――ミーティングルーム 朝



俺「露天風呂ぉ?」

坂本「ああ。先日、施設班が完成させてくれてな」

俺「ふーん。それについて俺が言いたいことは一つだな」

ミーナ「――? 何かあるの?」


俺「うん。お前等、いつんなったら、この前に立て替えた金返してくれるの?」


坂本「あ……いや、なぁ。その、まだ部隊に余裕が……」

俺「へぇ、借りた金を返す余裕がねぇのに、風呂を作る余裕はあるのか。それって本当に必要ですか?」

ミーナ「う……、施設班にお願いしたのが、ローマでの臨時補給以前だったのよ」

俺「だったら、工事中断してでもこっちに金回せや」

坂本「し、しかし、風呂があるとないとでは、た、隊の士気がな」

俺「はあ? 前線の兵士が風呂につかる贅沢なんざ必要ねぇ。戦場じゃ、何日も風呂に入れねぇなんざザラだろうが」

私「……全く、噛みつきすぎだぞ、俺。彼女達は兵士といえど、まだまだ乙女だ。身嗜みを整えることが悪いことでもあるまいよ」


俺「俺はな、場面場面で権利を使い分ける女は嫌いなんだよ。一方じゃ女だからっつーくせに、もう一方じゃ社会での権利がどうのと何でもかんでも欲しがり過ぎだ。その癖、そう言ってる女のレベルが低いこと低いこと」

私「能力が? それとも顔面が?」

俺「どっちもだ。つーか、お前も何気に酷いこと言うね」

私「っと、失敬。……無論、お二人のことではない」

坂本「分かっているさ。隣の奴と違うからな」フン


俺「こっちじゃ兵士だから、こっちじゃ女だから。全く、これだから中途半端な奴は」

私「この前はバルクホルンと隊長に、仕事に没頭しすぎるのはどうだ、といった人間の言葉とは思えんな」

俺「関係ない赤の他人なら文句はねぇよ。だがな、金も返さねぇで施設拡張されんの腹立つんだよ。物事には順序があんだろ、順序が」

私「…………だが、自分が借りたら踏み倒すんだろう?」

俺「返すとその場でキチンと約束したなら返す。それ以外は知らん!」

ミーナ「もう、どうしてそう自分本位なのかしら……」

俺「おばあちゃんが言っていた。世界は自分を中心に回っている、そう考えた方が楽しい、ってな」

私「お前は天の道を行き、総てを司る男か! 私はおばあちゃんとやらにあったことはないがなぁッ!!」


坂本「立て替えの件に関しては、我々の見通しの甘さが原因だ。金はきちんと返す。だから、今しばらく待ってくれないか?」

俺「うん、いいよ」ケロッ

ミーナ「軽いッ!? え? 怒ってなんじゃないの?」ギョッ

俺「俺もウシジマ君を見習って、弁済の意志があるならば、多少の仏心は見せてやろう」

ミーナ「う、うし……?」

俺「但し、弁済する気がないと俺が判断したら、容赦しねぇ。シャーリーのバイクを売っぱらい、宮藤を闇医者に売りつけ、ルッキーニはロリコンの所行きだな。まあ、それでも足りなきゃ、全員、人身売買要員決定だな」

坂本「…………冗談、だよな?」

俺「どこが? 何が?」キョトン

ミーナ「どうしてそこまで他人に冷酷になれるのよ、貴方はッ!」


俺「何故だろうな? 関係がないからじゃないか? あらためて問われると答え難いものだな。動機の言語化か……余り好きじゃないしな。しかし案外……いや、やはりというべきか。自分を掴むカギは其処にある……」


私「そんな相手の能力を盗む奴の台詞を言った所で、誰も反応してくれないぞ」

俺「私なら分かってくれるじゃないですかー、ヤッター♪」

私「喜ぶなッ!!」

俺「喜ぶだろ、常識的に考えて。最近はウィッチの風当たりがキツイからなー。お前さえ反応してくれるなら満足だわ」


私「ったく、反応するだけでお前を喜ばせることになるとはな。もういい、今度からは何も言わん」

俺「そう言いつつも、身体が勝手に反応してしまう私であった」

私(否定したいが、母さんと俺のせいで、条件反射的にツッコむようになってしまったからなぁ……)


