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逃げても隠れてもあいつは追ってきた。自分も、仲間も傷だらけで、恐怖に涙を流すものもいた。

女友『う……嫌だよ、死にたくないよ』ガクガク

女『っ……くっ……』ポロポロ

震え、嗚咽を漏らす彼女達にひしひしと罪悪感が湧いてくる。

俺『……隊長、もう無理です。ここは俺が』

隊長『駄目よ。誰も死なせないわ。あなたを犠牲にすることも嫌』

俺『でも、あいつは俺を追ってきてる! 俺がいるからみんなは……隊長! もっと合理的に考えてください!』

隊長『何言ってるの。あいつは、人間を憎むと言っていたわ。その矛先が今はあなたと陽子さんに向いているだけ。あなたを殺せばあいつはまた別の人間を殺すでしょう』

俺『でも……』

隊長『黙りなさい。みんなで生き延びるのよ。もうすぐ増援も来る。何とかそれまで持ちこたえましょう。ここで、迎え撃ちます』

隊長『あなた達も、泣くのは止めなさい。それとも、俺を囮にして逃げたい?』

──
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目を開く。差し込んでくるのは暖かな日差しと、無機質な天井。

俺「……」

昔の夢。それを見るのは何度目だったか。別に珍しいことでもないし、逆に頻繁に起きていたことでもない。今更感情が揺り動かされることは無いが、見たいものではない。

トントン

エイラ「オイ俺。起きてるか?」

昔の夢を見ようが見まいが、やることは変わらない。そう、今はそれよりも……目先のことを考えなければ。

俺「ああ、今行く」

エイラ「急げヨ」

ドア越しに聞こえてくる小言を聞きながら、服を着替えて寝癖を直す。小さくため息をついて、ドアを力なく開けた。

エイラ「オソイ」

俺「ごめん」

エイラ「まあ良いけどナ。それより、狐は?」

俺「……結局振られちゃった」

エイラ「そうか……」シュン

俺「まあ二人でもなんとかなるだろ。大尉だって別に、取って食おうとしてるわけじゃあるまいし……」

エイラ「……ドウダカナ」

俺「え……下手したら俺の妹食べられちゃうの?」

エイラ「だから迎えに行くんダロ。わ、私たち2人で」







俺「ふむ……一応聞くが、お前は今日非番なんだな?」

エイラ「わざわざオマエのためにシフトをいじってもらったんだ。感謝シロヨ!」

俺「よし、今度何か奢ろう」

エイラ「でも、今回ダケダカンナー。明日はシフト入ってるシ、その後は自分で何とかシロ」

俺「十分だ。妹が帰るまでは俺も街で過ごすつもりだしな。まさか大尉も連日街に繰り出すわけにもいくまい」

エーリカ「何の話ー?」

俺「うわぁっ!?」

エイラ「!?」ビクッ

俺「お前、何でそんなに神出鬼没なの? びっくりするわ! あと、今は関係無いけど勝手に部屋に入るのはやめてくださいお願いします」

エイラ「オイ、どうするんだヨ」コソコソ

俺「ふむ……せっかくだから、手伝ってもらう?」コソコソ

エイラ「……ソウダナ」

俺「あー、エーリカ。俺たちは今から、妹を迎えに行くんだ」

エーリカ「……トゥルーデ絡み?」

俺「何だ、知ってたのか? それなら話が早い」





エーリカ「まあトゥルーデとは付き合い長いし。それに昨日、何か出かける準備して寝てたから……」

エーリカ「手伝ってあげても良いよ?」

俺「ホントか?」

エーリカ「でもこれで、また貸しが1つ増えるね」ニシシ

俺「」

エーリカ「」ニコッ

エイラ「……何の話だ?」

俺「……いや、何でもない。じゃあエーリカ、対策として何か案はあるのか?」

エーリカ「無いよ?」

俺「えっ」

エイラ「エッ」

エーリカ「だって、わざわざ休み取って出かけようっていうトゥルーデを止めるなんて可哀想じゃん」

エーリカ「まあでも……時間ぐらいなら稼いであげる」

エイラ「じゃあその間に私と俺で妹を保護すれば良いんダナ!」

エーリカ「そういうこと。頑張ってねー」





宮藤「俺さーん!」

俺「ん?」

宮藤「良かった。もう出かけちゃったかと思いましたよ」

俺「何だ?」

宮藤「これから買い出しに行くんですけど、何か必要なものとか……」

エイラ「オマエナー、私達も今から街に行くんだゾ?」

俺「まあ……そうだな。欲しい物があったら自分で買ってくるから気にしなくて良いぞ」

エイラ「宮藤は間抜けダナ」

宮藤「う……」ハズカシイ!

