―――森林内部
更正「よし・・・!」
身を引き締めるように銃弾を手に握る。
逃げることは無駄だ。
どっちにしろ追いつかれるだろうし、何より方向音痴が災いしてどこに自分がいるかもわからない。
だが運がよく地の理を活かせるような場所に辿り着くことができた。
辺りは開けていて、ちょっとした公園ぐらいの広さがある。
これで十分戦える。
更正「おらァ!出てこいやあああああああ!!!どうせ隠れてるんだろおおおおおおお!?」
腹から龍の咆哮を思わせるような爆音を吐き出す。
準備は整った!
―――
暗兵(・・・自分で逃げておいて出てこいってどういうことだ?)
狂った言葉遣いに敵の心情が段々読み取れなくなっていく。
心の中は恐怖で一杯のはずなのに奴の目からはその色を感じさせていない。
静かに懐からナイフを取り出しながら敵を見据える。
敵との距離はさほど遠くない。
敵も相当の手練れ、少しばかりなめていたようだ。
意を決したのを見計らったように風が森を駆け抜ける。
その風に気配を忍ばせ、数歩で敵の背後に迫る。
自然と一体となる技術を持つ者だから出来る芸当だろう。敵も気付いていない。
迷わず逆袈裟懸けの応用で逆手に持ったナイフを振るう。
ザシュッッ!
肉を切り裂き抉る感覚。
手に残る感触からして確実に致命傷になったはずだ。
更正「つーかまえた」
暗兵「っ!?」
見るとナイフが強く握りしめられている。
鮮血がつたって地面に流れる。
思わぬ一声に思考が凍った。
その瞬間を逃さず右脇腹に衝撃が走る。
暗兵「・・・ッ」
凍った思考をさらに破壊するような一撃。
生半可な鍛え方をしてたら、内臓が潰されていただろう。
ナイフから手を放し、後方に飛びのく。
万全の状態だったら肉体を硬化させて、ダメージを減らせただろう。
敵の拳を破壊することもできたかもしれない。
いや、それよりも・・・。
暗兵(何が起こった・・・?)
気配の消し方は完璧、風の味方もあったはずだ。
それを押しのけて攻撃を察知するなど人間技じゃない。
ましてや『シユウ』として訓練された者の技術。
一般人に反応できる道理はない。
更正「何が起こったかわからねぇ様な顔してんなぁ」
暗兵「・・・」
更正「ずっと考えてたんよ。どうやったらお前さんのステルスを破れるかね。
簡単だったよ。如何に気配を消そうが姿までは消えない」
更正「でも、死角から入られたらどうしようもない・・・だからその為のこれさ」
ピンっと弾かれたそれは、綺麗に磨かれた銃弾だった。
鈍い光を静かに放っている。
そこに映っていたのは自分の黒い影。
しかし、それは人間の影というには不定形でおぼろげだ。
下手したら周りの木々に被って見逃してしまうかもしれない。
暗兵(その為にこの場所に誘き寄せたのか・・・)
ここは森の中で隔離された空間。抉られたように木々は存在していなくひらけている。
ここなら前の空間は目で確認できる。
後ろからの攻撃も先程の銃弾に映る影でカバーできる。
さっきまでデタラメな戦い方をしていた人間とは思えない理知的な考え。
更正「へっ!視界に捉えれば俺のもんだ!体は見たまま反射で戦う!」
―――ほんの数刻前
更正「やべー!やべー!!!アイツやべーよ!!!」
更正「もう殺し屋とか血に飢えた猛獣とかそんなレベルじゃねえよアイツ!」
暗兵がアドラーと会話をしていた頃、全力で逃げていた時だ。
更正「むおっ!?この悠長に人をおちょくるが如し、頭に響く声は・・・仙猫ちゃん!?」
仙猫『・・・なんか言い方酷くないですか?』
更正「うるせー、こう言われんの嫌だったら心の中から急に話しかけてくんじゃねー」
仙猫『それよりどうするんですか?あの人無茶苦茶強いじゃないですか』
更正「どうもできないから焦ってるんですうううう!!!」
仙猫『ならこういうのはどうですか?・・・――――』
更正(愛してるよ仙猫ちゃん!お陰で首皮一枚繋がった!)
暗兵「・・・」
驚いた。手に銃弾を隠し持って、背後の様子を探っていたのか。
こんな鈍い光しか出さない筒でよく俺の影を・・・。
暗兵「俺はアンタを過小評価してるつもりはなかったが、それでもまだ足りなかったみたいだな」
更正「今更俺様の凄さに驚いても遅いぜ?坊ちゃん」
暗兵は音をたてず、静かに互いの間合いをとる。
さっきと違い、ピリピリとした覇気を纏っている。
更正(来るなら来いよ・・・大人の本気を見せてやるぜ)
先程の奇襲で奪い取ったナイフを構える。
自分の血で汚れたナイフは赤く輝いている。
暗兵「そのナイフ、注意しておいた方が良いぞ」
更正「あ?」
暗兵「さっきのとは別物だ」
更正「お前さん何言って・・・―――ッ!」
突如ナイフから閃光が漏れだす。
何事か判断する前に―――それは一気に弾けた。
ドオオオオオオオオオオオン!!!
