ミーナ「ルッキーニ、あなた、そのコート着ていくの?ケーキとりにいくだけよね?」
ミーナ中佐が準備完了した私の姿を見て笑みを浮かべる。
ルッキーニ「だって、このコート着たいんだもん。クリスマス・イヴだからいいでしょ」
真っ白いフード付のコート。すっごくすごくかわいいの。
ついさっき
シャーリーがくれたばかりの物。さっき彼氏さんと過ごすからってここを出るときに、クリスマスプレゼントだってくれたんだ。
もう見た瞬間に、一目惚れっていうくらい気に入ったんだよ。
シャーリーがくれるお洋服は、シンプルなんだけどかわいいものばかり。
リベリオンで買ってきたものだからちょっと流行おくれかもってシャーリーは言ったけど、そんなこと全然ない。全部、ものすごく気に入ったんだ。
その中でもこのコートは別格。
目に入った瞬間、あまりにも嬉しすぎて言葉が出なかった。
だって、このコートがもしデパートとかで売っていても、ミーナ中佐は絶対に買ってくれなかったと思う。
白は汚れやすいし、よそゆき用でどこにでも気軽に着ていくようなものじゃないから。虫をとったり、外で遊ぶのが大好きな私にはあわないだろう。
真っ白でマントみたくなっていて、フードのところにふわふわのフェイクファーがついているの。
シャーリー曰く、『一歩間違えるとてるてる坊主』だそうだけど、でも、本当にすごくすごくかわいい。
ミーナ「デートじゃなくて残念ね」
デートというひびきにはあこがれるし、501の中にはもう彼氏がいる子もいたりするけど……シャーリーとか……でも、私には全然実感がわかない。
クリスマスだって、みんなでクリスマスメニューの豪華ディナーとケーキを食べて、それからプレゼント交換して……それだけで十分楽しみだから。
ルッキーニ「いいの。ルッキーニには俺兄ちゃんがいるもん。明日は俺お兄ちゃんとデートだもん」
五歳年上の俺お兄ちゃんは一六歳。部隊に唯一の男性のウィッチで、
毎日毎日訓練に励んでいるの。501の名に恥じぬエースになるんだって。
そのお兄ちゃんの訓練も、今日は午前中で終わり。だから練習終わった午後はロマーニャに連れて行ってもらう約束をしている。いろいろ買い物するんだ。
どのお店も、きっとツリーがいっぱいでキレイだとおもう。
ミーナ「本当にルッキーニはお兄ちゃん子よね」
だって、ルッキーニ、お兄ちゃんが一番好きだもん。もうミーナ中佐なんて耳タコになってると思うから言わないけど。
芳佳はロッテの相棒のオレさんが好きなんだって。
でも私にはそういうのよくわからない。好きか嫌いかの二択で言えば、基地の大半の仲間は好きだと思う。でも、つきあうとかつきあわないとか、そういう対象じゃない。
グループデートっていうか、男の子も女の子も一緒に遊びに行ったりもするけれど、本当は私はお俺兄ちゃんとおでかけする方が好き。
俺お兄ちゃんは休日も自主訓練ばかりだから滅多にそんなことできないけど……。
ルッキーニ「だって俺お兄ちゃんが一番かっこいいもん。だいたい、この齢から彼氏とデートなんて言ったら俺お兄ちゃん卒倒しちゃうよ」
お兄ちゃんよりかっこよくて優しい人なんていないもん。
ミーナ「そうねかもね……それに俺さんも絶対うるさいわよ」
私とミーナ中佐は共犯者みたいに視線を交わした。お兄ちゃんは、私にものすごく甘くて、それから超がつくくらい過保護だった。
ルッキーニ「いってきま~す」
いってらっしゃいの声を背に聞いて、玄関の外に足を踏み出す。
まだ6時になったばかりなのに外はもうすっかり暗かった。
ほぉっと吐いた息が、夜の中でも白く映る。
頬を撫でたその風の冷たさに首をすくめた。
でも、お気に入りの白いミトンが風の入り込む袖口を、フェイクファーのイヤーマフが耳をしっかりと防寒していたから大丈夫。
ピカピカと点滅するライトに飾られた道を早足に急ぐ。
映画で見たみたいに、このへんの家の庭も12月になるとクリスマスデコレーションが盛んだ。
