――ハンガー
俺「おー、おっはー。お仕事ご苦労さん」
私「随分、懐かしいな。おっはーとか」
俺「温故知新。古きものから新しきを学ぶこともあるのだよ」
私「カッコいいことを言っているつもりなんだろうが、それで新しい何かを得られるとは私は思えないがね」
俺「で、お前は使用される予定のないジェットストライカーに何やってんの?」
私「整備班とは別の視点でコレを見てみようと思ったんだよ。私の固有魔法なら、内部構造から部品の強度まで解体することなく把握できるからな」
俺「はーん、成程ね。でもそれ、きちんと許可とってあんの?」
私「無論だ、お前とは違う。尤も、ミーナ隊長は朝一で私が来たことに驚いていたがね」
俺「そらそうだ。昨日ぶっ倒れた奴が普通の顔で次の日起きれば、誰だって驚くだろ」
シャーリー「うおッ! 私、もう起きて大丈夫なのか……!?」
俺「そして、此処にも驚く物が一人っと」
私「ああ、この通りだ。心配してくれて、ありがとう。感謝する」
俺「………………」
シャーリー「そうか、なら良かったよ。アイツにも、何か言っておかなきゃな」
俺「あー、止めとけ止めとけ。言ったって意味ねーよ」
シャーリー「だけどさ……!」
私「いや、そうしておいてくれ。私が死にかけたのは自分の分を弁えずに行動した私の責任だよ。バルクホルンは国を取り戻そうと必死なんだ。精神的な余裕がない者に懊悩を与えることは、火に油を注ぐようなものさ」
シャーリー「…………分かったよ。だったら、何も言わないさ」
俺「ま、俺としてはあのバカ女をぶん殴ってやりたい気分なんですけどねー。人の言葉に耳を貸さなかった挙句がアレじゃあ笑えねぇしな」
シャーリー「言うことが過激だなぁ。バルクホルンだってさ……」
俺「知るかよ。俺は初めに言った筈だぜ。私とマミーの為に世界が犠牲になれってよ。アレは偽りのない本心だ」
シャーリー「お前……ッ」
その言葉に、シャーリーはゾっとする。
抑揚の少ない、何時も通りの冗談でも語るような口調。だが、全くと言っていいほど嘘偽りがないことだけは嫌でも分かった。
俺は本気で、私や母を救うためであるのなら、躊躇なく世界中全ての人間を殺すような選択をするだろう。
視線を向ける黒瞳に、闇の淵でも覗いているような気分になったが、私が俺の後頭部を叩いたことで我に返る。
私「そう言ってくれるのは家族冥利に尽きるがな。冗談だろうが本気だろうが、そんなことを言うな」
俺「へーへー、お人好しはこれだから。家族甲斐のない奴だ」
私「言ってろ」フッ
シャーリー「なんて言うか、本当に仲いいよなぁ」
私「そうかね。私としてはそうでもないと思うが」
シャーリー「いや、バランスが取れてるっていうかさ」
俺「オメー、そりゃそうだ。兄弟の片方がちゃんらんぽらんだとな、もう片方がしっかりしてくるんだよ」
私「私としては、戸籍上とは言え、兄のお前にしっかりしてほしいがな」
俺「ばっかだなー。駄目な方が兄って相場が決まってるんだよ。カインとアベル、ルシファーとミカエルを見ろ。どっちも兄貴の方がダメダメだ」
私「さらっと史上最悪の兄達を引き合いに出すな!」
シャーリー「はは。じゃあ、私はバルクホルンの所に顔を出してくるよ。言いたいこともあるしな」
私「くれぐれも仲良くな」
シャーリー「ま、出来る限りはね」
そういうと、シャーリーはハンガーを後にした。
恐らく、一悶着あるだろうが、俺も私もそれ以上何も言うことなく彼女の背中を見送る。
俺「ふーん、今は行かせない方がいいと思うがねぇ。ポロっと口を滑らせそうだけど?」
私「そうか? 彼女の精神年齢は実年齢以上だ。不用意なことは言わないだろうさ」
俺「どうかねー。普段の状態なら分からんでもないが、カっとなったら分からねぇよ。自分の感情を完全にコントロールできるほど経験を重ねている訳でも、人間が出来ている訳でもない」
私「最悪、私が自分でバルクホルンと話してくるさ」
俺「気にするなって? それで気にしない性格なら問題ないがね。はてさて、どうなることやら。俺、知ーっらねっと」
私「まあ、いいさ。と私にも考えがあるのでね」
俺「へー、何よ? 教えて教えて?」
