ナレーション:諏訪天姫

あー、あー、ゴホン、んんっ、てすてす

本日は~晴天なり~ってあれ?

あ、あれっ、あれっ、もう始まってる!?

あわわ、ご、ごめんなさい……えっと、えっと台本台本……あった!

………………
…………
……

コホン

ここはとある空間、とある場所にある秘密の隠れ家
どこから行くのかも、どこからたどり着くのかも、誰も知らない気まぐれに現れる謎の扉

今まで時折誰かの目の前に現れる事はあっても、決して開かれたことのないこの謎の扉

常に「We're closed」の看板が掲げられていた扉に、今宵初めて「Open for business」の文字が掛かっています

その奥からは、なにやら物音と話し声が聞こえてきています
折角なのでちょっと覗いてみることにしましょう

……これで大丈夫ですか?


………………
…………
………


――――KKI空間「ORE's Bar」

俺「こんばんは、ORE's Bar支配人兼マスターの『俺』と申します」

ヘルマ「こんばんは、アルバイトのヘルマ・レンナルツであります」

俺「ヘルマさん、俺のまん前に立たないでください、カメラに写りません」

ヘルマ「え?あ、はい、すいません」コソコソ

俺「見切れ過ぎです、もうちょっとこっちへ」

ヘルマ「あ、はい」コソコソ

コツン、ガシャーン!

ヘルマ「うわああああああああ、ごめんなさあああああああああい!」

俺「はぁ……怪我をしないように片づけておいてくださいね、そろそろお客様がいらっしゃる時間ですから」

ヘルマ「あうう、はいです……」サッサッ

俺「えー、さて、試験的にオープンいたしましたこのORE's Bar。何を趣旨とするかと申しますと
  様々なウィッチの方をお客様に招いたり、お呼びする事は出来ない各『俺』の方の名を上げて
  その方々にあったお酒をご提供させていただく、といった手合いの物を企画しております」

ヘルマ「あうう、このグラス私のだ……気に入ってたのに……高かったのに」サッサッ

俺「あくまでも試験的な物なので、今宵限りの営業になるとも限りません
  俺自身もこういった形で皆様の前に出るのは経験がありませんので、正直な所怖い面もあります」

ヘルマ「折角ハイデマリーさんと一緒に買いに行ったのに……こんど謝っておかなきゃ……」

俺「ご提供させていただく酒類に関しては個人的な嗜好が多分に影響される可能性もございますが
  極力、お客様にご納得いただけるような、実際にお手に取れるようなラインナップを心がけるよう努力致します」

ヘルマ「ああ、こっちにも飛び散ってる。ああ、あっちにも」

俺「勿論『酒ネタをやりたいから』ではなく、各々のパーソナリティに触れた上でのお話をさせていただくつもりでおります
  酒成分も濃くなりすぎないよう、薄目に、でもそれなりに、といった具合にてどなたにでもお召し上がり頂ける内容で進行して参ります
  その上で何か不都合等がございましたらなんなりとお申し付け下さい」

ヘルマ「あっ、こんなところにお金が落ちてるであります、ラッキーであります」

俺「基本的に大きなKKI精神をモットーに営業させていただいておりますので、最後にその点だけご了承頂ければ幸いにと存じます」

ヘルマ「でもこのグラス1個でバイト5時間分かぁ……やっぱりへこむであります……」

俺「ヘルマさん?終わりましたか?」

ヘルマ「え!?は、はい!終わっています!元気であります!」

俺「ガラスで手とか切ってませんよね?」

ヘルマ「たぶん、大丈夫であります」チラチラ

俺「ちゃんとガラスはガラス用のゴミ箱に入れましたか?」

ヘルマ「はい、ちゃんと分けたであります」

俺「箒とちりとりは片づけましたか?」

ヘルマ「あ、はいロッカーの中に」

俺「それと……」

ヘルマ「お、俺さん!もう時間がないでありますから!それは後でもいいですから!」

俺「ああ、これは失敬。ではこちらへ」コイコイ

ヘルマ「はーい」トコトコ

俺「では」スッ

俺・ヘルマ「ようこそ、ORE's Barへ!」バッ

俺「今宵もごゆるりと、お隣の魔女とご一緒にひとときの般若湯を」

ヘルマ「今夜もサービスサービスぅ!であります!」グッ

俺「えっ、なんですかそれ?」


………………
…………
……


俺「さて、そろそろ一人目のお客様がいらっしゃる筈なのですが」

カチャッ

ヘルマ「あっ、来ました!」

カランカラン

俺「いらっしゃいませ」

ヘルマ「いらっしゃいませー!」ペコリ

ミーナ「こんばんは。マスター、ヘルマさん」ニコッ

ヘルマ「今宵のお客様は、連合軍第501統合戦闘航空団隊長
    カールスラントの誇る美しき女侯爵!スペードのエース!ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐であります!」パチパチパチ