生垣にライトをからませているだけのシンプルなお庭もあれば、スノーマンやサンタの人形が飾られていたり、ミッキーやミニーのプレートが飾られたりしているお庭もある。
基地もももちろんミーナ中佐が率先してみんなで飾り付けをしていた。
駅前の賑やかな通りの方からジングルベルやクリスマスキャロルとかのいろんなクリスマスソングが聞こえていた。
音の源は、ケーキ屋さんとかハンバーガーショップ……きっとサンタの格好をしたアルバイトのお兄さんやお姉さんが店頭販売をしているに違いない。
ケーキを頼んだのは駅前からちょっと入ったとこの地元のケーキ屋さん。
百貨店で買う有名店のケーキもおいしいけど、私はここのケーキが一番好き。絶対に隠れた名店だと思う。特に苺ショートは絶品なの。
見た目は他のお店と変わらない苺ショートなのに、苺はちゃんと甘くてクリームは甘さ控えめでスポンジはしっとりとふわふわ。
その三つが重なると、もうほっぺた落ちそうなくらいおいしい苺ショートになるんだよ。
これまでいろんなお店の苺ショートを食べたけど、これよりおいしい苺ショートにはまだお目にかかった事がない。
甘いモノが苦手な俺お兄ちゃんだって、ここのケーキは大好きだもん。
弾んだ足取りで通い慣れた……でもいつもと様子の違う道を急ぐ。
駅前はちょうど電車が着いたばっかりだったのか人があふれていた。それもカップルが多い。あと、やっぱりケーキやお菓子の袋を抱えた人。
駅の横を通り抜けていこうとして、駅の掲示板の文字に目がいった。
雪が激しく、機関車が止まっているという。どうやら駅前にあふれている人々はその影響らしい。
??「あーっ、!機関車止まってるじゃん」
ちょっとだけ考え込んでしまった私の後ろで声がした。
振り向いたら、そこにいたのは軍服姿の集団。いろんな国の軍服が混じってた。ものすごく背の高い人もいれば、私より少し高いだけの人もいる。
みんな腰には銃、全身冬服の正装という格好で、少し近寄りがたい雰囲気をしていた。
(どこの部隊の人たちかな……)
お兄ちゃんの、扶桑の軍服を着ている人もいたし、スオムスの士官服の人もいた。
でもどこの部隊なのかな?実験部隊って感じじゃないし、10代から20代……ううん、もしかしたらもっと年上かもしれない人も混じってるし……なによりいろんな国の人が集まってるし…。
ルッキーニ「……あっ」
そんなことを思って、一人の背に501の文字を見た瞬間、小さく声が漏れた。思ったより声が響いたのか、数人の人が振り向く。
俺「ルッキーニ……」
そこに、兄と慕う俺お兄ちゃんがいた。
ルッキーニ「お兄ちゃんっ」
嬉しくなって、思わずお兄ちゃんに抱きつく。
俺「おまえ、何でこんなとこいるんだよ。もうこんなに暗いのに……」
やっぱりお兄ちゃんは過保護だ。でも、そんな優しいところも大好き。
ルッキーニ「クリスマスのケーキ、取りにきたの」
俺「……こんな暗いのに一人で来たのか?みんなは?」
ルッキーニ「みんなお夕食のしたくしてるよ。ルッキーニが一人で取りにいってくるって言ったの」
だってクリスマスだし……よそのおうちのお庭のピカピカ見たかったし……って言ったら、まったくしょうがねえなと言ってお兄ちゃんは口元に笑みを浮かべた。
ちょっと困ったようなその表情がいつものお兄ちゃんだった。
一緒に帰れる?と聞いたら、当たり前だろと笑って、それから、くしゃっと頭をなでてくれた。
??「なあなあ、この子、俺の妹?」
急にのぞきこまれてびっくりした。お兄ちゃんのお友達らしい。
友「……すっげー、かわいー。あ、俺、友っていう、よろしくね」
その隣の金色の髪の人がにこっと笑った。わけがわからなかったけど、小さく頭を下げた。お兄ちゃんのお友達だから無視したらダメだし。
??「ねえ、ねえ、名前、何て言うの?」
端正な容姿の人がすごい人なつこい笑顔で笑う。目のところに泣きボクロがある。あ、たぶん、この人はおれさんだ。お兄ちゃんの話によく出てくる。
お兄ちゃんの同僚で、女たらしで有名らしい。
ルッキーニ「あの……」
どうしようと思ったらお兄ちゃんがぐいっと私を腕の中に抱きこんだ。