俺「ははは、良いじゃないか。わざわざ聞きに来てくれるなんて、宮藤は良い子だなー」ナデナデ

宮藤「あ、あの……」カァァァ

エイラ「……宮藤なんて放っといて早く行く!」

俺「お、おぉ? 何だよ、押すなって……じゃあ宮藤、行ってくるなー!」

宮藤「はい。いってらっしゃい。街で見かけたら声かけてくださいねー」





── ローマ

エイラ「それで、どこに行けば良いんダ?」

俺「駅」

エイラ「……アバウトダナ。オマエの妹、結構小さいんダロ? 本当に大丈夫ナノカ?」

俺「……止めろ。凄い不安になってきた。そもそも一人で海外旅行ってのが間違って……ん?」ピクン

エイラ「ドウシタ?」

俺「いや……何か不穏な気配が」

エイラ「?」

俺「……いや、いい。妹が心配だ。とりあえず駅に向かおう」

────
── 501基地

シャーリー「よし、じゃあ行こうか」

宮藤「はい!」

バルクホルン「待てリベリアン」

シャーリー「おー、どうした?」

バルクホルン「私も乗せてってくれないか?」ニヤリ





── 駅

妹「お兄ちゃーん!」

俺「おー妹! よく来たな」

妹「うん! 一人旅ができるなんて、私ももう大人の女でしょ?」

俺「そうだな。10年早いなー」

妹「む……ん? 彼女?」

エイラ「か、カノ!?」

俺「ははは、だったら良かったのにねー」

エイラ「ヨカッ……!?」

俺「仲間だよ。同僚のエイラだ」

エイラ「」ゴホン

エイラ「エイラ・イルマタル・ユーティライネンだ。その……ヨロシクナ」

妹「」マジマジ

妹「クスッ」

妹「はい! 妹です。こちらこそよろしくお願いします!」





── ローマ市内

俺「どうだ? あっちでは見れない街並みだろ」

妹「うん!」キラキラ

俺「ふふ、あっちにはな──」ニコニコ

妹「────」

俺「────」ニコニコ

エイラ「はぁ……」ジー

俺「────」ニコニコ

エイラ「……シスコン」

エイラ「ふふッ」ニヘラ

エイラ「オイ俺! それはソッチじゃなくてコッチだ」

俺「えっ……そうだったか?」

エイラ「ソウダ。まったく……オマエも少しは下調べしておけよナー」

妹「あら、じゃあエイラさんはわざわざ私のために下調べしてくれてたんですか?」

エイラ「エッ!? そ、そそそソんなことナイゾ」






妹「でも今、お前"も"って……」

エイラ「うわわ、そ、そんなこと言ってナイ!」

妹「うふふ、それとも……」

妹「お兄ちゃんとのデートが楽しみでした?」ボソッ

エイラ「」カァァ

エイラ「ち、違う! 私はその……妹が来るっていうから仕方なくダナ……」

俺「なんだなんだ、内緒話か? 早速仲良くなってくれたようで──ん? なんだこの視線……」

エイラ「エ?」

── 人混み

バルクホルン「」ニコッ

俺「」

エイラ「オイ、どうし……タ……大尉!?」

俺「」ダラダラ

エイラ「オ、おおおオイ! ど、どうするんダ?」ダラダラ

妹「どうしたの? あら、お兄ちゃんのお友達?」





俺「ま、まぁな」

妹「じゃあ挨拶しなくっちゃ!」フンス

俺「い、いやいやいや、ちょちょっと待っててね」タタタ

俺「こ、こここんにちは大尉。奇遇ですね!」

バルクホルン「ああ、中尉。私もちょうど今日は休暇でな」ニコニコ

俺「そうでしたかーいやーぐうぜ」

バルクホルン「ところで中尉、あの可愛らしい女の子が妹かな?」ニコニコ

俺「うぐ……えぇっと……」チラリ

妹「」ヒラヒラ

エイラ「」ナントカシロ!

どうしろっていうんだよ……。そして妹、手を振るな

バルクホルン「」ニコニコ

あれ、これ大尉意外と普通なんじゃね? だってほら、こんな良い笑顔を振りまいてるし。可愛いし。でも……

妹「お兄ちゃーん」トテトテ

来ちゃったよ!






