――上空
俺「速いな。旋回性能も、敵の方が上か……!」
クルピンスキー『俺、大丈夫かい?』
俺「流石にエースだな。余裕なもん、だッ!」
背後から迫ってきた紅い閃光を、紙一重の回避で躱す。
ジリジリと焼け焦げていく髪と服に舌打ちをするが、蛇のようにしつこく背後を取り続けるネウロイに余裕が生まれる筈もない。
始めはクルピンスキーとの哨戒任務だけだったのに、と嘆息する。
哨戒任務を終え、基地へと帰投する途中、別部隊のウィッチが戦闘に入った通信を聞くや、彼女は進路を変えた。
依頼人の安全を第一に考える俺のこと、自分だけが帰る訳にもいかず後を追った。
向かった先で見たのは、航空機型のネウロイ二機と苦戦する四人のウィッチ達。
隊長機らしきベテランはそこそこ善戦こそしていたものの、残りのウィッチは新人らしく足を引っ張る悲惨な戦闘であった。
到着が速かったからか、はたまたウィッチ隊の幸運か。死傷者が出ていないことが唯一の救いである。
其処に颯爽と登場したまではよかったものの、予想以上の性能を前に俺とクルピンスキーは分断され、現在に至る。
俺「やれやれ。……おい、伯爵。自分の尻拭いだ。何とかしてくれ」
クルピンスキー『無茶振りは止めて欲しいな。これでも、自分のことで精一杯さ』
その割に口調が明るいな、とは返さない。余裕があるのは何時ものことである。
とは言え、このままでは埒が明かない。哨戒任務とはいえ、魔法力をそれなりに消耗している。
ましてや、航続距離に難のあるBf-109を共に履いているのだ。下手をすれば、危険に繋がりかねない。
俺は敵の性能を測るために、高高度での戦闘を選択した。
眼下では、性能差の前にどう攻めるべきか決めあぐねている僚機の姿がある。
彼女もまた後ろを取られているものの、攻撃を避けるさまには余裕があった。
他のウィッチも続いた戦闘で消耗しているらしく、後を追っているものの攻撃に移れていない。
にも拘らず、装甲の一部が砕かれていた。恐らく、二人の到着以前に隊長機がつけた傷だろう。どうやら航空機としての性能を伸ばすために、再生力を犠牲にしたタイプなのだ。
加えて、隊長の使っていた武器はPPsh-41。通称バラライカと呼ばれるオラーシャの短機関銃。
連射、威力ともに二人の持つMG42に劣る銃であのダメージ。装甲もかなり薄いようだ。上手くすれば、ドラムマガジン一つを使い切る前に倒せるだろう。
俺(この相対位置と距離、伯爵の腕と速度を考えれば……いけるな)
入念な観察から得た敵の情報、自身と味方の能力を計算し、一瞬で打開策を弾き出す。
背後からの攻撃が正確さを増していく状況で、平静かつ冷静に、最善かつ最適の行動を考えだした。
俺「伯爵、10秒後に上昇しろ。微調整はこっちでやる」
クルピンスキー『何か思いついたね? 分かった、そろそろこの膠着にも飽きてきたところだ』
二人の会話はただそれだけ。
クルピンスキーは彼の律義さを、俺は彼女の腕を信じてる。必要以上の意思疎通は無駄でしかなかった。
俺は機首を上げ、そのまま身体を横に倒す。
俗に言うバレルロール。自らが螺旋を描くことで、直進する敵機の背後を取るのに有効とされる空戦軌道の一つである。
だが悲しいかな、彼の描く螺旋は大きく、無駄が多すぎた。このままでは離され、また背後を取られる結果となるだろう。
それを感じ取ったか、ネウロイは更なる加速を見せようとして、仰天、らしきものを見せる。
俺は更に身体を逸らせ、螺旋の軌道から降下へと移ったのだ。
想定とは違ったネウロイは加速を見送り、俺の後を追って降下するものの、大きく離された。
しかし、俺とネウロイの間には、性能と言う大きな差がある。
高高度からの急降下にも拘らず、その機体は空中分解との無縁である。いくら速度を上げようが、地面に激突しない限りは問題ない。
