――回想 2時間前


私「臨時補給……?」

ミーナ「ええ、物資が必要になってしまってね。宮藤さんとシャーリーさん、ルッキーニさんの三人でローマの街まで行って貰おうと思って」

私「はあ……」

ミーナ「こう言っては何なのだけれど、あの三人だけでは何かと不安でしょう……?」

私「まあ、言葉にするのはどうかと思いますが、お気持ちは察します」

ミーナ「それで、私さんにも付いて行って貰えると助かるのだけれど……」

私「引率ならバルクホルンが適任だと思いますが?」

ミーナ「ネウロイの襲撃に備えて、基地の戦力を必要以上に分散させる訳にはいかないわ」

私「ふむ。それならば、仕方がありませんね。分かりました、引き受けます」

ミーナ「ありがとう。これで後顧の憂いはなくなったわね!」パア

私「………………俺の手綱は、握っておいて下さいね?」


ミーナ「………………ッ!?」バササッ!


私「気持ちは分かりますけど、書類を落とすほどショックを受けなくても……」










――現在 執務室



ミーナ「――と言う訳で、私さんはローマへ出かけました」

俺「成程、把握した。でもさー、何か問題起きても私じゃ、どうにもできないぜ。心臓ポンコツ自称するくらいだし」

ミーナ「私さんなら、問題が起きる前に何とかしそうだけど……」

俺「まあね。だけど、個人の主張や行動は最大限尊重する奴だから、問題もう起きてるんじゃねぇかな?」

ミーナ「不安になるようなことを言わないでちょうだい」


俺「まあいいや。アイツなら何とかするだろ。自分に出来る範囲は弁えてるし、誰かの命でもかからなけりゃ、自分の命をかけたりしないだろ」ドサァ

ミーナ「何で、ソファに座るのかしら……?」

俺「はぁん? 外に居るともっさんとかバルクホルンが訓練訓練てうるさいんだよ」

ミーナ「貴方の場合、欲望を運動で発散した方がいいんじゃないかしら?」ニコニコ

俺「あっざーっす!! BBAの嫌味はらしゃーっす!!」

ミーナ「嫌味が、まるで嫌味にならない……」

俺「実際、もっさんと訓練したって俺の為にならねーんだよなぁ。ぶっちゃけ生ッチョロすぎて」

ミーナ「そういえば、早朝訓練で逆に潰されてしまったって落ち込んでたわね、美緒……」ハァ


俺「と言う訳で、俺は今日も惰眠を貪る日々なのですよ」

ミーナ「だったら自主訓練でも、他の娘達と親睦でも深めたらどうかしら……?」

俺「訓練、意味ないからダルい。他の連中は色々とメンド臭い。こんな感じで」


もっさん&バルクホルン → 面を見れば訓練訓練、お前の性格叩き直してやる! ダルい。

ペリーヌ&エイラ → 主にもっさんとサーニャ関係で色々五月蠅い、メンドイ。

エーリカ → ろくな会話にならない。そもそも寝てる。

サーニャ&リーネ → いつもの調子で話したら確実に泣くじゃないですか、ヤダー!

私&宮藤&シャーリー&ルッキーニ → 基地に居ない。どうして俺を捨てたの!?


俺「って感じだ。私がいないとアンタといるのが一番いい。主にボケとツッコみのバランス的に考えて」

ミーナ「私はツッコみしたくて、してるんじゃないわよ!」

俺「だが、ボケられたらツッコみをしてしまうツッコみ体質なんだよ、アンタは。口ではそういっても、身体の方は正直だ……!」

ミーナ「だったら私や私さんの胃に対するダメージも鑑みて!!」

俺「分かってる。胃に穴が開く限界を見極めてやってるから安心しろよ」

ミーナ(始末に負えない上に、安心感が皆無すぎる……!)


