前回までのあらすじ!

父「……すまない。知っていながら、私を止められなかった……。俺の責任だ。
……だから、俺は……全てを話そう」

娘≪マキナ、ママンの事なら何でも分かるんだよ。――ママンが知らないことですらね≫



――航空母艦・天城、甲板――

父「……俺や私には、『直諦回路』というものが備わっている」

エイラ「ちょ、直……?」

父「カオス理論を応用した、高次元処理装置……簡単に言えば、人間の『直観』や『諦め』を再現するための回路さ。
人間が人間たるゆえんは、論理的に考えることではなく、むしろその論理を投げ捨てることにある。そういう理念のもとに備え付けられた物だ」

ミーナ「論理を、投げ捨てる……」

父「AIという奴は、命令されたことを忠実にやり遂げようとする。言い換えれば、矛盾のある命令でも、それが矛盾だと分からずに遂行しようとしてしまう。
そういう事態を防ぐために、直諦回路は存在する。矛盾にぶつかった時、『ま、いいか』と諦め、思考を停止できるようにな」

エーリカ「……それがなかったら、どうなるの?」

父「AIのレベルが低いならまだいい。回路がオーバーヒートするだけだ。……だが、なまじ強力な思考・処理能力を持っていれば……」

シャーリー「……! 命令を曲解して……むりやり筋を通そうと……!?」

父「……ああ。マキナの暴走の原因は、まさにそれだ。
『ウィッチに聞かれたことにはすべて答える』、『私がロボットであるということは誰にも言わない』。
この二律背反を同時に遂行しようとして、『ウィッチを消す』という結論に至ったのさ」

ゲルト「な……なんでそんな大事な回路を入れていなかったんだ!! 私にはそれが入っていたんだろう!? なら……」

父「……入ってはいる。……だが、あいつは知らないんだ」

シャーリー「え?」

父「……直諦回路という存在自体は知っているが……その実態も、製作方法も、あいつは知らない。……いや、正確には…"忘れている"んだよ」

シャーリー「……な、なんで……?」

父「……封印されているからさ。それに関わる記憶を、直諦回路を組み込んだ後に……。
……あいつが、母さんを殺した記憶と一緒にな」


一同「……え……!?」


――巨大コア内部――

私「……今……なんて……」

娘≪あれ、聞こえなかった? しょーがないなー、じゃあもう一回言ったげるね。
――おばーちゃんは、ママンが殺したんだよ≫

私「……え…………え……!?」

娘≪――おー、乱れてる乱れてる。精神回路にノイズかくにーん。心の揺らぎってやつかな?
面白いなー、ママンのあたまの中≫

私「ど……どういう……」

娘≪――そうだね。百聞はナンチャラっていうし、見てみたほうが早いかも。
じゃ、見せたげるね。ママン≫

ガギャッ! ビュゥゥゥ――――ン……!!

私「――――!!?!?!」ガクガク
(――何……!? め、眩暈が……)

娘≪ママンのふるーい、ふるーい記憶。ママンでさえもしらない思い出。
引っ張り出して見せたげる。ホントのことを見せたげる≫

私「う――――ぁ――が――――」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

私『……お母さん』

私(――? これは……)

母『あら? まだ起きてたの? 駄目じゃない、もう11時よ?』

私(――!! お、おかあさ――)

私『……教えてください』

母『?』

私『……私は、人間ですか?』

母『……? どうしたの、いきなり……』

私『答えてください。私は、人間ですか?』

母『……ええ、そうよ。あなたは人間。わたしの、大事な一人娘』

私『……それなら』

母『ん?』

私『……どうして、私は外で遊べないんですか?』

母『…………』

私『どうして、飴を舐めないと何の味もしないんですか? どうして、こんなに体が重いんですか?
どうして、お風呂に入れないんですか? どうして、舐めるだけで、なにも食べられないんですか?
どうして、いつも同じ長袖と長ズボンなんですか? どうして、眠れないんですか?』

母『……私……』

私『……私はロボットです。お母さんのご期待に添えるように作られました。
でも、お母さんは私を人間だと言います。お母さんの言葉は絶対です。だから、私は人間なのかもしれません。
どっちなんですか。私は人間なのですか? ロボットなのですか?』