俺「」パチパチパチ

ミーナ「あ、あら、どうも」///

ヘルマ「さささ、こちらのカウンターへどうぞどうぞ」ササッ

ミーナ「ありがとう、お邪魔するわね」ニコッ

ヘルマ「えへへ」///

俺「お久しぶりですね、ご加減は如何ですか?」

ミーナ「大変よ、もう手のかかる子ばかりで。私の所にくる人はどうしてああ問題児ばかりなのかしら……」

俺「はは、それだけ上層部からも信頼されているということでしょう」

ミーナ「そうかしら?ただの厄介払いにも思えるけど」

ヘルマ「お水とお手拭きであります!」ササッ ピラッ

ミーナ「ありがとう」スッ フキフキ

俺「あとはやはり『母性』でしょうね
  ミーナ中佐から溢れる母性がそういった問題児……失礼。変わった方が集まりやすい傾向にあるのかも分かりませんね」

ミーナ「よく言われるけど……それって喜んでいいのかしら
    だって私まだ19よ?母性って程の年齢でもないし子供なんて勿論いたことだってないし」

ヘルマ(俺さん、この会話引っ張って大丈夫なんですか?ミーナ中佐ちょっと落ち込んじゃってるじゃないですか)コソコソ

俺(大丈夫ですよ、先ほどお話しておいた例の物をセラーから用意しておいてください)コソコソ

ヘルマ(了解であります!)コソコソ

俺「年齢の事、お気にされてるんですか?」

ミーナ「それはそうよ、だって……その、実年齢より上に見えるって事でしょう?
    そ、それは501の皆に比べれば年齢だって上の方だし、下から見ればそうなのはわかるけど」

俺「そうですね、それだけのキャリアと地位もございますからね」

ミーナ「だって酷いのよ、どこかの国では○B○なんて呼ぶのよ私のこと」ハァ

俺「いやはや、それはそれは……なんとも」

ミーナ「事務仕事が多いから肩もこりやすくなってきてるし……なんだか自信無くしちゃうわ
    それに美緒なんて私の事「最近老けたか?」って、いくらなんでもストレートすぎるわよ……」コキコキ

俺(あれ、この人まだしらふですよね……)

ミーナ(……B……A)ブツブツ

俺(水を片手に何やら呟いていますね……ここまで気にされていたとは、ううむ)

スタスタ

ヘルマ「俺さん、持ってきましたよ」

俺「いいタイミングです、素晴らしい仕事ですヘルマさん」パチン

ヘルマ「えへへ、はい、これでありますね」スッ

俺「ええ、これですこれです。ナイフ」

ヘルマ「はい」ポン

キュルキュル、クイッ、キュポン

俺「グラス、ヴィノムにしましょうか」

ヘルマ「はい」キュッキュ

ミーナ(……BB……A……)ブツブツ

ヘルマ「俺さん、デキャンターは使わないでありますか?」カチャカチャ

俺「今回デキャンタージュはあえてしません、果実味を飛ばしてしまう恐れがあるのは勿論ですが
  本来この子の持つ若干の荒く雑っぽい感じも風味として味わって頂きたいので」トクトク

ヘルマ「はーい」カチャカチャ

俺「お待たせ致しました、本日の逸品にございます」

ミーナ「えっ?あ、ああ、ごめんなさいちょっと考え事をしていたみたい」

ジー

ミーナ「わぁ……綺麗な黒紫色。瓶の方もモノクロのラベルに雰囲気があって素敵ね」

俺「ヒスパニア情熱と歴史の赤ワイン
  『ボデガ・イ・ヴィネドス・デル・ハロン・ヴィーニャ・アラルヴァ・レゼルヴァ』と申します」

スッ

俺「どうぞ、召し上がって下さい」

ミーナ「ええ、いただきます」クイッ

俺「如何ですか?」

ミーナ「……美味しい」パァァ

俺「光栄の極み」ズパッ

ミーナ「口当たりはちょっと重い感じもするけど、あとに抜ける香りと余韻の果実味がすごく新鮮ね
    ちょっと土気もあるのかしら、香辛料的なニュアンスも少し感じるわ」

