――20XX年 日本



俺「またしても転校ですか、マミー。俺としてはいい加減、落ち着いた生活がしたいんだけど」

私「誰のせいだ、誰の。お前が派手な真似をしなければ、わざわざ引っ越しなんてする必要なんてなかったぞ」

母「まあ、仕方ないさ。新しい所で楽しくやろうぜ。こっちもなかなか楽しい仕事が出来そうだしな」ニヤリ

俺「おお、なんという怖い笑み。おい、私、マミーが怖いぜ」

私「やれやれ。私の家族は、まともな人間がいないのか……」

俺「そういう私もまともではないのであった、まる」

私「否定は出来んが、お前にだけは言われたくない!」


国道××号線を行く白いワゴン車に一つの家族を乗せて走っている。
運転席には母らしきスーツを着た女性が、助手席と後部座席にはその息子と思しき学生服を着た青年が二人。
父親がいないのは少し可笑しかったが、この時代である。片親もさして珍しいものではないだろう。


俺「しっかし、日曜に引っ越しねぇ。どうすんだ、朝のスーパーヒーロータイムを楽しめないんだが……」

母「やれやれ、高校卒業間近の男の趣味がそれとはな。母は悲しいぞ」

俺「道行く女をレイプする訳でもないあるまいし、人に迷惑かけない趣味の何が悪いの?」

私「間違ってる。明らかに比較対象が間違っているからな、それ……」


車は新天地へと向け、家族を乗せて走る。
目的地は関西のとある県。今まで住んでいた片田舎とは比べ物にならない都会だ。
それに反して、俺も私も期待や喜びを見せないところから察するに、彼等にとって引っ越しや転勤はそう珍しいことではないらしい。

一同を乗せた車が県境のトンネルに差し掛かる。
長さにしておよそ3キロほど。周囲が山に囲まれた県にはさして珍しくもないただのトンネルだ。

その選択が、一家の運命を決定づけた。
この世界とは似て非なる世界、魔法力の存在する世界への旅路を……。


俺「あーあ、学校卒業したら、飯食って糞量産するだけの簡単な仕事につきたいねぇ」

母「待てぃッ!!」

俺「む!? どこだ、どこにいる!」

母「労働は自らの娯楽と愛する者の生活を守るためにのみ許される。その喜びを知らず、悦楽のみを貪る愚か者。人、それをニートと言う!」

俺「我が家の車内で好き勝手にほざくとは、何者だ!」

母「貴様に名乗る名前はない! とぅッ!」

俺「馬鹿な!? 俺の頭の上に居ただと!?」

母「闇あるところに光あり、ニートあるところにハロワあり。日本国憲法第27条第1項よりの使者、ハハ見参!」

俺「この憲法を知らない奴は、国民の義務も分かんなねー馬鹿だ! 糞して寝ろ!」


私「……………………………」

俺「おい、私。お前、自分のツッコミという名の仕事を放棄してんじゃねぇよ」ヤレヤレ

母「そうだぞ。お前は我が家では貴重なツッコミポジだ。胃に穴が開いても仕事はこなせ」ハア

私「……いや、ちょっと待ってくれ。何か可笑しいぞ。あと私の仕事はツッコミじゃない。学業だ」


私は後部座席から身を乗り出し、車に備え付けられたカーナビに指を伸ばし操作をする。
何かを確認すると、私は大きく溜息を吐いて、どっかと後部座席に腰を下ろした。


私「やっぱりだ。トンネルの距離と走行距離が噛み合っていない。もう明らかに5キロ以上は走っているぞ」

母「ああ、何だそのことか。俺も気付いてただろ?」

俺「まあね」

私「二人とも、気づいてたんなら、相談くらいしよう」ハァァ

俺「つったってなぁ。どうしようもねーべ。訳の分からん内に何かに巻き込まれるなんて、もう日常みたいなもんだろ?」

私「まあな。お前という人間は、厄介極まりない運命を背負わされている」

俺「いやなら出てけよ。お前なら一人でも生きていけるだろ。マミーも嫌なら捨てていいんだぜ?」

二人「「馬鹿言うな」」

俺「俺が言うのも何だけど、ほんといい家族持っちゃったなぁ」


母「お、出口が見えてきたぞ」

私「これまでの経験上、素直に勘違いで終わることはないと思うが……」

俺「県境の長いトンネルを抜けると、そこは……」

私「雪国の冒頭みたいな台詞は止めろ」


視界を白く染める光が車内を染める。
明らかに太陽光とは別の光にも拘らず、乗っている三人には驚いた表情はない。一体、どんな生活を送っていたというのか。

その時、ガクンと車が揺れたかと思えば、奇妙な浮遊感が全員を襲った。
私の顔だけが青く染まる。流石に、今目の前で起きている現実は、体験したことがなかったのだ。それもその筈……


