真昼の太陽は少しずつ傾き始め、暗い森の中には僅かな木漏れ日が入り込む。
綺麗に彩られたそれに腰を沈める血だらけの男。

更正「げほっ!げほっ!」

じょ・・・冗談じゃねえぞ・・・・。
こんなのありか・・・。

木の間に僅かに瞬く。

更正「くっ!」

更正が飛びのいた瞬間―――ナイフの光が通過する。
負けじと飛んできた方向に銃弾を放つがただ闇に呑まれていくだけだった。

更正は森をただ走っていた。
相手は人間にして闇―――暗殺に特化した化け物だ。

気配は全く感じられない。
不意に出てきたと思えばいつの間にか消えている。
少し前の押し潰されそうな殺気も今では消えて、代わりに静寂が支配している。

その中から急に攻撃が来るのだ。

一瞬でも反応が遅れれば首が飛ぶ。
脇腹の痛みで集中力が削がれつつある中でこれは地獄だ。

更正「こんなの・・・どうやって倒せっつーんだよ!」

再びナイフが飛んでくる。
それを避けると同時に手に取り、投げ返す。
全く物音がしないところから判断するとまた避けられたようだ。


すると突然頭上から何かが降りてきた―――『奴』だ。

そいつは着地すると同時に音もたてず急速に接近してくる。
手には金属光沢の軌跡がのびている。


―――不意に一閃される。

それは服を切り裂き肉を抉るはずだったが、瞬時に後方に反りかえる。
バク転の容量で飛んだその勢いを手を地面について殺し、その手を軸に回し蹴りをする。
だがそれは『奴』には届かず、捌かれる。

更正「っの!」

素早く体勢を立て直し、拳を振るう。
だが、それは捌かれもせず、避けられもせず正面から受け止められた。
力のこもった一撃を容易に、軽々と受け止められ一瞬動転する。

更正(またご冗談を・・・!)

体重は確実にこっちのほうがある。
相手も服の上から解かるほど筋肉質な体をしてるのは見てとれるが、それを引いても敵わないだろう
さらに長身の理を絡めた拳
それを自分より何回りも小さな子供が受け止めたのだ

更正「チィッ!」

呆けている場合ではない。
今の状態でコイツに勝つのは不可能。

それは頭から弾きだされた答えではなく本能が告げるものだった

すぐさま場を離れようとするが・・・


ガッッ!!!

更正「ぐっ!」

『奴』の拳の殴打でそれはかなわない。
わざと防ぎきれるレベルで放って、攻撃に転じさせず、尚且つ逃がしもしないようにしてくる。

更正「くそったれ!」

拳を腹部にくらうと同時に敵の襟を掴む。
そのまま背負い投げの応用で後方に投げ飛ばす。


相手の次の行動を確認せず、踵を返し、走り抜けていく。

全力で逃げなければいけない。
さもなければすぐにでも殺される。

様々な念に駆られつつ、奴から離れていく。
少しでも遠くに・・・少しでも・・・。










暗兵「逃げたか・・・」

投げ飛ばされ空中で受け身をとる中、敵の背が森の中に消えるのを見て、そう呟く。

敵のデタラメな応酬の中に僅かに武道の心得が見え隠れするがどれも足元に及ばない。

暗兵(ウィッチとしてなら十分すぎる実力だがな)

だが、いつでも襲撃できる『狩れる立場』にいる自分にとってただの儚い抗いでしかない。


「楽しそうじゃの我が主よ」

暗兵「・・・アドラーか?」

露骨に嫌そうな顔をして声の方を見る。
そこには黒鷲が一羽、羽を休めていた。

暗兵「何しに来た?」

アドラー「そうつっかかるな。ワシは嬉しんじゃよ」

暗兵「・・・」

アドラー「正直、最近のお前には少し落胆していた。まるで燻りをはやく解放したくて仕方がないような子供を見ているようだった」

暗兵「何が言いたいんだ?」

要件をさっさと言えとばかりに急かす。
敵の場所は解かっているが仲間を呼ばれては厄介だ。
早々に潰すに限る。

アドラー「早くあの小僧を追いたいのか?」

暗兵「あぁ、だから邪魔をするな」

アドラー「まぁそう急くな。この周辺には奴の仲間と思しき怪しい奴はいない」

暗兵「お前は何が言いたいんだ?」

アドラー「お主から見てあの小僧はどう見えとるかの?」

暗兵「・・・は?」

コイツは何を言ってるんだ?


