~ロンドン・連合軍本部・扶桑代表執務室~
扶桑代表「酷いものだな・・・」
夕日に照らされる中そう言ったのは初老に近づいた男性、扶桑代表だ。
この日に朝に発生した戦闘の記録と抗議文の総てに一通り目を通し
一日の疲れが一気に吹き出た様な顔でため息をつく。
扶桑代表「それで、何がお望みかね?ミーナ中佐。」
ミーナ「野郎大尉の即時帰国を。」
正直、この要求がそのまま通るとは思っていない。
だが、意思表示と言うものはしておかなければならない。
向こうも承知の上なのは明白だとしてもだ。
扶桑代表「気持ちは解らんでも無いが、仮にも兵器開発の総仕上げとも言うべき
運用試験の責任者をそう簡単に帰国させる訳にもいかんのだが・・・。」
ミーナ「でしたら、テスト・ウィッチに関する指揮、監督権その他一切の権限を委譲願います。
なにかしらのテストを行う際には総て此方を通してから行って下さい。
これが第501統合戦闘航空団の基地内で試験を行う条件です。」
これが此方の本来の要求であり最低条件でもある。
さて、ここからどう出てくるか。
扶桑代表「理由は・・・・・・聞くまでもないか。
よかろう、書類を用意する。
少々時間を頂けるかな?」
ミーナ「あ・・・はい、お忙しいところ感謝します。」
扶桑代表「かまわんよ、たまには残業もして見るものだ。
下のカフェで茶でも飲んでいてくれ給え。
仕上がり次第、呼びに行かせよう。」
ミーナ「解りました、では失礼します。」
一礼し、部屋を出てカフェに向かった。
扶桑代表「まったく・・・手間をかけさせおって。」
一筆認めつつ、思わずつぶやく。
秘書官「しかし、これで随分やりやすくなったのでは?」
どうやら秘書官に聞こえていた様だ.
確かに、と頷いた。
扶桑代表「この試験自体は実戦の中でやらねば意味の無い物だったからな。
あの子を奴の手から離れさせるには丁度いい。」
奴自身もそう長くないしな、と締め括る。
秘書官「あの子、僕少尉ですか・・・・・・受け入れてくれるでしょうか。」
その心配は無いだろう、でなければ眩暈がするほど辛辣な抗議文付きで
指揮権を獲りに来る真似など出来はすまい。
扶桑代表「これ、読んでみろ。」
秘書官がタイプ打ちの手を止め抗議文を読む。
顔色が凄まじい早さで変わっていくのが面白い。
秘書官「うわぁ・・・ここまで書きますか。
まぁ、これなら杞憂かもしれませんね。」
その内容を要約すれば
―――怪我した幼子を盾にするような輩送ってくるとか何考えとんじゃワレゴルァ。
次にいらんことしたら全員基地から叩き出すさかいよぉ憶えとけやこのボケナス。
ウィッチは置いとくけどね―――
だった。
ミーナ「ずいぶんあっさり片付いたわね・・・。」
と、呟きながらカフェのある階に降りる。
そう言えば今日は休養日だった、どうせなら一番高いのを飲んでやろうか。
などと考えつつ店頭のメニューを眺めていると聞きなれた声が耳に入った。
ガランド「―――お前と言う奴は・・・ん?ミーナ中佐じゃないか。」
ルーデル「む・・・久しいな、ミーナ。」
カールスラント空軍ウィッチ隊総監、アドルフィーネ・ガランド少将と
カールスラント空軍第二急降下爆撃航空団司令、ハンナ・U・ルーデル大佐だった。
とりあえずご一緒に、とテーブルに陣取りそれぞれ注文をウェイターに伝える。
ルーデル大佐は「水でいい」とか言いだしガランド少将に無理やり決められていたが。
ガランド「ミーナからも何とか言ってやってくれないか?
コイツ、此処2年ほど休暇を摂ろうとしないんだ。」
ルーデル「睡眠も休養も充分に摂っている、必要ない。」
そんやりとりをしつつ紅茶を味わう。
ミーナ「そうなんですか?
それは流石に溜め込みすぎだと思いますよ?」
ガランド「だ、そうだぞルーデル?
