ーーーーー君の任務はとても単純だーーーーー
「はっ はっ はっ」
走る。 岩と砂だけの、不毛の宝庫たる砂漠を、ただひたすらに走り抜ける。
ーーーーこれを持って砂漠を駆け抜けーーーー
「はっ はっ はっ」
手にはリベリオン製ガーランド、腰にはロマーニャ製ベレッタ、着ている服はカールスラント製軍服。
我ながらバラバラだと思う格好に全身から出た汗が染み込んでいる。
ーーーー敵の奇襲部隊を発見、接近しーーーー
「はっ はっ はっ」
振り返ると遠くで大量の砂煙が巻き上がっている。
目を凝らしてよく見る。地を爆煙が包み、空を砲火が照らした戦場を舞っているのは彼女たちだろう。
ーーーーー空に向かって打ち上げろーーーーーー
早速目当ての奴を見つけた。さすがに例のトレードマークは見えなかったが動きでわかる。
あんな失速寸前の機動ができるのはあいつぐらいのものだ。
戦況は芳しくない。つまりいつもどおりだ。そう判断してから再び走りだす。まだどこからもコレは上がっていない。
ーーー後のことは我らが女神に任せればいいーーー
比較的低いところから、岩場をよじ登る。なんとか頂上までたどり着き、伏せた状態で辺りを見回す。
この辺り一帯は谷の深い渓谷が広がっている。
起き上がって谷に注意しながら岩場の上を伝っていき、再び索敵を繰り返す。
「…いた。」
遠くの谷底をネウロイが進んでいる。
陸戦の小型が三機、おそらくは斥候だろう。
着実に敵奇襲部隊に近づいている。斥候の来た方向に進めばたどり着くだろう。
そのままじっと斥候の姿が消えるまで待つ。ウィッチでもないのに単独でネウロイと戦うなんて…あまりやりたくない。
出来ないとは言わない。以前やったし。どこぞの空挺師団も肉薄戦でネウロイ倒したし。
斥候の姿が消えた。
身を起こして走り出す。できる限り身を低くして。
ネウロイは高地を嫌う。つまり岩場の上にいれば陸戦型に対してはある程度安全だ。
「問題は」
その場でうつぶせになりそのまま岩のように動かないようにする。
ヒュンヒュンと音を立てながら飛行杯が三機、谷間を通過する。
あれに見つかったが最後、機銃掃射で一巻の終わりだ。
予想通り、ウィッチに見つからないよう低空を飛んでいたから見つからずにすんだ。
まあネウロイが目で物を見ているとも限らないが。
再び立ち上がり走りだす。出来る限り音は立てたくないが、そうも言っていられない。
一秒早く任務を成功させれば、一人死なずにすむ。そう自分に言い聞かせ恐怖を押し殺す。
「蛇みたいに移動できたら、見つからずに進めるのになあ」
ガラガラヘビ以外。
陸戦型ネウロイ発見。谷底を行軍しているのである程度は気付かないだろうと速度は落とすもののそのまま走る。と
「やばっ!」
陸戦型と飛行杯が一緒に行軍しているのが見えた。
慌てて近くの岩陰に隠れる。幸い人が隠れられる大きさの岩がゴロゴロある場所だ。だから発見が遅れたともいえるが。
飛行壺の音がこちらに近づいている。
「気付かれたか…」
飛行杯ならガーランドで倒せないこともないが、銃声で他のネウロイに気付かれる。
音が近づいたり離れたりしている。どうやらこちらを探しているようだ。
今隠れている岩を中心に音のする方向の反対に隠れる。だが、いつまでもここにいるわけにはいかない。つまり
「あいつに見つからないように、この地域から離脱する」
目標を口に出し、頭を整理する。今のところ正確な位置は把握されていない。まだ逃げ切れる余地はある。
伏せて岩の影から音のする方向をうかがう。今は反対方向を捜索している。
今の内に岩影から出て別の岩影から様子を見る。今度はこちらを捜索するつもりだ。
うかがっていてはばれる可能性がある。
岩と地面の隙間に体を潜りこませ耳をすませる。
だんだん音が近づいてくる。そして、恐らく隠れている岩の直上で静止した。
「………!」
心臓が暴れる。先ほどまでとは違う汗が頬を伝う。
気付かれているのか。いや所詮岩の隙間だ。気付かれていなくとも少し横から見たらすぐばれる。
たまたま飛行杯が隙間の反対から来て、たまたま直上に止まっているから見えていないだけだ。
そしてたまたま見えない方向へ向かってくれるか。
もし飛行杯が見えてしまえば…
汗の滴る音で気付かれるのではないかという緊張の中、ただひたすら待つ。
1秒…2秒…3秒…
緊張が手の震えとして現れるのを必死で押さえ込む。
すると飛行杯の音が少しずつ離れていく。元来た方向へだ。
そのままピクリとも動けずに待つ。その内音は聞こえなくなった。
「はぁ…」
全身の緊張が解け、一気に疲労感を感じる。十秒は動く気がしない。
