スオムス空軍 ウッティ基地

501解散後、俺たちはここに仮配属となった

トップエースのエイラと、義勇兵扱いとなる俺とサーニャの扱いを、空軍上層部が決めあぐねていたからである

戦闘の合間を縫って、オラーシャへの連絡を付けるという名目でスオムス―オラーシャ間を行き来していた

ウラル山脈を越え、サーニャの両親のいる東オラーシャに出る。いつしか、三人の共通の目標となっていた

俺「ん~…」

地図とにらめっこしながら、俺はオラーシャ上空をさまよっていた

俺「このルートもダメか…今日は帰ろう」

新しく受領したBf-109Gストライカーを操り、機首を基地方面へ向ける。塗装は相変わらずの灰色だ

俺「オラーシャへの道は遠いな…」


 1944 Winter Story Episode1 "Aurora"


 ウッティ基地上空

俺「こちらグレー1。ウッティ基地管制、応答せよ」

管制『こちら管制。貴機をレーダーに捉えた。着陸を許可する』

若干雪の積もった滑走路に着陸する。もう慣れたもんだ

管制『ナイスランディング。お前さんの彼女がお待ちだ、会いに行ってやれ』

俺「彼女じゃねぇよ。まぁ、会いには行くが」

管制『いい加減告っちまえよ、このヘタレ』

俺「プラズマライフルの射程テストと行こうか」ガチャッ

背中に担いでいたライフルを構え、管制塔へ向ける

管制『分かった!俺が悪かった!…はぁ、ユーティライネン少尉は食堂にいるよ』

まったく…マ、この会話もいつものことだ


コートと帽子、ゴーグルを外して宿舎に入る。いつものジャケットの冬仕様を着ているので寒くはない

俺「へっくし」ブルッ

それでも冷えたのかくしゃみが出る。暖炉のある食堂の扉を開け、中に入る。あったけぇ…

エイラ「ヨッ!おかえり。収穫はあったカ?」カラコロ

サルミアッキを食べているエイラが手を振りながら聞く

俺「さっぱりだ。大戦前に使われていたオラーシャへの航路は全滅。空はクリアでも高射砲型陸戦ネウロイがうろうろしてる地区もあった」

缶からサルミアッキを取り出し、自分の口に放り込む。そのままキッチンに向かい、コーヒーをカップに注ぐ

エイラ「コーヒー私にもクレ。ソーカー、だめかー…」

トランプのダイヤのエースがあしらわれたカップをエイラの前に置き、灰色のストライカーが描かれたカップを自分の手元に置く

俺「北の海を飛んでいくルートもあるが、さすがに無理だろ?」

エイラ「ムリダナ。ネウロイを撃破しながら一直線で行くのは―」

俺「空も陸もうじゃうじゃいる。三人だけで何とかなるならとっくにここら一帯は解放されてるよ」

エイラ「確かにナ」

ハハハッ、と顔では笑っているが、心情は複雑だろう

エイラ「で、前に話した拠点を移そうって話だけどさ」

スオムスに到着してからそのままの流れで着任したウッティ基地、オラーシャへ向かうにちょっと不便だったりする

そのため、三人の活動拠点を移そう、という話が先日エイラから提案された

エイラ「ヨロイネン観測所がいいと思うんだ」

俺「そりゃまたずいぶん辺ぴな。前はカウハバとか言ってなかったか?」

エイラ「カウハバはホラ、キケンが危ないから…」

俺「? まぁ、ここよりオラーシャに近いし、ちょうどいいか」

エイラ(やった!これで俺と二人きりになる機会が増える!)

