前回までのあらすじ
僕「大和のEDが!本番で中折れしやがって!」
空母『天城』飛行甲板
宮藤、ビショップ、クロステルマンの発進ユニットを並べて空を見上げて待っていると
右舷から中佐が近づいてくるのが見えた。だが、いるはずの少佐がいない。
艦橋側に回りこんで艦尾から着艦し、歩く速度でこちらに近づいてきた。
僕「中佐、坂本少佐は?」
ミーナ「少佐は『大和』の主砲を撃つために…」
ストライカーをクランプで固定しながら訊いたが、それ以上は何も言えなかった。
聞きたくもなかった。中佐が去り、代わりに伝令役の整備兵が来る。
「発進ユニット、搭載完了しました」
僕「…了解。中央エレベータ、下げろ」
歯車が噛み合って、エレベータが下がり始める。何を思ったのか宮藤がこちらに向けて
走ってくるが、その途中で躓いたところをビショップ曹長に止められていた。
その姿もやがて水蒸気で見えなくなる。視界が白く染まり、しばらくして晴れてくると
今度は硫黄臭が鼻を突いた。
僕「エレベータから発進ユニットをどかしたらすぐに飛行後点検に移れ。
点検担当は事前に説明した通りだ。武装班は各自、武器の清掃を」
エレベータから発進ユニットを動かして、固定された震電の整備ハッチを開ける。
片手に持ったバインダを見ながら懐中電灯で部品を照らして1つ1つ目を通す。
作戦前に分解整備をしたので部品を時間ごとに交換する必要はないが、それ以外にも
ナットが緩んだ箇所は無いか、構造材や部品に戦闘で発生した割れや歪が無いかも確認する。
僕「震電右脚部、異常なしっと…」
点検項目の一番下にある確認者欄に記名すると同時に野太い砲声が聞こえた。
何事かと思い音のした方向を振り向くと、急激な気圧の変化で中耳が痛くなるアレの
強力なやつが両耳に走った。思わずバインダと鉛筆を取り落としそうになる。
<<レーダに反応あり!『大和』です!>>
<<おお!あの爆発の中で…>>
本番で中折れしたウドの大木が、やっとネウロイを殴り返したらしい。
僕「遅いっつーの…」
悪態を突きつつ、耳抜きをしながら左脚部も同じように点検していく。
が、ネウロイは人間を簡単に帰すつもりはないようだ。
<<ネウロイからの攻撃です!>>
熱した鉄板の上で水滴が焼けるような音に混じって
鋼のひしゃげる音と近くで花火が暴発したような音がした。
<<全艦、退避行動始め!>>
空母の床が急激に右へ傾く。
とっさに受け身をとって網格子模様の床を転がり、止まったところで床を蹴って立ち上がる。
震電に取り付いて、衝撃で損傷が無いかも見ながら点検項目と照らし合わせる。
<<『リットリオ』、撃沈!>>
<<戦闘員以外は艦内に退避!>>
<<シールドだと!?構うな、全弾叩きこめ!>>
<<ダメです、砲弾が起爆もせずに…>>
鋼を焼き切る高熱のビームと実弾も弾くシールドで鬼に金棒を体現しているらしい。
之の字運動で回避しているらしく、固定されていない物が傾斜に合わせて
床を転がっていく。思わず、このどうしようも無さに何故か左頬が釣り上がった。
僕「ご丁寧にも撃沈前提の壮行会かよ…!」
『天城』が狙われるのも時間の問題だろう。またどこかで鋼が擦れる悲鳴のような音が聞こえた。
砲声と轟音の阿鼻叫喚の中で誰かが走ってくる足音がする。それは水密戸の前で止まって
ハンドルを回した。ゆっくりと鋼製の重い扉が開くと特徴的な髪型の頭が見えた。
僕「…何故あなたがここに?」
息を切らした宮藤が膝をついて息を整えて、こちらをキッと見据えた。
宮藤「中尉さん、私をもう一度飛ばしてください!」
僕「…僕達は今、尻尾を巻いて遁走しているところですが。ネウロイに袋叩きにされる前に、ね」
いかにも言い出しそうなことを言ったからか、思わず在り来りな言葉で返した。