私は部隊でいちばんちっちゃい。背が低いからお兄ちゃんの腕の中にはすっぽりとおさまってしまう。
こんな何気ない、お兄ちゃんにしてみればなんでもない、こんな仕草にもいちいちドキドキさせられる。
俺「友、おれ、ウチの妹にちょっかいだしてんじゃねーよ」
友「えー、ずりーぞ俺、いいじゃん、紹介くらいしてくれたって」
おれ「そうだよ。そんなかわいい妹いるなんて聞いてなかったぞ」
俺「えーい、寄るな。おまえらになんか紹介できるか」
友「俺、横暴だぞ」
まるで子供みたいな言い争い。
??「おいお前達、いい加減にしろ」
落ち着いた、少し高い声がお兄ちゃんたちの間に割り込んだ。
俺「少佐…」
おれ「げっ……少佐」
少佐?「すまないね、部下が怯えさせたみたいで……」
少佐と呼ばれたその少女は少し腰をかがめ、私と同じ目の高さになってにこっと笑いかけた。
ルッキーニ「別に、大丈夫です」
お兄ちゃんのコートをきゅっとつかんだままで、首を横に振った。
だって、別に怯えてたわけじゃない。
初めて会うお兄ちゃんのお友達だったから、どうしていいかわからなかっただけ。
少佐?「えーと、ルッキーニちゃん?」
お兄ちゃんが呼んだ私の名前をちゃんと聞き留めたらしい。
ルッキーニ「はい」
少佐?「少佐といいます。お兄さんの上官です、よろしく」
ちょっと驚いた。だって、同僚とか部下だと思ったから。だってどうみたってお兄ちゃんより年上には見えない、華奢な女の子だ。
でも、外見には見えない落ち着きようだった。
ルッキーニ「こちらこそ、お兄ちゃんをよろしくお願いします」
ぺこっと頭を下げた。知らない人には礼儀正しくしないとね。
少佐さんは確かお兄ちゃんの扶桑にいた頃の上官のはずだった。名前に聞き覚えがある。
ぷっと誰かが吹いた。
俺「……ルッキーニ、俺は少佐に面倒なんてみてもらってないって」
ルッキーニ「でも、一応、ご挨拶しとかないと」
そんなのいいんだよ。と、お兄ちゃんは肩をすくめて苦笑気味な表情で笑った。あ、今の、私の好きな笑い方だ。
俺「……じゃあ、俺、帰るから。みんなも気をつけてな。東に5分ほど歩けばバス亭があるから、そっからでも帰りな。」
「おう」だとか「じゃあな」とか、それぞれにみんながリアクションを返す。
おれ「じゃあな、ルッキーニちゃん」
友「またね」
少佐「俺のこと、よろしくね。」
みんなが声をかけてくれたので、ちょっと嬉しかった。
ルッキーニ「どうもありがとう。……あの、えっと……メリー・クリスマス」
みんな、笑いながら、みんなメリークリスマスと言ってくれた。
(……24……25……)
ルッキーニ「……ねえ、お兄ちゃん。今度、お兄ちゃんの友達の所に、連れてって」
お兄ちゃんの友達。どんな人なんだろう?じつは少し気になったり…主に少佐さんとお兄ちゃんの関係とか。
扶桑にいたころの上官のはずなのに、なんでまた会ってたんだろう?
ケーキの箱はお兄ちゃんが持ってくれた。重いバックを肩からかけてても、ケーキの袋を片手で持てるの。
やっぱり男の子なんだなぁと、こういう時にあらためて思う。
(……26……27、28……)
だから私は手ぶら。あ、違う。右手はお兄ちゃんと手をつないでる。暇だから、駅からずっと目に付いたクリスマスリースの数を数えてみたりした。
俺「ダメ。俺、おまえ連れて行ったら心配で困っちまう。」
お兄ちゃんは本気でダメっていう顔をしていた。こういう時は何回言ってもダメなの。だけど、もう少しだけねばってみる。
ルッキーニ 「えー、でも、みんなまたねって言ってくれたよ」
俺「だーめ」
お兄ちゃんは、基本的に私に甘い。
ルッキーニ「いい子にしてるよ?」
俺「だめだって」
ほら、困った顔してる。
ルッキーニ「邪魔なんてしないよ」
俺「なんのだよ」
もう一押し。
ルッキーニ「どうしてもダメ?」
上目づかいに見上げて首を傾げる。
俺「……だめだよ。その代わり、明日、ケーキおごってやるから我慢しろ」
ルッキーニ「わーい」
どこのケーキがいいかな?