挙句に指令に収まりながら未だに前線を飛び続けて・・・・・・・
お前、この前の勲章授与の時だって
「私に今後、地上勤務を勧めないなら受け取ろう」
なんて皇帝陛下に言い放ったそうじゃないか。
その話しを聞いた時は眩暈がしたぞ。」
それは黄金柏葉剣付ダイヤモンド騎士鉄十字勲章の時の事だろうか。
なんでも、ルーデル大佐の為に作られた勲章だとか。
扶桑のウィッチも無茶をすると何度も思ったが、カールスラントも負けてはなかったらしい。
ミーナ「あの話しはほんとうだったんですか。
それじゃ、休暇も摂らないと部下の方たちも心配するでしょう。」
ルーデル「別にある物を使わないというだけの話しだ、問題ないだろう。
それよりもだ、定期報告でもないだろうに此処に来るとは珍しいな。
なにがあった?」
どうやら話題を逸らしたかったらしい、バレバレだけど。
ガランド「話しを逸らすな・・・・・・まあいい。
そう言えばそうだな、問題事でもあったか?」
ミーナ「それなんですけどね、今日、扶桑から新任のウィッチが着任しまして・・・・・・」
と、今日あった事を手短に話す。
二人の顔色がみるみる変わっていくのが何とも言えない。
なんだかお茶がまずくなりそう・・・・・・ならないけど。
ガランド「扶桑の技術者は現場と言う物を見た事が無いのか?
そんな子を戦場に送り出すとは・・・・・・」
ルーデル「扶桑には、あの子のような子がまだいたんだな・・・・・・」
なにやら物凄く気になる事を聞いた。
ミーナ「そんな子がいたんですか?」
ルーデル「・・・・・・」
ぷいっと、そっぽを向かれてしまった。
ガランド「・・・今はもう届かない、彼女の想い人だ。
42年に行われた東部戦線北端のブリザード作戦は知っているか?」
ミーナ「いえ、あまり詳しくは・・・。」
ルーデル「おい、ガランド・・・・・・。」
ガランド「いいじゃないかルーデル、あれからもう二年以上だろう。
何時までも引きずっていてはあの子もいい顔はしないんじゃないか?。」
もしかしたら、あの子の関係者かもしれないしな、と付け加える。
此処でブリザード作戦の話しを聞く事になるとは思っても見なかった。
ブリザード作戦と言えば東部戦線最大の謎と言われている。
陸、空、両方からの一斉攻撃によりネウロイの巣を攻略する作戦だったが陸軍の誰かが
タイミングを間違えて打ち始め失敗した作戦。
しかし、撤退後に送られた偵察部隊によって巣の消滅が確認された。
だれが、どんな手段で行ったのか、それとも単に移動しただけなのか。
成功とも失敗ともとれない不可解な事件と言われている。
そう言えば確認を行った偵察部隊も扶桑から派遣されていたと聞いた。
ガランド「その作戦にルーデルも参加してたんだ。
その時前線基地に使っていた第511統合戦闘航空団の基地にいたんだそうだ。」
ルーデル大佐を見る、ますます不機嫌になっていたがその瞳には深い悲しみが見て取れた。
ルーデル「あの作戦は、私にとって今までで最大の、いや、生涯最大の汚点だ。
恐らく、当時作戦に参加した部下たちも、夜間哨戒に派遣されたハイデマリーも
同じだろう。
まだ8歳になったばかりだったあの子を前線に残したまま、救援にも向かえず
おめおめと撤退したんだ。
これほど情けない話しがあるか。」
ガランド「・・・私にとってもそれは同じだよ。
さらに本部職員の怠慢とはいえ、その子に半年も一人で戦わせていたんだ。」
驚いた、まさかそんな事があったとは。
