前回のあらすじ
エイラ「何か俺に避けられてる気がする」
狐「俺、ぬしも幸せになって良いのじゃよ」
エイラ「私が全部受け止めて、オマエを支えてやる」
俺「大事なものを、俺は自分自身の手で壊してしまった」
俺「……昔いた部隊での話だ」
俺「当然今と同じように女性ばかりだったが……居心地が悪いなんてことはなかった。みんな良い人だったからな」
俺「背中を預けあって戦って、一緒に笑って……正直幸せだったよ。戦地に身を置いているっていうのにな」
エイラ「……」
俺「……その日は風の強い日だった。殴りつけてくるような強風を体に受けながら、俺たちはネウロイの迎撃に向かっていた。出撃人数は5人。隊長と女、女友とその妹、それから俺……と言っても、お前には知らない奴ばかりだろうな」
俺「その途中での事だ」
俺「見知らぬ男が、空中に"立って"いた」
エイラ「男?」
俺「ああ。そいつは、狐耳と大きな尻尾を5本生やしていた」
エイラ「それって……」
俺「ああ。そいつは……人間じゃなかった」
――――
――
男「……」
男は黙したまま不敵に笑う。俺たちは即座に臨戦態勢を取り、銃口をそいつに向けた。
隊長「何者ですか? 所属を述べなさい」
男「そんなものは無い。俺を貴様ら人間と一緒にするな」
隊長「……?」
男「俺は、人間じゃないからな」シュッ
気付いたら、一人殺られていた。そいつの腕が、友妹の身体を突き抜けていた
友妹「え……」
一番の年少者だった彼女は、血を吹き出しながら落下していった
女友「友妹!?」
女友が彼女の妹を追うのと、彼女を除いた俺達3人が発砲するのはほぼ同時だった。
でも、あいつには聞いていない。紫色のシールドに阻まれていたからだ。よく見ると、同じものが男の足元に広がっていた。どうやら、それを足場にしているらしかった。
男「……」
不意に男が動いた。傍目には消えたように見えたかもしれない。でも、固有魔法のおかげで俺には辛うじて見えていた。
男「ほぅ……俺に追いつけるか、人間」
俺「くっ、お前、何なんだよ! なんで友妹を殺した!?」
男は俺の問いには答えずに距離を取ると、悠然と宙を歩きながら値踏みするように俺を見ていた。その間、隊長達が銃で撃ち続けていたが、効果があるようには見えなかった。
男「……解せんな」
男「何故、人間の味方をする?」
俺「っ!?」
狐(……)
男「黙りか、まあ良い。ならば、その人間と共に殺すまで」ギロリ
俺「っ」
まるで、天が落ちてきたかのような圧迫感。それが、男の殺気だと気付くのに時間はかからなかった。
彼が一歩踏み出す度にその足元には紫色の床が広がり、彼だけの道を作ってゆく。毛並みの良い尻尾を揺らしながら、男はゆっくりと歩を進めていった。
俺達の攻撃は男の目前で紫の壁に阻まれ、虚しく四散する。
俺「くそっ!」キィィィィイン
俺「反応速度3、敏捷性3、速度4、攻撃10!」シッポニホン
俺「飯綱!」
男「!?」
渾身の一撃を放ったが、それも男のシールドを破ることはできなかった。だが、男が動揺しているところを見ると、あと一歩かもしれない。
俺「攻撃2じ」
狐(避けろ!)
陽子ちゃんの声に反応して体をそらす。ほぼ同時に紫色の光線が眼前を掠めていった
俺「なっ……」
今のはまるで、ネウロイの……
狐(回避と防御に専念しろ! ぬしらに勝てる相手ではない。ここは退け!)
俺「でもっ……くっ」
幾筋もの光線が俺達を襲う。5本の尻尾の先で魔力が集中していた。あそこから撃ってるのか……?
俺「ならっ!」
隊長「待ちなさい!」ガシッ
隊長「ここは退きます!」
俺「でもっ!」
女「止まらないでください!」シールド!
