前回までのあらすじ
シャーリー「負けるかぁぁぁ!」



空母『天城』格納庫、ネウロイ化まで後4分


砲声と轟音が飛行甲板直下の格納庫に響く。
艦載機を全く搭載していないので、殆どがらんどうな格納庫の中を鐘のような
余韻を持って鳴った。

僕「発進ユニットをエレベータの近くに寄せるぞ!重いから気をつけろ!」

そう言って、5人掛かりで後ろから発進ユニットを押す。
単体の重量が500kgを超えるそれは、縦揺れを繰り返す艦の中では酷く重い。
だが、格納庫の前後を占領している蓄電池にぶつけたら作戦が終わる。

僕「こんな邪魔っ臭いモン置くなってーの!」

恨みたくなるほど重い発進ユニットを押しながら、蓄電池に向けて文句を言う。
空母の主缶だけでは賄い切れない、魔導ダイナモの起動に必要な電力を補助しているが
お陰で加熱した鉛電池から硫酸蒸気の匂いが漂う。
息を切らせながらエレベータ近くまで寄せ、発進ユニットを並べた。

僕「チョーク噛ませ!」
「チョーク噛ませ!」

艦載機用のチョークを持った別の整備兵が復唱して
発進ユニットの下の車輪にチョークを噛ませた。
これで動かなくなるだろう。急激な回避運動をしなければ。
隣の整備兵がふらついて転びそうになったのを慌てて支えた。顔色が悪い。

僕「戻すときは戻したほうがいい。お前は休め」
「了解です…」

ふらつきながら端にあるゲロ壺に向かっていった。その姿を横目で見送って次の指示を出す。
僕も船酔いと硫黄臭からきた吐き気を抑え
格納庫の床から備え付けの固定用ワイヤを引っ張りだした。

僕「発進ユニットをワイヤで固定しろ。先端のカラビナでポイントに引っかけろ」

ワイヤの先端についたカラビナを、発進ユニットの固定ポイントに引っ掛けた。
汗と機械油の匂いが染み付いた手ぬぐいで額の汗を拭う。

僕「いいか、気分が悪くなったらすぐに休憩しろ!動ける奴はあと2台を手伝え」

まだ2台後ろから押してきている。
発進ユニットの固定を終えた整備兵がぞろぞろと動き始めた。

僕「ネウロイに負けんなよ…」

上空で戦っているウィッチたちに向けて呟き、片方の発進ユニットの取っ手を引っ張った。


上空、ネウロイ化まであと3分


ネウロイに向けてBARを構えトリガを引く。はじき出された弾丸はネウロイを
破片へと変えるが別のネウロイの集団が空いた穴をカバーするように降りてくる。

シャーリー「このっ…」

手のひらを奴らに向けてシールドを展開。腕の少し先で赤いビームが止まる。
後ろで待機していたルッキーニがブレダを撃った。

ルッキーニ「落ちろーっ!」

あたしを狙うネウロイが墜ちると、一度逃げるために急降下。
一気に高度を落として、次に急上昇できるだけのエネルギーを蓄える。
海面すれすれまで近づくと、上からビームの雨が降ってきた。

シャーリー「邪魔すんな、よっ!」

バレルロールと横滑りを加えて複雑に動く。たちまち速度が落ちた。
ビームの雨が止んだところでネウロイをオーバーシュートさせてBARを撃った。
3匹のネウロイを撃墜して、40発弾倉を交換して初弾を送り込む。
左を見ると、ルッキーニに覆いかぶさるようにしてネウロイが集まっていた。

シャーリー「ルッキーニ、危ない!」

とっさにBARの銃口を奴らに向ける。
ネウロイがビームを撃つよりも早く、ルッキーニが目にも留まらぬ速さで爆転するように避けて
ビームは1発も当たらず海面に派手な水柱を立てた。
襲撃を失敗して逃げようとするネウロイの小隊に向けてルッキーニが翻る。

シャーリー&ルッキーニ「当たれっ!」

構えたBARとブレダで5匹のネウロイが砕け散った。周りを見渡したが
今のところ近くにネウロイはいない。崩れた体勢を立て直して、少し休むように水平飛行に移った。

ルッキーニ「そろそろ疲れてきたよ~」

隣を飛ぶルッキーニの息が上がってきている。

シャーリー「頑張れ、ルッキーニ。あと少しだ」

へばってきたルッキーニを励ますが、いつもよりネウロイの数が圧倒的に多いから
捌ききれなくなるのも時間の問題か。魔法力が底をつくのが先か取り囲まれるのが先か。
どちらも考えたくはないな。