妹「お友達?」

エイラ「……」アーア

バルクホルン「こんにちは。私はゲルトルート・バルクホルン。俺中尉とは同じ部隊で一緒に戦っている。よろしくな」ニコッ

妹「妹です。いつも兄がお世話になってます」ペコリ

エイラ「オイ、いったいどうするつもりダヨ」コソコソ

俺「いや、もう会っちまったもんは仕方なくね? それにほら、大尉も意外と大丈夫……」コソッ

バルクホルン「」ハァ-ハァ-

俺「じゃなかったわ」

エイラ「ダナ」

俺「うぅ……」アタマカカエル

エイラ「……まあそう悲観するナヨ。今のところは何の問題もなさそう、だ……し……?」

俺「どうし……あ、ら?」キョロキョロ

俺「えっ……え……?」オロオロ

エイラ「いなくなったナ……オマエの妹。あと、大尉も」

俺「」





俺「」

エイラ「オイ、しっかりシロ」

俺「はっ、妹! エイラ、頼──」

エイラ「わかってるヨ。手伝ってやるッテ。お前には……その、恩もあるしナ」

俺「恩なんて……いや、ありがとう。助かる」

エイラ「ふふっ」

エイラ「オマエのその……素直なところ、私は──」ハッ

エイラ「な、何でもナイ! 早く探しに行くゾ」

俺「なんだよ、褒めてくれるなら、じゃんじゃん褒めて良いんだぜー?」

エイラ「ふん、よくよく考えたら、オマエ全然素直じゃないダロ。自室療養の時だって、言うこと聞かないで勝手に抜けだしてたしナ」

俺「ははは、ホントだ」

エイラ「……まったく。ほら、早く行くゾ」

俺「ああ、と言っても、アテはあるのか?」

エイラ「ウ……」

宮藤「俺さーん!」






俺「宮藤?」

シャーリー「俺ー」

宮藤「あの、ルッキーニちゃん見ませんでした?」

俺「いや、見てないな……何かあったのか?」

宮藤「それが、お金持ったままいなくなっちゃって……」

俺「あらまあ」

エイラ「でも、私達は見てないナ」

宮藤「そうですか……」シュン

シャーリー「まあ見かけたら捕まえといてくれよ。そういえば、噂の妹はどうしたんだ?」

俺「……くっ」

エイラ「イナクナッた。たぶん、大尉と一緒に」

シャーリー「? どういうことだ?」

俺「つまり、俺の妹は大尉に攫われてしまったのさ!」

宮藤「そんな……」

狐「話は聞かせてもらった! このままではローマは滅亡する!」





エイラ「……いきなり出てきて何言ってんだお前」

宮藤「陽子さん……?」

シャーリー「ははは、意味分かんねー」

俺「……良いか陽子ちゃん。何度も言ってるが、妹は爆発したりはしないんだよ?」

狐「ええい、うるさいうるさい! 木っ端微塵じゃ!」

エイラ「……どうしたんだコイツ」

俺「いや……何かよくわからないんだが、妹と陽子ちゃんって仲悪いんだよね……」

俺「ともかく、妹探しながらルッキーニも探すからさ、そっちも大尉見かけたら捕まえといてくれよ」

シャーリー「よくわからないけどわかった」

俺「ほら、陽子ちゃんもわかったから戻ってなさい。ね?」アトデナデテアゲルカラ!

狐「むぅ……ふん。後で妾を頼っても遅いからの!」

宮藤「いなくなっちゃった……」

エイラ「……何だったんダ?」

俺「ふむ……」

陽子ちゃんらしからぬ支離滅裂さではあったが、ローマ滅亡ねぇ。





俺「シャーリー、お前らストライカーは?」

シャーリー「ああ、一応持ってきてるけど」

俺「念のため、いつでも使えるようにしといたほうが良い」

宮藤「ネウロイ、ですか……?」

俺「わからん。杞憂で済めば良い。でも、もしもの時に迅速に対応できなければ街が危ないだろ?」

俺「言っていることは支離滅裂だったが……陽子ちゃんの言うことだから」

エイラ「……随分信頼してるんダナ」

俺「まあな……陽子ちゃんとは付き合いも長いから」

シャーリー「ふぅん……? わかった。俺がそう言うならいつでも動けるようにはしておくよ。俺とエイラは休暇だろ? ゆっくり楽しめよー」

俺「おう、ありがとな」

シャーリー「じゃ、ルッキーニの件よろしくな」

エイラ「ソッチもよろしく頼ム。じゃあえぇっと……」

俺「そうだな……2時間後にあの大聖堂で落ち合おう」

宮藤「はい! じゃあまた後で」
最終更新:2013年02月15日 12:31