俺「本日よりお世話になります。扶桑陸軍から参りました! 階級は軍曹です」
場所は第502統合戦闘航空団。通称ブレイブウィッチーズの基地の軍倉庫の片隅だった。周りでは扶桑からの補給の配給やらで兵が忙しなく動き回っている。
曹長「そうか。私はこの班の班長を務めている。曹長だ」
ロマニャン「ロマーニャ空軍軍曹だ。気軽にロマニャンと呼んでくれ」
ブリタニアン「ブリタニア陸軍から来ている。階級は同じく軍曹。この班は班長以外全員が軍曹になるな。名はブリタニアンだ」
曹長「さて、手を出せ」
俺を除いて僅か二名の班員が名乗ると曹長が言った。意図が分からず言われた通りに利き手を班長の前に出す。
と、握られた。それは外から見れば握手の体勢だろう。
曹長「よく来た。我々は君を歓迎する」
そう言って、曹長は熊みたいな立派な体と顔でにっこりと笑った。
あれから、長旅ご苦労今日は休め。と案内された部屋はロマニャンとブリタニアンとの相部屋だった。さほど広くない部屋に四人部屋を想定しているようで、入り口から見て左右には二段ベッドが固定されていた。
ブリタニアン「僕が向かって左の二段目。ロマニャンが反対側の一段目を使用している。空いている好きな方を使ってくれ」
班長とロマニャンはこの場所にはおらず、ブリタニアンと二人だった。
俺「余った方は?」
ブリタニアン「三人で物置代わりだな」
そっか。
俺「じゃあ右の二段目を使うよ」
そうすれば物置場所は一段目になって使いやすいだろう。
ブリタニアン「そうか。そうだ、班長はああ言ってはいたが着任の申請書だけは書いてくれ。後は僕の方で提出しておく」
俺「分かった。すまない」
ブリタニアン「いいさ。扶桑からここまでだ、随分と距離がある」
この場所はオラーシャの東側に位置している。確かにオラーシャを丸々と横断したようなものだった。その間、狭い場所で体を丸めていたので節々が辛かった。
そうだな・・・・・・好意に甘えて、最低限の荷物の整理をしたら休ませてもらおう。
翌日、所属することになった班員全員――四人――が班所有のキューベルワーゲンが停車されている一角に集まっていた。
ワーゲンの周りには武器弾薬が妙に恵まれている気がする。それをロマニャンとブリタニアンが一つ一つ品定めするようにして分けていた。
それを傍目に俺は曹長から説明を受けていた。
曹長「さて、ブレイクウィッチーズの由来は知っているか?」
俺「この502JFWにユニット損耗率の非常に大きい三人のウィッチが在籍しているために部隊名ブレイブウィッチーズをもじられた呼び名、ですよね?」
曹長「そうだ、ならば我らが班の任務は?」
俺「墜落した彼女たちの救助およびストライカーユニットの回収です」
曹長「正解と言いたいが、それでは表面をなぞっているだけに過ぎん」
俺「と言うと……?」
異動の辞令を受け取ったときの説明では、先ほどの言葉で全てだった。
曰く、ストライカーユニットは非常に高価なものであり、それを壊れたからと言う理由で完全に放棄してしまうには、ブレイクウィッチーズは壊しすぎている。それに、その度に彼女たちは自力では帰れない状況に陥ることになる。
そのため、この二つの事柄に速やかにに対応するための専用班が用意されたのだと。
曹長「問題なのはこの502がカールスラント奪還を主任務とした侵攻部隊だと言うことだ。つまり?」
班長は言葉を切って、顎を僅かにしゃくり上げる。続きを言ってみろということだろう。
俺「そうなれば必然、彼女たちの戦域はネウロイ占領地域となります」
曹長「その通り。つまり我らが班の主要任務地もまたネウロイ占領地域となる」
そういうことか。なんとなく読めた。
曹長「まあ、深刻になるほどではない。既にウィッチたちに攻められた後だからな、出てきても小型で中型以上とは出くわすことは滅多にない」
ブリタニアン「そして墜落したウィッチに小型とは言えネウロイを相手にするだけの力は残ってはいないからな。その相手は私たちだけですることとなる」
横合いからブリタニアンが割ってはいってきた。
曹長「こらこら勝手に台詞を取るな。まあその通りだ」
曹長は頭をポリポリと掻いて笑う。ブリタニアンの言葉が一番この班の特性を端的に表していた。
ウィッチなしでネウロイを墜とす。随分と無茶苦茶だ。けれど、男だけでウィッチを打破しようとする試みは何度も行われている。そのほとんどは失敗で終わっているとしても……。
曹長「ん、怖じ気づいたか?」
俺「まさか。――と言いたいところですが、正直言って怖くはあります」
曹長「それが普通だよ。まあなんだ。お前の経歴も確認している。十分やっていけるだろうさ。期待している」
俺「はっ! ありがとうございます」
そう、この班に配属されたのだ。ならば死なぬよう、全力で任務を全うすべきだろう。
曹長「最後に我らが班のじゃじゃ馬なお姫様を紹介しよう。管野直枝少尉だ」
班長はそう言って、俺の肩越しに視線をやった。従って振り返ると、確かに其処には女の子が居る。不機嫌そうに腕を組んで仁王立ちしていた。ずっと待っていたのだろうか?
