俺「う~ん……」

唸りながら廊下を歩く。昨日のリトヴャク中尉の言葉、あれはつまり、エイラには手を出すなと、そういうことだろうか。
そもそも俺は、エイラに手を出してはいないのだが……。

エイラ「俺、おはよう」

確かに、この部隊で一番親しくなったのはエイラかもしれないし、外見が一番好みなのもぶっちゃけエイラだ。
だが、手を出すかというのは別の話だし、だいたい手を出したからと言って、リトヴャク中尉から奪うとかそんなつもりは毛頭ない。

エイラ「……オイ、俺」

いや、そもそもエイラは中尉のものなのか?
……エイラの中尉への執着ぶりを見ると、あながち間違いでもない気がしてきた。

エイラ「……俺!」

俺「ほわぁっ!」

俺「な、何だエイラか……おはよう」

エイラ「何だじゃナイ。私を無視するなんて、オマエ良い度胸ダナ」

俺「悪い。少し考え事をな……リトヴャク中尉は一緒じゃないのか?」

エイラ「サーニャはまだ寝てる。昨日は大変だったシナ」

俺「……でも、お前は起きてるんだな」






エイラ「た、たまたま目が覚めてナ」

俺「ふぅん……」チラリ

エイラ「?」クビカシゲ

俺「う……」

このままいつものようにエイラと接していたら、リトヴャク中尉はどう思うのだろう。
エイラといると楽しいし、心地良いから一緒にいることはむしろ嬉しいのだが、そうするとリトヴャク中尉の機嫌を損ないかねない。部隊のみんなとは良好な関係を築きたいからそれは避けたい。

俺「………………」

待て。今、俺は何を思った? 心地良いから、エイラと一緒にいたい?

俺「…………」

俺は何を思っているんだ。俺何かが、そんなことを……おこがましいにも程がある。

俺「……」ダッ

エイラ「俺っ!?」

少し、調子に乗っていたかもしれない。そもそも俺がみんなと仲良くしたいのだって、"死なない"ためには仲間が必要だからで……それだけだったはずなのに。俺は、エイラに何を思った? 俺は……

――――
――




宮藤「俺さんの様子がおかしい?」

エイラ「ウン」

私は今、宮藤の元へ来ていた。朝会った時から様子がおかしい俺について聞きたいことがあったからだ。
宮藤に相談するのは些か不満があるが、こいつと俺は何故か仲が良いし……何か知ってるかも、とも思ったのだ。