母『……何を言っているの? あなたはもう十分に人間よ。だって、そういう風にわたしが作――』

私『人間になりたい。ロボットなのか人間なのか分からないなら、私は人間になりたい。
どうすればいいんですか。どうすれば私は本当の人間になれるんですか』

母『ちょ、ちょっと……私? 落ち着きなさい』

私『私は……私は……私は…………』ガクガク

母『……参ったわね、どこかに不整合が……?』

私『……………………』

母『……? 私?』

私『…………分かりました』

母『へ?』

私『……ロボットは、人間に危害を加えてはならない。なら、人間に危害を加えることができるなら……私は本物の人間です』

母『――!? ちょ――』

ガシッ!!

母『っ――! く……ぁっ……!!』

私『私は人間。ロボットじゃない。私は人間。ロボットじゃない。私は人間。ロボットじゃない』ギリギリ

母『……ぐ……っ……!』

私『お母さんのため。お母さんのため。お母さんのため。お母さんのため。
ロボットじゃない。ロボットじゃない。ロボットじゃないロボットじゃない人間人間』ギリッギリッ

母『や……やめ…………わ……ぁぐっ……』ヨロッ

ガタン!

私『人間になればお母さんと外で遊べる人間になればお母さんと一緒にお食事できる人間になればお母さんとおしゃれできる人間になればお母さんとお風呂に入れる人間になればお母さんと一緒に寝られる人間になれば人間になれば人間になれば私は人間私は人間』グググッ

私『お……ねが……やめて…………私……!』

ガチャッ

父『おい何だ今のお――!?』

私『――――――――』ブツブツ

母『……ぁっ……ぐっ……がはっ……!』ゲホッ

父『!? お、おい……何してるんだ、おいっ!』

母『……! お、とう……さ……』

父『――ッ!!』ダッ!

ドガッ!!

私『――!?』グラッ

ドガッ!
…ザザッ、ビーッ……ザザザッ……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



私「     」

娘≪ね? 分かったでしょ。このあと博士――おばーちゃんは、首の怪我が悪化して死んじゃうんだけど。
ま、ママンが殺したようなものだよね≫

私「あ……あ……ああ…………」

娘≪――でも、マキナ、ママンは悪くないと思うよ。
だって、ロボットに無茶な命令するニンゲンの方が、ずっとずーっと悪いんだもん≫

私「そんな……私が……そんな…………そんな…………!!」

娘≪わっ、今までで一番大きな揺らぎ! すごいなー、もっと欲しいな、ママンのデータ。
――と、いうわけで、もっかいダメ押し。

――おばーちゃんは、ママンが殺したんだよ≫



私「あ……ああ……ぁあぁああああぁぁぁあああぁああぁああああぁぁ……っ!!!」



――航空母艦・天城、甲板――

シャーリー「そん……な……」

将軍「ば、バカな……ロボットが、人間を……!?」

父「……当て所が良かった、と言うべきか……私の奴はしばらく機能を停止した。
俺は全力で母さんの治療に当たったが……何せ、首の骨がほとんど折られかかっていたんだ。悪化する一方だったよ」

エイラ「そ、それで……? チューリング博士は……」

父「……2日後に死んだ。……休んでいれば、もう少し長く生きられたのかもしれないのにな」

ミーナ「……? どういうこと?」

父「……瀕死の重傷だってのに、あいつは研究を止めなかった。
ベッドを飛びだし、震える手で図面を書き、血反吐を吐きながら回路を組み上げたんだ」

シャーリー「……! もしかして、それが……」

父「……ああ、直諦回路さ。今回のような事態を二度と起こさないために、それこそ死に物狂いで回路を完成させた。
……そして、回路を俺と私に組み込んで……それきりだ」

宮藤「…………」

坂本「……さっき、記憶を封印したと言っていたな。あれはどういう……?」

父「……死に際に、母さんに頼まれたんだ。『私に辛い思いをさせるな』、『独りにさせるな』と。
……考えても見ろ。最愛の母親を自分の手で殺した、なんて記憶……持っていて幸せか?」

将軍「……だから、記憶を消したのか」

父「……あいつの開発には、それこそ端から終いまで関わったからな。……記憶中枢に細工をするぐらい、どうということはない。
ただ、問題だったのは……記憶という奴が相互的な物だと言うことだった」

シャーリー「?」

ゲルト「……どういうことだ?」

父「そうだな……記憶という奴は、いうなれば畑のイモだ。1つ1つのイモは決して単独ではなく、それぞれが根や茎で繋がっている。
1つのイモを掘り起こせば、それに繋がっているイモもつられて飛びだしてくる。
記憶という奴はこういう風に、関連付いたものを思い出す作りになっているんだよ」

ゲルト「なるほど、よく分かった」

エーリカ(……イモで?)

