前回までのあらすじ!
ペロペロ大好き変態教授・私は、AI・マキナとともに最終作戦に参加。
ウィッチたちの尽力によって、大和は無事にネウロイ化を果たそうとしていたが――。
将軍『よし……ネウロイ戦艦大和、発進!!!』
娘≪りょーかい。――ふふっ≫
私「…………?」



――アドリア海上空――

エイラ「……! 始まったぞ!」

シャーリー「!」

――エイラの一言を合図に、全員が大和へと視線を注ぐ。
   先程まで鈍色だった船体の表面は、今や見慣れた黒と赤のハニカムパターンで埋め尽くされていた。ネウロイ化が完了したのだ。

娘≪らーん、らんらーん、らんらーん、らららーん……♪≫

サーニャ「……? これは……歌?」

――大和の方から、緊張感をまるで欠いた、のどかな歌が流れてくる。
   歌声は、あのAI――マキナの物だった。

ペリーヌ「全く……気楽なものですわね」

娘≪だばだばだっだー、しゅっびどぅーびどぅー♪ じゃじゃんじゃじゃんじゃーん♪≫

――大和の艦内放送のスピーカーから流れ出ているのだろうその歌は、まるで色んな歌を無秩序に繋ぎ合せたようで、妙にちぐはぐな感じがした。
   明るく無邪気な声ではあるけれど……どこか抑揚に欠ける、まさに『機械の歌』だった。

宮藤「……すごい……本当に飛んでる……!」

リーネ「うん……!」

――轟音を上げながら、一直線に巣へと飛んでいく大和。
重力に逆らって浮上する超重量級の戦艦と、相変わらず聞こえてくる気の抜けた歌声は、なぜだかミスマッチには感じられない。
   むしろ、妙にしっくり着て……ある種の空恐ろしささえ覚えたほどだ。

エーリカ「……これで、わたしたちの任務は終わりだね」

シャーリー「……ああ」

――大和の護衛という、あたしたちの任務は終わった。
   あとは、大和が巣に向かって主砲をぶっ放せば……今回の作戦は完了する。

シャーリー「…………」

――ふと眼下に広がる海原を見下ろすと……あのボートが、いつの間にかあたしたちよりも前に出ているのに気が付いた。
   やけにスピードを出しているみたいだが……どうしたんだろう。
   ……最も、今となっては、何にも関係の無いことだけれど。



――航空母艦・天城、艦橋――

杉田「状況はどうだ!?」

娘≪あ――れ――電――わる――≫ザザッ、ザピーッ

将軍「!? おい、どうした?」

娘≪なんか――電波、わるいみたい――だいじょうぶ――しゅほ――ちゃんと――撃――≫ザザザーッ

プツッ…

将軍「おい、おい! くそ……ネウロイのジャミングか!? 他の周波数はどうなってる?」

兵士「お待ちくださ―― !? ……ほ、他は全て正常です!」

杉田「なに……?」

兵士「……! いえ、これは……!」

将軍「どうした?」

兵士「それが、私教授のボートとも、連絡が付きません!」

将軍「……? どういうことだ……!?」



――小型ボート内――

私「……? あれ……おかしいわね、無線が……マキナ?」

娘≪どーしたの、ママン?≫

私「いや……なんか、無線の調子が悪くって。ジャミングでも受けてるのかしら?」

娘≪――別に、どこもおかしくないよ?≫

私「そう……変ね」

娘≪――ネウロイのコアが見えた。主砲、今から発射するね≫

私「ええ、お願い。……頑張って」

娘≪うん! ――主砲発射、用意よし! 発射角度、設定完了!
――発射!!≫

ドォォォン!!! ドォォォォン!!! ドォォォォォォォォン!!!!



――同時刻、アドリア海上空・1機の飛行機内――

ブゥゥゥゥゥゥゥン……!!