俺「で、出発はいつ?」

エイラ「ん?明日ダ」

俺「あしたぁ!?」


その日はほぼ徹夜だった

三機分のストライカーの発送願いに転属届け、自室の引越し準備・片付け…

管制「よっ、おつかれさん」

自分の前にカップに入ったココアが置かれる

管制とは比較的仲がいい。エイラとの仲についてもちょっと相談に乗ってもらったりしてる

俺「ありがとう…エイラのやつ全部押し付けやがって…」

管制「ヨロイネン観測所に行くんだって?ちょっとうらやましいよ」

俺「は?あんな辺ぴなところのどこが良いってんだ?」

絶妙な甘さのココアをあおるように飲む

管制「いやだって、好きな女の子と二人きりだぞ?男としては憧れるシチュだ」

俺「? いや、サーニャもいるし、駐在の観測員もいるだろうし…」

管制「分かってないなぁ…ここより圧倒的に人が少ないし宿舎も狭い。二人きりになる機会は一気に増えるぞ」

俺「…だからとっとと告白しろと?」

管制「それが一番だが、お前次第だな。手土産にこれをやろう」

机の上に一丁の拳銃が置かれ、俺へと差し出される

俺「ん?TT-33?いいのか、もらっちまって」

管制「PPKじゃ心細いだろ?」

俺「…悪いな。ありがたく使わせてもらうよ」

管制「今日はもう寝ろ。明日も早いんだろ?」

俺「ああ。またどっかで会おう」

管制「おうよ!」

あ、何かこの会話前にも…整備兵元気にしてるかな…


 翌日

ヨロイネンへはバイクで向かう。ブリタニアのときと同じように俺が運転、エイラが後ろ、サーニャがサイドカー

エイラ「今度は、今度は安全運転で頼むゾ!絶対ダカンナ!」

俺「ヘイヘイ」

エイラの念押しを適当に流し、アクセルを回す

タイヤは冬用に換装されており、雪道も快調に進む

サーニャ「俺さん、次の分岐を左です」

俺「あいよ」

ナビ役はサーニャが担当する

彼女のナビに従い、道なりに森の中を進んでいく。しばらく走ったところで、思いついたように質問する

俺「してエイラ、ヨロイネン観測所ってどんなとこ何だ?」

エイラ「名前のとおり観測所ダ。設備は揃ってるから不自由な点はないと思うゾ」

サーニャ「小さい湖もあるみたいですよ。ストライカーの離着陸にも使えそう」

俺「そいつはいい…ん?」

前方の空で何かが光った。まだ星が出るような時間でもないし…いや待て、あれって――

俺「っ!」キキー!!

エイラ「どうした?ってウワァ!」ギュッ

急ブレーキをかけバイクを停止させる。エイラが驚いて俺にしがみつく。あ、背中の感触を気にしてる暇はなかったよ

直後、ドォォン!という音を立てて、前方の雪原に何かが落ちる

エイラ「な、ナナナ、ナンダ!?」

サーニャ「」オロオロビクビク

後ろ腰からトカレフを引き抜き、左手で構える。次第に雪煙が晴れていき、落下してきたものの姿が現れる

俺「…人間?ウィッチか?」

バイクの陰からエイラが顔を出す

エイラ「あれは…ニパっ!」

落ちてきたのは、水色のセーターに身を包み、同じ色のストライカーを履いた少女――

ニッカ・エドワーディン・カタヤイネン曹長だった


 ヨロイネン観測所

出迎えた観測員との挨拶も早々に、エイラ・サーニャ・ニパの三人はサウナへと向かった

俺はすでに届いていたストライカー三機の簡単な整備を行い、観測員と今後の予定を話し合う

観測員「東オラーシャへの航路、ですか…」

俺「やはり、ウラル越えは難しいんですか」

観測員「各観測所と連絡を取って、何とかなりそうなルートを探させます」

俺「ありがとうございます」

<ア!ニパッ!オマエマタオオキクナッテヤガンナ!

<ワ!ナニスンダイッル!ヤメロ、ヤメロ、ヤメロー!!

<ヨイデハナイカー!ハハハッ

サウナから叫び声と笑い声が聞こえてきた

俺「…うるせぇ」

観測員「にぎやかで良いじゃないですか」

俺「にぎやか過ぎます。一緒に居て楽しいですけど」

俺もあとでサウナ入ろうかな


 夜、湖岸

エイラ「ホゥ…」

吐いた息が白くなる。スオムスの冬は寒い

エイラ「ヘクチッ!」

コートもマフラーもせず出てきたせいか少し寒い。手を吐息で温める

夜空を彩る満天の星と、北極圏ならではのオーロラを見上げていると、不意にコートが肩にかけられた

俺「そんな格好だと風邪引くぞ」

私の肩にかけられたのは、俺がいつも来ている薄茶色のコートだった

エイラ「アンガト…でも、俺は寒くないのカ?」

俺「これくらい平気だって」

エイラ(絶対強がってる…)

私は隙を見て俺の手を握る

俺「っ!?///」

エイラ「冷たい…やっぱ強がってるじゃナイカ」

俺「つ、強がってるんじゃない。男の意地だ///」

エイラ「強がりと意地のどこが違うって言うんダヨー」

俺「ぜ、全部だ!」

エイラ「ナンダヨソレー!」


数メートル離れた森の中、楽しく話している二人を遠巻きに見ている少女が居た

ニパ「」ジー

カタヤイネン曹長、そのお方である

ニパ(俺さんのことはサウナでイッルから聞いたけど、あんな親しいなんて聞いてないぞ)

イッルだって女だ。人なりに恋だってするだろう。でもなぜだが気に食わない。先を越されたからか、それとも…

ニパ(私は嫉妬してるのか?でも、イッルと俺さんどっちに?……―っな!?///)

彼女の視線の先では、エイラが俺の抱きついていた


俺「エ、エエ、エイラっ!?///」

エイラ「ヘヘー、こうすれば二人とも暖かいダロー」ギュー

俺「そ、そうだけど、誰かに見られたら…」

エイラ「ナンダ?恥ずかしいのカー?」ニシシ

今度は私が強がってる。ホントは私が恥ずかしくてしょうがない

でもそれを押し殺してアプローチする。そうでもしなきゃ、俺はきっと気づいてくれない

エイラ(このヘタレで鈍感な異世界人め♪)ギュー

俺の胸に顔をうずめる。それはとっても頼もしくて、暖かくて…ずっとこうしていたかった


ニパ「…ムムムム」

木から覗かせた顔はほんのり上気している

ニパ(あ、あれって、イッルが俺さんに好意を向けてるってことで良いんだよ、ね?)