シャーリー「ルッキーニ、空母に……ッ!」

途中まで言いかけたところで、背筋をチリチリと焦がす殺気のようなものを感じた。
後ろを振り向くと、また別のネウロイが送り狼のように追いかけて来ている。

シャーリー「ルッキーニ、後ろだ!」
ルッキーニ「えっ!?」

急減速でルッキーニの後ろに回りこんで、ネウロイに振り向いてシールドを張る。
襲撃に遅れて気づいたルッキーニが振り向いて機銃を撃った。
ブレダから弾丸が火線となって吐き出されるが
射線がぶれて弾丸のほとんどがネウロイに当たっていない。

シャーリー「くそっ…重い…」

シールドを展開して攻撃を防いではいるものの、そろそろあたしもヤバい。
戦闘の疲労が溜まってきているのか、いつもよりビームが重く長く感じられる。
長いように感じられた集中砲火が止んだ。

シャーリー「このやろっ!」

ネウロイが次のビームを撃とうとする前に弾丸を叩き込む。
10発ぐらい当たったところでネウロイが墜ちた。
このままじゃじり貧だが、上を向くとまだ戦っている仲間たちが見えた。

ミーナ<<魔法力を消耗した人は、各自、空母『天城』に帰還して!>>

ルッキーニのことがあるから戻ったほうが良いかもしれないけど、まだ残って戦っている仲間は?
頭の中で躊躇していると、インカムからバルクホルンの声が聞こえた。

バルクホルン<<シャーリー、お前はルッキーニ少尉と先に空母へ戻れ!>>
シャーリー「おい、どういう風の吹き回しだ!?」

思わず上空を振り返ると、2人がネウロイの大群を次から次へと落としているのが見えた。

エーリカ<<戦いで一番難しいのは、護衛をしながらの撤退戦だからね~。
     ここは私たちに任せて先に戻った方が良いよ>>
バルクホルン<<疲弊したルッキーニ少尉を守りながらの撤退は難しい。
       背中は任せろ!お前は先に戻れ!>>

2人ともダンケルク撤退戦を経験しただけのことはあるからか、言葉の重みが違う。
隣のルッキーニも、これ以上の戦闘は難しいだろう。

シャーリー「戦闘中に、背中は任せろとか言うなよ…」
バルクホルン<<ふん!そんな在り来りな運命なんて、私がへし折ってやる!>>

語気を強めたバルクホルンの怒鳴り声がインカムの容量を超えてハウリングした。
本当にやりそうな勢いだ。『とっとと行け!』と片手のMG42を振り回している。

シャーリー「…わかった。ルッキーニを守りつつ、空母に帰還する。
      あたしとルッキーニの背後は任せた」
バルクホルン<<ああ、任せとけ!>>
エーリカ<<りょうかーい、任されました!>>

いつもの堅物軍人らしい声と飄々とした返事が耳元に聞こえる。
2人の好意をありがたく受け取って、空母へ進路を向けた。


空母『天城』格納庫


発熱する電池の暑さと硫黄臭でへばっていると、スピーカが鳴った。

<<こちら、管制室。ユーティライネン中尉とリトヴャク中尉が着艦する。着艦準備を>>
僕「…さぁ仕事だ」

壁に手を付いて立ち上がり、ヘッドセットを掛ける。
ついでに懐中電灯と点検項目を挟んだバインダーと鉛筆も持つ。
同じようにヘタっていた整備兵も立ち上がり、床に固定していた発進ユニットから
ワイヤとチョークを外した。動かないように周りを5人位で取り囲んで手をかけ、

僕「轢かれないように気を付けろよ…せぇのっ!」

いつもより増して重い発進ユニットを中央エレベータまで押す。
エレベータの床に着いたところで、車輪にチョークを噛ませる。隣のもう1台も同じように固定。
2台とも固定されたことを確認する。ちゃんとチョークを噛ませてあるな。