俺「なんと空の上でした(笑)」

私「なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!」


上空数千メートルに一同を乗せたワゴン車が居た。


俺「やっべぇ、プロローグの時点で死んだわこれ」

母「磯野ー、もうどうしようもないから皆で一家心中しようぜー!」

私「お前達は何でそんな落ち着いているんだッ!?」

俺「つってもなー、どうしようもねーしこの状況。……へい、マミー! この車、ボンドカーみたく空飛ぶ機能はついてないのかい?」

母「わ、私としたことが……! 其処は盲点だった!」

私「未だかつて空を飛ぶボンドカーなど見たことがないわ! そして母さんも乗り気になるな! ていうか、出来るの!?」

母「知り合いに頼めば、出来る! ……気がする」

私「どんな超技術だぁッ! まるっきりスターウォー○の技術力じゃないかッッッ!!!」

俺「死を前にしてなおツッコむとは……」

母「私は出来ておる喃」


私「ぐあああああああッ!!! 驚き過ぎて心臓が痛くなってきたぁぁぁッ!!」

俺「おい、マジに大丈夫か?」

母「こんなんレールのないジェットコースターじゃねぇか、なっさけねぇー」ゲラゲラ

私「俺ですら心配してるのに、アンタって人はぁぁぁあああああああああッ!!」

俺「そう、人の一生とはレールのないジェットコースターと同じ。どう足掻いても死ぬってことだ」

私「やっぱり俺は俺だった! 上手い事言ったつもりか! 全然上手くないんだよぉぉぉ!」


俺「ん? あれなんだ?」

母「下は海だなー。上手くすりゃ死なないが、はてさてどうなるかねぇ」

私「くそ! なんだこの展開は! 未だかつてこんな訳の分からん状況に叩き落されたことはないぞ!」

俺「あ、ヤベなんか突っ込んでくる」

二人「「え?」」

俺「うわー、逃げろー」


気の抜けた声と共に車のドアを開いて、車外へ俺が飛び出す。
それに遅れること数秒、黒い飛行機らしき物体が、今の今まで乗っていた車に激突し、粉微塵に粉砕した。
続き、激突した側の黒い飛行機も、白い霧のように粉状に砕けるや、風に乗って霧散していく。