私「やれやれだな。…………………………………という訳だよ」ゴニョゴニョ
俺「やだー、私ちゃんったら、だいたーん! 最悪、俺等、軍に捕まるんじゃね? しかも根本的な解決になってねーし」
私「人命最優先でやらせてもらう。なに、ミーナ中佐は身内に甘い。巧く立ち回れば、お咎めはなしさ」
俺「ま、失敗したらトンズラするべー。ぶっちゃけ、この世界の人間じゃない俺達に、命かけてまで戦う理由ってない訳だし」
私「本当に、呆れかえるな。お前の無責任っぷりには……」
会話はそこで途切れ、黙々と作業を進める私と、することもなくボウっとそれを眺めている俺。
シャーリーがいなくなって一時間ほど時間が経っただろうか、それは突然やってきた。
俺「――お?」
私「これは、サイレン……ネウロイか!?」
俺「みたいだな。うーん、タイミング的にどうかねぇ。こっちに悪いように転ばにゃいいけど」
坂本「おい! 俺、何を呆けている! さっさと来い!」タタタタッ!
俺「あー、俺も出るの?」
坂本「出撃シフトに入っているだろう! 確認ぐらいしておけ!!」
俺「へーへー。じゃあ、私、俺ちょっとネウロイ相手の童貞捨ててくるわ」
私「何故だろうな、新兵の台詞と言えばそうなんだろうが、お前が言うとどういう意味で受け取っていいのか分からん」
俺「いや、俺はコスプレ好きなだけで、それ以外の性癖は普通だから。ネウロイに劣情を催すってエグアルマトフィリア(彫像愛好)かペディオフェリア(人形愛好)かよ」
私「お前、なんでそんな異常性癖が簡単に出てくるんだ。後、お前はサディズムとコプロラリア(猥褻語多用癖)が入っている。気を付けろ」
俺「お前も一瞬でそれが出てくる辺り、かなりのもんだろ。あー、そだ。これも持っていってみるかー」ヨッコイセー
私「おい、そんなものを……って、行ってしまった。何を考えているんだ。そもそも、そんなものを持って、飛べる、のか……?」
坂本「ようやく来たか、って、何を持ってきてるんだお前は!?」
俺「ハンガーの隅で埃を被りそう勢いの武器、二連装30mm機関砲×2ですが、何か?」
エーリカ「それジェットストライカー専用に創られたんだよ? レシプロストライカーじゃ、空に上がるのだって……」
ルッキーニ「流石に無理だよ、俺ー」
俺「そんな道理、私の無理でこじ開ける!」クワッ!
坂本「……本当に飛べるのか?」
俺「飛べなきゃ持ってこないだろ。こんなクソ重いもん」
坂本「いいだろう。但し、今回はお前の初出撃だ。我々の援護に徹しろ」
俺「うーっす、分かりやしたー」
ペリーヌ「少佐、よろしいんですの?」
坂本「ああ、言って聞くような奴なら苦労はしない。それに、空に上がれなければ諦めるだろう。上がれたのであれば、戦力にもなる」
ペリーヌ「しかし……!」
エーリカ「まあまあ、ペリーヌも落ち着いてよ。少佐も、何か思う所があるんでしょ?」
坂本「………………ああ」
シャーリー「………………俺」
俺「あ? 何、どうかしたの?」
シャーリー「ごめん。私のこと、バルクホルンに言っちゃった……」
俺「あ、そ。やっぱり、カッとなって? ふーん、で?」
シャーリー「うえ!? いや、だって、ミーナ中佐に伝えたんだろ。私のことは伝えるなって……」
俺「ああ。だがな、それは私のことを考えたからであって、バルクホルンのことなんざどうでもいいんだよ。アイツがどう悩もうが、俺には関係ないね」
シャーリー「…………………………」
俺「それにな、俺は初めから他人になんて期待しちゃいない。俺が期待するのは私とマミーだけだ。だから気にするな」
シャーリー「お前、本当に私や母さん以外に興味ないんだな。こういう時、どういう顔をしたらいいか、分かんないよ」
俺「笑えば、いいと思うよ」
シャーリー「自分に興味ないって言われて笑うって、なにそれこわい」
俺「シャーリーはただの巨乳ではない。もっとおぞましい何かだ」
シャーリー「何かってなんだよ! おぞましくない、普通だよ、あたしは! そうじゃなかったらそれは夢だ!」
俺「ところがどっこい……! 夢じゃありません……! 現実です……! これが現実……! んじゃなー。俺、行きまーす!」ブロロロロロッ!