隊長「女も聞いたわね!? ここは退――」
女友「うわぁぁぁぁあぁああああ!」
光線をシールドで防ぐ女の横を女友が凄い速さで通りすぎていった。泣き叫びながら銃を乱射するが、男にはまるで効いていない。
隊長「女友! 駄目、下がりなさい!」
女友「うわぁぁああ! 死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」
彼女は半狂乱になったかのように喚き散らしている。あの様子から察するに、彼女の妹は……
女友「お前が! 妹を! 私のっ……!」
女友「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる!」
涙を流しながら呪いの言葉を吐き続ける彼女に心が痛む。友妹だって、こんなところで死んで良い子じゃなかったのに……! ふつふつと男に対する怒りが、憎しみが湧いてくる。
それまで悠然と佇みながら光線を放っていた男が、動いた
男「……」
視線が、女友へと移る
女友「こ――」
俺「防御10!」
女友の前に滑りこみ、襲い来る幾筋もの光線をシールドで防ぎきった
俺「落ち着け! ただ突っ込んだってやられるだけだ!」
女「女友ちゃん! ダメ! ここは退くって隊長が――」
女友「うるさい! 私はあいつを殺す! 私があいつを!」
男「……私が憎いか? 人間」
彼女は女の制止を振り切って飛び出した。憎悪のこもった目で男を睨みつけ、銃を構える
女友「殺してやる!」
男「……私も同じだよ」
男の尻尾が一際大きく輝いた。5本それぞれから出ていた光源が1つにまとまり、大きな球体を作り出している
男「私も、人間が憎い!」
その球体は男から放たれたかと思うと、一気に膨張した
俺「っ」バッ
女友「あ――」
俺「防御20!」
シールドを展開するのとほぼ同時に目が眩むような輝きと大きな衝撃が俺を襲う
俺「ぅぐっ」
男「……今のこうげきを防ぐか」
俺「……っ」ゾクリ
俺「逃げろ! 早く!」キィィィィ
俺「防御30!」シッポサンホン
俺がシールドを展開するのと、眩い光が辺りを照らすのはほぼ同時だった
俺「くぅっ……!」
シールドが悲鳴を上げる。伝わる衝撃で体に痛みが走った
俺「」ハァハァ
嘘だろ。今のは、間違いなく全力だった。尻尾の数も最大だ。固有魔法だって全部防御に振った。それなのに、"ギリギリ"だなんて……
男「ふむ……やはり、人間の味方をするか」
俺「……何、を」
狐(……)
男「なら、まずは貴様らを殺すとしよう」
俺「っ!?」
狐(俺! 避けろ!)
隊長「総員退避!」
隊長の命令と脳内に響く陽子ちゃんの声。数瞬遅れて俺達と男の間を真っ赤な光線が走った
男「ちっ」
男の気が一瞬それる。俺達はそれを皮切りに一斉に逃げ出した
でも、それもほんの少しの時間を稼いだに過ぎなかった。ネウロイと男、両方から離れるように逃げたはずだったのに……俺達はこのまま進めばネウロイの迎撃と男からの撤退を同時にこなさなければならなかった。男からの追撃によってそう誘導されていたのだ。
逃げても隠れてもあいつは執拗に追ってくる。その標的は間違いなく俺へと変わっていた
女友「う……嫌だよ、死にたくないよ」ガクガク
女「っ……くっ……」ポロポロ
震え、嗚咽を漏らす彼女達にひしひしと罪悪感が湧いてくる。男を殺すと息巻いていてた女友も頭が冷えたのか、今では男の強さに飲まれ恐怖に身を震わせていた
俺「……隊長、もう無理です。ここは俺が」
隊長「駄目よ。誰も死なせないわ。あなたを犠牲にすることも嫌」
俺「でも、あいつは俺を追ってきてる! 俺がいるからみんなは……隊長! もっと合理的に考えてください!」