シャーリー「……でも、それが何で、例の回路を忘れることに……?」

父「……記憶を封印する段階で分かったんだが、直諦回路内には、その回路のシステム、製作方法が事細かに記された記憶データがあった。
それは、ある特殊な行程を踏むことで記憶中枢と繋がり――平たく言えば、"思い出す"ことができるようロックが掛けられていた」

シャーリー「……キーワード、みたいなもんか?」

父「そう。……あ、アレッシアさん」

アレッシア「は、はい?」(正直話に付いていけない)

父「……そのノート、貸して下さい。そっちの古い方」

アレッシア「え? あ、はい。どうぞ」スッ

父「どうも。……そうそう、ここだ」パラパラパラ…

シャーリー「え? これって……あの白紙のページじゃん」

ミーナ「このノートは……?」

シャーリー「チューリング博士のノートだよ。AI技術のテクニックとかが、全部暗号で書かれてるってさ。
……でも、ヘンなとこも多いんだよ。この白紙のページとか、最期のページには『焚き火用』なんて書いてあるらしいし」

父「……『焚き火用』、か。……やっぱり、分かりにくいよな」シュボッ

ルッキーニ「!? お、お父さん!? なんでノート燃やしちゃ―― !?」

ゲルト「! こ、これは……!」

父「……この単純な暗号に気づけるほど成長することを、母さんは願っていたが……やはり、まだ早かったようだな」

シャーリー「あ、あぶり出し……?」

――火を着けた箇所から、焦げ茶色の幾何学図形が表れる。
   あぶり出し。もっとも単純でアナログな暗号。それが、白紙のページに仕掛けられていた――?

ゲルト「これは……なんだ、この図形は?」

父「…………これは、ある種の視覚スイッチでな。
これを見ることで、脳内の直諦回路からデータが転送され、回路の情報を"思い出す"ようになってる」

エイラ「だ、だったら何でもっと早く教えてやらなかったんだよ!? 思い出してれば、こんなことには……!」

父「……ああ。全く……その通りだよ。もっと早く、教えてやればよかったんだ。
だが、さっきも言ったように、記憶という奴は芋ヅルだ。直諦回路のことを思い出すと同時に……それと綿密に関わっている、あの日の……、
……殺人の記憶までも思い出してしまうんだ」

シャーリー「……! そうか……! だから……!」

父「回路の製法を教えれば、確かにあいつの技術は完璧になる。こんな事態も起こらずに済んだ。
……でも、あの日の記憶を思い出してしまうことは、絶対にあいつを傷つける。
俺は……母さんに、あいつの幸せを頼まれたんだ。だから……だから」

ミーナ「……黙っていたのね。何も言わなければ、私教授が知ることも無いから」

父「……許してくれなんて言わない。すべて……俺の責任だ。だから、責任を取りに来た」

宮藤「え……?」

父「……万が一マキナが暴走した時の為に、奴のAIを停止させるシステムがある。
これを使えば……奴を止められる」

ペリーヌ「そ、そうですわ! そもそもそれを教えてもらう話で……」

坂本「どういうシステムなんだ、それは?」





父「……パンツだ」






全員「…………は?」


父「いや、だから……パンツだ」

将軍「……???