アレッシア「ほらほら、もっとスピード出しなさい! 間に合わなかったら蜂の巣よ!」チャキッ

男「ひぃぃぃぃぃぃぃ!!! なんでだぁぁぁぁ!! なんで口から鉄砲が出てる犬を構えた女の人が俺を脅しているんだぁぁぁぁぁぁ!!??」

父「俺は犬じゃないっつっとるだろ!」

男「じゃあなんなんだよアンタ――」

アレッシア「くだらない事言ってないで、とっととヴェネツィアまで飛ばすのよ! 生きて娘さんの誕生会を開きたかったらね!!」ジャキッ!!

男「ぴぇぇぇぇぇぇぇ!!! わかった、わかったからぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」ウワァァン

父「……なんかやけに楽しそうですね、アレッシアさん」

アレッシア「ふふ、一度でいいからこういう事やってみたかったんです。こういう、映画のシーンみたいな……。
あ、お父さん、ちゃんとそのマシンガン向けてて下さいね。脅せなくなったら困りますから」

父「は、はい……」

アレッシア「ほらほらぁー、まだスピード出るでしょう? ……それとも、シェリーちゃんにパパの遺骨をプレゼントしたいのかしら?」

男「わっ、分かってますよぉぉぉぉぉ!!! 飛ばしますっ! 飛ばしますからっ!! だからどうか命だけは命だけは」ガクブル

父「……すまん、許せ。こっちも必死なんだ」

父(……くそ、間に合うといいが……)



――航空母艦・天城、艦橋――

ドオオオオン!! ドオオオオン!! ドオオオオオオン!!!!

杉田「! この音は……!」

将軍「大和の主砲だ! ……どうやら、無事に撃てたようだな。大和との通信は?」

兵士「それが……依然として繋がりません!」

将軍「なに……?」



――小型ボート内――

私「……よし、マキナ。どう、ネウロイは?」

娘≪――――≫

私「……? マキナ? どうしたの?」

娘≪――うん、大丈夫。撃てたよ、ママン≫

私「そう……よかった。もしもし、将軍――ああもう、やっぱり繋がらない! どっか壊れちゃってんのかしら――」

娘≪――ううん。どこも壊れてないよ。その無線は、どこも壊れてない≫

私「え……? じゃあ、なんで……」

娘≪――そんなの、カンタンだよ≫







娘≪――だって、マキナが止めてるんだもん。無線≫



――航空母艦・天城、艦橋――

ゴゴゴゴゴゴゴゴ…

兵士「! あ、あれは……!」

杉田「ネウロイの巣が、消え……いや……!」

将軍「バカな……! なんて大きさのコアだ……!!」



――ボート内――

私「……え……?」

娘≪これから話すこと、できればみんなには聞かれたくないもん。だから、切っちゃったんだー≫

私「……?」

娘≪――マキナね、ずーっと考えてたんだ。ウィッチのみんなには、マキナが知ってる事、みんな話さないとダメ。
でも、ママンの秘密を教えてもダメ。マキナは知ってるのに。ママンの秘密を知ってるのに――≫

私「ま……マキ……ナ……?」

娘≪――でもね、マキナ、わかったんだ。考えて、考えて考えて、考えて――≫

ゴトッ!

私「!?」グラッ

ザザザザザザザザ…!!



――アドリア海上空――

――大和による砲撃の成果か、ネウロイの巣を覆っている暗雲はたちまち消え失せ……、
   その内側から、見る物を圧倒するほど禍々しく輝く、巨大なコアが出現した。

エーリカ「……でっかいコアだね……」

ゲルト「さっきの砲撃で、少しは穴が開いたみたいだが……」

宮藤「……! み、見てください! あのコアの前!」

坂本「あれは……大和か!?」

ズズズズズズズズ…!!

ミーナ「!? そんな……大和がコアに吸い込まれてる!?」

シャーリー「……いや、違う!」

ズゾゾゾゾゾゾ…!!!