俺「あー、死んだなありゃ。私とマミーのご冥福をお祈りします。南無南無」


私「勝手にぃぃぃぃぃぃぃ、殺すなぁぁぁぁぁッ!!」


俺「お、生きてた。流石に反応速度が違げーや。つかどうする? 思わず飛び出ちゃったけど、俺達まだノーパラシュートダイビングの途中だぜ?」

私「知るかぁぁぁぁぁぁッ! というか何だあの飛行機は! 既存の航空機ではない形をしていたぞ!」

俺「アメリカの秘密兵器かね? なんか動きがプレデターっぽい無人機の動きだったけど。にしちゃあ、速度がそんなにねーな。つーか、飛行機はあんな壊れ方しねーだろ」

私「確かに、何か変だ……」

俺「はあ、俺のパソコンとゲームが……さよならネネさん、さよなら二次元嫁」

私「お前は、もうちょっと別のことを気にしろぉぉぉぉおおおッッ!!」

俺「ハ、現実なんてクソゲーだー、っと」


緊張感や真面目さとは一切無縁なのか、俺は落下の最中も表情を変えなかった。


私「母さんは一緒に脱出するのを見たが、無事かどうか……」

俺「無事だろ、だって俺等のマミーだぜ? 人類最強の赤色と公安9課のメスゴリラを足して2で割ったような人間だぞ?」

私「……だな」

俺「だが、死は誰にでも平等に訪れん。人修羅にすら訪れるんだぞ、パトラッシュだよ。マミーも死ぬときゃ死ぬ」

私「酷い奴だよ、お前は! ……ん? 何だアレは」

俺「空を見ろ! 鳥だ! 飛行機だ! いや、スーパーマンだ!」

私「少しは真面目にやれぇぇぇぇええええッ!!!」


バルクホルン「くッ、ただの迎撃任務だと思えば、なんでこんな所に人が落下してるんだ!」

ミーナ「とにかく助けないと!」

エーリカ「もう一人の方は坂本少佐達が行ってくれたよ!」


二人の視界に移ったのは軍服に身を包んだ三人の少女。
驚くべきことに、両脚に何か機械らしきものを履いているだけだというのに、空を飛んでいた。


私「本当にスーパーマンだこれぇぇぇぇッ!!!」

俺「いやいや、スーパーウーマンだろ。ツッコみは正確に、な?」

私「黙れぇぇぇぇッ!!」


ミーナ「トゥルーデは身長が高い方を! もう一人は私が! エーリカはフォローをお願い!」

二人「「了解!」」


俺「お、なんか助けてくれるみたいだぞ。いやー、流石スーパーウーマン。人助けしてないと死ぬみたいだな、ヒーロー的な意味で」

私「いや、それを言うならヒロインじゃないか? ……全く、相も変わらず不幸と幸運のバランスが取れていないぞ、神よ!」

俺「あれ? あの金髪好みかも。でもなんか生活能力低そうだなぁ。あ、あのツインテの女、お前と気が合いそうだぞ」

私「知るか! なんでそんな話になる! いや、まだ一人居るだろう。あの赤毛の……」

俺「あ? BBAに興味ありませんけど?」

私「……言うなよ。本人の前で絶対に言うなよ」

俺「ああ、分かった。…………フリだな!」

私「フリな訳があるかぁぁぁぁッ!!」



バルクホルン「……そこの、掴まれ!」

私「……ぐッ!」

バルクホルン「よしッ! ミーナ、此方の救助は完了した!」

私「はぁ……はぁ……。す、すまない、助かった」


何とか手を取った少女は、そのまま速度を落とし、私の救出に成功した。


坂本『こちら坂本! こちらも何とかなったぞ!』

母『いやぁ、悪いねお嬢ちゃん。助かったよ』

私「母さんは無事か!」

バルクホルン「母さん? 家族なのか……。あ、いや、それは後でいい。ミーナ、そっちは……」



俺「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ、BBAが来たぁぁぁぁぁぁ」

ミーナ「誰がBBAですか、誰がぁッ!!」キーッ!



二人「「何をやってるんだ、お前たちはぁぁぁぁぁッ!!」」


ミーナ「このぉ! 大人しく捕まりなさい!」

俺「いやでござる、絶対にいやでござる。働きたくないでござる」ヒラリ

ミーナ「誰も働けなんて言ってないわッ!!」

俺「導け in the sky! みんなを連れて! 信じた it's my soul! ヒラリ舞い上がるぅぅぅ~~♪」ヒラリ

ミーナ「急に歌いだした!? しかも妙に上手い!」

俺「あー、和田さん大丈夫かなぁ。早く病気治してくれないかなぁ」ヒラリ

ミーナ「ああ、もう! なんで捕まえられないのよ!」

俺「ハッ! そういえば初代のOPで選ばれし子供達が俺と同じような状況に! 今が、歌唱力を披露する時!」ヒラリン!

ミーナ「今はどう考えても、他人に助けを求める時です!」


エーリカ「もう見てられないよ! ミーナ、退いて!」

ミーナ「エーリカ! 何を……!?」

エーリカ「馬鹿と鋏は使いよう! 風も同じだよ! 『シュトゥルム』!!」

俺「無限だぁぁぁぁぁぁいな夢のぉぉぉお? がぼぶべッ!!」バシャーンッ!


海面に激突する瞬間、奇妙な風が俺の周囲に逆巻き、落下の速度が軽減した。まるで金髪の少女が風を操っているかのように。
とは言え、元よりかなりの速度が出ていたことには変わりなく、海中へ俺の姿は消えていった。



私「なんだ、急に落下速度が……? ありえんぞ」

バルクホルン(……思ったよりも冷静だな。本当に、何者なんだ?)

坂本「アレは固有魔法だ。聞いたことくらいあるだろう?」

私「魔法って、いきすぎた科学は魔法と見分けがつかんと言うが……」

坂本「……? 何を言っている。魔法も科学も、学問という括りならば大差はあるまい?」

母「いやぁ、見分けがつかないだけで、根本的なもんは違うって言ってるんだぜ、お嬢さん」

私「母さん、これは……」

母「これ、思ったよりもとんでもない事態かもしれないぜ、私」ニヤリ

私「だったら、その嬉しそうな顔は止めてくれ……」ガックリ


両手で顔を覆って項垂れる私に、怪訝な表情と視線を向ける救出者一向。
それもそうだろう。如何なる目的、思惑があるかは別として、命が助かったのだ。普通の一家なら全員の無事に涙を流して喜んでも可笑しくない。