隊長「何言ってるの。あいつは、人間を憎むと言っていたわ。その矛先が今はあなたと陽子さんに向いているだけ。あなたを殺せばあいつはまた別の人間を殺すでしょう」
俺「でも……」
隊長「黙りなさい。みんなで生き延びるのよ。もうすぐ増援も来る。何とかそれまで持ちこたえましょう。ここで、迎え撃ちます」
隊長「あなた達も、泣くのは止めなさい。それとも、俺を囮にして逃げたい?」
女友「っ」
隊長「逃げても私は何も言わないわ。大切な命だもの。後悔のないようになさい。時間なら、私が稼いであげるから。だから、今すぐ決めなさい。戦うのか、逃げるのか」
女「」グシグシ
女「僕は、皆で助かりたい」
俺「皆どうかしてる! 自己犠牲も偽善もいらないんだよ!」
女「どうかしてるのは俺だよ! 僕達は、仲間であり家族。死ぬのは怖いけど、俺が死ぬのも怖い! 偽善なんかじゃ、自己犠牲なんかじゃない!」
俺「女……」
女友「私だって……」
女友「私だって、これ以上大切な仲間を無くしたくはない! あんたを妹と同じ目に合わせるつもりなんて無いんだから!」
隊長「……決まりね」ニコッ
隊長「挟撃される前に片を付けましょう」
狐(……腹を括るしかないようじゃの)
俺「……わかりました」
俺「必ず、生き延びましょう」
俺達は、そう約束して男を迎え撃つことを決めた。もう少しで増援も来る。それまでやり過ごせば、何とかなる……そう思っていた
だけど、そんな希望はあっさりとかき消されることとなった。
今までのは遊びだった。そう言わんばかりに男は強かった。増援がくるまでのすこしの時間すら、耐えられそうになかった
隊長「っ」
光線が隊長の脇腹を掠める。吹き出す血と彼女の叫び声
俺「……」ハァ-ハァー
飛び交う怒号と悲鳴。恐怖の滲んだ顔で彼女たちはそれでも引き金を引く
俺「――――きゃ」
このままじゃ、みんな死ぬ。でも、それをあっさりと受け入れたくはない。嫌だ。死にたくない。死なせたくもない。だから、
俺「助けなきゃ」
俺「助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ」キィ
狐(俺……?)
俺「助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ」キィィィィィィィィ
狐(俺! 何のつもりじゃ!?)
俺「助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ助けなきゃ」キィィィィィィィィィイイン
狐(止せ! これ以上は――)
俺「助け――――」
俺「────────」
――――
――
女「いやぁぁぁぁぁぁ!」
女友「痛い……痛い痛い痛い痛い」
女「助けて!」
隊長「」ヒュー、ヒュー
女友「死に、たくない……」
女「もうやめて、やめてよぅ……!」
気が付いたら、俺はただ宙に"立っていた"。男もネウロイも消え、代わりに広がるのは阿鼻叫喚の地獄絵図。
虫の息の隊長と真っ赤に染まった女友、そしてそんな彼女達を抱えて泣きながら飛ぶ女。
俺「……これ、は」
俺「俺がやったのか……?」
隊長はおそらくもう助からないだろう。彼女はそう確信してしまうほどに"酷い有様"だった。抉れた脇腹からは血と一緒に臓物も溢れかけているし、逆側は目も当てられないような火傷を負っていた。女友も同じように火傷を負い、その目の焦点も合っていない
俺「俺が、みんなをこんな……」
信じたくない光景だった。だが、信じざるを得なかった。俺を見る女の目が、信頼と恐怖と怨嗟とでごちゃ混ぜになっていたからだ
俺がやったのだと、そう自覚した時、俺はまた意識を失った
次に目を覚ますと、俺は病院のベッドで横になっていた。居合わせた看護師と軍人に簡単な説明を受けた。