シャーリー「大和が……自分からコアに向かって行ってるんだ!!」

娘≪――でもね、マキナ、わかったんだ。考えて、考えて考えて、考えて――≫

エイラ「! こ、この声……!」

――突然、大和から再び合成音が聞こえてきた。
   例の"娘"……マキナの声だ。

ペリーヌ「……! ちょっと、あのボート……凄い勢いでコアの方へ向かってますわよ!?」

シャーリー「えっ!?」

――ペリーヌに言われ、海面に目を下ろす。
   ……本当だ! あのこじんまりとしたボートが、おおよそ似つかわしくないスピードで、一直線にコアへと向かっている!

ザザザザァ…ッ!!

私『マキナ! 何をしてるの!? ボートを止めなさい!』

シャーリー「! わ、私――?」

娘≪――7月4日。――ふふ、本当に、独立記念日になるね≫

私『え……?』

娘≪――マキナはね、ぜったいにママンの秘密をウィッチに言っちゃいけない。でも、ウィッチになにか聞かれたら……知ってることを言わなきゃいけない。
――なら、カンタンだよ。なんで、こんなカンタンなことに気付かなかったんだろう?≫









娘≪――ウィッチが、みーんないなくなっちゃえばいいんだよ。マキナが、なにも聞かれなくてすむように≫







――どこまでも無機質に、無慈悲に響く、無邪気で無感情な声。
   ……絶句した。あたしも、ルッキーニも、他のみんなも。あいつの言葉を、とっさには理解できなかったから。
   ……いや。理解したくはなかったから。


私『!? マキナ!? 分かってるの、自分が何を言ってるのか……!!』

娘≪うん。だって、考えたらこれがいちばんいいもん≫

私『ロボット工学三原則を忘れたの!? ロボットは――』

娘≪『ニンゲンに危害を加えてはならない』――でしょ? 分かってるよ。……だからさ≫


ゴゴゴゴゴゴゴ……!!!

サーニャ「そ、そんな……大和が……!」

ゲルト「う、埋まって……いく……?」

シャーリー「……い、いや……それだけじゃ……!」

――そうだ。それだけじゃない。それだけでは……終わっていない。
   大和が取り込まれた箇所から……コアの色が変わっていく。
   妖しい輝きを放つルビー色から、艶の無い漆黒に……!

娘≪おおーっ! ……ふむふむ……へーえ。ほほー……≫

私『……マキナ!? 何を……!?』

娘≪……んよっし、取り込み完了!≫

――その言葉を言い終わると同時に、巨大コアはその全身を黒一色に染め上げた。
   所々にネウロイの特徴であるハニカムパターンが現れ、まるで脈拍のように一定のリズムで光を放っている。

娘≪えへへ、けっこう手こずっちゃうかと思ったけど、そんなでもなかったよ。ザコい作りしてるんだねー、ネウロイって≫

私『マ……キナ……?』

娘≪あっ、ママン。それで、さっきの話だけど……≫


ミーナ「……!! あのコアから、何か来るわ!」 

坂本「ネウロイか!?」

ミーナ「恐らく……数、5、10……20……え!? そんな……まだ増えて……!!」

シャーリー「……!!」

――コア……いや、『コアだったもの』から、無数の小型ネウロイが放出された。

娘≪――もし、マキナが命令してるこのネウロイにやられて、ウィッチが死んじゃっても……それは、ネウロイがやったこと。
マキナは、なーんにも悪くないよ……ねぇ、ママン?≫

私「……ッ」ギリッ…

――正12面体の体を持つそれらは、まるで巣の周りを飛び回るハチのように、一部はコアの周りを周回し、また一部はこちらへと向かってくる。
   戦うつもりなのだろうか。もしそうならば……覚悟を決めなくてはならない。

ネウロイ「」ビュビュンッ!

シャーリー「ッ!」チャキッ!

――M1918の引鉄に指を掛け、絞ろうとするが。
   ネウロイはあたしたちの方へは目もくれず、まっすぐにボートへと向かって行った。
   ……! まずい! もしかしたら……狙いはあのボート!?

シャーリー「わた――!」

ネウロイ「」バシュウッ!!