クリスマスケーキは苺ショート系だから、チョコレートクリームがいいかな……でも、フルーツたっぷりのタルト系も捨て難いな~。
俺「まだ、色気より食い気かよ……」
俺お兄ちゃんはちょっとだけ呆れたような、でも、どこか嬉しそうな顔で笑った。
ルッキーニ「違うもん」
だって、大事なのはケーキじゃないの。
喫茶店とかケーキ屋さんで、お兄ちゃんと一緒に食べるのが大事なの。
本当のデートみたいでしょ。
だけど、そんなこと教えてあげない。
俺「何が違うんだよ」
ルッキーニ「な・い・しょ」
不思議そうに問うお兄ちゃんの目を見て、くすっと笑ってみせた。お兄ちゃんの目が丸くなる。
(……33っと……)
基地の玄関のリースでちょうど33個目。ゾロ目だ。ゾロ目って何かラッキーっぽい感じがする。
俺「ルッキーニ」
ルッキーニ「なぁに?」
振り向いたらお兄ちゃんが少し照れたような、くすぐったい笑みを浮かべて言った。
俺「その…新しいコート、似合ってる」
ルッキーニ「……えへへ。あのね、シャーリーからもらったの」
俺「シャーリーから?」
ルッキーニ「うん。シャーリーから、いっぱいお古のお洋服もらったんだ。」
俺「へえ……」
お兄ちゃんは優しく微笑む。
ルッキーニ「優しそうな人だったよ、彼氏さん」
俺「えっ!!?かっ…彼氏!!?」
にこにこ笑顔の素敵な人。でも、少し黒そうだったけど、それは言わないでおく。
それにしても、恋に疎いお兄ちゃんはやっぱり気づいてなかったのか……
ルッキーニ「うん。この間、お洋服くれたときに、一緒にきてたの。ロマーニャ近くの研究所の職員さんなんだって。」
俺「……………」
沈黙。ずいぶん驚いてるなぁ、お兄ちゃん。
共に音速を目指す二人は一緒に研究、実験をしているうちに…ってことなんだろう。
ルッキーニ「それでねそれでね!シャーリーのリベリオンの時の学校の先生だったんだって」
私はとっておきの情報を教えてあげた。
俺「えっ」
ルッキーニ「内緒でつきあってたのかな?お兄ちゃんも扶桑にいた時、学校の先生と付き合ってたりした?」
俺「……んなわけねーだろっ。ルッキーニ、お前も、整備兵のおっさんと付き合ってたりしないよな!!?」
……お兄ちゃんは急にすごく真剣な表情になる。
ルッキーニ「大丈夫だよ、ルッキーニ、あんまり年上すぎるのも好みじゃないし」
俺「そんなこと言ったって、ルッキーニはかわいいんだから……。相手が何考えてるかわかんないんだから充分注意するんだぞ」
世の中ロリコンってもんが溢れてるんだからなとお兄ちゃんは真面目な表情で言い諭す。お兄ちゃんはたいへん想像力がたくましい。
ルッキーニ「大丈夫。ルッキーニの一番はお兄ちゃんだから……」
ねっ、と小さく首を傾けて笑って見せて、それからお兄ちゃんとつないでいた手を離して、玄関のドアを開けた。
ルッキーニ「ただいま~」
宮藤「おかえりなさい。あれ、俺さん、どうかしましたか…?」
俺「……な、な、な、なんでもない」
顔赤いよ、お兄ちゃん。
私の一番はお兄ちゃんだけど、この分だとお兄ちゃんの一番も、まだまだ私のものみたい。
(……簡単には、渡したりしないもん)
そう。そこんじょそこらの女の子になんか渡したりしない。
くすりと私は心の中で笑みを漏らした。
最終更新:2013年02月15日 12:38