宮藤「坂本さんがまだ戻ってきていないんです!だから助けなきゃいけないんです!」
僕「個人の思惑でストライカーを勝手に動かそうとでも?」
宮藤「坂本さんを見捨てるんですか!?それでもあなたは止めるんですか!?」
白くなるまで拳を握りしめた宮藤が詰め寄ってくる。
また僕の命令違反で、これ以上誰かを殺したくはない。
考えていることも見透かされるような気がして、宮藤の瞳孔から顔を背けた。
僕「……悔しいのは分かる。だがな、さっきの戦闘で疲弊したあなたが助けに行ったところで
状況は逆立ちしても変わらない。戦死者名簿に自分の名前を増やしたいのか?」
整備作業を続けている他の整備兵の怒号とスピーカから流れる無線だけが聞こえる。
またどこかで轟沈する艦の断末魔が格納庫に響いた。
点検項目を確認し終えて整備ハッチに手を掛けた。
宮藤「…………生きて帰って来れば良いんですよね」
整備ハッチを閉じようとした手を止めて、まじまじと宮藤を見つめ返す。
僕「…人の話、聞いてました?」
宮藤「聞いてました!それでも、みんなで生きて帰らなきゃ意味が無いでしょう!?」
額に手のひらを当てて天を仰いだ。501は命令無視が平常運転なのだろうか?
ただ分かることは、この手合いは言い出したら聞かない。整備ハッチを閉じる。
点検完了と確認欄に記名して、ヘッドセットのマイクを口元に近づけて手で隠した。
僕「賭けてみるか…整備班、飛行前点検を」
待っていましたと言わんばかりに各々が動き始めた。
暑さと負け戦でうだっていた雰囲気に再び活気が湧いてくる。
僕「…宮藤さん。あなたに賭けても良いですか?」
宮藤「はいっ!ネウロイをやっつけて、坂本さんを助けて、生きて帰ってきます!」
宮藤の揺るぎない目を見て、苦笑いと共に溜め息が出た。
命令無視に便乗するあたり僕も狡い人間だ。
それでもネウロイに殴られっぱなしというのは腹が立つ。
僕「…ストライカー全機の飛行前点検は?」
「スピットファイア、完了!」
「メッサー、全機の点検終わりました!」
「ドーラ、準備よし!」
「マスタング、異常なし!」
「ストレーガ、準備完了!」
「ミグ、いつでも動かせますよ!」
「VG、点検完了!」
ドミノ倒しのようにリズムよく点検完了の返事が返ってくる。
予め飛行前点検を済ませていたのではないかと疑いたくなる。
僕「震電は僕が診たところだから良しと…宮藤の震電
ハルトマン中尉のメッサーとバルクホルン大尉のドーラから中央エレベータに載せろ。
残りは後部エレベータに付近に固定して、中央エレベータが上に着くまで待機」
「「「「了解!」」」」
手の開いている者が発進ユニットに駆け寄り、エレベータに向けて押していく。
それを見ながらヘッドセットに電源を入れた。無断で動かしたら指揮所にいるおっさんが
何か言ってくるだろう。もし何か言ってきたら言い訳でも言っておくか。
「発進ユニット搭載完了!」
僕「了解。中央エレベータ上げろ。宮藤さん、行きましょう」
宮藤「はいっ!」
震電に飛び込んで宮藤の頭と腰辺りから犬の尻尾が生える。
エレベータの床の周りから水蒸気が這って来て、小さく震えながらゆっくりと上がり始めた。
ここからは見えないネウロイを睨む。
僕「さぁ、第2ラウンドと洒落込むか…!」
空母『天城』飛行甲板
足元の甲板が小さく揺れて、金属が噛みあう音が微かに聞こえた。
シャーリー「ん?今揺れなかったか?」
ルッキーニ「うん、揺れたね」
飛行甲板が鈍く揺れ始めた。蒸気機関が深い溜息をつくような音もする。
この音はストライカーがしまわれた時と同じ音…
<<艦長、中央エレベータが作動中!誰かいます!>>
<<誰だ中央エレベータを稼働させているのは!?>>