不安と苛立ちから無言になるミーナを尻目に、俺はあー喉渇いた」などと呟き、部屋を後にする。
風の向くまま気の向くままに行動する俺から解放されたと安堵したが、数分後に戻ってきた彼に大きな溜め息を吐き出した。


ミーナ「何処かへ行ったんじゃなかったの……」

俺「いや、喉渇いたから飲み物取ってきただけですよ?」

ミーナ「………………」ハア

俺「人のツラ見ただけで溜息って、割と酷いよなぁ」

ミーナ「だったら、そうされないように行動するべきじゃないかしら……?」

俺「なんで君達は、俺が人の為に自分の生き方を曲げなきゃならないと言うんだい? わけがわからないよ」トポポポ


とぼけた無表情という、それこそ訳のわからない表情で首を傾げながら、俺はティーカップに紅茶を注ぐ。


俺「ほい、どぞー」カチャ

ミーナ「あ、ありがとう」


まさか自分の分まで用意されていると考えていなかったようで、ミーナは思わずどもる。
俺の心中は察せなかったものの、それを好意と受け取り、作業の手を止めて注がれた紅茶を口にした。


ミーナ「…………あら、おいしい。微妙に味と香りが違う気がするけれど、私物?」

俺「まさか、俺は街に行ってない。リーネとは入れ方が違うだけだろ」ジー

ミーナ「貴方にそんな繊細なことが出来るとは思えないわね。…………それで、何を見てるのかしら?」

俺「BBAの小皺」ジー

ミーナ「小皺なんてないわよ!」

俺「…………どうでもいいが、この書類、ここ間違ってるぞ」

ミーナ「憐みの視線を向けるのは止めて!」


ミーナは涙目になりながら睨むも、俺はどこ吹く風といった表情で書類を指差した。
キリキリと頭と胃が締め付ける感覚にうんざりしながらも、俺の指し示す先を見る。


ミーナ「あ、あら……?」

俺「な、間違ってるだろ」

ミーナ「そ、そうね。ありがとう、助かったわ」


俺「お疲れですかー? 体調管理くらいしっかりしてくださいよー、隊長さん」ヤレヤレ

ミーナ「うるさいわね! どう考えても疲れの原因は八割が貴方のせいです!」

俺「うん? まあ、認めないことはないけれど、他にも原因はあんじゃね? 上層部からの嫌味とか。中間管理職は大変だねぇ」

ミーナ「一つ言っておきます。貴方の悪口のお陰で上層部の嫌味は、もう何だか、言いたいことがあるならハッキリ言えばいいのに、くらいの感慨しか沸かなくなったわ……」

俺「やったね、ミーナちゃん! 精神力が増えたよ!」

ミーナ「もぉぉぉ! 少しは反省しなさいよぉぉぉぉッッ!!」

俺「やだね。それがこの俺、鎮西八郎・ルーデル・ヘイヘ・ロンメル・船坂弘の生きる道だ」


俺「ハ、それはさておき。どら、たまにはちょっとくらい手伝ってやるか」コレとコレとコレとコレー、と

ミーナ「ちょ、ちょっと、素人がそんなことしないで! 余計に仕事が増えるじゃない!」アタフタ!

俺「書類整理も、部隊運用の知識も多少はある!」

ミーナ「…………あなたの通っていた学校、軍に関係しているのかしらね」


机の上に広がっていた書類を持って、俺は来客用のソファに座る。
そんな俺に、以前から気になっていたことをミーナは問うた。

俺にせよ、私にせよ……そして、基地にはいない母も恐らくは二人に並ぶほどの性能を秘めた人間であろうことは容易に察せる。
詰まる所、普通などでは決してない一家。その詳細とまではいかずとも、何らかの情報を手に入れられるのではないかと考えた。
それが得られるなら、多少の仕事の増加は安いものだろう。


ミーナ(美緒も前回の出撃で、俺さんが戦場が初経験ではないと言っていた。それが隊の皆を危険に晒す可能性があるのなら……)