ミーナ「そんな事があったなんて、それに半年間一人でとはどういうことです?」
ガランド「あぁ、以前、各前線の基地で過剰に損害を報告して補給や人員の補充を行う
事案が頻発していたんだ。
丁度その頃に第511統合戦闘航空団がその子を残して戦闘不能になったらしい。
それでも戦果を挙げ続けるものだから補充の要請を受け取った直後に破棄して
いてな、基地指令の訴えも聞き入れられなかった。
理由は、大編隊を向かわせなければ対応出来ない様な敵に一人で勝てる訳が無い。
損害の過剰報告で物資と人員を得るつもりだろうと思った、だそうだ。」
確かに一時期、補給に手間のかかる時期があった。
不憫な、と思うと同時に妙に納得させられた。
美緒も芳佳も、能力さえつりあえば迷わず戦いを選ぶ、そんな気がした。
ミーナ「扶桑のウィッチって無茶をする子ばっかりなんでしょうか・・・」
ガランド「そう言う気質なのかもな、扶桑の人間と言うものは・・・」
ルーデル「それでもあの子に関しては此方の責任だ。
あの子は最強の名を冠するにふさわしいウィッチだった。
あの子は素敵な女性になって幸福を掴む事も、栄光と共に更なる高みを目指す
事も出来たんだ。」
ミーナ「・・・ルーデル大佐にそこまで言わせるなんて、どんな子だったんですか?」
ルーデル「・・・完成されたオールラウンダーだな。
いくつもの機種を使いこなし、寝る間も食う間も惜しんで飛び続けていた。
昼夜を問わず、爆撃、格闘戦をこなし、低空から高空まで総ての空域で
無類の強さを発揮した。
夜間哨戒では、まだひよっこ同然だったハイデマリーを上手く引っ張っていた。
私では到底追いつけない、そんな領域にあの子はいたんだ。
技量、精神、魔力、その総てにおいてな。
・・・ナインテイル、そう呼ばれた幼いエースだ。」
そこに在るのはもはや届かざる者への信仰にも似た憧憬だろうか。
カールスラント最強の爆撃王すら憧れを抱いたあの子、ナインテイルと言う人物。
ミーナ「・・・・・・少し似てますね、彼に。
もしかしたら、同窓生かもしれません。
歳も同じですし。」
ガランド「そうなのか?
確かにそんな鍛え方が出来る所がいくつもあるとは思えないけど。」
ミーナ「はい、ウチの隊の坂本少佐に性能が突出しすぎて戦力として扱いにくいと言わせる
新型の機体を使いこなし今日出現したネウロイを一人で撃破寸前まで追い詰めて
いたそうです。
それも近くに居た輸送船にシールドを遠隔で展開したままたっだとか。
敵を撃破した際も彼の提案による手法でおこなったそうです。」
ルーデル「シールドの遠隔展開だと?
ミーナ、本当なのか?」
珍しく食いついてきた、何かあるのか?
ミーナ「はい、何でも輸送船を覆うほど大きなシールドだったとか。
・・・・・・でもそれが何か?」
ルーデル「・・・・・・あの子も使っていたんだ。
それで私達とハイデマリーも助けられたこともある。
練習すれば出来るとはあの子も言っていたが・・・。」
ガランド「それは気になるな。
扶桑の新型機にかつてのエースと同じ技を使う同い年のウィッチか。
男の子だけど、やはり関係者と見ていいだろうな。
どうだルーデル、一度見に行って見ようか?」
ルーデル「そうだな、それがいいカも知れん。」
なにやら嬉しそうに少将が頷いた。
ガランド「よし、これでようやく休暇を消費できるな。」
ルーデル「・・・・・・おい、どういうことだそれは。」
ガランド「当然だろう?