だが休んではいられない。ようやく体を起こす。
そして再び進みだした。先ほどまでよりは少しゆっくりと。
それから何度かネウロイから隠れながら進み、人が入れそうな窪みを見つけた。転がりこんで全周囲を確認する。
さっきからニアミスしているネウロイの来た方向、今見えているネウロイの位置。
「ロンメルの親父の予想通り。ははっ、さすが最高の戦術家」
それらは全て、懐の地図を確認するまでもなく、ロンメルが地図に印を付けた場所を示している。
印の地点は岩場の影に隠れていてここからでは見えない。確認するには今敵が隠れているその岩場にたどりつかなくてはならない。
手に持ったガーランドを握り締める。敵陣至近距離まで単独で接近する。困難だ
「でも、不可能じゃあない」
窪みから飛び出し、駆け出す。印の地点までは直線距離で200m
ガーランドは1発も撃っていない。8発の弾丸は丸々残っている。
あと150m
音に気付いたのか陸戦ネウロイが撃ってくる。
下からの射撃で足場が盾になる。無視。
あと100m
遠くから飛行杯が撃ってくる。
距離が遠い、こっちもあっちも当たらない。無視。
あと50m
飛行杯の弾が数発かする。かすっただけ。まだ運は尽きてない。
あと0m
目標地点到達 敵ネウロイ奇襲部隊確認
陸戦中型複数、陸戦小型多数
…飛行杯15
「…飛行杯はほぼ全てが哨戒してるんじゃないのかよ親父ぃ」
懐から預かった信号拳銃を引き抜き、半泣きになりながら信号拳銃を足元に向けて撃つ。
放たれた発煙弾が地面で跳ね返り、色鮮やかな煙を吹き出して周囲を覆い隠す。
この煙を見たウィッチ達があと数分で駆けつけるだろう。
「問題は、数分生き残れるかなんだよな」
と言って信号拳銃を放り投げその場を離れ、急ぎ窪みに隠れる。
元々マーキング用の発煙弾だ。そこまで煙は広がらない。半分は苦し紛れだ。
そして機銃掃射の音が聞こえる。が隠れている窪みに弾は飛んで来ない。
「……?」
太陽の向きを確認してから手鏡を取り出す。
角度を調整してみると、15機の飛行杯がすべて発煙弾から吹き出した煙の中に撃ちこんでいた。
さらによく見ると煙の範囲が広がっている。
「壺の機銃が発煙弾に当たって穴空けて、そっから煙が噴出したのか?」
まさか、と思いながら窪みに隠れ続ける。発煙弾が放出をやめてもすぐ煙が無くなるわけではない。いまだ飛行杯は撃ち続ける。
「統率とれたネウロイはやっかいだけど、まさかそれに助けられるとはね」
バラバラに動き回られてたら見つかってたな。
と隠れながら呟いて脱力する、もう出番は終わったのだから。
飛行杯の音ではない。我らが女神の足音が聞こえる。
続いて大量の銃声が鳴り響く。一つだけやたら大きい音がするのはボヨールド40mmだな。
おそらくさっきまで彼女たちがいた戦場も同様、いやもっと多くの音が鳴り響いているだろう。
陽動のくせに魔女を総動員しなければならない敵戦力だったのだから。親父たちも怒鳴り声を撒き散らしてるだろうな。
やかましいことこの上ない。
と、視界の隅に何かいた。こちらに向かって一直線に進んでくるあれは
「さっき散々追い掛け回してくれた飛行杯か」
もちろん見分けなどつかない、がなんとなくそう感じる。
飛行壺は機銃を放ちながら突撃してくる。ウィッチは他のネウロイで手一杯。
「これは…自分でどうにかしろと」
窪みから身を乗り出し左ひじを地面に当ててガーランドを構え、狙いを定める。
「まだ、遠い」
待つ。飛行杯も機銃弾もどんどん近づいてくる。
「っ! まだ…」
左腕に被弾。構えを左手で支える形から左手をクッションに地面で支える形に変更。
再度照準。
「もう少し…だけど」
普段の距離からはまだ遠い、しかし笑って引き金にかけた指を引く。
8連射。ピーンという音を立てて弾を束ねていたクリップが飛ぶ。
放たれた弾丸は840km/hで空を駆ける。
クリップが落ちる頃にはその大半が命中した。そのうちの一発がコアを撃ちぬき、飛行杯は砕け散る。
他のウィッチが倒したネウロイの破片と混ざったその姿はまるで砂漠の雪のようで、
「こんな景色も見られるとは、ホント、『ラッキー』な一日だ。」
上空をウィッチが飛んでいる。その中の一人に手を振って呼ぶ。
そいつは呆れた顔で降りてきた。そんな彼女に聞く。
「ちょっとそこ行くお嬢さん、基地まで運賃いくら?」
「私は高いぞ? 最高の酒と晩酌の相手だ」
そういって彼女、黄色の14は手を伸ばす。左手を出すのはいやがらせか、わかってるだろ。
「乗った。」
その手首を右手で握る。
そこの扶桑魔女、写真取るな、後で焼き増ししてくれ。
最終更新:2013年02月15日 13:42