俺がネウロイと男共々、部隊に壊滅的な損害を与えたこと。生き残ったのは、俺と女だけだということ。今回の件で俺に罰を与えるつもりは軍には無いということ。
代わりに、今まで以上にネウロイを倒し、名を上げろと命令された。俺の『味方もろとも敵を吹き飛ばした』その力に目を付けたみたいだった。俺が功績を上げることで"男"の株が少しでも上がることを狙っているらしい。どうやら軍上層部は、それほどまでに女尊男卑になりつつある世論に不満があるようだった。
だが、そんなことは今はどうでも良かった。罪悪感と後悔とで押しつぶされそうだった。いっそ殺して欲しいとも思った。自殺も試みたが、それも叶わなず、声が枯れるほど泣いたが、返ってくるものなど何も有りはしなかった。
後日、女が松葉杖をつきながら俺の病室へと現れた
女「……」
何も言えずにいる俺を彼女は黙って殴った。殴ってくれた
女「僕は、キミを許すことはできないと思う」
彼女は平坦な声音でそう言った
女「意識がなくても、キミの意思じゃなくても……キミが仲間を殺したことには変わりないから。でも……あの時キミがそうしなければ、どの道僕もキミも……全員死んでたと思う」
彼女はそこで言葉を一旦区切る。どうやら溢れる涙を堪えているようだった
女「皆を犠牲にして得た命だから、僕も、キミもただ死ぬことは許されないよ。みんなの分まで戦って、戦って、そして、多くの命を救おう」ジワ
女「それでキミの罪が軽くなるとは言わない。けれど、ただ死ぬよりはずっと良い。そうでしょう?」ポロポロ
俺「女……」
女「……みんな死んじゃった。死んじゃったんだよ」ポロポロ
静かに涙を流す彼女に、俺は何も言うことができなかった。
俺「……」
エイラ「……」
俺「……これが、おおよその顛末だ」
彼はそう言って小さく笑う。本当なら、笑えるはずなんてないのに……そんな彼がいたたまれなくて、私はそっと目をそらした
俺「その後、俺は各地を転々としながらコツコツ撃墜数を稼ぎ、扶桑ではそこそこ有名な"被弾数0"の俺になった。でも……ひょっとしたら、上層部はそれじゃまだ不満だったのかもな」
エイラ「……?」
俺「だって、今こうして俺は、最前線へと飛ばされてるんだから」
俺「いや……今はそんなことはどうでも良いか。その……俺と一緒にいるのが嫌になったなら、そう言ってくれ」
俺はそう言って、また悲しそうに笑う。その瞳の中に一瞬諦めが過ぎったような気がした。
そらしそうになった視線を据えて、今度は真っ直ぐに俺の瞳を覗き込む。
俺「!」
私は、少し思い違いをしていたのかもしれない。俺の事が心配で、支えてやりたくて……その気持ちは当然嘘じゃない。けれど、誰も知らない俺の秘密を共有できるということに、私は少なからず優越感を感じていた。俺が秘密を打ち明けてくれる、そのことが嬉しかった。俺が私を必要としてくれているのだと、そう思えたのだ。でも、そんな自分が愚かだった。
俺の秘密を知る……好きな人のことを深く知るということは、彼の痛みも悲しみも、全部を一緒に背負うということだったんだ。
俺はきっと今、凄く不安で、揺らいでいるのだろう。だから、私はもう目をそらさない
エイラ「何でそんなこと言うんだよ。言ったろ? 私はオマエの味方だよ」
彼がもう一人にならないように。私の意志をはっきりと告げる
エイラ「だいたい、今の話のどこにオマエを嫌いになる要素があるっていうんだ? 同情こそすれ、軽蔑なんて……」
俺「……俺は、無意識のうちに味方を殺してる。それも、ネウロイを消し飛ばすような強大な力で、だ」
俺「俺はいつまた暴走するかわからない。もちろん、皆に隠している以上はそうならないように最大限の努力はしている。でも……お前達は爆弾を抱えて飛んでいるようなものなんだ」