そもそも畑違いの所に行くんだから。
しかも視察に同行するとはいえ完全に私情で、な訳だし。」
ルーデル「くっ・・・・・・し、仕方ないな。」
ガランド「そうだ、どうせならハイデマリーも呼ぼう。
彼女も休暇を溜め込んでいて問題になっていたんだ。
どうせロマーニャに行くならみやげ物の一つも頼まれるだろうからいっその事
一週間ぐらい宿でも取って観光でもして来たらいい。」
ルーデル「おいガランド、なにを勝手に話しを広げている?」
ガランド「いや、この前に陛下から休暇を溜め込んでる奴に無理矢理にでも休暇を取らせろ
と頼まれていたんだ、丁度いい機会だからここらで一気に休んでもらおうと。」
ルーデル「余計なお世話だ。
それに何故わざわざ休みを取ってまで都市部を動き回らねばならんのだ。
そんな疲れに行くような真似をするぐらいなら山にでも入っていた方がましだ。」
ガランド「お前がそれでいいならかまわないけどな、いくらなんでも潤い無さ過ぎだろう
それは。
枯れるの早まるぞ?色々と。」
ルーデル「~~~っ、やかましいわ――――――っ!!」
なにやら妙な方向に話しが向かってしまった。
お茶のお代わりでも頼もうかと周りを見渡すと、丁度、扶桑代表の秘書官がカフェに入って
来るところが目に入った。
~基地内・医務室~
パチン、パチンと縫合した糸を切る音が響く。
女医「まさか、午前中に縫合した箇所を午後に抜糸することになるとは思わなかったですね。
ほぼ完治してますよ。」
関心すべきか呆れるべきか、そんな複雑な顔で先生が感想を述べながら抜糸した所を消毒
していく。
抜糸も終了した様だ。
宮藤は精も根も尽き果てた、とでも言いたげに僕少尉の眠るベッドへ突っ伏した。
宮藤「はひ~、もう絞りかす程も出ませんよぉ~・・・」
坂本「見事だ宮藤、しっかり任務を遂行できたじゃないか。
良くやったな。」
労いを言ってやると突っ伏しながらも「えへへ~」などと笑い声を上げてくる。
だが、流石に声は弱弱しい、まぁ仕方ないか。
宮藤「まぁ、今回は全力でやらなきゃいけなかったですし。
それに手術後って麻酔が切れた後が結構つらいみたいなんですよね。
麻酔が切れる前に終わらせられてよかったですよ。」
のそのそと起き上がりながらの給った。
確かにあれは中々に辛い。
宮藤「あ・・・先生、僕少尉の負傷って事故とかじゃなくてやっぱり・・・・・・。」
・・・私としてはそっちが本題だ。
正直な話し、一番聞きたいことだったのだが切り出しかねていた。
宮藤は察しや遠慮と言ったものが無いが、こういうときには返って助かる。
女医「意図的に負わされた負傷、でしょうね・・・・・・。
事故や戦闘で、なんて話しはありがちですけどこんなに都合よく胴体部に集中する
はずも在りませんし。
それに何よりも・・・・・・」
シーツを捲る。
傷跡だらけの体が痛々しい、その中でも更に異質な傷跡。
右胸部にある直径1センチほどの火傷と思われる痕が三つ。
女医「煙草でしょうね・・・。
工場なんかでしたら溶接の火球で、と言うこともあるんですけど僕少尉は・・・。」
彼はウィッチだ、そんな作業には関らないしそんな都合よく三つも同じ怪我を負う偶然
など有り得ない。
坂本「先生、この事はミーナ中佐には・・・?」
女医「伝えてあります。
あと、診断報告書にも記載してあります。」
・・・・・・詰んだな。
野郎とか言う男、軍に所属しながら軍規も倫理も知らんような振る舞いをしていたが最早
軍法会議は免れない処にまで来ている。
奴の所業だと証明されれば銃殺刑も在るかも知れない、まぁ自業自得だが。
宮藤「僕少尉は、一体どれだけの痛みに耐え続けて来たんでしょうか・・・・・・。
普通なら学校に行ったり友達と遊んだりしてる歳なのに・・・・・・なんだろうこれ?」
坂本「何かあったか?宮藤。」
なにか気になる所があるらしい。
胸部中央にある痕に触れ、首をかしげている。
宮藤「この痕、手術痕だと思うんですけど。
何か病気でもしてたんでしょうか?」
女医「その様ですね、割と新しい物のようですが。」
レントゲン写真をライトにかざし先生まで「妙ですね」と首をかしげ始めた。
医療に明るくない私にはまったくついていけない。
坂本「何かありましたか?」
女医「いえ、何も無いんですよ。
肋骨を開いた痕跡が。」
どういう事だろうか、素人目に見てもかなり大きく開いたであろう胸部の手術痕に肋骨を
開いた痕が無いというのはおかしな話しだ。
宮藤「こんな所を開くなんて肺か心臓の手術ぐらいだと思うんですけど・・・ってアレ?
耳と尻尾がでてきましたよ?」
坂本「何?」
シーツをとって見た。
見ると狐の耳と9本もの長い尾が出てきている。
やはり、アレだろうか。
女医「あらあら。」 宮藤「おー。」
・・・そう言えばまだ服を着せて無かったな。
むぅ・・・・・・歳の割りに中々立派・・・なのか?