僕「固定完了。管制、中央エレベータ使用許可を」
<<了解。中央エレベータ、使用可能>>
「エレベータ、上げます!」

操作盤の前にいる整備兵が昇降ボタンを押す。
蒸気駆動のエレベータが鈍い振動を立てながら上がり始めた。


蒸気機関車のように盛大に吹き出した水蒸気で視界が白く染まる。
染み付いた硫黄臭が水蒸気で落ちるかと期待したが
硫黄は水に溶けにくいから、飛行甲板に出てから直に風で飛ばすしかないようだ。
人工的に作られた向かい風で水蒸気が吹き飛ばされ、間もなく甲板に出ることがわかった。

僕「風で略帽を飛ばされないようにしろよ…チョーク外せ」

飛行甲板に着いたと同時に、何も持っていない整備兵が2台分のチョークを外した。

<<イェーガー大尉とルッキーニ少尉が着艦する。
 事故防止のため、前部エレベータから発進ユニットを上げろ>>
<<こちら格納庫、発進ユニットを固定した。管制室、前部エレベータの使用許可を>>
<<こちら管制室。了解した>>

ヘッドセットから一気に賑やかくなった無線の指示が入る。

僕「僕達は今からが本番だ。戦ってきたウィッチに、情けない格好は見せるなよ!」
「「「「了解!」」」」

発破をかけると、いつにも増して気合の入った声が返ってきた。
彼らは女の子の前では世界最強だろう。艦尾側からユーティライネン中尉とリトヴャク中尉が
艦首左舷からはシャーリーとルッキーニ少尉が近づいている。

僕「艦橋側まで一気に押すぞ……3、2、1、Go!」

先のに着艦する2人の邪魔になる前に寄せるべく、発進ユニットを押す手に力を込めた。


空母『天城』上空


しばらく飛ぶと、『大和』に随伴している『天城』が見えた。
艦橋近くでは整備兵に混じって先に降りたエイラとサーニャのストライカーを固定すると
何か指示を出している僕中尉の姿があった。それを横目に見ながら着艦許可を求める。

<<こちら管制室。貴機の着艦を許可する>>

ノイズとともに着艦許可が下りた。空母と進行方向が正対しているから左舷を一航過して左へ旋回。
旋回を終えて、艦尾に向けて減速しつつ直進する。

<<着艦まで1マイル>>

インカムから管制官の声が聞こえた。
右舷にある誘導灯で仰俯角を確認しながら艦尾からゆっくりと近づく。
着艦できる距離は確保してあっても滑走路より短いし
上から見ると甲板がまな板ぐらいの大きさにしか見えない。手に汗が滲んだ。

<<進入コース、適正>>

管制の指示を信じながら、冷や汗を流して『天城』に着艦した。
作業員の手信号でストライカー発進ユニットへ歩くの速さで近づき、P-51を固定してもらった。
ストライカーを脱いで飛行甲板に下りると、艦が大きく揺れてバランスを崩した。

シャーリー「あっ…」

何も出来ずに後ろへ倒れるかと思ったが、走ってきた影があたしを支えた。

僕「大丈夫か?」
シャーリー「あ、ああ…」

中尉が心配そうに覗き込むが顔がかなり近い。
肩と膝裏に後ろから回された腕で、そのままヒョイと抱かえられた。

シャーリー「えっ、わ、ちょっと待って…」

抗議する間もなく、先にストライカーを脱いだエイラとサーニャがいるほうへ
『お姫様だっこ』されたまま運ばれる。寝転がっていたルッキーニがこっちに気づくと
隣に座っていたサーニャの袖を引っ張った。

ルッキーニ「ねぇサーニャ、見て見て」
サーニャ「どうしたのルッキーニちゃん…」

あたし達の方へ顔をを向けたところでサーニャの顔が真っ赤になった。

エイラ「スゲ~こんなの初めて見たヨ」
ルッキーニ「あー、シャーリーうらやましーな~」
シャーリー「わわ、やめろ見るな恥ずかしい!」

中尉に先に降りた3人のところまでどこ吹く風というように運ばれ、甲板へ足から丁寧に下ろされた。
あたしを下ろしたあと、頭をクシャクシャと撫でられる。

僕「戦闘の疲れが出ている。しばらく休んだほうがいいよ」

それだけ言うとヘッドセットマイクに二言三言話して、P-51のある方へ戻っていった。
あっけに取られて、撫でられた頭を押さえたまましばらくその姿を眺めていた。


同飛行甲板


シャーリーをルッキーニ少尉がいる方へ運んだあと、発進ユニットのあるほうへ戻る。
先に発進ユニットを押してる整備兵に混じって、それを前部エレベータに向けて押した。
格納庫から上げた空の発進ユニットと入れ替えると