俺さんのほうもどこか嬉しそうというか楽しそう

ニパ(イッルもうれしそう…)

サーニャ「…何してるんですか?」

ニパ「うひゃうっ!?」ビクゥ

突然後ろから声をかけられ、素っ頓狂な声を上げてしまった。イッル達にはバレなかったみたい

ニパ「さ、サーニャさんか…脅かさないでよ…」

サーニャ「ごめんなさい…あの、何を見てたんですか?」

私は無言でイッルたちを指差す

サーニャ「あ~…」

それですべてを察したみたいで、無邪気に遊ぶ孫を見るおばあちゃんみたいな目をしながら二人を見ている

ニパ「サーニャさん。その、俺さんとイッルって…恋仲なの?」

思い切って聞いてみる。答えを聞くのは怖いけど、真実を知りたかった

サーニャ「親友以上恋人未満というムズガユイ関係です」

ニパ「は?」

サーニャ「はたから見れば付き合っているようにしか見えないのに正式に付き合っているわけではない。
     お互いが好意を向け合っているのにお互いが一方通行な恋だと思い込んでいる。
     とにかく見ててムズガユイ関係です。まぁ、それを遠巻きに見て楽しむの良いんですが…」

…あれ?この人ホントにサーニャさん?

ニパ「えっと、サーニャさんは、二人のことどう思ってるの?」

サーニャ「応援してますよ、二人とも。早くくっついて欲しいですけど、二人の青春を邪魔する真似はしません」

あ、いつものサーニャさんに戻った。でも、サーニャさんの言う通りかもしれない

ニパ「そう…」

嫉妬心なんて吹き飛ばせ。旧友の恋路を応援しようではないか

サーニャ「…戻りましょうか」

ニパ「うん」


好きな人と抱き合いながらオーロラを見る。なんて幸せなんだろう

俺「今日だけダカンナ…///」ギュッ

彼女の台詞を借りて、俺はエイラを抱き返す

エイラ「~♪」ギュー

告白するなら今なのだろうか…でもなんて言おう

『俺と付き合ってくれ』―普通すぎるか

『お前と一生一緒に飛びたい』―あと四年ほどであがりです

俺(恋愛物の小説とか映画とか見たことないから、なんていったら良いかわかんない…)

自分の生い立ちをこれほど恨んだことはない

俺「な、なぁ、エイラ」

言おう、とにかく言おう。今しかない

俺「あ、えと……」

エイラ「?」

俺「そろそろ、戻らない?」ニコッ

――バカか俺はバッカじゃねぇのか!?またはアホか!ヘタレか!!

エイラ「ソウダナ。さすがに冷えてきた」パッ

俺の心情など知る由もなく、エイラは俺から離れ、宿舎へと歩き出す。俺もそれに続く

俺「うん…」

うつむいて軽くため息をつく。ごめんよ管制、良い知らせは当分先だ…

エイラ「どうした?うつむいたりして」

エイラが俺の顔を覗き込んでくる。顔近いって

俺「あ、いやなに、いつもの頭痛だ」

もちろん嘘。T-RIPのプログラムを書き換えて以来頭痛は起きていない

エイラ「ソウカ。辛かったら言えヨ、薬とか…ウワァ!」グラッ!

覗き込んだ体勢のまま雪道を歩いていたため、エイラがバランスを崩して倒れる

俺「お、おい!」サッ

あわてて抱えようとするが、支えきれず、

エイラ「キャッ!ムグッ」ドシーン!

俺「ウワッ!ムグッ」ドシーン!

俺がエイラに覆いかぶさる形で倒れこんでしまった

それだけならまだ良かった。それだけなら

眼前にあるエイラの顔。驚いたように見開かれている目。唇に感じる暖かくてやわらかい感触…

エイラ「!?///」ズザー

俺「!?!?///」ズザー

二人して顔を真っ赤にしながら後ずさる

俺(は、はわ、はわわ///)

エイラ(いいい、いい、今のって、キ、キス、だよ、ナ…?///)

お互い三メートルほど距離をとり、降り積もった雪の上でへたり込む

俺「…た、立てるか?///」スッ

意を決して近づき、手を差し伸べる

エイラ「う、うん///」

俺の手を取り、立ち上がる。そのまま手をつないで宿舎へ向かう

俺・エ「…」

その日はお互い床につくまで無言だった


  ―次回予告

 俺『エイラ、俺我慢できない…』


 ニパ(後半から声に出てたことに気づいてない…)


 俺「…ウラル越えに反対ですか?」


 エイラ「雲から出てくるゾ!」


 サーニャ「大型から子機二機が発進!20m級です!」


 エイラ「ナンダそれ?」


 俺「パワーセル。T-800の動力源。――核だ」
最終更新:2013年02月15日 12:43