よく解らんが。
それにしても随分落ち着いているな?宮藤。
? 「ソコが気になりますか?」
坂本「い、いやソコではなくてだな///・・・・・・だれだ?」
辺りを見回す、僕少尉の体から光る何かが飛び出すのが見えた。
ベッドの横、宮藤の隣に降り立ったそれは瞬く間に人の形をとる。
玉藻「主・・・僕の使い魔の玉藻と申します。
白面金毛九尾の狐・・・と言えばお解かりいただけますでしょうか。
この度は主を助けていただき、真に有難うございます。」
そこに居たのは絶世の美貌と豊満な肢体を持つ女性の姿をとった妖弧。
さらに一礼と共に名乗られてしまった、ならば此方も名乗らねば。
坂本「坂本美緒だ。」 宮藤「み、宮藤芳佳です、ハァハァ。」 女医「女医です。」
宮藤、着物の胸元から零れ落ちんばかりの大きさだがハァハァするな、とりあえず。
お前の趣味はとやかく言わんが相手は伝説の妖弧だぞ?
玉藻「・・・で、気になりますか?ソコ。」
慌ててシーツをかけ直した。
気になどなっていない、と己に言い聞かせつつ向き直る。
坂本「手術痕の方なら気になるな。
しかし、今しがた気になることが増えてしまったぞ。
玉藻の前。」
宮藤「私はむしろ玉藻さんのおっきいのが気になってしまいますっ。
主に張りとか柔らかさとかっ!」
お前、判断能力鈍ってないか?
休んでてもいいんだぞ?
玉藻「確かめてもいいですよ?」 宮藤「いいんですか?ではお言葉に甘えて・・・えへへぇ~。」
坂本「いいのか・・・・・・。」
宮藤が飛びついてしまった。
完全に顔が埋まりきってるなーアレ。
坂本「もう好きにしてくれ・・・・・・。」
なんだかイロイロ投げ出したくなってしまった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ややあってなんとか平静を取り戻せた、瑣末事は置いておこう。
聴きたい事があるなら何なりと、との事なのでとりあえず本題にかかる。
坂本「それで、その手術痕の事は何か知っているのか?」
収まりがいいからと、ベッドに腰掛け宮藤を抱きかかえたままの玉藻に問う。
玉藻「あの男曰く、其処に爆薬とやらを埋め込んだと。」
そう言えばあの男、処分がどうのと言っていたがこれの事だろうな。
女医「・・・在りませんね、金属を含んだ異物なら、かなりはっきり写るんですけど。」
先生がレントゲン写真を眺めながら告げた。
それどころか肋骨にすら開かれた痕が無い。
つまり、皮膚のみを切開した偽りの手術痕であると。
玉藻「その様ですね、私が休眠している間の事とは言えあのような小者の虚言を見抜けな
かったとは不覚でした・・・・・・」
悔しさと共に安堵のため息をつく。
偽りとはいえ、主の命を握られ続けていたのだ。
その心情は察しきれる物では無いだろう。
宮藤「でも、なんでそんな事を?」
玉藻「恐らくは完全に道具にするため、と思われます。
あの男、周りの人間には己の言う事を聞かさねば気がすまない気質の様でしたから。」
顔を上げた宮藤の頭をなでつつ、悲しげにそう語った。
そう言うことか。
確かに力を持つものを支配下に置くには効果的とも言える手段だ。
しかし、傷跡をつけてまで行ったあの男は・・・・・・。
坂本「正しく、畜生にも劣る外道だな。
・・・しかし、どうやって?
他にも人は居ただろうに誰も止めなかったのか?」
玉藻「あの島に居た医者と結託していたようで。
一服盛られて眠っている内に行われてしまった様です。
それに他の者とは切り離されていたのでこの事を知る者は居ませんでした。
今、主が使っている飛行脚とやらを持ち込んだ者たちは異常を察してか何かと気に
かけては頂けたのですが、それでもあの男の行いを止めるには至りませんでした。
私も先の戦にて力を使い果たし休眠を余儀なくされ、目覚めてからも主の命を支え
続ける事が手一杯で御座いました故・・・・・・。」
そう言って宮藤を抱えなおす、あれではまるで赤子だ。
と、言うか寝てないか・・・・・・?
