【早朝、風呂場の更衣室にて】
隊長「やっぱり此処に居たか」
俺「ぐぉー…ぐおぉー」スヤスヤ
隊長「寝床に帰ってこないと思ってたら…徹夜してそのまま作業場で寝やがってコイツは」
ゴロン
隊長「ん?これは…昨日作ってた球体か」
隊長は傍に転がっている、俺が徹夜で彫りだしていた岩の球体を手に取った。
隊長「形が甘いな。基礎が足りんぞ俺」
俺「ぐぉぉぉおお…んぉー」スヤスヤ
隊長「……と、言うよりだな」
俺「んぅぅ…んぉおお……」スヤスヤ
隊長「ウィッチ用のタオルを布団代わりにしてんじゃねぇよおおお!!」
ドコォ!
俺「ヴゥア゛ァァァァァァッ!?」ビクゥ
隊長「ほれ、寝床に戻るぞ」グィッ
俺「た隊長…?ななにか…え」
寝ぼけていて立てないのか、それとも尻に突き刺さった隊長の右足で立てなくなったのか、
そんな状態の俺は隊長の肩に担がれ、えいさほいさと運ばれる。
そして更衣室の前の「ゆ」の暖簾の傍にも小さな影がポツンと。
フラン「……」ソー
バサァ
フラン「ひゃぁ!?」ビクッ
隊長「おお、これはこれはフランシー少尉でしたか」
フラン「えっ…設営隊のたいちょーさん?」
隊長「お早う御座います。此処に何か御用でも?」
フラン「べつにその…用ってほどじゃないけどぉ……って、えー!!なんでそいつを担いでんの!?」
隊長「こいつですか?あぁ、今から寝床に戻すところです」
俺「ふっ…ふらんしぃー少…尉ぃ…おはよう……」ブラブラ
フラン「まっまさか…倒れたのっ!?」
隊長「いえ、さっき起きたところです」
フラン「はぁ?」
俺「お見苦しい姿で申しわけない…です…心配しないで下さい」
フラン「しっ心配なんてしてないわよ!」
隊長「はっはっは。それでは、我々はこれにて失礼します」テクテク
フラン「いったいなんなの…」
俺「あの…少尉?おにぎり、おいしかったです」
フラン「ふぇ?」
俺「ちょっと甘かったけど(本当は甘・過ぎだけど)…体力も減ってたんで、その分回復できました」
フラン「そっそう?よよかったじゃない///」
俺「でも出来れば次は…砂糖じゃなくて塩で作ってもらいたいです」
フラン「なっー!?(やっぱりあの調味料砂糖だったのかしら!?)…え…栄養を考えて作ったのよ!えいよーを!」
俺「さすがにおにぎりと砂糖は…」
フラン「ううるさいわよぉっ!だいいちそんなカッコで言われたら聞いてやるワケないでしょ!」
俺「そんなぁ」ブラブラ
俺は寝床に連行されていった。
フラン(女湯から男が男を担いで出てくるなんてよく考えたら変な図よね…)
フラン「しかも何でこんなに散らかってるのよ…ええとお皿は」
カラン
フラン「あっ(…全部食べてくれたんだ)」
空になった皿を手に取る。
フラン「えへへ…」
ゴロン
フラン「?…これはぁ……」
その岩の球体は玄人の目から見れば形は歪であろうが、彼女の目からはどう映っただろう。
――俺『…っ…くっ…!』キンッ キンッ
フラン「――…なかなかやるじゃない…あいつ」
形に対してだけではなく、岩を叩く男の姿に対しても。
【午前、ワイト島付近上空にて】
ヴォォォォン
ウィルマ「フランとの哨戒シフトは久しぶりに感じるわ」
フラン「そーね、最近は訓練とかお風呂が壊れたこととかがあったから」
ウィルマ「あははっお風呂が壊れたのは予想外よねー」
フラン「あーそれにしても早く直らないかしら…」
ウィルマ「んふふ…でさーフラン、朝あんなに早く起きてドコに行ってたの?」ニヤリ
フラン「えっ!?」
ウィルマ「お風呂場に行ってたみたいだけど、まだ壊れてるはずだしぃ~」
フラン「あっあんた見てたのねぇー!」
ウィルマ「何か用事でもあったのかなー?」
フラン「べ別になんでもないわよ!きっ昨日あいつに渡したお皿を取りに行っただけ!」
ウィルマ「ふぅ~ん…それで、彼何て言ってたの?」
フラン「え……お…おいしかったっ……てぇっ?!なんであいつと話してたことも知ってんのよ!?」
ウィルマ「いーからいーからっ喜んでくれてよかったじゃない、フランが作った料理なんだしさ」
フラン「納得いかないわねぇ…そりゃ…嬉しかったけど…」
ウィルマ「また作ってあげたら?」
フラン「きっ気が向いたら作ってやるわよ…でも、その前に私も頑張らなきゃ…」ボソッ
ウィルマ「ん?」
フラン「……」モジモジ
ウィルマ「どうしたのフラン?」
フラン「ね…ねぇ…哨戒任務が終わったらさ…射撃の特訓に付き合ってくれない?」
ウィルマ「!!もちろんよ!あぁっやっぱりフランは可愛いわね~」ガバッ!
