── 扶桑皇国 横須賀市上空
抜けるような青空の中を俺はゆっくりと飛ぶ。
欠伸を噛み殺しながら眼下を見ると、広がるのはのどかな田舎の風景。
その中にそれほど大きくない家屋が見えた。どうやら診療所らしい。
俺「……っと、あれか」
ゆっくり降下すると、ちょうど玄関に二人の少女が立っていた。
宮藤「ウィッチ!?」
二人とも驚いているが、そんな事は些末なことだ。
俺「扶桑皇国海軍遣欧艦隊所属の俺中尉だ。宮藤芳佳ってのはどいつだ?」
宮藤「わ、私ですけど……」
俺「そうか。ほら、手紙だ。宮藤博士からのな」
宮藤「ほぁ……え、えええええ!?」
宮藤「あの、これどうしたんですか?」
俺「悪いが詳しいことはわからん。俺はただ、配送の命令をうけただけだからな」
てか、一応中尉なのになんで俺こんな雑用してるんだ……。
宮藤「そうだ、坂本さんに聞こう!」
俺「坂本? ああ、坂本美緒か?」
宮藤「知ってるんですか!?」
俺「まあな」
宮藤「坂本さんならお父さんと一緒に仕事してたしわかるかも!
宮藤「明日、聞いてみます」
俺「それが良いかもな。ま、励めよ」
とりあえず配送の任務を達成した俺は再び空へ浮上する。風を切りながら俺は帰路についた。
ネウロイに異変が起きたという報が俺に届いたのは翌日だった。
ヴェネツィアは陥落。ロマーニャの504部隊は壊滅的被害を受けたという。
新たな任務が通達されるのにそう時間はかからなかった。
下された命令は……簡単に言えば、「緊急欧州支援作戦に参加せよ」
さらに言えば、戦線を離脱している「宮藤芳佳」の代わりということらしい。
昨日のはつまり、自分が誰の代わりに飛ばされるのか確認しとけという意味合いだったらしい。
つまるところ、上層部は最初から俺を前線へ飛ばすつもりだったということだ。
── 扶桑皇国 横須賀基地 飛行艇
俺「……よお、さかもっさん。久しぶりだな」
坂本「俺!? なぜここに?」
俺「お前と一緒だよ」
二言三言言葉を交わしている間に飛行艇は動き出す。
しかしこいつ、なんでマント(?)なんかつけてんだ?
飛行艇が動き出してしばらくすると、坂本が外を見て怪訝そうに呟いた。
坂本「ん? なんだあの桜は」
宮藤「坂本さぁぁぁん!」
坂本「宮藤!? 何してる! 早くもどれ!」
宮藤「お願いです! 私も連れてってください!」
坂本「駄目だ!お前にはここでやることがあるだろう!」
宮藤「でも私! 守──」
俺「──中略」
感動的な宮藤芳佳との合流から早くも一週間がたった。今日中には目的地のロマーニャ軍基地に着くはずだ。
宮藤「あーやっと降りられる~」
坂本「鈍ったな、宮藤。この程度の飛行でもう弱音か」
俺「まあそう厳しいこと言うなよ。もっさん少佐」
坂本「お前が緩すぎるんだ」
「レーダーに未確認機の接近を確認! 急速接近中!」
坂本「何!?」
強い衝撃とともに飛行艇が揺れる。
「第一エンジン被弾!」
俺「おいおい……穏やかじゃないな」
坂本「奴らめ、もうこんなところに来ていたのか!」
悪態をつく間にも攻撃は続く。揺れる機体の中、急に土方が倒れた。
俺「おい! 大丈夫か?」
どうやら脇腹を怪我してしまったらしい。
宮藤「私が!」
宮藤が手をかざすとみるみるうちに土方の傷が癒えていく。
俺「ほぅ、大したもんだ」
坂本「……今は退避だ! 急降下してやり過ごす!」
ネウロイの迎撃にきた海洋上の艦隊が瞬く間にやられていく。このままでは……。