俺「ふーん? なに、そんなに気になるの、俺のこと?」

ミーナ「ええ。と言うよりも、あんな唐突な現れ方をした者に興味を持たない人がいるかしら?」

俺「成程、道理だ。理解は出来ないし、したくもないが。……で、何が聞きたい? 俺はアンタが望む答えを用意しよう」ニヤァ

ミーナ「………………嫌な、笑い方をするのね。でも、私はふざけている訳じゃないわ」


真面目なミーナとは対照的に、俺は心底馬鹿にしきった、相手の心情から何からを全て否定するような嘲笑を浮かべた。


俺「んー、そうだなー。じゃあ、アレだ。俺や私の生みの親は心底クズで、自分の都合のいい殺戮人形を作りたくて、色々な技術を仕込んだってのはどう?」

ミーナ「………………」

俺「おや、お気に召さない? じゃあ、これは? 実は元の世界を何度か救ったことがある英雄なんだ、俺達一家は。なかなかの燃え要素だろ?」

ミーナ「…………貴方ね」イラ

俺「これも駄目? そだなー、じゃあ仲間を殺されて一度は復讐に燃えた少年兵なんてどうよ? これはどっちかって言うと燃えじゃなくて萌えじゃね?」

ミーナ「私は、真面目に聞いているのよ。そんな与太話、誰が信じるというの?」

俺「その言葉が聞きたかった!」


普段の無表情は何処へいったのか、俺の表情が喜悦に染まった。


俺「どうして、俺の話が与太など何故言い切れる?」

ミーナ「どう考えても、そんな風には見えないわよ。現実的に考えてもありえない……」

俺「ま、そりゃそうだ。今の俺と符合する要素は精々が戦闘能力くらい。精神面ではどれもこれも符合しないだろうな。じゃあ逆に、普通の一家だと言っても信じはしないだろう?」

ミーナ「……ええ、ネウロイを前にしても微塵も動揺しない人間が、一般人とは言えないわ」

俺「何を言っても信用されないのなら、一番信用できる台詞を用意しよう。そもそも、アンタ等には何が真実であるかを判断する材料すら、手に入れられないからな」


ミーナ「……それは、……」

俺「俺達は別の世界の人間だぜ? その言葉の真偽を一体あんた等はどう判断する? そんな手段があるとでも?」

ミーナ「……………………」グ…

俺「結局の所、あんた等は自分にとって据わりの良い言葉しか受け入れるだけさ。なら、それを用意してやるって言ってるんだ。どうだ、俺の優しさが身に染みる思いだろう?」

ミーナ「……優しさ? ただ底意地が悪いだけね」


それは必要最低限の情報しか与えるつもりはないという、遠回しでありながらも明確な拒絶だった。


ミーナ(……説明する気はない、か。いえ、そもそも私が理解できるかも分からない。余計な先入観を――――)