妙に気に入られたようだな。
話しを戻そう。
坂本「なるほどな・・・、まぁ安心しろ。
此処に来た以上は手出しなどさせはしない。
それに今、我々の隊の長が上層部への報告と抗議に向かっている。
最早、野郎とか言う男に先は無いだろうな。」
玉藻「・・・左様で御座いますか。
此処に来れたことは、主にとって幸運だった様です。
此処には心強い方たちが大勢いらっしゃるようですから。」
そう言って幽かに微笑む。
まさかあの玉藻の前に期待されるとはな。
坂本「買い被りすぎじゃないか?
一度空に上がれば置いてけぼりを喰うのは必至なんだが・・・・・・」
しかし、玉藻はいいえとかぶりをふる。
玉藻「主は、確かに強大な力を持ち、戦いの術に長けております。
ですが、心と体は
修羅場に身を置き続けて耐えられるほど強くはありません。
唯、無理に無理を重ね続けてきただけでございます。
それこそ、自らが無理をしているとも気づかぬ程に・・・・・・。」
雪のように白い僕少尉の髪を尾で撫でつつ語り続ける。
玉藻「主の御髪は、戦に出る前は綺麗な黒髪でした。
しかし、戦い続けるうちに次第に色を失い、色あせるに合わせる様に笑みを忘れ
休む事も忘れ、誰かに頼ることも忘れ、戦いに没頭するようになりました。
戦地から帰り、あの島に渡ってからはあの男からの責め苦を受け続ける日々。
あの者たちが手を尽くして心を保とうとしても主に残っていた物はあの男に脅え
続ける事だけとなってしまいました。」
ちょっと待った。
坂本「誰かに頼る事も忘れたとはまるで一人で戦っていた様にも聞こえるが?
他にもウィッチはいた筈だろう。
一体何時ごろの、どこの部隊の話しだ?」
玉藻「二年と少し前、主がまだ八歳になる前の頃で御座いました。
オラーシャと言う国の東部戦線という戦場、その北の端にある回廊と呼ばれた地の
一角を守る砦、第511統合戦闘航空団に主は使わされました。
其処には確かに魔力を持つものが数名おりましたが、主が着任して間も無い頃に
敵の猛攻を受け、主を残して墜されてしまいました。
それからは主一人で飛ばざるを得なくなり、最後の戦までの半年もの間を一人で
守り続けて居ました。」
東部戦線か。
しかも回廊と言えば、陸、空のネウロイが集中し押し寄せる侵攻ルート上の激戦区だ。
さらに、二年前と言えば、損害の虚偽申告が複数発覚し、補給が手間取るようになった
時期でもある。
坂本「それで一人で戦い抜いていたと言うわけか。
それならあの技量にも納得が行く。
回廊と言えば激戦区中の激戦区だ。
随分修羅場慣れしているとは感じたが、そう言うことか。」
女医「でもそれで完全に白髪化するまでって、一体どんな生活だったんですか?
確かに、疲労とストレスを溜め込んで白髪が増えると言う事は在り得ますけど。
普通なら戦闘の前に過労で倒れると思いますが。」
先生が問う。
医者としては聞き捨てなら無い様だ。
玉藻「居なくなった仲間たちが遺した飛行脚を使いまわし、寝食を忘れて飛び続け、戦い
続ける、その様な日々で御座いました。
私も支えはしていましたが、主の持つ膨大な魔力が有ればこそ成し得たことでしょう。
最後の戦にて総て使い果たし、主は一時的に魔力を失い、私は休眠を余儀なくされ
ましたが。」
宮藤「あの、失った魔力って取り戻すことが出来るものなんでしょうか?」坂本「起きてたのか。」
やや思案した後、玉藻は語り始めた。
玉藻「可能・・・ですね。
古きより術者と呼ばれるものたちに伝わる行に臨死界行と呼ばれる荒行が御座います。
力、今で言う魔力を一度つかいはたした後、命を落とす寸前まで己を追い込み
肉体の防御本能を利用して魔力を復活、増幅させる業だとか。
成功率は一割以下と言う低確率のため、今行うものは皆無に等しいそうです。
主の場合は偶然その条件が整ってしまった様ですが。」
つまり、一度死にかけたと。
坂本「命を落としそうになるとは一体何があったんだ?
