?というか大丈夫か?」
エイラ「あ、いや…………………大丈夫なんだな」
俺「大丈夫じゃない顔だ。何があった?」
エイラ「――ニャと―――した」
俺「ん?」
エイラ「さ、さーにゃと―――した」
俺「サーニャと……喧嘩しただって?」
エイラ「お、おれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
俺「おいおい、泣くなよ」
エイラ「ど、どうしようぅぅ……さぁにゃぁ……」エグエグ
俺「エイラがサーニャになんか言ったんじゃないのか?」
エイラ「み、ミヤフジに守ってもらえばいいじゃないかって……」
俺「……馬鹿。どれほどサーニャがお前に待っていたと思ってるんだよ……」
エイラ「さー……にゃぁ……」
俺が困った顔をしていた。
加えて、何か思案を巡らせるような感じで顎を触る動作。
私はそれが目に入らないほど精神不安定になって、激しい罪悪感と落ち込みを元に俺に泣きつく。
俺「ふむ……」
エイラ「さーにゃぁぁ……」
空にはうっすらと片方だけが欠けた淡い半月が、空に昇ろうとしていた。
―滑走路先
サーニャ「……エイラのバカ」
気分転換に私は滑走路先にきていた。
前にリネットさんに風が気持ちいいと聞いていた場所で、変な気分も安らぐかもしれないと思ったからだ。
だが、今ひとつ快方に向かわない。
俺「こんな所でどうした?風邪引くなよ」
サーニャ「あ、俺さん……こんばんわ。ちょっと気分転換に」
俺「気分転換か。その表情、同僚で何度も見たことがある。察するに、エイラと喧嘩でもしたか?」
サーニャ「あう……。そうです。エイラが、シールドを張れないって諦めていたから励まそうとしたつもりで」
俺「それがエイラには突き刺さったか。……すまないな、エイラの力になれなくて」
サーニャ「俺さんはいろいろしてくれたと思います。でもエイラが……」
俺「エイラを責めてやるな。あの戦闘に関して飛び抜けた魔法だ。むざむざソレを殺してまでシールドを使う必要もない」
サーニャ「……」
俺「でも、言いたいことはそうじゃないんだろう?」
サーニャ「……はい」
俺「エイラの今後を考えるというのもあるが、もしかしたら一緒に行きたかったんじゃないのか?」
サーニャ「そう、かもしれません。でも、私エイラに怒ってしまったからエイラももう……」
俺「甘いな。そう簡単に諦められるもんでもないさ。特に大切な人を守ろうとするときはな」
サーニャ「大切な、人……」
俺「大切な人を守ろうと思ったらな、どんな困難でも乗り越えられるんだよ」
サーニャ「エイラにとって私は……大切な人、なんでしょうか?」
俺「ん?えっと、今更感があるが、エイラにとってサーニャは本当に大切な人だろうな。疑いの余地なく」
サーニャ「……」
俺「だから守りたいんだよ。自分の手で、サーニャを。俺とかペリーヌさえも頼ってきたんだ、必死なんだよ」
俺は若干エイラの肩を持ちながらもサーニャの気持ちをなだめるように話す。
サーニャにとってもエイラは大切な人間だろう……だからこそシールドが張れるようになることを願ったのだ。
しばし考慮しているのか間が空くが、1分後ぐらいにサーニャが口を開いた。
サーニャ「……俺さんは、親しい友人と喧嘩したことはありますか?」
俺「もちろん。殴り合いもした。意見の食い違い、親切心の平行、理解不足からの喧嘩だ」
サーニャ「でも、仲直りできたんですよね?」
俺「……いや、できなかった」
サーニャ「え?なぜ、ですか?」
俺「そいつが、その次の日に戦死したからだ。ははっ……謝ることもできないし、酒を酌み交わすこともできないし、困ったさ」
サーニャ「すみません。嫌なことを聞いてしまって」