フラン「ちょ!ちょっとばか!まだ任務中でしょぉ!?」
ウィルマ「頑張る子見るのお姉さん大好き~」ギュゥ
【ワイト島分遣基地、管制室にて】
フラン『あっもうちょっと危ないからやめなさいよぉー!』ザザッ
ウィルマ『いいこいいこ~』ザザッ
角丸「……はぁ」
アメリー「あのぉーウィルマさん達…?無線の電源…はいちゃってます」
【午後、基地構内にて】
隊長「しかし暇になってしまったな」
俺「もう任務は無いんですか?」
隊長「調査報告は通達した。任務は一先ずここまで、後は我々の部隊が到着するまで待機だ」
俺「そうですか」
隊長「今回の件は二人で作業しても意味が無い。それに資材も無い」
俺「何もすることがないと?(よし寝よう!)」
隊長「いや、お前は基礎的な力が欠けている。なので特訓だな。私が隅々までレクチャーしてやろう」
俺「うへぇ…」
隊長「なんだその反応は。昨日の勢いはどうした」
俺「一昨日と昨日の疲れが今になってドッと…」コキコキ
ヴォォォォン
隊長「おっ!ありゃお嬢様方じゃねぇか!哨戒任務からお帰りのようだ。おい俺、お出迎えに馳せ参じるぞ」
俺「え、でも特訓は?」
隊長「後回し。今は取り合えずハンガーに急ぐ!」ダッ!
俺「あ………あー(こいつ…)」
【ハンガーにて】
ヴォォォォン ガシャ
ウィルマ「今日もお出迎え?ありがとうね」
隊長「御安い御用であります!」
俺「お帰りなさい、フランシー少尉、ウィルマ軍曹」
フラン「た…ただいまっ…」
ウィルマ「あーしっかし今日は何だかよく動いたわねぇ」
フラン「あんたが抱きついて飛び回るせいでしょぉー!?」
俺「何かあったんですか?」
フラン「あんたにはかんけーないのっ!」
俺「は、はぁ…」
ウィルマ「さぁてこの後はシャワーの前に特訓ね、フーランっ」
隊長「そういえば、此処は岩風呂以外に浴槽は無いのですか?」
ウィルマ「え?んーそうなのよ。でも今はシャワー施設があるから」
フラン「むー…せめて仮設用のお風呂でもあればね」
俺「仮設用か…そうだ!隊長、二人でも風呂は作れるのではないでしょうか?」
隊長「ん?あぁそういうことか」
フラン「ふぇ?どーゆーこと?」
俺「フランシー少尉、昨日の夜食のお礼をさせてください。少し時間が掛かりますが、必ず完成させますので」
フラン「う…うん」
隊長「そうと決まればすぐ行動するぞ。おい俺、整備兵に交渉して来い」
俺「了解!」
ウィルマ「えっと…私にもちょっと良く分からないんだけど」
隊長「しばらくすればお分かりになると思います。その間にどうぞ訓練なさってください」
【射撃場にて】
ドンッ!
ウィルマ「反れたわね…もう少し近づきましょうか?」
フラン「えっ…でも…」
ウィルマ「大丈夫よ。少しずつでも、当てることが力になるから」
フラン「そっそうなの?」
ザッザッ
グッ…
ドンッ!