ああ、ついでに聞くがそれは女性の術者でもやれるのか?」
玉藻「主は何でも、増水した川に誤って落ちたと。
この行をおこなっていたのは上がりを迎えた女性の術者か男性の術者が主です。
男性は魔力の衰退が無いので単純に魔力の増幅が目的ですが、女性の場合はさらに
力の維持が目的だった様ですので。
嘗ては殺生石にも魔力を流し込みに来る者がそれなりにおりました。
この行の完遂者は元の倍以上、術者によっては数倍の魔力を得る者も居たとか。」
坂本「そうか・・・・・・。」
それはいい事を聞いた。
かなりの危険は伴うが完遂すれば更に強くなれる。
宮藤「坂本さん、やる気ですね?」
宮藤、いつから心を読めるようになった?
坂本「そ、そんな事は無いぞ?」
宮藤「本当ですね?・・・・・・っと。
そういえば、玉藻さんってずっと昔に殺生石になっちゃってたんですよね?
どうやって出てきたんですか?」
そうだった、一番聞きたかったのはその事なんだが衝撃的な話しが多すぎて忘れていた。
玉藻「それは主が殺生石に魔力を流し込んだ故、再び世に出る事が可能になったのです。
必要だった力の九割方は主が与えてくれた物でした。
その時の事もお話しいたしましょうか。
・・・・・・あれは主がまだ四つの頃でした。
魔力と主の目、千里眼を目覚めさせばかりの主は力の制御が出来ず、閉じこもって
いたそうです。
見兼ねた母親が術者に相談し主を連れて殺生石まで赴き、魔力を吸い取らせました。
魔力を失えば千里眼も失い、平穏な生活に戻れると思っていた様ですが。」
しかし、そうは上手くいかなかったと玉藻は続けた。
玉藻「私は世に出て直ぐに主を追いました。
しばらくは近くの山に身を置き、主を見守っておりましたが、ある冬の日に凍った池
に主が転落し、再び魔力を得てしまいました、それも元の何倍も強くなって。
それからは、私と契約し山の中で魔力と千里眼の操り方などを教え始めまして。
物覚えが良かったせいか、すぐに操り切れるようになりました。」
宮藤「なんだか妙に水周りに縁がありますね、嫌な意味で。」
玉藻「その様で、泳ぎは達者な方なのですが。」
つまり、臨死界行とやらを二回も完遂した訳か。
元々膨大な魔力を有して居た様だが、最早底が見えんな。
しかし、殺生石に魔力を吸い取らせるとは危険な事をする。
殺生石とは、京を追われ大軍勢に追い詰められた玉藻の前が変じた瘴気を放ち命を吸い尽くす
と言われた石だ。
耐性の無い者が瘴気に触れれば即座に命を落とすか重い病に倒れるかのどちらかだとか。
もしや僕少尉の母親は・・・。
坂本「玉藻、僕少尉の家族はどうなっている?」
玉藻「主の母親は私の元に訪れた後、程なくして病に倒れ、他界してしまいました。
恐らく、身を守るために放っていた瘴気に当てられたものと思われます。
父親は妻の死を受け入れ難かったのか、葬儀のあと主を祖父母に預け行方知れずに。
祖父母も老い先が短い事を悟っていたのでしょう。
一年と経たず、当時から魔力を持つものを集めていた軍に主を預けました。
それからは会ってはおりませんので・・・・・・。」
もしかしたらまだご健在かもしれませんね、と締めくくった。
坂本「それでは、今は天涯孤独も同然か・・・・・・。」
宮藤「そうだったんですか・・・・・・。
それじゃぁ、今まで玉藻さんしかそばに居なかったんですか?」
玉藻「戦に出る頃まではそうでもなかったですね・・・。
と、言うよりもむしろ何かしら傍に居ましたね。
主は色々と引きつけ易い気質だったせいか、山に居た頃は妖等に纏わり付かれてました。
軍に入ってからは教官達が着きっきりで主を鍛えてましたし。
何故か女子ばかりでしたが・・・・・・はぁ・・・。」
当時を思い出してか、深いため息をつく。
中々に苦労があった様だ、女子ばかりと言うのが気になるところだが。
宮藤「モテモテだったんですねぇ・・・・・・。
妖怪さんがそんなにいたのも驚きですけど。」
玉藻「普段は層を隔てた所に居ますので人の前に出る事の方が稀ですね。