エイラ「……それは、オマエが必要以上に狐の魔力を引き出そうとしたからだろ?」
エイラ「今のオマエはきちんと魔力の制御ができてる。なら、そんなことはもう起きないんじゃないか?」
狐「少し、楽観的すぎるの」
エイラ「狐……」
狐「妾の魔力は、本来そう簡単に御しきれるものではない」
狐「確かに俺は今妾の魔力を巧みに操っておる。じゃが、それも俺の身体と精神に余力があればこそじゃ」
ごにゃごにゃ言っているが、そんなことはどうでもいい
エイラ「要は俺が常に余力のある状態にすれば良いってことだろ」
エイラ「……うん。決めた」
エイラ「オマエの背中は私が守る!」
私は胸を張りながら高らかにそう宣言した
俺「……えっと?」
狐「……」
エイラ「オマエが余力を残して戦えるように、私がオマエを守ってやるって言ってんだよ」
俺「……いや、ちょっと待ってくれ」
エイラ「なんだよ。不満なのか?」
エイラ「でも、オマエの軌道についていけるのなんて、私ぐらいだろ。それに、私にについてこれるのも……オマエぐらいだし」
俺「それは、そうかもしれないが……お前、俺と一緒に飛ぶことの危険性を本当に理解してるのか?」
エイラ「うるさいなー。だいたいこらからもお前は飛ばなくちゃならないんだから、そんな事言ったってどうしようもないだろ? だったら、少しでもそのリスクを減らすために私がオマエを守るって言ってんだよ」
エイラ「私はもう避けるだけじゃない。オマエと違って、シールドだって普通に使えるんだ。オマエは普段シールドを張れないだろ? だから、私が守ってやる!」
俺「……ありがとう。エイラ。その気持ちは凄く嬉しい。でも、それは難しいと思う」
エイラ「なっ!?」
俺「だって、俺は今、夜間専従員だし。そもそも、一緒に飛ぶことすら……」
エイラ「あ……」
エイラ「うー……」グヌヌ
エイラ「わ、私も夜間専従員になる!」
エイラ「隊長に直談判してくるから、オマエはここで待ってろよ! 良いか! 絶対だぞ!」ダダダ
俺「何だかな……」
狐「ふふっ」
嬉しさで思わず目頭が熱くなる。こんなの……
俺「マジで惚れるしかないだろ、もう……」
狐「それで、まんまと惚れてしまったぬしはどうするんじゃ?」
俺「……」
どうしたものかな、と思う。エイラと仲良くしたら、リトヴャク中尉と敵対することになるのだろうか……
狐「小難しく考える必要はあるまい。ぬしはどうしたいのじゃ?」
狐「はぐらかすのは無しじゃ。そんな事をしたら、妾も怒るぞ。エイラの気持ちを蔑ろにするな」
俺「……そうだな」
俺「俺はエイラといたい。あいつの隣であいつの笑顔を見ていたい」
狐「……うむ。ぬしの本音が聞けて嬉しいよ」
でも、と思う。リトヴャク中尉との事はどうしようか
狐「……何も迷う必要はあるまいよ。ぬしの本音をあの小娘にぶつけたら良かろう」
俺「でも……」
狐「まったく……これだから人間は偽善的で嫌じゃ」
狐「『取らないでください』じゃったかのぅ?」
狐「まったく……何じゃそれは、エイラはあやつのものなのか?」
俺「それは違うだろうけど……」
狐「なるほど、確かにあやつらは仲が良い。そこにぬしが割って入ろうというのじゃ、そう思われるのもある程度は仕方ないかもしれん」
狐「じゃが、ぬしはそやつからあやつを奪うつもりでいたのか?」
俺「いや、そんなことはないけど……俺といる時間が増えれば、それだけリトヴャク中尉と一緒にいる時間は減ってしまうだろう」
狐「それがどうした。もしそうなったとして、それを選んだのは誰じゃ? エイラじゃろう」
狐「確かにぬしはエイラとともにあることを望んだのかもしれん。じゃが、それに応えたのは他ならぬエイラ自身じゃ。嫌なら自ずとそうはなるまい。違うか?」
狐「ぬしら人間など、大した知恵も時間もありゃせんのじゃ。何を躊躇う必要がある」