リーネ「"パンツ"って……たしか、ズボンの古い言い方でしたっけ……?」

ミーナ「……お父さん? 状況は一刻を争うのよ? 下らないボケをかましてる場合じゃ……」

父「だぁかぁらぁ!! 『PANTS』ってシステム名なんだよ!! 『迅速な、人工知能の思考網一時停止システム』、
『Prompt, Artificial intelligence Network Temporary Stop system』!!」

ゲルト「あ、ああ……」

シャーリー(……最後の最後まで、その無理矢理なネーミングか……)

エイラ「……で、そのパンツっての……具体的にはどうやるんだ?」

父「俺を含む十数個のAIを一時的にアセンブルし、マキナの思考網にムリヤリ割り込んで停止させる。
……まあ、平たく言えば……ごり押しだ」

宮藤「そ、それであれを止められるんですか?」

父「ああ。……だが……」

エーリカ「えー、まだなんかあるのー?」

父「……AIのシステム調整だ。今から俺と整備兵達で取りかかったとしても、最低15分はかかってしまう」

シャーリー「15分……」

――時計を見る。……約束の時間まで、残りはあと10分。――5分のオーバーだ。つまり……。

シャーリー「……5分間、マキナの攻撃に耐え続けなくちゃならないな」

父「……ああ」

宮藤「……ご、5分も……」

ゲルト「なんだ、5分ぐらい。我々ウィッチが全員でかかれば……うっ!?」フラッ

エーリカ「! トゥルーデ!?」ガシッ

ゲルト「はぁ……はぁ……くっ……」

ミーナ「……無理もないわ。さっきの戦いで魔力を消費しすぎたのよ。
……この状態で戦っても、返り討ちにされるだけだわ」

父「……ああ。それに調整が完成しても、停止命令を割り込ませるには、ある程度奴にダメージを与えて隙を作らねばならない。
いざという時に君達の戦力が失われていては……奴を止めることができないんだ」

ルッキーニ「じゃ、じゃあ……5分も、どうやって……」


将軍「……杉田大佐」

杉田「……? はい」

将軍「全艦に伝令だ。各員……"任意で"撤退を開始せよ」

ミーナ「!」

杉田「そ、それは……つまり……!」

将軍「……元はと言えば、あのAIを頼り、作戦に組み入れてしまったのは私だ。……ならば、けじめをつけなくてはなるまい。
……逃げたい奴は逃がしてやれ。元から、彼らには何の責任も無いのだから」

杉田「将軍……」

将軍「……グズグズするな。早く伝令を出せ。
残った諦めの悪い奴らで……奴への反撃を開始する」

杉田「……了解しました。ただちに」タッタッタ…

ミーナ「しょ……将軍……」

将軍「……中佐。私はどのみち、最初からこうするつもりだった。時間稼ぎぐらいしか、償いが思いつかないしな」

ミーナ「…………」

将軍「……皆さん。……それから、お父さん。
……済まない。彼女を……私教授を巻きこんでしまった。私がなんとしても時間を稼ぐ。その間に、AIの調整を急いでくれ」

父「……いいのか、だが……」

――そうだ。いくら連合艦隊と言っても……あんな数のネウロイを相手にしていては、きっと5分も持たない。
   そうなったならお終いだ。AIは天城ごと壊されて……みんな、あの無邪気で無慈悲なマキナに殺されてしまう。

シャーリー「…………」

――だから。


シャーリー「……くよ」

ルッキーニ「え?」


――だから。





シャーリー「……私も行くよ。
5分間……なんとか奴を引きつけてみせる」





ミーナ「!!」

将軍「!? た、大尉……!?」

ルッキーニ「しゃ、シャーリー……!」

シャーリー「……奴が狙ってるのは、あくまであたし達ウィッチだ。だったら、ウィッチの誰かが囮になって逃げ回る方が、結局は時間を多く稼げる。連合艦隊の被害も少なくなるだろ?」

将軍「なっ……」

ゲルト「無茶だシャーリー! どれだけ危ないか分かっているのか!?
あの化物どもに一斉に狙われることになるんだぞ!」

シャーリー「……少なくとも、天城を一斉に狙われるよりはいいさ。
どうせ狙われるなら、的は小さい方がいい。……合理的だろ? バルクホルン」

ゲルト「……ぐっ……だ、だが……」

宮藤「そ、そうです! シャーリーさん! 囮だったら、私が……あっ……」フラッ

ペリーヌ「み、宮藤さん!?」

シャーリー「……みんな、ボロボロみたいだしさ。見た所、あたしが一番元気じゃないか。
だったら、あたしが行くのが道理だろ」

ゲルト「なっ……! ふ、ふざけるな! お前だって……!」

シャーリー「……それに」

父「……?」

シャーリー「…………私を、助けたいんだ」

――そうだ。あたしは……あいつを助けたい。助けて……謝らなければならない。
   今更謝ったって、手遅れかもしれないけど。
   それでも、ここで立ち往生してしまっては、本当の意味で手遅れになってしまう。

