<1945年,8月,ロマーニャ.海岸沿い>

ザザー...ザザー...

俺「・・・・・・来た!...あれ」

見事に餌を取られてしまった。

俺「10回目か・・・」

今日はあんまり食いついてくれないようだ。また同じように餌を付ける。

マルチナ「釣れてるの?」

俺「全然」

マルチナ「うーん・・・やっぱりあっちで釣った方が良いんじゃない?有名な釣りポイントだよ?」

彼女が指差す方向にはあの人型ネウロイ...ネウ子が居る。

俺が釣りに行くと聞いて一緒に行きたいと言い、今は荒れた岸壁で竿を握っていた。

俺「先客がいるじゃないですか。それに・・・」

俺「ルチアナが作ってくれた服を汚すわけにはいきませんから」

しかし不思議だ。ネウロイは水が苦手なはずだが...
多分人が火事場に集まるように、ネウ子も水を恐れながらも何か別の感情を抱いているんだろう。

マルチナ「そっちは釣れてるー?」

ネウ子「・・・」ブンブン

魚籠を持って振っている。動きからしてかなり釣れたようだ。

マルチナ「俺、ボロ負けだねー」

俺「だからいつから勝負に...」

竿が大きくしなる。会話から手先に意識を切り替え、慎重に、素早くリールを巻き上げた

俺「よしっ! 大物だ!」

マルチナ「おぉ...何十cmあるかな~」

俺「まぁ俺は大物を釣るのが得意なんで...」

釣った魚を持ち上げた瞬間、何かが俺の横を通り過ぎる。

気付いたときには魚はもう無かった。

見上げると赤く染まる空を悠々と飛び去っていく鳶の姿が。

マルチナ「美味しく頂かれたね・・・」

俺「・・・今日はアイツ、飯抜き決定」

ネウ子「・・・?」

ネウ子は首を傾げていたものの、すぐに釣りへと戻っている。

マルチナ「もうネウ子の監視、しなくて良いんじゃない?」

俺「確かにそうだけどなぁ」

此処に彼女が来て4ヶ月も経つんだよなぁ。

始めは情報を聞き出せれば良いと思ってたけど、結局皆と馴染んでしまったし...

マルチナ「もしさ、ネウ子が出て行くって言ったらどうするの?」

俺「命令通りなら撃ち...殺さなきゃいけない」

俺「でも・・・まぁ俺は人間ですから。たまーにミスする事もあるってね」

俺「今日の皆の様子、どうだった?」

マルチナ「アンジーとパティはいつも通り病室。大将とジェーンはどっか行っちゃった」

マルチナ「隊長は書類見てすごい頭抱えてて、ルチアナと中島と天姫は夕食の支度中ー」

俺「じゃあそろそろ帰るか。運が無い日は寝るのが一番だ」

マルチナ「そうだねー・・・ネウ子ー!帰るよー!」

ネウ子「・・・」スタスタ

こちらへとゆっくり歩いていくネウ子。一緒に基地への道をゆっくり歩いていく。

ネウ子「・・・」ボーッ

俺「どうしたんだ?」

彼女は西の空を見、太陽を指差す。

既に太陽は海へと沈みかけており、東の空は青紫へと変化していた。

マルチナ「綺麗、って言いたいの?」

ネウ子「・・・」コクコク

ただ呆然と彼女は夕日を見続けている。一体何を考えているのだろうか。

今俺が言えるのは、少なくとも今の彼女に『人間と戦う』という意思が無い事くらいだろう。

ルチアナ「皆さん、お帰りなさいませ」

フェル「こんな所で道草食ってたのね」

目の前に二人の影が長く伸びている。迎えに来てくれたようだ。

俺「・・・来てくれたんですか。二人とも用事があったんじゃ?」

フェル「アレは適当にサインで済ませておいたわ。問題があれば貴方に任すわね~」

ルチアナ「もう済ませましたよ。今日は俺さんの好きなカレーです」

俺「そうですか・・・」

ルチアナ「...あの方、いつも見ていますよね。夕日を」

フェル「確かにいっつもベランダで立ってるわねぇ」

マルチナ「へぇ~。夕方に居なくなるのってそんな理由があったんだー」

俺「・・・そろそろ沈むぞ」

既に太陽は姿を山へと隠し、残った光が弱弱しく空を赤く照らすのみだ。

ルチアナ「早く帰りましょう、皆さん」

ネウ子「・・・」コクッ

俺達は一緒にまた基地へと歩き始める。

空の上には一番星が輝き始めていた...
最終更新:2013年02月07日 13:55