── 食堂

俺「やっぱり宮藤達の飯が一番上手いぜー」モグモグ

宮藤「ありがとうございます! でも、私達がいない間はどうしてたんですか?」

俺「できる奴らで交代制でやってたんだが……エーリカが少し不憫でな」

宮藤「?」

俺「それがよ、エーリカのやつ、めちゃめちゃやる気出してたのに、大尉と隊長に全力で止められてやんの。どんだけ料理下手なんだろうな」プクク

エーリカ「気になるなら食べさせてあげるー」

俺「え……い、いや、いいよ」

エーリカ「遠慮しなくて良いのに。きっと美味しいよー」

美味しい?

俺「え? だって、え?」

不味いから止められてたんじゃ……。大尉に目をやると、彼女は小さく笑って食事を再開し始めた。

俺「大尉……?」

バルクホルン「どうした中尉、食事が冷めるぞ」

俺「あ、ああ……」





エーリカ「じゃあ今日の俺のお昼は私が作ってあげるよ」

俺「な、なにぃ!?」

待て、それはヤバイのではないか? エーリカの料理は不味いのではないのか!?

バルクホルン「ふ、しっかり味わうのだな」ニヤリ

俺「その意味深な笑みは何ですか!?」

バルクホルン「……」フッ

バルクホルン「ごちそうさまでした。宮藤、今日も美味しかったぞ」

宮藤「あ、はい。ありがとうございます」

バルクホルン「さて、訓練でもするか」

俺「おい待て、待ってください!」

バルクホルン「……」ジッ

俺「大尉……」ジッ

バルクホルン「……」フフッ

バルクホルン「ではな」

あれ、見捨てられた!?






俺「うぅ……気が重い」

お昼が怖い……。
肩を落としながらてくてくと歩く。行き先はハンガーだ。
紫ちゃん改造計画はゆっくりとだが進んでいる。それが終わった暁には、今度こそシャーリーのおっぱいを……!
おっぱいと言えば、宮藤に新しいエロ本を貸してやらねばな……。