ウィルマ「ナイス!命中よ」
フラン「ふ、ふんっ!当然よっ」
角丸「あら、二人ともここにいたのね」ニコッ
ウィルマ「あっ隊長さん」
フラン「隊長も訓練しに来たの?」
角丸「いいえ…先程の哨戒任務の件でちょっとねぇ…」ゴゴゴゴ
ウィルマ「え!?まさか無線聞こえてました?」
角丸「えぇ…でも二人とも自分で進んで訓練してるし、今日は特別よ」パァァ
ウィルマ「あ…ありがとう」
フラン(ほんとうにいいのかしら…)
角丸「でも次からは絶対に許さないからね?肝に免じておくこと。それじゃ先にシャワー浴びてくるわ」
ウィルマ「あっ、ちょっと待って。今日はお風呂に入れるみたいなの」
角丸「え?」
フラン「ふそーのアグレッシブ馬鹿達が今ふんとー中よ。まったく…」
【夕方、風呂場にて】
俺「おいしょっと…ふぅ」トンッ
隊長「おい俺、ドラム缶ちゃんと加工してきたか?」
俺「してきましたよ…整備兵の人達が悪い人じゃなくて良かったです。吹管で見事に蓋の部分だけ切り取ってもらえました」
隊長「なんだ自分でやらなかったのか?」
俺「溶断器具を貸してもらうだけでいいって言ったんですけど、あっちの人も『ウィッチのために風呂作りてぇ』って何故か熱くなっちゃってて」
隊長「ははっ、同じモノ作りの連中として対抗心があるんだろうな」
俺「(モノ作りの連中…か)…そうですね」
隊長「ほら、こっちも敷板が完成したぞ」
俺「ドラム缶の採寸も図ってないのによく作れましたね」
隊長「慣れてるからな。よしピッタリだ」カコン
底にこびり付いた油を一度お湯を入れて浮かし、まとめて取り除く。
レンガとともに追い焚き用の火をドラム缶の下にセットし、源泉湯をバケツを使って入れまくる。
三つのドラム缶風呂が完成した。後はウィッチ達の到着を待つだけだ。
ウィルマ「なるほどーこれのことだったのね」
アメリー「あー!ドラム缶のお風呂です!」
隊長「お嬢さん方のお出ましだ」
角丸「隊長さん、本当にありがとうございます。何とお礼をしたらいいのか…」
隊長「そのお言葉だけで結構でございます。我々はあなた方のお役に立てれば十分ですので」
ラウラ「久しぶりのお風呂…」
俺「どうぞ、お湯のほうも熱くなっておりますのでお入りください」
フラン「……」ジー
俺「ん?」
フラン「ちょっと…」
俺「何か?」
フラン「男のあんた達は出て行きなさいよ!!」
俺「え!?し…しかしそれでは火を焚く係が。
初めての方だと難しいし、それに手間も」
フラン「そんなこといって、ホントはあたし達の裸が見たいんでしょ!」
俺「見ませんよ!(ウィルマさんのはちょっと見たいけど)」
フラン「いいからでてけぇー!!!」
【浴場の外の廊下にて】
俺「はぁ、ったくなんだよ(あの小娘め…幼児体系など見とうないわ)」
隊長「惜しかったな…クソッ」
俺「え?」
案の定、俺と隊長は外へと追い出された。
今では階級順的に角丸とラウラとフランが風呂に浸かっているだろう。
俺「しかし、俺はいつも気になります。あんな小さい子の方が階級が上なんて」
隊長「失礼なことを言うな。戦えない私達にとって、彼女達は私達以上に重要な存在だ」
俺「…普通の女の子だったら遊びたい年頃なのに…もしネウロイと戦って………それで…」
隊長「おい、またその話か」
俺「あんなに幼いんですよ?笑顔だって、まだ子供のままじゃないか…」
隊長「考えるだけ無駄だ。私達には不可能がある、ウィッチではない。ネウロイは彼女達に任せるしかない」
俺「……」
隊長「だから彼女達を全力でサポートする。それが男に生まれた使命だ」
俺「……でも」グッ
隊長「昨日彫っていた球体を見て一目で分かった。お前は自ら望み始めた墓石を彫るということに、戸惑いを感じているな?」