宮藤「そうですか? そんなことはないと思いますけど」

エイラ「いや、オカシイ。何か、私を避けてるというか……」

エイラ「朝会った時ハ急に走りだすし……その後も、何かと理由をつけていなくなるし……終いには、私を見ると逃げルし……」

宮藤「何ででしょうね? 私にはそんなことないですけど……」

エイラ「……もういい。お前に聞いたのが間違いだったナ」

宮藤「」

――――
――
シャーリー「俺の様子がおかしくないかって?」

シャーリー「そうか? いつも通りだったぞ」

シャーリー「いつも通りストライカーの話をして――ああ、今あいつ自分のストライカー改造してるんだよ。えっと、それで……なんだっけ」

シャーリー「ああ、そうだ。ルッキーニに虫近付けられて悲鳴を上げて、いつも通り私の胸をチラチラ見てたかな」

シャーリー「え? いや、特別なことはしてない……そんな悲観するなよ。エイラだって、どちらかと言えばある方じゃないか?」





バルクホルン「俺の様子?」

バルクホルン「そうだな……特に変わったところは見受けられないが、何か悩んでいるような表情でいるのは見かけたな」

バルクホルン「あいにく、手が離せなくて話は聞けなかったが……ん? 何か知っているのか?」

バルクホルン「そうか。まあ、暇なら相談にのってやったらどうだ? いつも一緒にいるお前なら俺も話しやすいだろう」

バルクホルン「……どうした。顔が赤いぞ」

――――
――
坂本「ん? 俺がどうかしたのか?」

坂本「ふむ……そういえば、今日は珍しく訓練に乗り気だったな。久しぶりに剣の手合わせをしたが……うん? ああ、負けてしまったよ。私もまだまだ修行が足りないな」

坂本「あいつが刀で戦いたがるのも頷ける。陽子に稽古をつけてもらったらしいが……私も教えを乞いたいものだ」

坂本「む? どうした、嬉しそうだな」

坂本「……そうだな。強いウィッチが味方だというのは、心強いものだ。私ももっと強くならねばな。どうだ? これから一緒に訓練でも……」

坂本「……そうか。残念だ」






サーニャ「エイラ」

エイラ「サーニャ、よく眠れたか?」

サーニャ「うん」

サーニャ「俺さんのこと聞いて回ってるみたいだけど……どうかしたの?」

エイラ「……何だか、避けられてる気がするンダ」

エイラ「それも、私だけみたいで……サーニャ、私、何かしたカナ?」

サーニャ「……ごめんね、エイラ。私にはわからない」

サーニャ「でも……気になるなら、俺さんに直接聞いてみたら良いと思う。もしかしたら、本当に何か困ってるのかもしれないでしょう?」

サーニャ「そういう時、エイラが助けてあげたら……俺さんはきっと、凄く喜ぶと思う」

エイラ「でも、私は今、避けられて……」

サーニャ「エイラ」

サーニャ「エイラは、このままで良いの?」

エイラ「……私」

エイラ「私は……」



―― 俺自室

狐「……俺」

俺「……うん?」

狐「何を迷っているのじゃ?」

俺「いや……」

狐「エイラ……それからあの幸薄そうな小娘のことか」

俺「……そんなこと言うもんじゃないよ」

狐「……ふん。リトヴャク、だったかのぅ? あやつに言われたことを気にしておるのじゃろう?」

狐「そして、それがきっかけで……今の自分のあり方に疑問を感じた。といったところかのぅ」

俺「……はは、陽子ちゃんにはかなわないな」

俺は、間違っていたのかもしれない。俺なんかが毎日を楽しく、仲良く過ごそうなんて。それどころか……

俺「エイラと……一緒にいたい、だなんて」ボソッ

狐「……やれやれ」

狐「ぬしは深く考え過ぎじゃ。ぬしが誰と仲良くしようが、楽しく過ごそうが……それを咎める権利など、本来誰にもありはせんというのにのぅ」

俺「でも俺は……誰かと仲良くなることすら、本当は――」

狐「ぬしよ。確かにぬしは取り返しのつかないことをしておるのかもしれん。じゃがな、どんな生き物とて、生きている間は幸せになっても良いのじゃよ」






狐「負い目を感じる必要はない。罪の報いなら、いずれ受けることになるじゃろうからな。それが明日なのか死に際なのか、あの世なのかはわからんがの」

俺「あの世なんて……」

狐「何を言う。ぬしのようなウィッチに妾のような妖怪、そして異形のものたるネウロイ……本来の道理から外れたような者が闊歩する世界じゃ。あの世とて……あってもおかしくはあるまい?」