坂本「おい俺、ちょっと来い」

俺「うわぁ! もっさん!?」

坂本「化物を見たみたいに言うな。安心しろ、訓練ではない」

俺「じゃあ何でしょう……?」

坂本「お前はたしか、夜間哨戒の経験があっただろう?」

俺「まあ一応……だが、本職じゃないから探知範囲も精度も低いぞ?」

坂本「わかっている。いいからついて来い」




── ミーナの執務室

俺「リトヴャク中尉が風邪?」

ミーナ「ええ。まさかそんな状態のサーニャさんを出撃させるわけにはいかないでしょう?」

坂本「そこでお前には今夜の哨戒をお願いしたい」

トントン、ガチャ

エイラ「失礼しま──ゲっ、何でコイツがいるンだヨ」

坂本「エイラと一緒にな」

俺「……俺は構わないが」

エイラ「必要ナイ。私一人で十分だ!」

坂本「まあそういうな。お前にはレーダーがないだろう?」

エイラ「ウ……お、俺だってそんなノあるって話は聞いてない」

俺「まあ俺は使い魔が少し特殊でな」

エイラ「何だよソレ」

ミーナ「ともかく! 俺さんとエイラさんには今晩の哨戒を行なってもらいます。良いですね?」

俺「了解」
エイラ「……了解」





そんなわけでユーティライネン中尉に睨まれている間に昼の時間がやってきてしまったわけだが……。

俺「なんだこのダークマターは……」

使い古された表現ではあるが、敢えてもう一度言おう。

俺「なんだこのダークマターはっ……!」

エーリカ「わっ、そんな壮大なものに例えてもらえるなんて嬉しいよ!」

俺「おっと、そんなpositiveな返しは予想外だぜ!」

俺「あー、うん。俺今日夜間哨戒だからもう寝ることにするよ」

バルクホルン「待て中尉、食材を無駄にするつもりか?」

俺「そう思うならどうして料理させたんです!?」

ミーナ「まあやらないと上達しないし……たまには、ね?」

俺「ね? じゃないですよ! そもそも、隊長なんて味覚がおかし」

ガッ

ミーナ「食べなさい」

俺「はい」





エーリカ「美味しい? ね、美味しい?」

俺「ぐぶっ、あア……はハッ、食うかイ?」

エーリカ「私は宮藤が作ってくれたご飯があるから大丈夫ー」

俺「ソ、そうカ……ごぶっ、ごチ、ごチチチそうサま㌥た」

俺「じゃアオレ、夜間哨戒めで寝るカラ」フラフラ

バルクホルン「残すかと思ったが、よく食べきったものだ」

シャーリー「俺……無茶しやがって」

ペリーヌ「女性が用意したものをきちんと完食したことは評価できますわね」

坂本「……夜間哨戒に支障がでなければ良いが」

ミーナ「少し無茶させすぎちゃったかしら……」

エイラ「……」モグモグ




── 夜

俺「うぅ……まだ気持ち悪い。口の中が蹂躙された気分だぜ……」

狐「無理してあんなものを食うからじゃ、馬鹿者め」

俺「そんなこと言ったって、せっかく作ってくれたのに何か悪いだろ。隊長も怖いし……お、早いな」

エイラ「……来たのカ」

俺「ま、仕事だからな」

エイラ「腹痛いとか言って、私の足を引っ張るなヨ」

俺「まあ大丈夫だろ」

狐「小生意気な娘じゃの」

エイラ「うわッ、狐!? 尻尾も多イ!」

狐「ふん、足を引っ張らないよう気を付けるのはぬしじゃ」

エイラ「な、何ダヨお前……」

俺「こら、あんまりそういうこと言うんじゃないの」

狐「……ふん」

俺「悪いな、まあ一晩一緒に飛ぶんだ。同じ被弾数0同士、仲良くしようぜ? ユーティライネン中尉」

エイラ「……私の邪魔はするなヨ」








── 上空

俺「さてと……じゃあよろしく頼むぜ、陽子ちゃん」キィィィン

エイラ「何言っテんダ?」

精神を集中させ、普段よりも多く魔力を開放する。痺れるような間隔とともに、尻尾が1本増える。つまり、今の俺には尻尾が2本あるわけだ。

エイラ「何ダ!? お前、尻尾が増えたゾ!?」

俺「ああ、陽子ちゃんには尻尾が3本あっただろ」

エイラ「あったけど、今は2本で……さっきハ1本だったじゃないカ。じゃあもう1本はどうしたんダヨ」

俺「……普段は魔力をセーブしてるんだ。全開にすると、すぐに空になっちまうからな」

エイラ「オマエは魔力量が少ないノか?」

俺「いや……燃費が悪いんだ」

エイラ「一緒ダロ」

俺「結果は似てるかもしれんが、過程が違う」

エイラ「ふぅん……?」





俺「飛行に使う分を除けば、普段はほとんど固有魔法にしか魔力を通していない。尻尾が2本になると陽子ちゃんと繋がって、ある程度力を共有できる。瘴気の探知能力も陽子ちゃんの能力だ」

エイラ「良いことばかりじゃないカ」

俺「確かに強くなるし、魔力の絶対量は増えるんだが……陽子ちゃんの力が強すぎてな」

俺「固有魔法に加えて、探知能力、妖狐の強力な魔力の制御にも気を回さないといけなくなって、結果として魔力の消費量が増えるから結局はマイナスだ。だから、魔力の調節ができるようになるまでは正直大変だった」

エイラ「ふぅん……その、"ヨウコチャン"の魔力はそんなに凄いのカ?」

俺「ああ。もし調整しなかったら、ストライカーが壊れるレベル」

エイラ「じゃあ尻尾3本にシタら」

俺「超短時間だけスーパーヒーローになれるぜ?」

俺「……ん? ネウロイ、か……?」

エイラ「ドウシタ?」

俺「いや……陽子ちゃん?」

狐(まだ遠いゆえ断定はできぬが、確かに丑寅の瘴気がいやに濃いな)

俺「ふむ……ユーティライネン、ネウロイだ」






エイラ「本当か?」

俺「北東の方に強い瘴気を感じる……気がする」

エイラ「気がするって何ダヨ!」

俺「いや、ぶっちゃけ探知能力"もどき"だから精確性に欠け」

エイラ「っ!?」

エイラ「俺! 危ない!」
狐(俺! 来るぞ!)

俺「なっ!?」

エイラ「っ!」

慌てて散開する。数瞬遅れて俺達がいたところをネウロイの光線が通りすぎていった。

俺「おいおいマジかよ。こっちはまだ視認もできてないんだぞ」

エイラ「俺、また来る!」

俺「ちっ、反応速度4、敏捷性3、速度3!」





俺「陽子ちゃん、ナビゲート頼む!」

ネウロイのビームに沿って飛びながら、そう叫ぶ。

狐(さっき言ったじゃろう! 丑寅の方角で遠くじゃ!)