見る間に縮んでいく距離は、すぐにネウロイの射程圏内へと俺の身体を滑り込ませた。
そこまで来てもなお俺は笑みを浮かべ、背後のネウロイと自らの狙いに向けて言葉を放つ。
俺「予定通りだな。――――負けて死ね」
俺の軌道が僅かにずれ、彼の進行方向を見たネウロイは、二度目の動揺を見せる。
それも当然。その先には上昇してくる彼の僚機、ヴァルトルート・クルピンスキーの姿があったのだから。
突然二つに増えた標的に、どちらを先に撃つべきか。更なる動揺が生じ、そうこうしている内に時間は過ぎる。
MG42から放たれる弾丸は無数の顎門と化し、慈悲もなく、容赦もなく装甲とコアを喰い破っていく。
聞こえてきたネウロイの砕けるを音を背に、俺もまたMG42の引き金を引いた。
もっとも、伯爵と呼ばれる少女のような射撃の腕は彼にはない。装甲を引き剥がし、コアの露出にこそ成功したが撃破にまでは至らない。
焦ることはない、元より分かっていたことだ。
そう言うように、二つに増えた目標に動揺し続ける敵機とすれ違い様、コアへ向かってナイフを投擲する。
銃よりも遥かに正確かつ精密なそれは寸分違わずコアに突き刺さり、爆散した。
クルピンスキー『やるねぇ。相変わらず、投げナイフの腕は一流を通り越して達人の域だ』
俺「その代わり、射撃は二流どころか三流だがね」
クルピンスキー『そうかい? ……ま、一瞬で有効な行動を選んでみせた思考と判断力こそ、君の持ち味だと思うけどね』
俺「褒めたって何もでないぜ」
そういうのを期待したんじゃないよ、とインカムから聞こえたきた声には、惜しみない賞賛の響きがあった。
ネウロイには行き過ぎた目的遂行意識と統率力がある。しかし、それは臨機応変さに欠け、杓子定規な行動しか出来ないという裏がある。
今回の行動はその長所にして短所を狙い撃った、お互いを囮として、敵に生まれた隙をお互いが突くというものだった。
助けられたウィッチ隊の面々はクルピンスキーの活躍を前に歓声を上げている。
それを見て、俺は面倒だと表情を歪め、一人方向転換して自らの基地へと向かった。
クルピンスキー『ちょっと、どこ行くんだいッ!』
俺「余計な対人関係はごめんだよ。もう敵はいない、ゆっくり帰ってくるといい。後は任せた」
クルピンスキー『新人のアンナちゃんやエミリーちゃんに紹介して――』
俺「いやだね」
無愛想に会話を終わらせ、インカムを外す。
付き合っちゃいられねぇな、という呟きは誰にも聞かれないまま、寒空の中へと飲み込まれていった。
――基地 談話室 夜
クルピンスキー「あの後、大変だったんだよ? あの娘達に君は誰かって質問攻めにされちゃってさ」
俺「知らないよ。そもそも、伯爵が悪いんだろ。無理に助けに行くことはなかったよ」
アドラー「いや。それより、最近ワシの存在感が薄い気がするんじゃが」
俺「気のせいだ。しかし、そのまま消えてくれるとありがたい」
アドラー「酷いぞ、主ぃッ!」
使い魔の悲痛な叫びを無視し、俺の突いたキューは手球を押し出し、小気味良い音と共に的球を弾く。
クルピンスキーが俺に、物は試しと教えたビリヤードに興じているようだ。
クッションに何度か当たり、的球がポケットの中に綺麗に収まった。
見事な腕前に拍手を送り、クルピンスキーはテーブルの端に置いていたグラスを傾ける。
クルピンスキー「巧いね。ついさっき教えたとは思えない腕前だよ」
アドラー「流石にこの手の頭と身体、集中力を要する競技は、暗兵の前じゃ児戯かもしれんの」
クルピンスキー「と言うより、僕にも順番を回して欲しいもんだね。欲を言えば、ちゃんとポケットに入れられる位置に的球を置いて」