後ろを振り返った。
甲板のど真ん中に大口を開けたエレベータの縦坑から白い水蒸気が揺らめいている。
<<格納庫の整備班か!?僕
技術中尉!応答せよ!>>
<<……えーこちら僕技術中尉です。どうされましたか?>>
<<何故エレベータが稼動しているんだ!答えろ!>>
<<ロマーニャの空気を吸いすぎてしましてね。
女性1人を残して野郎どもだけ撤退、ってのは納得できませんね>>
艦橋のスピーカからちょっとだけ冗談めかした声が聞こえる。
<<貴様は自分がしていることをわかっているのか!?撤退命令が出ているんだぞ!>>
<<そんなもの承知の上ですよ。生きて逃げ帰れたら鉄拳制裁でも軍法裁判にでも
いや、弁護士なしの略式裁判にでもかけてください。以上、通信終わり>>
<<おい、待て!…クソッ、電源を落としたな!>>
床がラチェットで止められる振動が伝わる。
水蒸気が風にゆっくりと流されて、小柄な影が浮かび上がった。
同飛行甲板
さて、静かになったな。用を成さなくなったヘッドセットをとって首に掛ける。
潮の匂いに混じって硝煙混じりの海風が、ほぼ真正面から顔を嬲った。
宮藤に視線が集中しているうちに、こちらの仕事を済ませておこうか。
僕「バルクホルン大尉とハルトマン中尉のストライカーを宮藤と接触しない距離をとれ。
あとは至急、その2人を呼んでくること」
あとは残りのストライカーを上げるだけ。
備え付けの伝声管を見つけて、艦橋から生えたそれの蓋を開けた。
僕「飛行甲板より格納庫へ。後部エレベータから残りを上げろ」
<<了解です!>>
伝声管特有の反響した声が返ってくると、後部エレベータが下がり始めた。
それと同時にして、足元が青く光りだす。空母を丸々飲み込む直径の魔方陣に驚いた。
おいおい、どこにこんな魔法力が残ってたんだよ。
宮藤「発進!」
海風が耳の周りで乱流を起こす中でもはっきりと聞こえた。マ43のエンジン音が高鳴る。
固定ボルトを開くと、ゲートから解き放たれた競走馬のように宮藤が飛び出した。
右へ左へ火花を散らしながらも、空母の端まで一気に駆け抜ける。
フッと視界から消える。しかし次の瞬間には巨大な水柱を立て、重力の軛から解かれるようにして
宮藤と震電が煌めきながら急速上昇していた。
僕「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、か…」
この場合は瀬ではなく空だな。略帽を被り直して後部エレベータに向かう。
バルクホルン大尉とハルトマン中尉も各々のストライカーを履いたようだ。
他のウィッチも自分のストライカーに向けて走りだしている。
シャーリー「僕中尉!」
P-51に向かって走っていたシャーリーが僕の名前を呼んだ。
僕「どうした?」
シャーリー「尻尾を巻いて撤退ってのはあたしも出来ないから、もう一回飛んでくるよ!」
僕「了解だ。でも絶対に…」
言いかけたところで軽く握った拳が伸ばされる。
先ほどの戦闘で疲れているはずなのに、どこか楽しそうだ。
シャーリー「生きて帰ってこい。わかってるよ、絶対に帰ってくる」
僕「…ああ、行って来い!」
同じように緩く握った拳をシャーリーの拳にぶつけると
ニッと笑ってP-51のある発進ユニットへ走っていった。
バルクホルン大尉とハルトマン中尉の説得に納得したのか呆れたのかわからないが
中佐もストライカーを履いてウィッチたちと並ぶ。
ミーナ「坂本少佐の救助と宮藤さんを援護します!ストライクウィッチーズ、出撃!」
「「「「了解!!!!」」」」
9人が空母を走り抜け、空へと上がっていく。僕達の仕事はこれで終わった。
あとは天命を待つのみ。略帽を振って混迷の空へ飛び立つヴァルキューレを見送った。