俺「大雑把すぎるわ! ただでさえ夜暗と同化して見辛いってのに……。ユーティライネン! とりあえず距離を詰めるぞ!」

エイラ「ム、お前が私に命令するナ!」

俺「じゃあどうするんだよ!」

エイラ「ウルサイナー」

俺「何ぃ?」

2人でなんやかんやと言い争いながらもビームを回避しつつ接近を試みる。

エイラ「……ふぅん。被弾数0ってノモ、あながち嘘じゃナイみたいダナ」

俺「お前こそ流石だな。ユーティライネン、いや、ダイヤのエース」

幾筋もの光が走っているが、そんなもの俺達にかかれば何てことはないただの道しるべだ。お互いをフォローしながら確実に距離を詰めていく。

エイラ「……オマエ思ったよりもやるナ」

俺「そいつはどうも。はは、かのユーティライネン中尉に褒められたとあっては、尚更被弾はできないなー」

エイラ「……フン」

エイラ「ユーティライネンじゃなくて、エイラで良い」





エイラ「……大きいナ」

接近したネウロイは予想以上に巨大だった。起伏のない黒色の塊が赤色の輝きを撒き散らしながらゆっくりと進んでいる。

俺「対空砲火が半端ない……」

エイラ「でもそんなの私達には関係ない、ダロ?」

俺「当然」

すいすいとビームをかわしながら彼女は発砲する。しかし、それも表面をなぞるばかりですぐに回復されてしまう。

俺「俺達の火力じゃ少し心許ないな……増援を頼むか」

エイラ「どれぐらいで来るッテ?」

俺「……約30分」

エイラ「長いナ……少し牽制スル」







彼女は見事だった。華麗なまでの動きでビームを避けまくる。俺もそれに続き、ビームをかわしながら刀を引きぬいた。

俺「飯綱!」

空気のゆらぎがネウロイに傷をつけるが、すぐに再生されてしまう。

俺「ちっ、斬るだけじゃ有効打にすらならないか……」

愚痴を零しながらもビームを回避する。一箇所に留まっていてはあっという間に消し炭だ。
固有魔法を攻撃にまわせば、大型のネウロイを両断するぐらい訳ない。だが、飯綱は"斬る"だけだ。斬撃と言っても良い。有効面積が小さいその攻撃はコアに当てなければ効いているとは言い難い。
何せ、相手は切り傷など簡単に再生してしまうのだ。コアの位置がわからない以上、雨のような対空砲火の中を回避を捨てて攻撃にまわすのはリスクが高すぎる。
エイラも手持ちの銃で外殻を削ろうとしているが、その銃弾はコアに届くには程遠い。彼女はムキになったかのように銃弾を叩き込んでいる。

俺「おいエイラ! あまり突っ込むな!」

エイラ「ウルサイ。私は予知ができるンダ。あんな太いだけのビームナンテ当たらナイ」

俺「過信し過ぎだ。隠し玉があるかもしれない。もっと警戒しろ!」

エイラ「でも、ここから撃っても銃弾の威力が減衰して効いてナイ。もっと近付かないと削れないダロ」

俺「だから、みんなが来るまで」

エイラ「アーもう、大丈夫ダッテ! 怖いナラそこで見てロヨ」

俺「待てエイラ!」






彼女は無駄のない動きでビームをかわしながら、ぐっと距離を詰めた。今まで通りビームを避ける軌道を取りながら銃を構える。同時に不自然に動きが止まった。

エイラ「な、ビームが……? こんなの、避けられ──」

彼女がポツリポツリと呟いたその刹那の瞬間だった。彼女へと放たれたビームが何十もの極細のビームへと拡散した。

俺「エイラ!? 速度10!」

俺「シールドを張れ! 早く!」

エイラ「し、シールド。シールド……?」

駄目だ。良くないことを予知してしまい混乱してるのか、それとも単純にシールドを張れないのか……彼女は硬直したままシールドを張ろうとしない。ビームは彼女を取り囲むような軌道を描いていた。だが、まだ囲まれては居ない。

俺「くそっ!」

狐(よせ! 間に合わない! 危険だ!)

彼女はもう眼と鼻の先なんだ。あと少し、もっと速く!

俺「間に合わせる!」キィィィィィン

ビリビリと体を電流が駆け抜ける。尻尾がさらに1本増えたのがわかった。これで尻尾は3本。これで追いつけないなら……

狐(俺、止め)

俺「速度30!」





俺「エイラ!」

ビームの軌道上から彼女を押し退ける。代わりに、俺の周りには赤い包囲網。
なるべく被弾範囲が小さくなるように体を捻りながらシールドを張る。

狐(シールドを! 早く!)

俺「防ぎy」

ビームがシールドを突き抜けてくるのがやけにゆっくりに見えた。
音もなく体が貫かれていくのがわかる。ビームが極細だったためか、体が消滅するなんてことはなかったが、代わりにお腹や手足に何個か穴が空いたような気がする。
頭や心臓に直撃しなかったのは不幸中の幸いかもしれない……。魔力制御に気を回せなくなったためにストライカーが煙を吹き始めた。足から抜け落ちていく。

俺「っ……」

当然俺も落下しているのだろう。浮遊感に包まれながら意識が飛びかける。

エイラ「俺!」

彼女に抱きすくめられているらしい。とても近くから声が聞こえた。

エイラ「お前、なんで……シールドも、全然……」

狐(妾の力で無理矢理止血はした。じゃが、このままでは、ぬし……)

俺「悪、い。しく、った……」

エイラ「喋るな!」

エイラ「クソっ、ミヤフジ! 俺が、俺が──」
最終更新:2013年02月15日 12:28