俺「……」
隊長「技術を手にするには真の覚悟が付き物だ。一朝一夕で身に付くものではない」
俺「……」
隊長「……」
俺「………此処に居るウィッチ達を見て…俺は思いました。もし彼女達が――」
角丸「ふぅ…隊長さん、とても良い湯加減でした」
隊長「それはどうも」
角丸「(?元気がないみたい)あれ、俺さんはどちらへ?」
隊長「あいつなら外にいます。散歩がしたくなった様で」
角丸「そ…そうですか(なにかあったのかしら…)」
隊長(あいつ、若気の至りってか)
【夕方、基地郊外にて】
俺「はぁ…」
時々、自分の無力さが嫌になる。
俺「………」
何故、自分はネウロイと戦える力がないのだろうか。
俺「……っ」
何故、恐怖するのだろうか。
フラン「…あ」
俺「……フランシー少尉?」
フラン「あんた、ここで何やってるの?」
俺「少尉こそ」
フラン「あたしは宿舎に帰るところよ。髪のケアもしなくちゃならないし」
俺「そうですか…俺は疲れたので少し気分転換をしているところです」
フラン「ふぅん…ちょ…ちょっとは適度に休みなさいよっ?」
俺「え?」
フラン「ずっと働きっぱなしだったみたいだし…それに…なんか頑張ってるみたいだし…」
俺「…ありがとうございます」
フラン「上官なんだから気を使うのはトーゼンよっ!」エッヘン
何故、この子が戦っているのか。
俺「少尉はいつから此処へ配属になったのですか?」
フラン「え?まーいってしまえばつい最近ね」
俺「最近と言うと…ウィルマ軍曹と同じぐらいですか?」
フラン「ううん、あたしの方が先。それまでは本国で爆撃訓練とかしてたわ」
俺「……(戦闘訓練…なんでっ)」
フラン「…ん?ちょっと何よ、黙り込んで」
何故、この子が武器を持たなければならないのか。
俺「ごめんなさい…少尉…」グッ
フラン「えっ?」
俺「俺達は当然のことをしているつもりです、貴女方のサポートを。でも…それは本当の意味で当然じゃない」
フラン「ど…どうしたのよ…いきなり?」
俺「すみません…でもなんで…なんでっ…少尉達が――」
何故、この子が戦場へ向かわなければならないのか。
――ウゥゥゥゥゥゥゥゥ!!
今まさに、この時のように。
フラン「!!」
俺「警報!?」
フラン「うそ…なんでこんな時間に!?」
ウィルマ「警報が鳴ったわ!」
角丸「全員出撃準備よ!」
アメリー「あうぅ…せっかくお風呂に入ったのに」
角丸(ブリタニアの501には夜間哨戒のウィッチがいるはずなのに、まさか入れ替えのタイミングを狙ってきた!?)
ラウラ「隊長、早く!」
角丸「えぇ、みんな急ぐわよ!」
フラン「大変、あたしも…!」
パシッ
フラン「ふぇ?」
俺は思わず、フランの腕を掴んでしまった。
俺「!」
フラン「ちょ…ちょっとあんた」
俺『…………此処に居るウィッチ達を見て…俺は思いました。もし彼女達が――』
俺『死んでしまったら…もう遅い……それなのに…墓なんか作ってどうなる…と』
俺『…死んだ後なんて考えたくありません…彼女達を死なせたくありません』
俺『男の俺が…戦うべきなんだ…』
隊長「俺ェ!!」
俺「…!」ビクゥ
隊長「警報が鳴っているんだぞ!?何やってんだ!」
隊長の叫び声に気が付き、我に返った俺は彼女の腕を離した。
フラン「…あ…あんた」
俺「……」ガクガク…
フラン「………っ!!」ダッダッダッ
彼女は、空の戦場へと駆けていった。
俺は、足が震えたまま突っ立ていることしか出来なかった。
何故、俺が戦わないのであろうか。
俺「何故…どうして…」
教官「いい加減目を覚ましやがれ…!」
バキィッ!!
その「何故」の思考を遮ったのは、隊長の上官としての拳だった。
つづく
最終更新:2013年02月15日 13:12