俺「ナインボールは元々そういう性質のゲームだろ、文句言うなよ」
クルピンスキー「本当に空気が読めないね、君の主人は。ねー、アドラー?」
アドラー「のー、伯爵?」
俺「お前等、無駄に仲良いよな。あ、アドラーは後で風切羽全部毟ってやるから覚悟しておけよ」
アドラー「止めて! そんなことしたら飛べなくなる!」
鳥としての死活問題に、バサバサと俺の周囲を飛び回ってご機嫌取りをするアドラー。
が全く取り合わず、次々に的球を落としていき、結局一度も相手に回すことなくゲームは終了してしまった。
クルピンスキー「本当に、容赦も何もないよねぇ……」
俺「そういうのを俺に期待されてもね。…………それより、俺と遊んでないで、あっちを何とかしようよ」
クルピンスキー「あはは……」
談話室に備えられたソファーの方を親指で指差す。
クルピンスキーは珍しく苦い笑いを浮かべて、その方向を見る。
其処にはソファーに深く座り、一人酒をあおっているロスマンの姿があった。
据わった眼でぶつぶつと文句を言いいながら酒を飲む姿は非常に怖い。
年の若い隊員達は、エースとしての危険な予感にさっさと自分の部屋へと帰っている。その予感は、恐らく正しいだろう。
一体、彼女は何を怒っているのかと問われれば、昼間のクルピンスキーと俺の無断行動において他ならない。
これ幸いとばかりに、今日の命令無視を槍玉にして普段からの502JFWの問題点を指摘してくれるであろう上層部。
そして、助けたウィッチ隊を要する基地から、正体のハッキリとしない俺の資料開示の打診。
どちらも頭の痛い問題だ。特に、俺が暗兵であるとバレた場合、どういった処遇が下されることか……。
俺「おい。怒ってんのは伯爵のせいだろ、何とかしてよ」
クルピンスキー「無理無理。ああなったら、飲ませて潰す方が簡単だよ」
俺(謝罪する気も、反省する気もないんだな……)
もっとも、彼女が素直に謝罪や反省を見せたとしても、何か勘繰りがあるのではないかと誰でもが考えるのだろうが。
口ではああ言っているものの、後が怖いのか、或いは別の物を恐れているのか。ともあれ、ご機嫌を取るつもりではあるらしい。
俺も俺で昼間の出来事を気にしていたのか、律義に後をついていく。
クルピンスキーはロスマンの隣に、俺は二人の正面に位置するソファーに腰掛けた。
クルピンスキー「どうしたんだい、そんなに怖い顔をしちゃって?」
ロスマン「アンタがそれを言うのかしら、エセ伯爵? 一体誰のせいで……」
俺「ああ、すまん。俺のせいか」
ロスマン「ちが……わなくはないけれど、元々の責任はこの……」
クルピンスキー「そうだよ、俺! どうしてあの時、無理にでも僕を止めなかったんだ!」
清々しいまでの責任転換に呆れも怒りも感じず、ソファーに座るまでに持ってきたグラスにスコッチを注いで差し出す。
クルピンスキーへの意趣返しは、俺によってではなくロスマンによって敢行された。
彼女が手にしたグラスの中身を口に含んで嚥下しようとしたと同時に後頭部を思い切りはたく。
酒を飲んでいる最中、そのような横槍を入れられれば当然むせる。
口から綺麗に噴出されるスコッチの霧を前に、俺はクッションで直撃を避けながら、余りに精錬された動きに何かの劇でも見ている気になった。
クルピンスキー「げっほ、ごほッ……! き、気管に……!」
ロスマン「このエセは放っておくとして……、俺はそれほど気にしなくてもいいのよ?」
俺「そう言われてもね。ラルや先生、熊さんが俺のせいで困ってるのは事実だしな。あんまり、人前に出るべきじゃなかったよ」
ロスマン「元を正せば、エセ伯爵の責任だけどね」
俺「それは否定しない。寧ろ、肯定する」
ロスマン「はあ……。まあいいわ、次は無理にでも止めてちょうだい」