ゲルト「……そ、それは……私だって……」

シャーリー「……自分でも不思議だよ。さっきまで、魔力をすっかり使い果たしてたのに。
あいつを助けたいって……そう思うだけで、なんだか……」

――鼓動が早まっていく。心臓から手足の先まで、見えない、熱い何かが駆け抜け、あたしの体を満たしていく。
   まるで、アドリア海に吹く熱風のように。

シャーリー「……中佐、少佐」

坂本「……勝算はあるんだな?」

シャーリー「無かったら、こんな大口叩かないよ」

坂本「……ミーナ」

ミーナ「……止めたって、どうせ聞かないんでしょう? ……誰かにそっくりよ」

シャーリー「!」

坂本「?」

ミーナ「……必ず、生きて戻ってきなさい。命令よ、シャーロット・イェーガー大尉」

シャーリー「……ありがとう」

ルッキーニ「……シャーリー……」

シャーリー「……そんな顔するなよ、ルッキーニ。あたしは誰だ? スピードの女王、グラマラス・シャーリーだぞ?
あんなデカイだけのネウロイに、あたしが遅れを取ると思うか?」

ルッキーニ「……ううん。だから……絶対、ぜーったい帰ってきてね」

シャーリー「……勿論さ」

ゲルト「……シャーリー、いいか」

シャーリー「なんだよ、バルクホルンまで」

ゲルト「……いいか。絶対に無理はするな。危ないと思ったらすぐに逃げろ。
……お前が死んだら、私の奴になんて言えばいいんだ」

シャーリー「……大丈夫だ。必ずあいつを助けて……一緒に帰ってくるから」

ゲルト「…………すまん……」

シャーリー「そう思うなら、早く魔力を回復してくれよ? 流石に……5分以上は、ひとりじゃキツイかもしれないからさ。
……そうだ、お父さん」

父「! な、何だ?」

シャーリー「……停止システムは、AIの調整が完了したらすぐに発動できるのか?」

父「ああ……いや、準備が整ってから、停止スイッチを押す必要がある。スイッチは私に持たせているが……。
あいつのことだ、スイッチを取られるようなヘマはしないはずだ」

シャーリー「……そうか、分かった。……ありがとう」

父「……なあ……」

シャーリー「ん?」

父「……あいつは、私は……幸せになれるかな。
こんなことがあった後も……誰かと一緒に、幸せに……」

シャーリー「…………」

父「……すまん、変な事を言った。……こんな時だってのにな。忘れてくれ」

シャーリー「…………幸せに、か」

――ふと脳裏に、私の寂しそうな笑顔が思い浮かぶ。

シャーリー「……分からない。けど」

――けど。

シャーリー「……あたしは、あいつと一緒にいて……すごく幸せだった。
だから……だから、こんな所で終わらせたくない」

父「…………」

シャーリー「……ロボットだろうが、人間だろうが……構うもんか。
あいつはあいつだ。調子が良くって、憎ったらしくて、そのくせ誰より寂しがり屋な……
……あたしの、大事な――」