アドラー「『敵以外の何物でもない』か?」

暗兵「そうだ」

アドラー「本当に、そうか?」

ほんの少しばかり語尾を強め少年を威圧する。
まるで何かを忠告するような言い方だ。

アドラー「まぁ、主が何も感じないならワシの杞憂だろう」

暗兵「おい、お前何が―――」

アドラー「さらばじゃ」

少年の声を遮るとアドラーは颯爽と空に飛び去っていった。


理解できない。
あの鷲は俺に何を言いたかったのか。
たんに俺をからかう為としては随分神妙な言い口だった。
考え過ぎか・・・。


暗兵「・・・?」

ふと気付くと先に逃げた男が一か所で留まっている。

力尽きた?そんなわけがない
確かに大きな傷は負っていたがそれでも痛みを感じていないような戦いぶりだった。

と、すると

暗兵「俺を迎え撃つ気か」







―――その頃街では


ボルゾイ「駄目、何処にもいない」

ガランド「困ったな・・・」

更正の居場所を探していた。

ボルゾイの自慢の鼻で探そうにも敵に襲われ、匂いが散ってしまった為捜索は困難になっていた。
街全体の香りからは彼の匂いはない。

ボルゾイ「もしかして町の外に行ったのかも」

リーネ「それってまずいんじゃ・・・」

街だけならなんとか探すこともできようが外界の広さとは比にならない。
ましてや森に覆われているようなところだ。
捜索どころかこちらが迷ってしまうのは必至。

ボルゾイの固有魔法を使えば戻ってこれなくもないが魔力も残り少ない。
繰り出すには危険が伴う。

ガランド「どうしようか?」

カイエン「・・・俺に振るのか?」

ガランド「何か考えがありそうだしね」

徐に空を見上げる青年。

カイエン「・・・ボルゾイ」

ボルゾイ「何?」

カイエン「お前の索敵範囲は?」

ボルゾイ「約3km、天候次第で大分変わる」

カイエン「十分だ」

何かを了解したように二人は目を閉じ、集中する。

青年と少女の体から動物の一部が飛び出す。
使い魔を発現したようだ。


その瞬間暴風が吹き荒れた。
それは街を飛び越え、森を侵食する。

その風が自分の下に急速に吹きこみ、上昇気流として上に舞い上がっていく。

ボルゾイが何かを発見したように目を見開く。

ガランド「どっちにいる?」

ボルゾイ「向こう」

11時の方向を指さす

ボルゾイ「結構まずい状況かもしれない」

感知した匂いは酷いものだった。
先程より血の匂いは濃く、硝煙と汗のにおいが混じり、極限の状態のようだった。
その周辺からも血の匂いがすることから多量に出血していることが解かる。

動きは止まっていることがさらに不安を煽ぎたてる。

ボルゾイ「早く行かない・・・と?」

歩き出そうとすると足元がふらつき上手く前に進めない。
不意に肩を押さえられる。
身の丈からしてカイエンだろうか・・・。
もう確認するほどの力もない。魔力の限界だ。

ガランド「後は私に任せて君は休め。君は重要な戦力なんだから」

リーネ「わ、私も行きます!」

ガランド「リ、リーネちゃん!?」

リーネ「足手纏いなんかにはなりません!ちゃんと皆さんの役に立ちたいんです!」

リーネ「お願いです!連れて行ってください!」

突然の宣告に声が裏返った。
止めても無駄ということは覇気を見れば解かる。
しかし、危険なところであることには間違いはない。

リーネ「・・・駄目でしたか?」


ガランド「いや・・・・・・・・・解かった。一緒に行こう」

リーネ「ありがとうございます!」

ガランド(押しに弱いな・・・私は・・・)









ボルゾイ「ガランドはリーネに惚れてる。間違いない」

カイエン「・・・いいから寝てろ」
最終更新:2013年02月07日 14:54