俺「おーい、もっさん少佐。良かったら、俺が出ようか?」
坂本「しかし、相手は大型だ。危険過ぎる……」
宮藤「わ、私も一緒に!」
坂本「だが……」
俺「議論しているのも惜しいだろう。こうしてる間にも味方はやられてるんだ」
坂本「……よし。宮藤! お前は先行してネウロイをヴェネツィア艦隊から引き離せ! 私と俺で後方から叩く!」
宮藤「はい!」
宮藤を見送りながら、俺は腰に愛刀を携えた。ストライカーを履いて、小さく息を吐く。
俺「じゃあ、次は俺かな」
坂本「ああ、頼むぞ。私もすぐに上がる」
「少佐! 魔導過給器が故障、紫電改飛行不能です!」
坂本「何だと!?」
もっさんの声を聞きながら、ストライカーを起動する。勢いよく回り出すエンジンと共に、頭からは狐耳。
俺「仕方ない。もっさん少佐はゆっくりしてな」
坂本「くっ……!」
飛行艇の上から飛び立つ。もっさんは固く唇を噛んでいた。
俺「そんな顔するなよ。大丈夫だって、俺がいる」
もふもふの尻尾を翻すと、俺はネウロイへと向かった。
外に出ると、ネウロイのレーザーを巨大なシールドで防いでいる宮藤が見えた。
俺「やるなー」
言いながら固有魔法を発動させる。効果は能力強化。
俺「反応速度3、敏捷性3、速度4」
ポツポツと呟いたのは、俺が強化したいステータス。数字は強化する能力の割合。
強化する能力を指定することができる。それが俺の固有魔法だ。
当然、攻撃が来るがそんなものには当たらない。何のための能力強化か。
幾筋ものビームを全て紙一重でかわしながら、一気に距離を詰める。
抜刀。陽光に煌めく刃を包むようにして薄い青色の刃が伸びていた。
俺「悪いが速攻で終わらせてもらう!」
俺「攻撃力5、攻撃範囲5」
呟きに呼応するようにして、青色の刃が大きく伸びた。長さにして、普段の刀身のほぼ6倍。
俺「よっこいしょー!」
轟音をたててネウロイを突き抜ける。
振り返ると、ネウロイは煌めく塵となっていた。
宮藤「凄い……」
着水した飛行艇に降り立つ。
土方「お見事です」
俺「いや……」
土方「何か?」
坂本「……手応えがなさ過ぎる」
俺「ああ」
宮藤「きっと、俺さんが強いからそう思うだけですよ」
俺「だったら良かったがな」
俺は空を指さす。
宮藤「え?」
坂本「ネウロイが……再生している」
俺「やれやれだな」
坂本「俺、コアは再生中の先端だ!」
俺「了解! 攻撃力3、攻撃範囲3、速度4!」
一気に距離を詰め、刀を突き立てる。
青い刃に覆われた、普段の4倍の長さはあろうかというそれを俺は勢いよく振り抜いた。
スパン、と綺麗に先端が割れる。
坂本「俺、そいつのコアは移動している! 今は右端だ!」
俺「は?」
坂本「急げ!」
焦った声に急かされて、俺は再び刀をネウロイに突き立てる。
えっと、右端だったな。
そこへ向かってネウロイの上を翔け抜ける。
突き立てた刀が気持ちいいくらいにネウロイの体を割いているが、あまり手応えがない。
坂本「俺! 刀が達する直前にコアが移動している! 同時多重攻撃を仕掛けるしかない!」
俺「それは一人じゃ無理だ!」
坂本「宮藤も上げる! 待ってろ!」
坂本「紫電改はまだか!?」
俺「もっさん! 危ない!」
宮藤「坂本さん!」
飛行艇へと放たれたレーザーに対して宮藤がシールドを張る。
宮藤「っく!」
まずいな……このままじゃジリ貧だ。刀を構えると、加速して再びネウロイに風穴を開ける。
レーザーが途切れた!