上空
空母から飛び上がってネウロイの待つ空へ駆け上がる。
液冷エンジン特有の甲高いエンジン音が心地良い。
ミーナ「全員、よく聞いて」
耳元のインカムから中佐の声がした。
よく聞こえるように手を当てて左耳のインカム押し込む。
ミーナ「宮藤さんの援護のためにV字隊形、『フォーメーション・ヴィクトル』で
敵陣に突入します。バルクホルン大尉、ペリーヌさん、サーニャさん
リーネさんが宮藤さんの直接支援、シャーリーさん、エイラさん、ハルトマン中尉
ルッキーニちゃんはネウロイを撹乱して一気に攻めこむわよ!」
「「「「了解!!!!」」」」
一気に増速して敵陣の真ん中で単騎奮戦している宮藤に近づく。
正十二面体のネウロイが宮藤へビームを撃とうとしたが
放たれた弾丸の奔流がネウロイを破片へと変えた。
ミーナ「行くわよ…『フォーメーション・ヴィクトル』!宮藤さんを援護します!」
急速上昇して全員が散開する。ネウロイの編隊上空で一旋回。数匹重なった瞬間を見計らう。
シャーリー「…今だ!」
ストライカーを翻して急降下。何本かのビームがあたしの周りを通り過ぎていく。
宮藤を取り囲もうとしたネウロイが視界いっぱいに広がってくる。
シャーリー「当たれぇ!」
BARを一斉射。7.62mmの弾丸がネウロイの黒い装甲を穿ち、砕け散った。
破片の間を減速せずに通過して宮藤の方へ振り向く。
シャーリー「さっさとやっつけちゃおうぜ!」
異変に気づいたネウロイがこちらに向かってくる。
応援もそこそこに、追従してきたネウロイのビームをシギングで躱す。
ビームが止んだ隙に急旋回して上昇。血流が遠心力で足先へ集中して視界が暗くなる。
ひっついてきたネウロイに弾痕を刻み、撃墜を目の端で確認してマーリンへ魔法力を叩き込む。
シャーリー「行っけぇぇぇぇぇ!」
気のせいか、いつもより快調に回転数が上がっていく気がする。
別のネウロイが進行方向にせり出してくるが、躊躇わずトリガを引いて撃墜。
空になった弾倉を捨てて、新しいのを叩き込む。
宮藤の方を見遣ると、刀のようなものを持ってネウロイのコアを舐めるようにして上昇していた。
シャーリー「頑張れ、宮藤!」
ネウロイの進路に割り込んでBARを向け、行き足を弾丸で足止めさせる。
焦っているのかイラついているのか、ネウロイの動きが単調になってきている。
シャーリー「あと少しだ…」
食いしばった歯から漏れ出した。他のウィッチも半円の陣形を組んで
迫り来るネウロイから必死で宮藤の背中を守る。あと少しでこの戦いも終わる。
右肩に銃床の振動が伝わって、銃身が赤熱してくる。頑張れもう少しなんだ……!
弾倉に残った最後の弾丸を放つと、後ろでガラスが割れるような音がした。
空母『天城』飛行甲板
ネウロイから遠く離れているのに、その音は聞こえた。
紅いネウロイのコア白く光り、周りのネウロイが白い破片へと姿を変えて海面へ落ちて行く。
誰も何も言えずに、海風と波の音だけの静寂が僕達を包む。
<<…ネウロイの反応が消滅!>>
艦橋に取り付けられたスピーカから観測員の歓喜に満ちた声がする。
<<何、本当か!?………こちら艦長の杉田だ。私もネウロイの消滅を確認した。
……今度こそ我々の、人間の勝ちだ!>>
その宣言で周りの艦から地鳴りのよう雄叫びが聞こえた。飛行甲板にいる整備兵たちが
各々の略帽を空に向けて投げ上げる。スピーカからはブリタニア語で、カールスラント語で
ロマーニャ語で、扶桑語で、喜びを爆発させた乗組員の叫びが響いた。
僕「くそっ、涙腺が…」
嬉し涙が落ちる前に顔を上げる。
滲んだ視界に、11人の魔女達が飛行機雲を描いて艦隊の上を飛んでいくのが見えた。
最終更新:2013年02月07日 13:32