耳を劈く爆音と閃熱が辺りを覆うと、埃が舞い上がる。
火炎は辺りの草木を燃やしつくし、焦土をも呑み込むように炸裂する。
その爆風に巻き込まれた更正は地面に打ち付けられる。
すぐさま目を見開くと、影が自分の眼前に現れる。
突然鈍い衝撃が頭に走る。
脳内がスパークし、眩暈と吐き気が襲いかかってきた。
更正「ガッ・・・・・・!ハッ・・・!」
暗兵「顎とこめかみを思いっきり叩いた。骨を粉砕する勢いで攻撃したはずだが・・・丈夫だな」
更正「げほっげほっ!・・・・・・・・・っのおおおおおおおおおおおお!!!」
更正は軋む体を動かし、暗兵の腹に裏拳を入れる。
だが、意識と体がついてきていない状態の攻撃ではダメージは与えられなかった。
暗兵は即座に腕を掴み―――。
バギッッ!
捻じ曲げた。
更正「がああああああああああ!!!!」
更正の悲鳴を聞く間もなく手刀で胸に衝撃を与える。
一刀、また一刀と目のも止まらぬ速さで斬りつける。
鎧を貫き、皮膚の奥の骨を裂くだろう研磨された手刀。
当然、意識が朦朧としている更正に防ぐ力もなく、無惨に切り刻まれていく。
猛襲が終わると、手に流れる血を払う。
暗兵「終わりだな・・・」
更正「・・・」
声が聞こえてるのか聞こえてないのか・・・。
もう死んでしまってるかもしれない。
そう思えるほどに静かに木にもたれかかっている。
首を掴み、絞め上げながら微かに囁く。
暗兵「―――負けて死ね」
固めた拳を腹にあてがい、体中の力が一点に集中する。
体から肩、肘、拳と伝わっていく掌底は腹部を叩いた。
後ろの木を傷つけることなく内側を爆発させる一撃。
確かな手応えと共に吐血を空中に吐き出す。
内臓や骨、筋組織を滅茶苦茶にするだけでは済まない、素人目から見てもそう思えるような音。
吐いた血の量も尋常ではない。
致死量というには余りに多すぎていた。
男は上を向きながら沈黙した。
暗兵(兵器軍の戦士もこの程度か・・・まぁ、もったほうだな)
「・・・・・・・・・ます」
暗兵「?」
更正「お断りしまあああああああああああす!!!!」
突然、雷ような響きが暗兵の頭を叩く―――頭突きだ。
視界がグルンと一回転するような浮遊感。
あまりの衝撃に吹き飛ぶほどだ。
暗兵「っ・・・」
暗兵は相手との距離を咄嗟にとる。
子供が駄々をこねるような幼稚な技だが、自滅覚悟で突っ込めば敵に与えるダメージは大きい。
意識がふら付くその一瞬に、一つ疑問が頭に浮かんだ。
何故ここまで手こずる?と。
敵がただの人間ではないということは再三確認したはずだ。
なのに何故ここまで奴の牙が自分に届くのか。
アドラーが言いたかったのはこれか。
俺は心の底の何処かで油断していた。
いや、確かに「油断」という言葉が一番表現として近い気がするが少し違う。
油断・・・というには小さすぎる僅かな揺らぎ。
それが無ければ最初に逃げられた瞬間にでも殺しにかかっていただろう。
どうして追わなかったのか、今思えば惜しい。
この世界に来る前のことはほとんど覚えてないが感覚で解かる。
暗兵(前の世界で俺は優しい陽だまりの中で俗呆けしてたんだろうな・・・)
暗兵「ありがたい・・・」
ザワッ―――
更正「っ!?」
暗兵「感謝する。お前が俺の頭をごついてくれたおかげで目が覚めた」
全身に緊張が走る。
細胞単位で体がざわついている。
明らかに空気が変わった。
無機質な顔の中に殺意が直接目を伝って送られてくるのが解かる。
更正(俺の渾身の頭突きはノーダメージかよ・・・まだこっちは頭ズキズキしてんのに・・・)
でもよかった。
多分アイツは自分で気づいてないかもしれねぇけど。
一瞬だけど、すっげぇ柔らかい良い顔になってたよ。
やっぱり子供はこうじゃないとな・・・
更正「しゃーないのー、気のすむまで付き合ってやるよ」
悪いね皆。
俺はここでリタイアかもしんねぇ。
ガランド「はっ・・・!はっ・・・!」
仲間の下へ急ぐこと20分。
大分近づいたはず、それは絶えず鳴り響く銃声で解かる。
ガランド「はぁ・・・はぁ・・・・・・!」
鉄と鉄が擦り合わされた音が嫌な不協和音を生み出す。
それが更に不安を煽ってくる。
ガランド「・・・ッ!・・・止まっ・・・・・・た・・・」
銃声が不意に止まった。
足が震える。
手がうまく握れない。
顔が強張る。
硝煙の匂いと血の匂いの元が近付いてくる。
いつの間にか走るのを忘れ、歩いていた。
目の前の光景に
喉を裂く勢いで金切り声をあげた。
ガランド「更正ええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」
最終更新:2013年02月07日 14:54