俺「もっさん! 今、コアはどこだ!?」
坂本「……ちょうど中心にある!」
俺「わかった。宮藤! 来い!」
俺「俺がなんとか装甲を削る。お前がコアを撃ちぬけ!」
宮藤「は、はい!」
俺「反応速度4、敏捷性3、速度3」
幾筋ものレーザーを文字通り潜り抜けながら、ネウロイへと再び急接近する。
宮藤「す、凄い……!」
固有魔法のおかげで見切ってはいるが、レーザーの数が多い。
俺「っ!」
身を捻ることでギリギリかわす。
わずかに髪の毛と服の裾が焼けた気がしたが、このぐらいなら当たったうちに入らないだろう。
俺「範囲5、攻撃5」
俺は刀を大きく振り上げる。同時に刀の長さが普段の6倍まで伸びた。
俺「とっておきだ。持っていけ!」
今まで片手で構えていた刀を両手に持ちかえる。
俺「飯綱!」
勢い良く振り下ろした刀からは必殺の衝撃波が飛ぶ! わけではない。
魔法で生み出されたビームが飛ぶ! わけでもない。
代わりに生じたのは大きな空気の"揺らぎ"。それははっきりと眼に見えるわけではない。
良く見れば、陽炎のように揺らいだ空気が宙を走っているのに気付くことができるだろう。
それは、"かまいたち"と呼ばれる自然現象に近い。しかし、その範囲も威力も魔法によってはるかに底上げされている。
その揺らぎがネウロイに達した瞬間、彼は音もなく真っ二つに割れた。
消滅はしないが、コアが綺麗に露出している。
俺「宮藤!」
宮藤「は、はい!」
宮藤が引き金を引くが、弾丸は虚しく装甲を削るだけだ。外した!?
コアはすでに装甲の中へと引っ込んでしまっている。
宮藤「ご、ごめんなさい!」
俺「大丈夫だ! もう一度やr」
坂本「俺! どけぇぇぇぇぇ!」
後方からの雄叫びに振り返ると、そこには刀を振り上げたもっさんが。
握られたその刃からは白く煌めく刃が大きく伸びていた。
俺「な!?」
慌てて彼女の攻撃軌道上から外れる。
坂本「烈風斬!」
白色の輝きがネウロイの体を一刀両断する。再び露出したコアに、宮藤はすでに狙いを定めていた。
坂本「宮藤!」
宮藤「はい!」
宮藤の返事と共に、パキンという音がしてネウロイが光の塵へと変わった。再生は、無し。
宮藤「や、やったー!」
俺「ふぅ……」
何とか事無きを得たか。それにしても、烈風斬……凄い技だったな。
俺「なあ、もっさ」
俺「ん?」
ルッキーニ「芳佳ー!」
宮藤「わわ、ルッキーニちゃん!?」
俺「……誰?」
リーネ「芳佳ちゃ~ん!」
宮藤「リーネちゃん!」
俺「誰?」
ペリーヌ「あら、もう終わってしまいましたのね」
宮藤「ペリーヌさん!」
俺「だれ?」
エイラ「よ、よオ、奇遇ダナ」
サーニャ「芳佳ちゃん、久しぶり」
宮藤「エイラさん! サーニャちゃん!」
俺「だr」
バルクホルン「なんだ、私達の出番は無しか」
エーリカ「えー気合入れてきたのになー」
ミーナ「久しぶりですね、みなさん」
宮藤「バルクホルンさん! ハルトマンさん! ミーナ隊長!」
俺「だ」
坂本「わっはっはっはっは! ウィッチに不可能はない!」
俺「」
艦長「伝説のウィッチ達が、アドリア海に降臨した!」
── 501基地
ミーナ「では、連合軍総司令部からの命令を伝えます」
ミーナ「旧501メンバーは原隊に復帰後、アドリア海にてロマーニャに進行する新型ネウロイを迎撃、これを撃滅せよ」
ミーナ「それから、新たに人員が増えることになりました。中尉、自己紹介を」
俺「ただ今ご紹介にあずかりました、俺です。階級は中尉、出身は扶桑です。よろしくお願いします」
みんな無言だ……相変わらずアウェイな感じ。
いや、慣れてると言えば慣れてるよ? 男性ウィッチって珍しいしさ。
でも、流石にこの沈黙はちょっと……。さっきまでだって、俺放ったらかしでみんな話しちゃうしさ……。
ミーナ「えっと……俺さんに質問とかはある?」
お、良いよ! 最高の助け船だよ!