俺「了解。次はストライカーを爆破しても止める」
クルピンスキー「……間違いなく死ぬからね、それ」
俺としては冗談のつもりであったが、如何せんそう言った真顔だ。若干、クルピンスキーの顔が蒼くなる。
何せ、やれと言われれば自爆すら辞さない暗兵である。普段の世話や可愛がり方、感謝の度合いから言って、ロスマンの申し出を受ける可能性は無きしもあらずだ。
俺がロスマンの援護に回っているからか、彼女の減らず口も流石に今日ばかりは減らざるを得ない。
それを気に、ロスマンの機嫌は治っていった。
毎度はぐらかされて逃げられる伯爵にしてやったからか、或いは俺が引き起こした事態を真摯に受け止めていたからなのか。
ともあれ、時間は過ぎていく。大量の酒と共に……。
生まれついた身体の問題からか、ロスマンの顔は真っ赤に染まり、泥酔状態に近いようだが、意識はハッキリしているようで口調は軽い。
クルピンスキーもほんのりと頬が赤い。アルコールに対する強弱を別として、普段から酒を飲みなれているだけ自分のペースを守っているのだろう。
そして、全くの素面の俺。いくら飲んでもまるで酔えない俺は、酒の入った二人のテンションについていくだけでやっとという感じだ。
クルピンスキーは熱いと言って上着を脱ぎ、シャツを胸元まで肌蹴させている。
そこから覗く谷間を見るよりも、気恥ずかしさを覚えるよりも、肌に奔る小さな小さな傷跡の一つに、視線が引っ張られた。
ロスマンが氷を取ろうと伸ばした腕にも、袖で見え隠れしている細かい傷が見える。
どうにも、それらがラルの身体に残ったであろう傷を想起させ、知らず知らずの内に、この場で
初めて自分から口を開いた。
俺「なあ、女にとって、傷跡ってのは、そんなに嫌なものなのか……?」
クルピンスキー「……………………」
ロスマン「…………ッ!」
何気なく口にした言葉に、恥じ入るように、怯えるように傷を隠した二人を前にして、己の失策に気付く。
女性の気持ちが分からないとは言え、いくらなんでも安直すぎた。
素直に謝罪を述べ、相手の反応を待つ。やがて、視線を逸らしていたクルピンスキーが口を開く。
クルピンスキー「……そうだね。僕達にとって、傷というのは誇りであると同時に、嫌なものでもある」
ロスマン「誰かの為に戦ったウィッチとしての証でもあるけれど、何処まで行っても女は女、ということなんでしょうね」
クルピンスキー「君にとって、傷はどんな意味があるのかな?」
意味も何もない。単純に、行動の結果に過ぎない。
肉体を鍛えるに当たって、どうしたところで怪我や傷はついて回る。道具を使えば擦り減っていくのと同じ道理だ。
それの何が嫌なのか、理解できない。
傷を負うことは戦うに当たって、鍛えるに当たって当然にすべき覚悟の筈だ。
無傷のまま得られた教訓に、力に、勝利に一体何の意味があるというのか。人は何かを犠牲にせねば、何かを得られる訳がない。
しかし、ラルの反応もある。乙女心とそういった覚悟は別の道理ということか。
人間、その行動が矛盾していたとしても何ら不思議はない。割り切れぬ感情というものも、存在するだろう。
クルピンスキー「つまり、そういうことさ。君のように何もかも合理的な行動を取れる、全てを割り切れる人間なんて、そうはいないよ」
俺「割り算もできずに生きていけるつもりとはね。恐れ入るよ」
ロスマン「理解できなくてもいいのよ。私だって、俺のことを全て理解できる訳ではないもの。でも、思いやることくらいは、できる筈よ」
俺「……思いやる、ね」
クルピンスキー「ま、何はともあれ、女性のデリケートな部分であるのは確かだ。ニパ君やナオちゃんでも変わりはない。特に、ラルには言っちゃダメだよ」
彼女はラルの触れられたくない部分に気付いていたのか、釘を刺すように言った。