管野「やい班長! 用があるからって呼んどいてじゃじゃ馬ってのはどういうことだ」
曹長「な、この言葉遣い。じゃじゃ馬そのものだろう」
曹長がコッソリと同意を求めるように耳打ちしてきた。その様子も管野少尉は気にくわないらしく、眉を顰める。
ロマニャン「うちの班長が失礼を。お姫様」
いつの間にか少尉に近寄っていたロマニャンが妙にキザったい口調で言う。
管野「そのお姫様ってのも無しだ」
ロマニャン「そりゃ無理ってもんだ」
ロマニャンの背は男の中でも高い方で、少尉が見上げる形になるのだが堂々と物怖じせずに言い放つ。けれど、ロマニャンもまた平然としたものだった。
その様子を見て心中穏やかではなかった。ロマニャンは軍曹で相手は少尉。つまりは上官だ。けれど、ロマニャンの口は止まらずに動き続けている。
ブリタニアン「心配ない。姫様はいつもブスッとして怒っている様子を振りかざし、威嚇して回るようなじゃじゃ馬だが、度量は狭くない」
俺の心配が表情に出ていたのだろうブリタニアンが耳打ちしてきた。というか、アンタも姫様呼ばわりしてるのかよ。これはこの班の習わしなのだろうか。
ついに堪忍袋の緒が切れたらしい少尉はロマニャンの腹にストレートを一発撃ち込んだ。
小柄な割に腰の乗った良い一撃だったようでロマニャンが呻くが周りは平然としたものだった。いつも通りの風景と言うことだろうか。
少し赤らんでいるように見える表情で少尉殿が俺の前まで来て立つ。
不意にジッと顔を見詰められることになった。睨まれているのだろうか?
しばらく空気が固まったようにそのままだったが、痺れを切らしたらしい少尉殿が先に口を開いた。
管野「お前は……。その、なんだ・・・・・・言うことはないのか?」
俺「申し訳ありません少尉殿。挨拶が遅れました。扶桑陸軍の俺軍曹です。本日より少尉殿の専従班の四番に着任いたします」
あれ? 一瞬、少尉の表情がこわばったように見える。
管野「・・・・・・」
俺「少尉殿、どうかなさいましたか?」
管野「少尉殿じゃない」
え!?
俺「申し訳ありません。階級を間違えていましたでしょうか?」
管野「違う、管野直枝だ。それが私の名前!」
俺「存じていますが?」
一体何が言いたいのだろうか? 少尉殿の体が震えていた。たぶん怒りで。俺としては何故そんなことになるのかとんとわからなかった。
管野「もういい。俺、少尉殿は禁止だからな。二度とそうやってオレを呼ぶんじゃない」
俺「ではどう呼べば?」
管野「決まってるだろそんなの――。いや、好きに呼んでくれ」
ふむ。どうやら少尉殿に対する呼び方は決まり切っているようだ。となれば
俺「では姫様で」
これで正解だろうと口にすると、少尉殿は絶句し、わなわなと震えて俯いてしまった。
管野「……他に言うことは無いのかよ?」
俺「これからよろしくお願いいたします」
少しして少尉殿は徐に背を向ける。
管野「これからよろしく」
ロマニャンへのあばれっぷりから想像できないほどに小さな声だった。
そのまま少尉殿は真っ直ぐに倉庫から出て行ってしまった。
ロマニャン「どうしたんだ姫さん?」
隣に忍び寄ってきたロマニャンの言葉には同意したいけど、今日が初対面の俺よりもそっちの方がよっぽどわかると思うんだ。
ただなんとなく初っぱなから失敗しているようで、これから先のことが少し不安になった。
最終更新:2013年02月15日 13:41