シャーリー「じゃあ、固有魔法は?」
最初に手を上げたのはおっぱもとい、グラマラス・シャーリー。噂には聞いていたが、なるほどこれは……。
俺「固有魔法は、えー……身体能力強化というか、まあそんな感じです」
シャーリー「なんだ、歯切れが悪いな」
俺「具体的に言うと、純粋に身体だけが強化されるわけじゃないと言うか……あー、例えば俺の能力が
攻撃力 100
防御力 100
射程距離 100
反応速度 100
敏捷性 100
最高速度 100
こんな感じで数値化されるとします。そこに固有魔法で能力強化できる数値として、まあ合計1000ぐらい上乗せできます」
エーリカ「1000? じゃあ身体能力がだいたい2~3倍になるってこと?」
俺「いえ。ここからが重要で、この1000という数値がそのまま均等に振り分けられるわけじゃないんです。この1000という能力強化を任意の能力に振り分けることができます」
ペリーヌ「任意の?」
俺「はい。均等に振り分ければ、
攻撃力 267
防御力 267
射程距離 266
反応速度 267
敏捷性 267
最高速度 266
まあ、こんな感じに振り分けられることになりますが、俺の場合極端な話、
攻撃力 1100
防御力 100
射程距離 100
反応速度 100
敏捷性 100
最高速度 100
こんな感じの身体強化もできるということです」
シャーリー「そいつは凄い。その気になれば、普段の11倍の力を出せるということか?」
俺「ピンポイントで、ですけど。それに、厳密にはきっちり11倍になるわけではありません。能力によって上昇具合はバラつきがありますから。特に最高速度にかんしては、ある程度の速度を超えてからはどうしても伸び悩んでしまうのが実際のところです」
俺「ちなみに普段は
攻撃力 200
防御力 100
射程距離 100
反応速度 400
敏捷性 400
最高速度 400
こんな感じに割り振ってます」
シャーリー「なあなあ! それ、スピードに全部上乗せしたらどうなるんだ?」
俺「……やったことがないので何とも言えませんけど、もしかしたらあなたよりも速いかもしれませんね。グラマラス・シャーリー」
シャーリー「ははっ、言うなー」
ルッキーニ「ねー虫好きー?」
俺「嫌いです」
ルッキーニ「うじゅ~……」
俺「他に質問は?」
宮藤「さっきネウロイを真っ二つにしてたのはなんですか?」
俺「あれはまあ必殺技みたいな? それを固有魔法で強化したものだ」
エーリカ「へぇ~、そんなのあるの? ね、今度近くで見せてよ!」
俺「まあ機会があれば構いませんけど」
バルクホルン「……本当に戦力になるのか?」
俺「……それはまああなた達で判断していただければ」
坂本「さっきの結果を見る限り、その点は問題ないだろう。それに、俺は扶桑ではそれなりに有名人だ。なんせ、『被弾数0』だからな!」
バルクホルン「なっ!?」
俺「いや、"ほぼ"0です」
坂本「だが、今まで致命的な被弾はしていないのだろう? だったらそれで良いじゃないか! わっはっはっはっ」
俺「ふむ……」
なるほど、一理ある。
その方が受けも良さそうだし、うん。
俺「じゃあ、被弾数0ってことで」
シャーリー「テキトーだなー」
サーニャ「……エイラと一緒」
エイラ(む! サーニャがあいつに興味を示してる……)
エイラ「おいオマエ! サーニャには手出すなヨ!」
俺「……今のところそのつもりはないのでご心配なく」
エイラ「なんだソレ! サーニャが可愛くないっテことかァ!?」
何こいつめんどくさい。
サーニャ「ぇ、エイラ……」
俺「あー、いや、リトヴャク中尉は可愛らしいし、大変魅力的だとは思いまs」
エイラ「サーニャをソンな目で見んなァー!」
俺「ぇぇぇぇぇぇぇ!?」
最終更新:2013年02月15日 12:27