俺「でー、どんな説明して欲しい? 面白おかしく歪曲して伝えてやっからさー」キラキラ

ミーナ「顔が、生き生きとしてる!? 何、そのからかってやる的な顔は! しかも相変わらず目が死んでるのが怖いッ!!」

俺「それもこれも、ゴルゴムの乾巧って奴が変身するディケイドの仕業なんだ」

ミーナ「あからさま! あからさまに分かりもしない誰かに責任転換するのはやめて!!」

俺「いいんだよ。大体、これらの所為にしとけば話が丸く収まるんだから」

ミーナ「罪をなすりつけられた側は溜まったものじゃないわ!」


声を荒げすぎて肩で息をし始めたミーナであったが、そんなことを気にする俺な筈もなく、黙々と勝手にぶんどった仕事をこなしていく。

不安から、ちらちらと俺の様子を見ながら、自らもまた仕事を消化していった。


俺「んー、ま、こんなもんかねぇ……どうよ?」

ミーナ「………………」

俺「黙ってないで何とか言ったらどうですかぁ?」

ミーナ「文句のつけようもないわね。もしかしたら、美緒よりも向いているかもしれないわ」ハア

俺「はぁん? 褒めてんのに溜息吐くとか人のこと馬鹿にしてんのん?」

ミーナ「いいえ、これで性格がもっとマトモならよかったのに、と心底思っただけよ」ニコ

俺「ふーん。ま、人間なんて一皮剥けば俺みたいだよ皆」

ミーナ「仮に性悪説が正しかったとしても、誰も彼もが貴方みたいな腐った人間じゃないわ」ニコニコ

俺「いや、俺はピッチピチな新鮮な肉体ですけど? くさったしたいと一緒にすんな!」

ミーナ「そういう意味で言ってないわよ!」


仕事に対して真面目に取り組む俺であったが、お決まりのボケをこれでもかというほど炸裂させ、ミーナはツッコミと頭痛に気が回りすぎて仕事が思うように、はかどらない。
そんな、見ている分には微笑ましい光景の中であっても、時はゆっくりと過ぎていく。


俺「あー、もう日も暮れちまって。………今日の分、これで終わりかー? おい、返事くらい――」

ミーナ「………………」スー、スー

俺「あらら、寝ちゃってら。…………疲れが溜まってたのか。仕事の途中で寝るとは、やっぱりBBAだな」


机に突っ伏して眠るミーナを見て一人呟くが、どう考えても彼女の疲れの原因は俺である。


俺「やれやれだ。起こすのもアレだし、寝かしといてやるか。…………私もそろそろ戻ってくるかねぇ」

ミーナ「……ッ、うーん。こ、これ以上、問題を増やさないでぇ……」

俺「コイツ……寝ている時まで苦労人属性だと……? 仕方ねぇ、ちょっとくらい優しくしてやったりなんかしちゃったり、嘘だったり……」


眠り姫に自分の学ランを羽織らせ、しばらく安らかな寝顔を眺める。


俺「……………………」ニヤ



それから数時間後。日が暮れ、空が墨を流し込んだように黒く染まり始めた頃、ミーナは目を覚ました。無論、俺の姿はない。


ミーナ「ん、ぅう…………はッ! 仕事が!?」ガバッ!

ミーナ「あ、あら? ……終わって、る? ……あ、こっちも!?」

ミーナ「もしかし――――なくても、俺さん、ね。あ、上着……」


何故俺のようなフリーダムかつアナーキーな人物が嫌われず、女だらけの基地でやっていけているのか?

それは単に、私が緩衝材としての役割を果たしているだけでなく、俺がミーナに対してやったように地味に点数を稼いでいるからである。
しかも、何が始末に負えないかと言って、俺自身がそれを分かった上でやっているところだろう。

言うなれば、雨の日に不良が捨て猫、捨て犬に優しくしているところを目撃してしまった人間の心境。ジャイアン映画版の法則ともいう。


ミーナ「もう、起こしてくれればよかったのに……」


じんわりと暖かな何かが心に広がっていくのを感じながら、嫌味を言い過ぎてしまっただろうか、俺はどこに行ったのかと考えた。
俺がBBA呼ばわりをしようと、根は乙女。普段見せない一面を見ると、トキめくこともあるだろう。完全に俺の術中に嵌っている。


ミーナ「いけない、宮藤さん達も戻ってくるでしょうし、出迎えに行かないと。……一応、これも持って行きましょうか」


肩に掛けられた俺の上着を丁寧に折り畳み、薄く笑いながら部屋を後にする。
しかし彼女は知らない。俺の悪ふざけが仕掛けられていることを……!






――夜 車庫


俺「おー、来た来た。おかえりー」

シャーリー「お、わざわざ出迎え? 悪いねぇ」

俺「気にすんな。お前等を出迎えに来た訳じゃねぇ、私を出迎えに来ただけだから」

シャーリー「……お前さー、そういうこと言わない方がいいと思う」

俺「言いたいこと言うのが俺なんだよ。…………つーか、どうしたんだ、その二人?」キョトン


私「………………」ハァァァ

ルッキーニ「うぐ、ッ……ぐじゅ……ごべん゛な゛ざーい゛」ビェェェェェッ!