シャーリー「マジで!? って、行っちゃった! 言うだけ言って人の話聞かないな、本当!」
――上空
ペリーヌ「本当に、飛べてますわ……」アゼン
俺「だから言ったじゃねぇか、飛べるってよ」フンスッ!
ルッキーニ「俺、すごーい」
俺「褒めたって何も出ないZE!」HAHAHA!
シャーリー「むりやり積載量を魔法力で底上げしてるのか。なんちゅー、馬鹿魔法力」
俺「うん、さっきからガンガン減ってんですけどね? まあ、なるようにならぁね」
エーリカ「魔法力使い切って墜落、なんてやめてよね。そういうのはトゥルーデだけでじゅーぶん!」
俺「わーってるよ。自分の限界を見誤るようなアホでも、依怙地な訳でもねーからな。ヤバくなったらさっさと捨てるさ」
坂本「お喋りはそこまでだ。見えたぞ!」
6人の視線の先には、ロケット型の黒い異形が一直線に迫ってきていた。
湧いてきた感慨と言えば、これがネウロイかと言った程度のもの。恐怖や緊張といったものは適度であり、然したる高揚もない。戦闘には理想的な精神状態だろう。
俺「久し振りの戦争か。やってられないな」ボソ
坂本「………………」
その呟きが聞こえたのか、美緒が後ろを飛ぶ俺に視線を向けるが、次の瞬間、それは起こった。
ペリーヌ「少佐ッ!」
坂本「アレは……!」
俺「影分身の術だってばよ!」
エーリカ「どうみてもただの分裂なんだけど……」
俺「そこに気付くとは……やはり天才か……。大した奴だ」
シャーリー「いやいやいやいや! ああ、もうコイツめんどくさい!」
俺「でも、知ってたろ?」
シャーリー「知ってたけど! 知ってたけどぉッ!!」
彼等の言葉通り、ロケット型のネウロイは五機に分裂していた。
それぞれが飛行機雲の尾を引き、数に任せて突破する腹づもりであるらしい。
坂本「各自散開! 各個撃破! ここから先へは行かすな! 俺は後方で援護に徹しろ、いいな!」
俺「了解。今日の俺は紳士的だ。運が良かったな」
坂本「よし! シャーリー! コアのある本体は中央の奴だ。かなり速い、お前に任せるぞ!」
シャーリー「うん! 分かった!」
俺「駄目だ。コイツ等、ネタを理解してくれない」ヤレヤレ
俺が下らないことに嘆いている間にも、ウィッチーズは戦闘に入っていく。
敵の大きさは分裂をしたことにより大型から中型へと変化しているが、敵の防御力は上昇の一途を辿っている。そう易々と撃破できる相手ではない。
一同が苦戦を強いられる中、コアを持つネウロイの後をシャーリーが追う。
作戦に不備はない。本体にあるコアさえ破壊してしまえば、残りの分裂した機体も、同様に塵芥のように消え失せるだろう。
誤算があるとするならば……
シャーリー「こいつ……!」
シャーリーのBARから放たれる射線を容易に潜り抜ける回避性能。大きさに釣り合わない小回りの良さだろう。
お互いの攻撃は当たらず、条件は一見すれば互角だろう。
しかし、その実態はどうしようもない差がある。急降下に急旋回、発生するGはストライカーの発生させる魔法によって軽減させるが、体力や精神力はどう足掻こうとも削られていく。
対し、ネウロイにそれはない。人間と人間以上の化け物の差。このままでは、その差こそが勝負の明暗を分ける最大の要因となるだろう。
坂本(シャーリー……! 俺を援護に、いや、まだ使えるか分からんか!)