――そうだ。

――あいつは……私は……

父「……その先は」

シャーリー「え?」

父「そこからは、あいつに直接聞かせてやってくれ。……あいつの事だ。出せない涙流して喜ぶだろうよ」

――そう言いながら、お父さんは甲板の階段へと向かって行く。

シャーリー「……準備、頼んだよ」

父「……ああ。すぐに仕上げて見せるさ。……だから……」

シャーリー「…………ああ」

――空を見上げ、図々しく浮かぶ黒い正十二面体を睨む。



シャーリー「…………任せろ」



――天城・倉庫――

父「…………」タタタタッ

整備兵2「……いいモンだねぇ。囚われの姫を救うべく、王子様はひとり飛び立つのだ、ってか」

父「……くくっ。姫、ね。それにしちゃ、華が無さすぎるんじゃないか」

整備兵3「あっはははは! そりゃそーっスよね!」

整備兵1「……お父さん。指示を」

父「……ああ。……やるぞ、お前ら」

整備兵2「時間は無し、名誉も無し。なのに命の危険はありあり。……っかはは、割に合わねー仕事だぜ」

整備兵1「名誉ならあるさ。……俺達だけの酒の席でな」

整備兵3「おっ、オゴリっスか! なら、なおさらパパっと終わらせなきゃね」

父「…………」

   『あの子を……どうか……幸せに……
      ……ひとりぼっちに……させないで…………』

   『……ロボットだろうが、人間だろうが……構うもんか。
    あいつはあいつだ。調子が良くって、憎ったらしくて、そのくせ誰より寂しがり屋な……
    ……あたしの、大事な――』

父(……母さん。……安心してくれ)

父(……もう、独りじゃないんだよ。
とっくの昔から……あいつはもう、独りじゃなくなってたんだ)

アレッシア「部品、用意できました!」ゴトッ

父「!? あ、アレッシアさ――」

アレッシア「言ったでしょ、力になるって。部品とか工具を運ぶぐらいなら、私だってできますから」

父「で、ですが……」

アレッシア「ここまで関わっちゃったからには、もう行けるところまでいっちゃいますよ。
……私も、それと……この人たちも」

ゾロゾロゾロ…

天城の技師A「っひゃー、すっげえメカだな。基盤がまるでパッチワークだ」

天城の技師B「おっ、これP51Dか! また偉くシブいチューニングだなオイ!」

父「……!? あ、天城の……?」

天城の技師C「ああ、どいつもこいつも命知らずな奴らさ。人手が足りなさそうだったからな、手伝ってやることにしたんだよ。
時間が無いんだろ? チョチョイっと指示してくれや、ワン公」

父「お、おお……」

アレッシア「……ほら、お父さん!」

父「……な、何が何だかよく分からんが……まあ、いいッ! ……行くぞ! 一世一代の大仕事だ!
連合艦隊整備班、出撃ッ!」

全員「応ッ!!」



――10分後、巨大コア内部――

娘≪――さーて、お約束の時間ですよーっと≫

私「…………」

娘≪――もー、ママン、ちょっとは喋ってよー。さっきからずーっと黙りっぱなしじゃん≫

私「…………」

娘≪――もしかして、さっきので怒っちゃった? ごめんねえ、ママン。マキナ、ママンのこと大好きだよ。
だから、お願い。ね、許して、ね≫

私「…………」

娘≪――いじわる。――ふーんだ。いいもん、もう約束の時間だもん。
どうせこれから、ママンぜったいに黙ってられなくなるもんね≫

私「……!」



――アドリア海――

娘≪――ふっふ~ん、さーって、神様へのイケニエは決まったのかなー?≫

将軍「…………」

杉田「…………」

ミーナ「…………」

娘≪――あれれ? みーんな逃げずに残っちゃった。――へーえ、勇気あるんだね。でもでも、ムダなあがきだと思うけど≫


――蒸気が立ち込め、リフトが上がっていく。


私(……? 天城の滑走路に……あれは……)

娘≪――楽しいんだろうなぁー、イノチもてあそぶの。
ネウロイもウィッチも、生かすも殺すも自由自在! それってもう、神様だよね!
それがマキナ。『機械仕掛けの神』<デウス・エクス・マキナ>。――きゃーっ、かーっこいい!≫


――大海原に吹く風が、唸りながら肌に突き刺さる。


娘≪そういうことなら、お望み通り――
捻って、潰して、終わらせたげる!≫


――銃を握る手に力を込め、ただ上だけを見据えて、言う。







 「……終わらせはしないさ。あたしが、あたし達がいる限り」


私(……!!! …………なんで……なんで……!!!)

娘≪――ん?≫


――マーリンエンジンの重低音が、まるで心臓の鼓動のように体を揺さぶる。

――街も、国も、そして世界も。今だけは2番目だ。
   今は。……今は、ただ。


シャーリー「……待っててくれよ。すぐに行くから」


――あいつだけを守りたい。




シャーリー「……行くぞ、デカブツ」



16話終わり
最終更新:2013年02月07日 14:32