<<大和、ネウロイ化まであと10秒!>>

空の発進ユニットを甲板へすべて出したのと同時にカウントダウンが始まった。
1台につき5人で残りのそれを取り囲んで押す。

<<…3、2、1…魔道ダイナモ、起動!>>

艦橋から船体中央、そこから艦首艦尾方向へ別れて禍々しい六角形の紋様で戦艦を染め上げていく。

僕「余所見すんな!物見遊山で来たんじゃねぇぞ!」

口を半開きにして『大和』の方を見ている整備兵達を叱責すると、慌てて進行方向を向いた。
空の発進ユニットを左舷艦橋近くまで押してから戦艦の方を見遣った。

僕「バケモノめ…」

禍々しく変色していく『大和』を見て思わず吐き捨てるた。
狂気の沙汰としか言うようが無いモノを実戦投入か。
『大和』を染め抜いた『それ』が、最後に指揮所の窓を赤く光らせた。

<<大和、浮上!>>

『天城』に乗艦する指揮官の号令一下で
『大和』だったものがホースを引き千切って海面から離れる。物理法則もクソもない。
僕も口を半開きにして『それ』が右から左へと浮上するのを見た。

<<…整備班、バルクホルン大尉とハルトマン中尉が戻ってくる>>

管制室からの指令で止まっていた手を慌てて動かす。
艦尾からは護衛任務を終えたバルクホルン大尉とハルトマン中尉が
最終旋回を終えて、着艦のアプローチに入っていた。

僕「…毒を持って毒を制したつもりか」
「中尉、どうしました?」
僕「いや、何でもない。独り言だ」

整備兵に手を振って適当な言い訳を答えた。
ネウロイ化を考えた奴はアスクレピオスのように雷霆で、今回はネウロイの赤いビームで撃ち殺されるだろう。

僕「…嫌な予感がするな」

眉間に皺を寄せて頭を振って不安を追いだそうとしたが
タールのようにへばりついて離れなかった。


同飛行甲板


<<…3、2、1…魔道ダイナモ、起動!>>

寝転んでいた上体だけ起こして『大和』の方を見た。『大和』の艦橋から徐々に真ん中が
その後に前後方向へ戦艦の鉄の黒色が、ネウロイのような模様 に染められていく。

<<大和ネウロイ化、完了しました!残り約9分>>
<<大和、浮上!>>

この空母に乗っているらしいお偉いさんの一声で、隣で航行していた『大和』が
盛大な水しぶきを上げて空へゆっくりと上がった。

シャーリー「おおー、すげー」
ルッキーニ「うひゃー」
エイラ「サーニャ、見ロ見ロ」
サーニャ「もう見てるわ…」

思ったままの感想をこぼして『大和』が向かっている方向を見ていると
『天城』に戻ってきたバルクホルンとエーリカがこっちにやってきた。

シャーリー「2人とも見たか?」
バルクホルン「ああ。空中から大和がネウロイ化しているところを見た」
エーリカ「見てたけどすごいよね~、戦艦をまるごとネウロイにしちゃうなんてさ」