坂本「こちら坂本! シャーリーが苦戦しているようだが、此方も手が足りない! 至急増援を頼む!」
ミーナ『分かったわ! リーネさん! 宮藤さん!』
宮藤&リーネ『――はい!』
俺「ふん、いきなりピンチじゃねーか。毎度毎度、こんな綱渡りみたいな真似してんのか、コイツ等。ま、大体分かってきたし、俺も動くか」
――ハンガー
芳佳とリーネはミーナの命令に従い、向かったハンガーにて、今まさに出撃しようとしていた。
だが、二人の前に見慣れた人影が立ちふさがる。
宮藤「バルクホルンさん!?」
バルクホルン「お前達の足では、間に合わん」
出撃前、エーリカにインカムを渡されたバルクホルンは戦場の状態を逐一把握していた。
しかし、悪化していく戦況を前に居ても立ってもいられず、こうしてハンガーに足を向けていた。
無論、彼女の行動は命令違反だ。だからこそ驚きである。あの規律が第一と言って憚らないバルクホルンが命令違反など。
私「ある程度予測はしていたが、こうも早いとはな」
バルクホルン「………………私」
私「一応、言っておくが、私は反対だ。アレだけの目にあって、ジェットストライカーを使うなぞ狂気の沙汰だぞ」
バルクホルン「だが、それでも、あのネウロイを倒し、仲間を救うには必要なんだ……!」
私「そうか。顔色も最悪、体調も万全には程遠いだろうに、物好きだな。だが……」
そこで言葉を区切り、私は分厚い鎖で封印が施されたジェットストライカーに掌を向ける。
まるで砂糖細工が砕けるように。鎖の輪が次々と溶解し、戒めは消え失せた。
私「俺が同じ目に在っているのならば、私の決断も同じだろう。もっとも、アレがそんな苦戦を強いられるとは思えんが……」
バルクホルン「…………すまない」
一言、それだけ謝ると、ふらつく身体を押してジェットストライカーに両脚を納める。
私「その様子では、イェーガーに色々と聞いたようだが、今は気にするな。後悔は後回しにして、今は前だけを見ろ。それからな……」
バルクホルン「なんだ……?」
私「私は、謝られても嬉しくないな」
バルクホルン「そうか……なら――――――ありがとう、だな」フフ
私「そうだな、それがいい。君に与えられた時間はせいぜい五分程度だ。問題はあるか」
バルクホルン「全く以って問題ない。充分すぎる……!」
私「そうか、なら行って来い! まごまごしているとウチのバカが見せ場を攫っていくぞ!」
バルクホルン「――――ああ!」ヒュィィィイイイイッッ!!!
50mmカノン砲を携え、バルクホルンは凄まじい勢いで空へと駆け上がっていく。
後に残ったのは、ストライカーの響きと、各々が違う表情を浮かべる三人の男女だけだった。
宮藤「私さん! こんなの無茶ですよ!」
リーネ「そうです! バルクホルンさんはまだ体力も魔法力も……!」
私「無論、分かっている。あのままでは確実に先日の二の舞になるだろう。故に、少しだけ仕掛けを施した」
宮藤「仕掛け……?」
私「ああ。根本的な解決にはならなかったが、彼女の命が失われることはない」
絶対的な確認に満ちた声に、宮藤とリーネは安堵しつつも顔を見合わせる。一体何を仕掛けたのか、二人には見当がつかなかったのだ。
私「こうしていても仕方がない。取り敢えず、戦況を確認しに行こう。ミーナ隊長は通信室か?」
リーネ「は、はい!」
私(私は、お前の隣に立つことは出来ない。共に戦うことは、出来ない。……だが、出来るだけのことはした。後は頼むぞ……!)