俺「その香味に気づくとは流石です、ご用意した甲斐がありました
  さてそれを貴女に飲んで頂きたかった事には、そこも含めて若干の理由がございまして」

ミーナ「ええ、なにかしら」クイッ

俺「これは、ガルナッチャというヒスパニア特産種の葡萄だけを使った単一葡萄酒なのですが
  実はこの葡萄、樹齢40年から100年の物のみ、完熟させた物だけを使った歴史の詰まった一本なのです」

ミーナ「100年……」

ヘルマ(へー、知らなかったぁ)

俺「人間に換算すれば40歳なんてもういい年の頃です、1引いたらさんじゅうきゅうさいです
  まして100歳ともなればババアもババア、それはもうしわくちゃでくしゃおばあちゃんです」

ミーナ「……#」ニコニコ

ヘルマ(ちょっとぉぉぉぉ!何言い出してるでありますかぁぁぁぁぁ!)

俺「しかしご覧下さい、この深い黒紫色
  一部では黒ワインともよばれる程の濃い色合いは、40年から100年の長年によって積み上げられた葡萄の生命力の表れ
  その年月を、雨にも風にも、何事にも負けずに生き延びてきたこの葡萄だからこそ出せる、いわば魂の色とも言えるものなのです」

ミーナ「年月……」

俺「貴女にこれを差し上げたかったのは、人も葡萄も同じという事をお伝えしたかったからです
  過ごして来た年月によって、その人の、物の魅力という物は常に積み重ねられます」

俺「それは知らぬ者から見れば無価値に見えることも時としてあるでしょう
  ですが、本当に積み重ねられた価値のわかる人から見れば、代わりの無い、唯一つの、貴女だけの魅力となりえるのです」

ミーナ「私だけの……?」

俺「先ほど仰っていた香味、あれも言ってしまえば雑味とも言い換えられるものなのですが
  ワインの雑味も人に置き変えれば、考えようによっては『無駄』の一部なのかもしれません
  ですが、それも含めてその人の持てる魅力といえるのではないのでしょうか」

ミーナ「魅力……」

俺「お心当たりはございませんか?貴女だけを見ている『俺』の方々もいらっしゃるでしょう
  その方々は外野の意見に惑わされず、貴女の本当の魅力に気づいているからこそ、貴女だけを見ているのではないのでしょうか」

ミーナ「そう、ですね……はい」///

俺「ふふ、いいお顔を頂きました。重畳です」

ヘルマ(よかったですね、俺さん)ニコニコ

俺「ではヘルマさん、総括をお願いします」

ヘルマ「えっ!わ、私でありますか!?」ビクッ

俺「そうですよ、貴女もアルバイトなんですからそれらしくちゃんと仕事してください」

ヘルマ「え、ええっと、その、で、ですからつまり」アセアセ

ヘルマ「外野の言うことは気にしないで下さい!貴女には貴女だけの魅力があります!
    その、年齢とか見た目がとか、そういう上辺だけに捕らわれて○○○とか言っちゃう人はしょうがない人なのであります!」ビシッ

ヘルマ「……これでいいですか?」ソワソワ

俺「まあまあですね」

ヘルマ「あんまりでありますー」シクシク

ミーナ「」クスクス

ヘルマ「あう……」///

ミーナ「ありがとう、何だかあんなつまらないことで悩んでる自分が馬鹿馬鹿しくなったわ
    この100年に比べたら、私の19年のちっぽけな事……うふふ、本当に」

ヘルマ(ミーナさんじゅうきゅうさ……)

スパーン!

俺(静かに)

ヘルマ(;ω;)

俺「結構、少しでもご気分を和らげて下されたのであれば幸いです」

ミーナ「お代は……」

俺「先程いいお顔を頂きましたので。ねえ、ヘルマさん?」

ヘルマ「は、はい!お釣りがでるくらいであります!」フンス

ミーナ「うふふ、じゃあ折角だから今夜はごちそうになろうかしら」

俺「ええ、ではもう一杯。如何ですか?」

………………
…………
……



ナレーション:諏訪天姫

ここはとある空間、とある場所にある秘密の隠れ家
どこから行くのかも、どこからたどり着くのかも、誰も知らない気まぐれに現れる謎の扉

今まで時折誰かの目の前に現れる事はあっても、決して開かれたことのないこの謎の扉
今宵は中から楽しそうな笑い声が聞こえてきています
これからもこの扉が開かれるかどうかは、また別の機会にでも……

おっと、そろそろお時間のようです

今宵の営業はここまで、次回があればまた是非ご来店をお待ちしておりまずぐ

ふぁぁ、噛んじゃいました……ごめんなさいぃ
最終更新:2013年03月30日 01:12