狐「したい事をして、したい人と共にあれば良い」
俺「……」
―― ハンガー
俺「……こんばんは。リトヴャク中尉」
サーニャ「こんばんは、俺さん。今夜もよろしくお願いしますね」
俺「こちらこそ。でも中尉、その前に少しお話があります」
俺「……エイラの事で」
サーニャ「……良いですよ。まだ少し時間もありますし」
彼女は俺を真っ直ぐに見つめ直すと、薄く微笑んだ
俺「……」ゴクリ
俺「単刀直入に言います」
俺「リトヴャク中尉、俺はエイラが好きです。エイラと一緒にいたい。だから、これからもそうあろうとするつもりです」
サーニャ「……」
俺「それが嫌なら、あなた自身でエイラをモノにしたら良い」
サーニャ「……随分、自分本位なことを言うんですね」
俺「……」
彼女は俺を睨みつけるように目を細めた。そのまま数秒、お互いに睨み合ったまま沈黙する
サーニャ「……でも、それで良いです」
先に口を開いたのは彼女だった
サーニャ「私は、別にエイラの恋人になりたいわけじゃありません。私は、エイラの親友であればそれで良いんです」
サーニャ「異性の一番はあなた。同性の一番は私。つまりはそういうことなのでしょう」
彼女は優しく微笑むと、俺に手を差し出した
サーニャ「私のことはサーニャで良いです。私達は、同じ人を大切にしようとしているのですから」
俺も微笑で返しながら彼女の手を握り返
サーニャ「私たち2人で、エイラを幸せにしましょう?」
俺「……ああ!」
無事和解したと考えて良いんだよな。手を離し、彼女はストライカーへ向けて数歩歩き出す。ふと、思い出したかのように足を止めた
サーニャ「でも、私もエイラと一緒の時間が減るのは嫌です。そうなると結局、私たちはライバルということですね」 ニコリ
俺「……」ハハハコヤツメ
どうやら、彼女は思ったよりも手強い相手らしかった
エイラ「見つけたぞ、俺ぇ!オマエ、待ってろって言っただろ!?」
エイラ「……ん? サーニャも一緒だったのか」
俺「そりゃあな。これから、夜間哨戒だし……それで、どうだったんだ?」
エイラ「……」ショボン
俺「……そっか」
俺「まあそう気に病むなよ。俺は、お前のその気持ちだけでも超嬉しいんだぜ」
エイラ「俺……」
俺「だから気にするなよ。それに……俺だって、そう簡単に暴走したりはしないさ」
俺「そんな状況なんて、そう起きるはずない。だって俺は、"被弾数0"なんだからな」
エイラ「……うん」
サーニャ「……話が読めませんが、俺さん」
俺「ん?」
サーニャ「エイラを悲しませるのはやめてください」
俺「えっ、俺?」
サーニャ「他に誰がいるんです?」
俺「……何か、俺に冷たくない?」
サーニャ「当たり前です。私たちは、ライバルなんですから」
あれれ……和解したと思ったのは俺だけなの?
エイラ「……何の話ダ?」
俺「……」チラリ
サーニャ「……」クスッ
俺「はぁ……お前が、モテモテだって話だよ!」
エイラ「……ハァ?」チラリ
半ばやけくそ気味にそう言うと、彼女は困惑したようにサーニャに目を向けた。しかし、彼女は肯定も否定もせずに微笑する。それは本当に綺麗な笑顔で、エイラじゃなくとも絶賛したくなるものだった。呆けたように見蕩れてしまう俺達に向けて彼女は優しく言葉を紡ぐ
サーニャ「ふふっ」
サーニャ「仲直りできて良かったね、エイラ」ニコッ
エイラ「虫?」
――――
俺「さっきからうるさいよ! こっちは夜勤明けで寝てるんだから、ちょっと静かにしてくれる!?」
――――
俺「ご馳走様です!」ブッ
――――
俺「覗くしかないだろう。常識的に考えて」
――――
坂本「どうした。食べないのか?」
――――
エイラ「変態」ジトッ
最終更新:2013年02月15日 12:32