Coup De Grbce
――同刻 上空。
俺「さあ、鼠のように逃げおおせるか、戦って死ぬか! どちらか選べぇえい!」クワッ!
ペリーヌ「何!? 急に何ですの!?」
俺「俺の本能が叫ぶのさ、貴様らを殺せと!」ジャキ!
ルッキーニ「うきゃー! 俺がおかしくなったー! ……ん? あ、いつものことだった」
エーリカ「確かにそうだけど、戦闘中にまで付き合ってられない、よぉ!?」
坂本「何をする気だ!?」
今の今まで事態を静観していた俺が、突如として突貫した。
ストライカーに搭載された魔導エンジンは、過剰なまでに送り込まれる魔法力に悲鳴を上げながらも使命を全し、前進する。
美緒を筆頭とする五人と壮絶なドッグファイトを繰り広げていた分裂体は突然の闖入者に対処すらできない。
初撃、美緒の後ろに張り付いていた一機の上を取り、三発の30×173mm弾が中央部に直線で突き刺さり、会えなく霧散する。
坂本「……な!?」
俺「今死ね! すぐ死ね! 骨まで砕けろぉぉぉおおおおおおおおッ!!!」
続き、両腕を広げ片方五発、計十発もの砲弾が発射され、一発も外すことなくエーリカとペリーヌが相手をしていた二機も同じ運命を辿った。
まるで弾丸そのものが意志を持っているかのように。あるいは、ネウロイが射線に飛び込んでいくかのような、神業じみた射撃。
ペリーヌ「これは、魔弾ですの!?」
エーリカ「いや、弾道に変化はなかったよ。……なにこれ、まるでハンナじゃんか」
坂本(ネウロイの動きを読んだのか! たった数分で、こうも完璧に!?)
ルッキーニ「うじゅ!? 俺、そっち行ったよ!」
最後に残った一機が、標的をルッキーニから俺へと変更する。
人間ならば見上げた根性と賞賛の一つも送ってやりたくなるが、相手はネウロイ。やったとしても無意味極まる行為だろう。
俺の後方上空を取ったネウロイは、赤い光を雨の如く降り注がせるが、俺は分かっていたとばかりに次々と隙間を縫うように回避していく。
俺「攻 撃 な ぞ し て ん じ ゃ ね えええええええええ!!」
ぐるりと背を地球に向けるように反転するや、凶悪な威力を秘めた弾頭が発射される。
またしても外れなし。僅かなズレもなく弾丸はネウロイの機体を食い破り、粉微塵に砕けてきた。
ペリーヌ「攻撃するな、なんて……」ハア
エーリカ「なんという理不尽大魔王」ガックリ
坂本「お、おい! 待て、何処に行く気だ!?」
俺「どこって、シャーリーの援護に決まってんだろ。何時まで呆けてる気だよ?」
坂本「い、いや、しかしだなぁ……!」
俺「逃げるやつはネウロイだ! 向かってくるやつは訓練されたネウロイだ! ホント戦場は地獄だぜ!! フゥハハハーハァー!!」
坂本「駄目だ、まるで聞いてない!」
ルッキーニ「待って、俺! あたしも行く!」
坂本「お、おい、ルッキーニ!」
ペリーヌ「全く! あの二人、少佐に迷惑をかけて!」
エーリカ「あー、もう! 少佐、早く二人を追わなきゃ! シャーリーが危険なのは変わらないんだからさ!」
坂本「あ、ああ! 全機、俺とルッキーニに続け!」
俺「お、見えた。あ、まーた分裂したよ。何だよ、アイツ。プラナリアか」
ルッキーニ「アイツ、シャーリーを挟み撃ちにする気だよ! 俺、やっちゃって!」
俺「あったりきぃー」
俺「貴様の死に場所は……ここだ! ここだ、ここだッ!! ここだあああぁぁぁッッッ!!!」ドカッ! ドガッ! ドガッ! ドガッ!