2人と話していると宮藤とリーネ、ペリーヌもあたし達がいる方に来た。
だけど中佐と少佐がまだ帰ってきていない。

シャーリー「宮藤、ミーナ中佐と坂本少佐はまだ帰ってきていないのか?」
宮藤「ええ、まだ空に残っているみたいです」

目を凝らすと、豆粒ほど小さくなった2人のシルエットが見える。殿として残ったのかもしれないな。

シャーリー「ん…本当だ。サンキュー、宮藤」

しがみついたルッキーニの肩に腕を回して、『大和』が飛んでいった方角を見上げる。

<<ネウロイの巣まで残り5000!>>

艦橋のスピーカから一刻一刻縮まる距離が伝えられた。
ネウロイを蹴散らしながらたった1隻で突入する姿を見守る。

<<残り1000…500…0です!>>
<<今だ!主砲、斉射ぁ!>>

0宣言から遅れて吹いてきた突風が、あたしたちの間を抜けて髪を暴れさせた。
髪を押さえ固唾を飲んでその時を待ったが、何も起こらない。

シャーリー「おいまさか…」

ここまで来て失敗か?それはいくら何でも…

<<主砲撃てません!魔道ダイナモが停止しています!>>
<<なんてザマだ!>>

偉いさんが憤慨して拳を打ち付けた音を、マイクが忠実に拾ってスピーカから流れた。
今まで蹴散らされていたネウロイが仕返しとばかりに、今度は『大和』を袋叩きに爆撃し始め
直撃弾が船体を明るく照らすのがここからでもよく見える。

<<皆、よくやってくれた。だが魔道ダイナモが起動せず主砲が撃てない。作戦は…失敗だ>>
シャーリー「嘘、だろう…?」

爆発が遠雷のように聞こえる中、失敗と周りのどよめきだけが実態を持って聞こえた。


同飛行甲板


<<皆、よくやってくれた。だが魔道ダイナモが起動せず主砲が撃てない。
 作戦は失敗だ……全艦16転回頭>>

宮藤の震電を止めた発進ユニットに手を掛けたところで止まる。
空母がゆっくりと取り舵をとって左へ傾いた。

「おい、マジかよ…」
「そりゃ無いだろう、ふざけてんのか!?」
「ここまで来て逃亡かよ…」
「まだサカモト少佐とヴィルケ中佐が戻っていないぞ?2人を置き去りにするのか!?」
「バカ、あの人達はちゃんと戻ってくるから変なコト言うな!ここは一度戻るんだよ!」
「だから、こんなところで…」
「何言ってんだ、それじゃ…」

作戦失敗と撤退の宣言で、発進ユニットを押そうとしていた
整備兵たちが任務そっちのけで口論が始めた。
失敗したらロマーニャを明け渡す重要な作戦で、冷静になれなくなるのも仕方がないだろう。
ほぼ全員がロマーニャ人ならば尚更か。思い出したように、今度は僕に矛先が向けて詰め寄った。

「中尉はどっち何ですか!?」
僕「…少し待て。もう一度管制に聞いてみる。
  こちら整備班の僕技術中尉だ。ここまで来て逃げ帰るのか?」
<<何を言っている!上が撤退すると言ったんだ、従うしか無いだろう!>>
僕「ロマーニャはどうするんだ?市民を見殺しにせよとでも…」
<<いい加減にしろ!>>

怒りを顕にした管制官の怒鳴り声が鼓膜を貫いた。
後ろでは撤退準備で火の車になっているらしい指揮所の怒号がヘッドホンから聞こえてくる。

<<…我々は軍人だが、今ここで撤退して次の戦いに勝てるのなら
 1万の市民は犠牲にするしかあるまい。わかってくれ、これは今後のためでもあるんだ…>>

市民を見捨てロマーニャを捨石にするつもりで、次の戦いに勝つためだの今後のためだと?
怒りと諦めが渦巻き、終いには呆れ、今までの苦労がバカバカしく思えると瞬時に熱が冷え切った。

僕「……了解、任務に戻る。邪魔をしてすまなかった」

重い口を開き、ヘッドセットの電源を切った。黙ったままの整備兵の方へ向き直る。

「中尉、俺たちは…」
僕「…我々はストライカーの整備兵で、作戦の指揮に意見することは任務ではないはずだ」

黙りこくった整備兵たちに向けて白けた言葉を吐いた。
自ら喧嘩を売っておいて、負け戦となると尻尾を巻いて逃げ始める僕達軍人の
鼻で笑ってしまうような愚かさに呆れて力が抜けていく。説明するのも億劫になってきた。

「でも…」
僕「デモもストも無い。本来の任務に戻れ……これは命令だ」

自分たちの国土を踏み躙られて黙っていろなんて言えないし、僕達ではどうすることもできない。
詰め寄った彼らが溜息を付いて、諦めたように発進ユニットを前部エレベータへ押しはじめた。

僕「………」

ヴェネチア上空で鎮座したままのネウロイを黙ったまま睨みつける。
人間の無力さと土壇場でヘマった大和と、全ての元凶となったネウロイを呪った。
最終更新:2013年02月07日 13:32