俺「……」

狐「ぬしはどうしたい? 自分を押し殺し、ただただ戦い続けるか? それとも……幸せを得たいのか」

狐「ぬしが罪悪感を強く感じておることは知っておるよ。じゃが……本当はどうしたいのじゃ?」

狐「死なないために仲間が必要。じゃから、皆と仲良くする……そう、ぬしは言うがな。本当は、ただ仲良くしたいだけなのじゃないのか? 妾にはそう見えるよ」

俺「それは……」

狐「自分を騙し続けるのも、そろそろ止めにしたらどうじゃ?」

狐「ぬしはぬしのしたいようにするのが良かろう。自分に正直に生きるのが一番気持ち良い。妾はそう思うよ」

俺「……」

トントン

エイラ「俺、いるんだろ?」

狐「ふふっ、噂をすれば、じゃな」

狐「俺、妾の言ったことを忘れるな? ぬしは、幸せになって良い。よく考えることじゃな」





ガチャ

俺「……何か用か?」

エイラ「とりあえず、部屋に上がらせろヨ」

俺「ん……散らかってるが」

エイラ「イイヨ。それより、もう逃げるなヨ?」ジロリ

俺「……わかった」

――――
――
エイラ「それで、何で私のこと避けてんダヨ」

俺「……少し、反省した」

俺「みんなに……お前に甘え過ぎてたかなって」

一緒にいることが楽しすぎて、自分の立場を忘れていた。

エイラ「甘え……?」ドコガダヨ

エイラ「よくわからないケド、これからはまたいつも通りだってことか?」

俺「……わからない」

エイラ「……は?」





俺「俺は、どうしたら良い?」

エイラ「……何言ってんだよ」

俺「……『僕は、キミを許すことはできないと思う』」

エイラ「え?」

俺「昔……ある人に言われたことだ」

エイラ「……」

俺「『戦って、戦って、そして、多くの命を救おう』……同じ人に、そう言われた」

俺「だから俺は、部隊のみんなと仲良くなろうと思っていた。長く戦い続けるため……戦場で少しでも生存率を上げるには、背中を預ける仲間が必要だからな」

俺「そんな、打算的な理由でみんなと過ごしていたんだ。最初はな」

俺「だが、いつの間にか……みんなと、お前達と過ごすことがとても心地良いものになっていた。毎日が楽しかったよ」

俺「だけどな……ふと、思ってしまったんだ」

俺「果たして俺に……そんな資格があるのだろうかってな」

エイラ「……どうしてそんなこと言うんだよ」

俺「……俺は本当なら、銃殺刑に処されるべきことを犯している」






エイラ「え……それって、どういうことだ?」

俺「……」

エイラ「……黙りかよ」

エイラ「全部話せ」

エイラ「オマエが隠してること、抱えてること……全部教えろよ」

俺「っ、それは……」

エイラ「私が信じられないか?」

エイラ「それを話したら、私がオマエを軽蔑すると……そう思ってるのか」

俺「っ……」

エイラ「目をそらすな。私を見ろ」グイ

俺「エイ、ラ……」

エイラ「大丈夫だよ。私が全部聞いて、受け止めてやる。だから……そうやって胸の中で抱えるのはもう止めろ」

俺「……」

エイラ「……話してくれないのか?」





俺「……」

エイラ「……」ムッ

エイラ「何でだよ!」

エイラ「1人で何でもできるとでも思ってるのか!?」

エイラ「話せば好転することだってあるかもしれない。なんで私を、私達を信じてくれないんだ!?」

エイラ「私達は"今の"オマエを信頼してる! オマエが昔何をしてようが、簡単に嫌いになったりなんかしない!」

俺「……お前は」

俺「お前は何も知らないから、当事者じゃないからそんなこと言えるんだ!」

俺「俺がいったい何を……どれだけのことをしたと思ってる!? 俺がしたことを知ったら、きっとみんな俺を信じることができなくなる!」

俺「俺と一緒に飛ぶことが怖くなる! だから、俺は……俺はっ……!」

エイラ「だから、話せって言ってるんだろ!」

エイラ「話してくれなきゃ信じるも疑うも、何もできない! だから、まずは話せ!」

俺「……」ハァハァ

エイラ「……」ハァハァ





俺「ちっ……」

俺「……味方殺し」

俺「それが、俺が犯した罪だ」

エイラ「なっ……」

俺「幻滅したろ? 俺はそういう人間なんだ。だから――」

エイラ「待てよ」

エイラ「私が聞きたいのはそんなそっけない"結果"じゃない」

俺「っ!?」

エイラ「オマエの身に起こったことを話せ。その過程……どうしてオマエが、そんなことをしたのか。それを話せよ」

俺「……エイラ、お前」

エイラ「じゃなきゃ、私は納得しない」

俺「何で……どうしてお前は、そんなに俺のこと……」

エイラ「前に言っただろ……私も、オマエのこと大事な仲間だと思ってるって」

エイラ「オマエが私を助けてくれたように……私は、オマエを支えてやりたい」

エイラ「……私には、オマエが悪い奴だとはどうしても思えない」





俺「……」ジワ

俺「ありがとう、エイラ」

俺「……わかった。聞いてくれ」

エイラ「……」コクリ

俺「……本当は、守ろうとしたんだ」

俺「……」

俺「俺には力がある」

俺「俺は、全てを守れると思っていた。守りたかった」

俺「でも、守ろうと大事に抱えていたものは簡単に零れ落ちて、あろうことか俺はそれを……自分自身で踏み砕いてしまったんだ」
最終更新:2013年02月15日 12:32