そこまで言われ、俺は全身にどっと汗を流す。もう、遅い。三日前に触れてしまったところである。
言うなれば、俺はあの時、全力で地雷を踏み抜いた――否、地雷原でコサックダンスを踊るような愚行だ。
あれ? ヤバくね? これマジでヤバくね? 全力で地雷踏みに行ってるだろアレ。いやしかし、あの後のラルの反応は普段通りだったし……。
ぐるぐると思考が同じ場所を回り続ける。何の意味のない、纏まりのない思考に顔が引き攣り、冷や汗が頬を伝った。
これが思考の甘い罠。一度嵌ると、中々に抜け出せない。自分で作り、自分で陥る、愚かしい罠だ。
その様子に、二人は顔を見合わせる。そして気付いた。ああ、俺は誰かの地雷を踏みに行ったのだ、と。
ともすれば、問題なのは一体、誰の地雷を踏んだのか。
ここ数日、仲間の中で俺の接し方に変化があった者はいなかった。
ならば、そのような事実を表に出さない人物に限定されてくる。精神年齢が高く、自分の感情を押し殺せる者となると……ラルか、サーシャ辺りが妥当だろう。
しかし、サーシャは繊細かつ顔に出る。これに気付かない二人ではない。ならば、後はラルしかいなかった。
そこまで理解して、クルピンスキーはにんまりと笑い、ロスマンも酒の力で理性が鈍ったのか、ちょっと面白そうな顔をした。二人とも酒の肴を見つけた顔である。
そう言えば、ここの所、ラルの機嫌が良かったような気がしたが、気のせいではなかったようだ。
あの様子では地雷を踏んだとは言え、俺は巧い具合に地雷を処理したのだろう。本人が、それに気付いていないのがまた面白い。
何も言わず二人は自分のグラスを持って、蒼い顔をしている俺の両隣へと移動した。
隊の仲間として、年長者として、ここは話を聞いておかねばという建前の元、二人の享楽家は獲物に狙いを定める。
アイコンタクトを交わすと、取り敢えず外堀から埋めていくことにした。
クルピンスキー「ん? どうかしたのかな、俺? もしかして、誰かに傷のことを言っちゃった?」
俺「ッ……」
ロスマン「もう、手遅れだったみたいね。そ・れ・で、誰にそんな失礼なことを言ったのかしら?」
俺「も、黙秘権を行使させてもらう……」
クルピンスキー「ふーん。ニパ君とナオちゃん辺りじゃないよねぇ。二人に何かあれば、僕が気付かない訳がない。じゃあ、ジョゼちゃんか、下原君辺りかなぁ?」
ロスマン「それもないわね。二人は随分と気にするでしょうし。となると、サーシャさん?」
俺「………………」
クルピンスキー「それもないねぇ。いつも怒られてる僕に、熊さん観察に死角はないよ。じゃあ……」
ロスマン「そうねぇ。後は……」
『ラルあたり(かしら)かな?』
俺「…………ッ!」
遊ばれていることに気付きながらも、二人を前に反応を隠しきれない俺。
何とか三日前の事実を隠そうと必死になっているようだが、それが余計に相手を喜ばせることに気付いていない。
アドラー(若いのー。俺、そういう時は諦めが肝心よ。しかし……)
三人の様子をコート掛けに止まって眺めていた黒鷲は、自らの主を小馬鹿にしたように一人心の中で呟いた。
そして、そんな若者を利用しようとしている自分に嫌気が差す。
だが、致し方ないことだ。己は己で目的があるのだ。己の目的の為に他人を犠牲にする。世の常というものだろう。
アドラー(年上女が年下の少年を弄ぶ図完成じゃな。…………いやらしい意味なしで)
その数分後、俺が根負けし、洗いざらいブチまけた小っ恥ずかしい台詞の数々に、二人の爆笑が響き渡ったのは言うまでもない。
そして、俺はまだ知らない。この後に今以上の恥辱と天国と言う名の地獄が、あるいは地獄と言う名の天国が待ち構えていることに……!
最終更新:2013年02月06日 23:22