俺「……サーニャにとっても、エイラは大切なやつなんだろ?だったら、お互いに仲直りしたほうがいい」
サーニャ「……もう少し冷静になってから会いに行きます」
俺「大切な人のことは確かに真剣に考えてやりたくなるよな。でも、それが逆に相手を傷つけることもある。
たぶんサーニャもエイラも互いのことを真剣に考えたけど、行き過ぎてそうなってるんだと思うぞ」
サーニャ「俺さんのおっしゃるとおりかもしれません……」
俺「エイラだってサーニャを自分の手で守りたいんだ。それだけは本気であることを、わかってやってくれ
俺「……そして、サーニャ自身もエイラを心配していることを言葉で伝えてやるんだ」
サーニャ「……はい」
サーニャの微かな笑顔がこちらに向けられる。
半月の月光に照らされたその顔つきは、目がとらわれるほど美しい……エイラの気持ちもわかる気がした。
仲直りは思っているほど難しくない、なにせ時間が経った頃には大抵どちらも反省しているからだ。
俺「それじゃあ、早く寝るようにな」
サーニャ「わかりました。俺さん、おやすみなさい」
俺「ああ、おやすみ。……そうだ、俺が仲直りできる状況を作ろう。それならお互い仲直りしやすいだろ?」
サーニャ「そんな……俺さんにまた迷惑が」
俺「気にするな。俺はこういうことを好きでやってるから。まぁ明日緊張しないようにな」
サーニャ「俺さん……色々とありがとうございます」
俺「それじゃあ、また明日」
俺さんがタバコを懐から取り出して、火をつけながら基地のほうへと歩いていった。
服の腰のあたりにわずかな銀色の糸が輝く……何度も見たことがある、エイラの髪の毛だ。
サーニャ「俺さんはもしかして……」
半月が空で輝いていた。
サーニャ「ありがとう……俺さん」
だが、波に映えた月の残像は……ゆらりと揺らいで満月に見えていた。
―翌日
ミーナ「本日未明にロマーニャの艦隊と航空部隊がネウロイと接触したそうよ」
坂本「結果は?」
ミーナ「返り討ちにあって、巡洋艦ザラとポーラが航行不能よ」
坂本「……我々の出番だな」
俺「だったら、早速取り掛かるか。あのネウロイの駆除に」
ミーナ「待って、俺さん。その前に伝えておきたいことがあるわ」
俺「どうした?」
ミーナ「ロマーニャの艦隊と航空部隊がここまで手痛い打撃を受けたのは、あのネウロイのせいだけではないの」
俺「どういうことだ?」
ミーナ「恐らく、例のネウロイとは別のネウロイがあの場にいるわ」
俺「恐らくって……どうにもあてにならんな」
ミーナ「どこからともなく攻撃されたと報告があるの。そいつの攻撃のせいで撤退さえ遅れたと」
坂本「……そのネウロイの情報は全くないのか?」
ミーナ「高高度からの狙撃のようなビームだったらしいから、確認が取れなかったそうよ。情報なんてそれくらい」
俺「なんにせよ、そいつも排除しないと……作戦はうまくいかないかもな」
ミーナ「そこで俺さんに特別任務を与えるわ。宮藤さん、サーニャさん両名に付き添って高高度まで上がり、その敵の索敵及び撃破をお願いしたいの」
俺「……ふむ、特別任務なんだ。報酬は?」
ミーナ「そうね。……
シャーリーさんとのデートを一日だけ認めてあげるわ」
坂本「ふっ、そいつはいいじゃないか」
俺「おいおい、そいつはいい報酬だな。いいだろう、任務をいただこうか」
ミーナ「お願いね。だけど、くれぐれも注意するように」
俺「了解」
ミーナ「さて、全員作戦の準備に移らせましょう。やるなら早いほうがいいわ」
坂本「今回の作戦は、塔のようなネウロイと未確認正体不明なネウロイの撃破、だ。気を抜くなよ」
第9話「全天と暗雲の使者」中編終了
最終更新:2013年02月06日 23:11