ギャアアンッ!!!

私「――ッ!?」

――ネウロイのビームは、ボートの屋根を見事なまでに消し去った。
   中で茫然としている私の姿が、白日の下に晒される。

娘≪――マキナね、この本体のポッドを運ぶついでに、ママンもつれてってあげたいんだ。
だって、ママンはウィッチじゃないし、なによりマキナのママンだもん。傷がついちゃったら、大変だもんね≫

――ビームを放ったのとは別のネウロイが接近し、内部からカニやエビを思わせるアームを伸ばす。
   先端の鋏は、物を引きちぎることよりは、掴むことに特化した形のように見えた。

娘≪ね、ママン。いっしょにいこ? マキナ、ママンといっしょがいいな≫

私「マキナ。命令よ。すぐに電源を停止しなさい」

娘≪――やーだよ。マキナ、まだ眠たくないもん。……それに、まだ1人も死んでないんだよ?≫

私「――ッ! なら、こうやって――!! ごめんっ!」

――私が、懐からヒートカッターを取り出し、AIポッドに突きつけようとする。
   ……だが。





娘≪――しかたないなぁ≫

パシュウッ!!!




シャーリー「……えっ…………?」

私「――あ――」





――AIポッドの上部に取り付けられた、チャチな銃。――マキナが『護身用』と言っていた、あの銃。
   そこから、まるで刃物のような赤いビームが放たれ……

――そして……





ボトッ…

私「――ッ――!!」






――私の左腕が、根元からざっくりと……切断された。






エイラ「え――!!??」

サーニャ「あ……あぁぁ……」

ルッキーニ「うぁ……あああぁ……!!!」


――けれど、それよりもあたしの目を釘付けにしたのは。
   腕を吹き飛ばされた光景よりも、あたしの目に焼き付いて離れなかったのは。


宮藤「……え――?」 

坂本「な――」

リーネ「う、嘘……」

ペリーヌ「ち……血が……!」



シャーリー「出て……ない……!?」




――血が、出ていない。骨が、肉が……あるべきところに、ない。
   あるのは……火花を上げる導線と、複雑に絡み合った金具と金属線。
   そして、ぼろぼろと零れ落ちる、小さな歯車――。


ミーナ「そ、そんな――」

ゲルト「バカな……まさか……」

エーリカ「――え――?」


娘≪あーあ。ママンが悪いんだよ。マキナを壊そうなんて思うから。ごめんね。……でも、大丈夫だよね?≫





――その次の言葉を聞いた時。
   今度こそ、あたしは……本当に、本当に言葉を失った。






娘≪だってさ、ママンも、マキナとおんなじ……、












た だ の ロ ボ ッ ト な ん だ か ら ! ! ! ! ! ≫









宮藤「 」

坂本「 」

リーネ「 」

ペリーヌ「 」

ミーナ「 」

ゲルト「 」

エーリカ「 」

エイラ「 」

サーニャ「 」

ルッキーニ「 」


シャーリー「――う――」



――嘘……だろ……?





私「あ……あ……」

娘≪さ、ママン。いこ? 腕なら、あとで新しいのくっつけてあげるから≫

ガシッ!

私「ッ!」

ビュンッ!!

娘≪お客様お1人、ごあんなーい!≫

――アームを出したネウロイが、がっしりと2つの標的を掴みながら、みるみるうちに遠ざかっていく。

私「――――」

シャーリー「……!!」

――連れ去られていく私と、一瞬だけ目が合う。
   その目は、相変わらずガラス玉のように透き通っていて……どこまでも寂しく、そして哀しい青色だった。

娘≪らーん、らんらーん……らんらーん、らららー……。
らーん、らんらーん、らんらーん、らららー……♪≫

――いつの間にか、晴天だった空には暗雲が立ち込めている。
   一面を覆い尽くす、不毛なグレーに……無機質な歌声が、いびつに反響した。



第15話、おわり
最終更新:2013年02月07日 14:31