シャーリー「うわ、うるさ!? 俺!? 何だ!?」
シャーリーを挟み撃ちにしようとした二機のネウロイは、ほぼ同時に砕けて消えた。
一機は言わずもなが俺が。コアを持ったもう一機は、基地より出撃したバルクホルンの50mmカノン砲の餌食となったのである。
シャーリー「うわー、すっげー。………………やったぞバルクホルン! すごいじゃないか!」
バルクホルン「う、……ぐッ……」
シャーリー「おい、どうした!?」
白い粉雪のような破片が舞う中で、シャーリーはネウロイを撃破したバルクホルンを労うが、返ってくるのは苦しげな呻き声だけ。
それもその筈。暴走し、異常なまでに魔法力を喰らうジェットストライカーの速度を落とそう、懸命に意識の喪失の中で戦ったいるのだ。
坂本「マズイぞ! このままでは……!」
俺「いや、問題ねぇ。じきに止まる」
シャーリー「どういうことだよ!?」
俺「無駄口叩いてねぇで、さっさと後を追え」
俺の言葉に従うまま、シャーリーは加速を続けるバルクホルンの後を追った。
この速度では自身の“加速”の固有魔法を全力で行使してようやく追い縋れるかどうか。……しかし、そんな心配や焦りも杞憂に終わった。
バルクホルン「――ッ!? これは……!」
意識の手綱を手放しかけたバルクホルンは急速に失われつつあった魔法力の消費が抑えられていることに気が付いた。同時に速度とエンジン出力が下がっていく。
何が起きたのか理解できないまま、それでもなお私の仕業だと感づいた。アレだけ危機感の強い男が、何の考えもないまま、自分を送り出す訳がないではないか、と。
そうこうしている内に、両脇にシャーリーと俺の腕が滑り込んできた。
バルクホルン「私の、仕業だな……?」
シャーリー「どういうことだよ、俺?」
俺「こんなこともあろうかと。こんなこともあろうかと! 色々と手を加えておいたのさ!」
坂本「説明して貰おうか、俺。全く、肝が冷えたぞ!」
俺「おう、説明しよう! ま、簡単なことだ。ジェットストライカーのエンジンに一定以上の負荷が掛かると、基部が壊れるように金属疲労を起こさせておいたのさ」
ペリーヌ「私さんの固有魔法で……?」
俺「そういうことだ。どこかのバカが無茶をするのは分かってたからなぁ」
シャーリー「はー、何もかもお見通しかよ、アイツは」
俺「いやいや、誰だって分かるだろ。脳味噌単細胞過ぎるんだよ、どいつもこいつも」ハッ
バルクホルン「………………俺」
俺「あん? どったの単細胞生物さん?」
バルクホルン「ああ、もう。こっちは疲れてるんだ、からかうな。…………その、色々とすまなかったな」
シャーリー「うぉ、珍しく素直じゃないか。明日は槍でも降るのかねぇ」
バルクホルン「お前もだ、シャーリー。今日ばかりは勘弁してくれ」
俺「はーん? 謝る相手が違うんじゃねーの? つーか、俺は怒られるのも拒絶されるのも嫌われるのも覚悟の上でやってっから、謝る必要なんてねーっての」
バルクホルン「それはそれでどうかと思うが、私にはもう謝ったし礼も言った。……まあ、その、なんだ」
シャーリー「………………」ククク
バルクホルン「笑うな……。お前達のことを色々と教えてくれ」
俺「別に、取り立てて教えることなんざないと思うがなぁ……。ま、いいよ。ただし、一つだけ条件がある」
バルクホルン「何だ? 身体を触るだのは、なしの方向でな」
俺「いや、セクハラは許可なしにやるのが楽しいんじゃないか、分かってないねー。……条件はアレだ、もっさんの命令無視しまくったからな。俺等と一緒に怒られろ」
バルクホルン「……はは。生憎だが、私も命令違反をした。残念ながら、火に油だな」
シャーリー「大した問題児揃いだな。俺とバルクホルンは命令違反、私はジェットストライカーの無断改造になるのか?」
俺「お前が言うな。さー、面倒事が待ってるが、帰るとするか」
最終更新:2013年03月30日 01:18