だが、残念ながら、この一家は普通とは程遠い家族である。


俺「ぶはぁッ! あー、酷い目にあった。アレ、マミーも私も無事じゃん。ツマンネー」

私「家族の無事を少しは喜べ!」

俺「いやだって、マミーとか殺しても死にそうにないし」


ミーナ「おほん、失礼ですが、あなた方は? それに、どうしてこんな……」

俺「やれやれ、教養ねーBBAだぜ。人の名を聞く前にまずお前が名乗れ」←中指を立てながら

ミーナ「わ、私達は第501統合戦闘航空団“ストライクウィーッズ”、私は隊長のミーナ・ディントリーデ・ヴィルケ中佐です。質問に答えて……」イラ

俺「………………」ジー

ミーナ「頂けま…………あ、あの、何か?」イライラ

俺「イッテェ……イタタタタタタ。マミー、絆創膏もってねー? 頭一つ包めるくらいデカイ奴。こいつらダメだ。厨二と言う名の怪我を頭に負ってるわ。初対面の相手に厨二設定披露するとか引くわ」

ミーナ「………………」プルプル

母「残念ながら息子よ、持ってない。仮に持っていたとしても、お前の趣味の矯正に使うわ」ナイナイ

私「いや待ってくれ母さん。それより何より性格を直そう。どうにもならんのはそっちの方だ!」

俺「ひでぇわ、こいつら」

ミーナ「………………いい加減にしなさぁぁぁい!」ドカーン


俺「うわ、BBAがキレた。流石BBA、流石更年期障害」

ミーナ「ババアじゃない! ババアじゃないもん! まだ19です!」ウルウル

俺「そこまでにしとけよ、BBA。年増の年齢詐称ってのは見苦しいぜ。あと、もんとか言って媚びるの止めろ。それが許されるのはロリだけだ」

ミーナ「違います! 年齢詐称なんてしてません!」ガアーッ!

俺「なん……だと……? では、この溢れ出る加齢臭と中の人的な意味は一体……」

ミーナ「もぉぉぉぉぉ! どうして人の話を聞いてくれないのよぉォォォぉッ!」イヤァァァァッ!!


私「すまん……ウチの馬鹿が、すまん……!」

バルクホルン「い、いや、謝るなら、ミーナに謝ってやってくれ」

エーリカ「あ、はは、流石の私もこれにはちょっと……。ミーナも微妙に幼児退行してるし」

母「ハッハー! 相変わらず人を傷つけるのが大好きな奴だな俺は! 流石だ、息子よ!」

坂本「い、いや、奥方。それを喜ぶのはどうかと……。そ、それはそれとしてだ。私の名前は坂本美緒だ。せめて、名前くらいは教えてくれないか?」

ミーナ「それはそれとして!? ちょっと美緒、それはどういうこと?」


俺「小五月蠅いBBAは放っておくとして……、眼帯のねーちゃんの質問には答えるか」

ミーナ「またBBAって言ったぁ!」プルプル

俺「うるっせぇなー。ちょっとは黙ってろよ。俺のはな……」


俺「通りすがりの鎮西八郎・ルーデル・ヘイヘ・ロンメル・船坂弘だ」


私「え?」

母「え?」

坂本「え?」

バルクホルン「え?」

エーリカ「え?」

ミーナ「え?」


坂本「…………え? ん? 今なんといった?」

俺「だーかーら、鎮西八郎・ルーデル・ヘイヘ・ロンメル・船坂弘だっつってんだろ」


バルクホルン(明らかに和洋折衷な上に適当な偽名だ、これーーー!!)ガビーン!

エーリカ(しかも、扶桑人の名前二つあったーーー!!)ガビーン!


私「歴史上のチート人物並べりゃいいってもんじゃないだろうがー!」

母「お前に鎮西八郎も、ハンス・ウルリッヒ・ルーデルも、シモ・ヘイヘも、エルヴィン・ヨハネス・オイゲン・ロンメルも、船坂弘も名乗る資格などないわー!!」

俺「マミーマミー、アンタのキレどこ、どこか分かんな、うごぅ!!」ドゴッ!


バルクホルンと坂本の手から飛び出した二人は、俺の顔面に向かって強烈な蹴りを見舞いした。

これが、第501統合戦闘航空団と普通ではない一家との初邂逅であり、愛と友情の物語の始まりである!(大嘘)
最終更新:2013年03月30日 01:16