宮藤「あ、あはは……実は」


芳佳の話によると、ルッキーニが食糧調達の金を使い込んでしまったとのこと。
更には南下したネウロイがローマの街を襲撃したりと、すったもんだの展開が待ち構えていたのだとか。


俺「はー? でも、食糧買ってきてんじゃん」

シャーリー「い、いやー、それは……」←サっと目を逸らす

宮藤「…………」←右に同じく目を逸らす


私「立て替えて置いた」

俺「……は?」

私「我々の金で立て替えて置いた」

俺「はぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?!?」

私「仕方あるまい。監督責任は私にもある。彼女から目を離した私が悪い」

俺「それで全額立て替えたのかよ!? アホか! それならこのおっぱいお化けと淫獣にだって責任あるだろうがよ!」

シャーリー「いやぁ、あたしも宮藤も持ち合わせがなくてさぁ、悪い悪い」

宮藤「す、すみません」


俺「っざけんなッ! お前等の胃袋に入れるもん買う為に働いてんじゃねーんだよ、俺は! 家族の為に働いてるんですぅッ!!」

私「知っている。だが、彼女達は仲間だぞ、助け合うのは当然だろう?」

俺「知るか! ガキの世話もできねーような奴は飢えて死ね!!」

宮藤「ひ、酷い。そ、それは確かに私達も悪かったですけど、何もそこまで」

シャーリー「そうだよ。立て替えって言ってるだろ? ミーナ隊長が何とかしてくれるって」

俺「残念ながら、そんな余裕はこの隊にはねぇ! いまカツカツなんだよ! さっきまでBBAの書類仕事手伝ってたから経済状況までお見通しだボケ!!」

シャーリー「マジで!?」

俺「マジだ!!」


俺「つーか、なんでそんな元気いっぱいなんだよ! 私なんて疲れ果ててるじゃねぇか! 私がルッキーニ探してる間、テメェら何してた!!」

シャーリー「い、いや? ちゃんと、探してたよ? な、宮藤!」ダラダラ

宮藤「え、ええ。そんなの、当たり前じゃないですか!」

俺「……………………」ジー

シャーリー「な、なんだよその目! 仲間の言う事が信じられないっていうのかよぉ……」ダラダラ


俺「……………………あ、口になんかついてるぞ、二人とも」

シャーリー「え? 嘘だろ!?」ビク

宮藤「はッ!? まさかあの時の!?」ゴシゴシ

シャーリー「……って、何もついてないじゃないか」

宮藤「もう、つまらない嘘なんかついて、何だっていうんですか」


俺「ああ、嘘だぜ。…………だが、マヌケは見つかったようだな」


宮藤「え?」

シャーリー「あ……」

俺「あの時ってどの時? ねぇ、なんでそんなに焦ってるの? ねぇねぇ、もしかしてルッキーニが居なくなって私が駆けずり回っている間、お前等なんか食ってたの?」

宮藤&シャーリー「「………………………………す、すみませんでしたー!」」


俺「屋上へいこうぜ……ひさしぶりに……キレちまったよ……。裸に向いて基地の屋上にある女神像から逆さ釣りだ」ゴゴゴゴゴゴ


宮藤&シャーリー「「……ひぃぃッ!!」」


私「そこまでにしておけ。彼女達にばかり責任があるわけじゃないんだ。それに悪かったな、お前が稼いだ金を勝手に使って」

俺「それは別に構わねぇよ。管理はお前に任せてあるんだ、どんな使い方をしようが文句はねぇ」

シャーリー「え、えーと、じゃあそんなに怒らなくてもいいんじゃ……」

俺「あ゛あ゛ッ!?」ギンッ!