ミーナ「と、とにかく、話は逸れたけれどお風呂の使用について説明するわね」

俺「あ、俺等も使っていいのか? じゃあ、使わせてもらうか」

坂本「なんだかんだ言って、お前も結局使うのか」

俺「うん。ただで使えるなら喜んで。立て替えた金が返ってくるなら、俺達の懐が痛む訳じゃないからな」

ミーナ「流石の返答ね……」

俺「まあな! 土下座して俺を賞賛しろ!」

ミーナ「しないわよッ!!」


私「あのバカは放っておいて、男女で使用時間をズラす、と言う形で?」

坂本「ああ、まだ明確な時間は決めてないがな。もしくは、脱衣所の前に看板でも立てるようにするか。それでも、不安な奴が一人いるが……」

俺「はあ? 自惚れんな、お前等の貧相な裸なんか見てもつまらんわ。ウチのマミーをみろ、マミーを」

ミーナ「確かに、シャーリーさん並みのスタイルよね。アレで、30代……30代ッ!?」


俺「ビックリだよねー。劣化とか全くしないんですけどあの人。テロメアとかもう仕事してないんじゃないかな?」

私「…………確かに、出会った頃から、全くと言っていいほど変わってない。いや、寧ろ成長してないか?」

坂本「成長!? 二次性徴はとっくに終わってるだろう!?」

ミーナ「あの人も、かなり非常識よね。……今、ローマで何をやってるのかしら?」

俺「さあ? 若い燕でも喰っちまってるんじゃね」

坂本「お前な……母親がそんなでもいいのか?」

俺「べっつにー。結婚してるワケでもねーから誰とナニしようが勝手だろ。俺等ももう一人で生きてける年だしな」

私「それに、私達が言って聞くような人じゃありませんよ。俺の母親だけに」

俺「HAHAHA! なにそれ、スゲー説得力!」

私「笑う所かッ!!」


俺「マミーはちゃんと仕事を見つけられただろうか」

私「もういくつか見つけてはいるだろうが……安定した収入か、当面の生活費が溜まるまで、帰ってこないだろうな」

俺「だよな。ま、マミーに関しては、心配するだけ無駄だな。核が頭上で爆発しても生きてるだろうし」

私「否定できないのが恐ろしい……!」


俺「ともかく風呂の件、了解したよ。アンタ等が入るのは何時頃よ?」

坂本「まだ時間帯は決まっていないが、宮藤達は昼過ぎに入るそうだ。…………覗くなよ?」

俺「覗くかよ、ガキの裸なんか見ても対応に困る。ほら、ペリーヌとかサーニャとかスレンダーすぎてコンプレックスもってそうだし」

坂本「覗かない理由が、それと母親のが凄い、だものなぁ。もう少し、こう、節度というか、理性的というか。いや、お前に言うだけ無駄か」

俺「いえーっす! 俺はやりたいことやるだけだから。その前に一つ聞いておきたいんだけど……風呂の温度は45度以上になるの?」キュピーン!

坂本「無論だ……!」キラリン!


俺「………………風呂は、熱い方がいいよな」サッ

坂本「ああ、付け加えれば、一番風呂ならばなおいい」グッ


差し出された俺の手を取り、二人は握手を交わす。まるで似ていない二人の、数少ない嗜好の一致であった。


ミーナ「はあ、美緒ったら単純なんだから……」

私「私は、熱すぎると身体がなぁ……。半身浴ならまだしも、長時間浸かりすぎると、リアルに死ぬし」

ミーナ(…………扶桑人のお風呂に対する情熱が理解できないわ)


真面目な私まで風呂談義に乗っかり、ミーナは疎外感を感じたとか感じなかったとか。










――廊下 午後



俺「さーて、さっき宮藤達が何か騒いでたし、風呂開いただろー。いっちょう入ってみますか……ん? 虫?」


風呂桶片手に廊下を歩いている俺の横を、羽音と共に通り過ぎる黒い虫。
見た目はてんとう虫のようだが、俺の記憶にはあんな虫は存在しない……というより、昆虫に類するものなのだろうか。そう思うほど、何か異様な存在だった。


宮藤「待てぇーーッ!!」

ルッキーニ「あたしの虫ぃーーッ!!」

リーネ「待ってよぉー、芳佳ちゃん、ルッキーニちゃん!」

ペリーヌ「見つけ次第、叩き潰してさしあげますわ!」


俺「なんだぁ……?」


何をしているのか。俺には眼もくれず、廊下の先を行った黒い虫を追いかけるウィッチ一行。
怪訝な表情で彼女達を見送る俺であったが、更に後ろから走ってくるシャーリーに気が付き、足を止める。


シャーリー「待て待てぇ―――ぐぇッ!?」グィィ

俺「おーい、どったの?」

シャーリー「げほッ! ごほッ! は、走ってる人間の襟首いきなり掴むなよ!!」


俺「で、どったの?」

シャーリー「本当、人の話聞かないなぁ、もう! …………実はさ」


彼女の話によれば、あの黒い虫は基地の電気系統を麻痺させてしまうのだとか。
勿論、それだけで彼女達が、ああも躍起になる筈もない。何でも、あの虫はズボン(しかも女性限定で)の中に潜り込んでくるらしい。


俺「ふーん。何だ、つまんね。つーか、何でズボンに潜るんだ?」

シャーリー「あー、いや……んんッ!」


咳払いを一つすると、恐らくは自分の表情がもっとも凛々しく見える角度を取って一言。


シャーリー「それはしりません!」キリリッ

俺「なにそれ、お前の持ちネタ? 知りと尻かけてんの? そんなんで俺が笑うと思ってんの? 馬鹿なの? 死ぬの?」

シャーリー(宮藤が動揺したから、ちょっとやってみようと思っただけなのに、この仕打ちだよ!)


俺「…………それよ、もう虫じゃねぇよな?」

シャーリー「新種ってこともあるかもしれないし……」

俺「いや、虫が電気系統のエネルギー吸い取るなんてねーよ。自然界に電気が発生するなんざ、静電気くらいのもんだぜ?」

シャーリー「あー、そういや雷も、元は静電気なんだっけ」


俺「………………なあ、アレ、ネウロイじゃね?」

シャーリー「は、はは、そんな冗談いったって面白くないぞー」タラ

俺「そうか。俺はあの状況でのお前の“それはしりません(キリリッ”の方がつまんねーと思うけどな」

シャーリー「やめて! ただの出来心だったんだ!」


俺「まあ、坂本少佐にでも相談しておけば?」

シャーリー「お前はいかないのかよ?」

俺「ああ? 関係ねーよ。放っておいても俺に害がある訳じゃなし。仮にネウロイだったとしても、あんな小せぇの脅威になりゃしない」

シャーリー「お前、その性格いい加減直した方がいいと思う」

俺「知らね。じゃあ、虫もしくはネウロイ退治、頑張ってー。ばははーい」

シャーリー「あ、ちょ…………本当に行っちゃったよ。」
最終更新:2013年03月30日 01:19