シャーリー「はい! すみませんでした、サー!」

俺「俺が怒ってんのはなぁ、家族の為に稼いだ金を、なんで他人なんぞの為に使われなきゃならねぇってことなんだよぉ、分かったかぁッ!!」

宮藤「は、はい! 了解しました!」

俺「テメェら、金が返ってこなかったら、ルッキーニ含めた三人に請求するからな」

シャーリー「ちょ、それじゃあ……」

俺「あ? 反論するならしてみろや。最終的に、はい論破っつってやるからよぉ」

シャーリー「い、いやぁ、それでも宮藤なんかは家族とかに仕送りしなきゃだし、勘弁してほしいなぁ、なんて……」


俺「は? 知るか、家族を助ける前に借りたもん返さんかい。ああ、安心していいぞ。ウシジマくんも言っていた。女はいくらでも金を稼ぐ方法があるってよぉ」ニヤァ…


シャーリー(絶対に怒らせちゃいけない相手を……)ガクガク

宮藤(……怒らせちゃいましたぁ)ブルブル


ミーナ「……ちょっと、どうしたの、そんなに声を上げて」

俺「あ、ヤベ……」

私「ああ、ミーナたいちょ――――ッ!?」

シャーリー「た、助かっ――――ッ!?」

宮藤「どうしたんですか、ふたりと――――ッ!?」


ミーナ「どうかしたの、三人とも? 鳩が豆鉄砲くらったような顔をして。そういえば、他の整備員の人達も同じような顔をしていたけど……」

俺「いやぁー、ミーナさんの美貌に面喰ってるんですよー、きっとぉ」

ミーナ「もう、そんなことを言っても、何も出ませんからね」

俺(やべぇ、想像以上に面白いことになってる。吹き出しそう)プルプル


ミーナ「それからこれ、ありがとう。でも、次からは起こしてちょうだいね?」

俺「あー、はいはい上着ね。いやまあ、随分気持ちよさそうに寝てたから、いたず――そのまま寝かしておいたんだがねぇ」

ミーナ「気持ちはありがたいけど、他の隊員に示しがつかないから」

俺「へーい。この部隊で示しもクソもないと思うがな」

ミーナ「それでも、取っておかなければならない体面というものがあります」


俺「じゃあ、俺はそろそろ中に戻るとするかー、っと」ダッ!

私「待てぇぇぇッ! 逃がすかぁぁぁッッ!!」グッ!

俺「グェェェェェっ! ちょ、お前、やめろよ。全力疾走しようとした相手の襟首掴むの。オシシ仮面みたいな声でちゃった」

私「掴みもするわ! お前はこの状況を投げっぱなしで逃げるつもりか!?」

俺「そうですけど、なにか?」

私「ふざ、けるなぁぁぁぁぁぁっ!!」ガシッ

俺「は? 人の片足掴んでってこれ、――――ドラゴンスクリュッッ!?」ドグシャッ!!


ミーナ「…………あの二人は、何をやってる、の?」

シャーリー「あー、非常に言い難いんだけど――――はい」グイ

ミーナ「」


シャーリーは引き攣った笑顔でトラックのサイドミラーをミーナの顔が映るように動かした。


ミーナ「な、なによこれぇぇぇぇぇぇぇッ!!!」


ミーナの顔は白塗り、黒いくま取りでメイクされており、額には“殺”の一文字が書かれていた。


俺「ぐ、ぐふ。ドラゴンスクリューとか藤波辰爾か長野原みおかよ。…………アレ、ヨハネ・ミナウザーⅡ世だ。うそ、ミナウザーさん、ミナウザーさんじゃないっすか!!」

ミーナ「貴方の仕業ねぇぇぇぇぇッッ!!」

俺「ちょ、歯ギター! もしくは一秒間に十回レイプ発言お願いします!」

ミーナ「人の話を聞きなさいよぉぉぉッ!!」ビェェェンッ!!

俺「泣かないでくださいよミナウザーさん! 折角のメイクが落ちちゃうじゃないっすかッ!!」

ミーナ「ちょっとでも、いい人とか思った私のバカぁぁぁぁぁッ!」

俺「そうだね。アンタがバカだったんだよ。だから、俺は悪くない」

ミーナ「もぉぉぉぉぉぉッ!!」バシーンッ!


宮藤「あ、俺さんがビンタで張り倒された。……ミーナさんが来た時は、ちょっといい感じの雰囲気だったのに」

シャーリー「どうしてこうなった……」

私「いや、あんなメイクされたら、誰だって怒るだろう?」

シャーリー&宮藤「「で、ですよねー」」
最終更新:2013年03月30日 01:18