それ故か、人の子が珍しかったのでしょう。
一緒に遊ぶぐらいなら問題にもならなかったんですけど、余計な事を教える輩とか
体に手を加える輩とか、挙句の果てに五歳児相手に求婚した者まで・・・・・・。」
思ったよりとんでもない事があった様だ。
宮藤「あ、あの・・・・・・余計な事って何を・・・・・・?」
玉藻「山に居た天狗の女子からなのですけど、格闘術や妖術と共に床技まで仕込まれてまして。
同禽などすると、運が悪いと寝ぼけて就寝中や寝起きに手や口で弄り倒されます。
既に数名その被害に遭っておりますのでご注意下さいね。
法則性は在る様なのですが未だに不明ですので。」
坂本「な・・・・・・」 宮藤「うわぁ・・・・・・」 女医「・・・・・・」
一同絶句した。
妖の類に人の倫理を説いても仕方ないが幾等なんでも早すぎる。
女医「・・・・・・それでは、体に手を加えたと言うのは?」
玉藻「これは山の蛇神からなのですが。
魔力を操る際に掛かる体への負担を無くすべく、体内の力の通りを良くしたついでに
ソコが自分好みに育つように強化した様で。
膨張率、硬度、耐久力、持久力、形状が人間の限界に位置するとか。
『色素の沈着も無くしたぞ』などど自慢げに告げられた時には流石に我を忘れて
シバき廻してしまいました。」
と、[ソコ]を指した。
・・・・・・まぁ、脚の付根辺りだ。
女医「それは・・・また、御愁傷様です。」
先生、シーツを捲って観察しないで下さい。
坂本「それで五歳児相手に求婚したって言うのは?」
シーツを直しつつ聞いて見た。
玉藻「これは土蜘蛛の女子なのですが、戯れに主の寝床に忍び込んだ際に先の床技を見舞わ
れたようですね。
それから癖になったのか、主に事あるごとに責任取れだの結婚しろだの迫るように。
まぁコレも毎回追い払いましたが。」
物凄く遠い目をしていらっしゃる。
玉藻「主がどういう事になっているのかまったく理解しておられないのが唯一の救いですね。
最も、これから先に何かと思い悩む事になるのでしょうが・・・・・・。」
その表情は正しく息子の心配をする母親の物。
今は私とかわらないぐらいの歳の姿だが、重ねた歳月の賜物なのだろう。
どれくらい重ねたのかは不明だが。
宮藤「なんだか、玉藻さんってお母さんみたいですね。」
宮藤もそう感じたらしい。
玉藻は無自覚だったせいか、少々驚いている様だ。
玉藻「母親ですか?、よく解りません。
子を育てた事など私には御座いませんので。」
宮藤「そうなんですか・・・・・・、あ、有難う御座いました。」
そう礼を述べて、宮藤がようやく玉藻から離れた。
玉藻「もうよろしいのですか?
私なら別にかまいませんけど。」
宮藤「いえ、充分堪能させて頂きました。
それに・・・、ほんとうは僕君を抱っこしてあげたかったんじゃないかなーと思って。
まぁ、いつまでもお借りする訳にもいきませんし。」
玉藻「どうして・・・・・・解るんですか?」
今度はかなり驚かされた様だ。
宮藤、そんな洞察力をいつの間に身につけた?
宮藤「いえ、なんとなくなんですけどね。
大切な子が滅茶苦茶頑張ってたんですから、思いっきり抱きしめて誉めてあげたく
なるじゃないですか。
『がんばったね、偉いね』って。
だから、僕君が起きたら、思いっきり抱きしめて上げて下さいね。」
玉藻「はい・・・・・・そうしますね。
此処に来れた事は、本当に幸運だった様です。
・・・・・・主を、よろしくお願いしますね。」
そう言って微笑み、玉藻は僕少尉の中に戻って行った。
しかし、大役を任されてしまった。
私は新兵の扱いには慣れていても子供の扱いはからっきしなんだが。
・・・そう言えば。
坂本「宮藤、なんで玉藻が僕少尉を抱きしめたがってると解ったんだ?
九尾の狐を驚かせるなど早々出来る物では無いと思うが。」
宮藤「え?・・・あぁ、それは本当になんとなくなんですけど、なんだか抱っこし慣れてる
と思いまして。
あと、妙に嬉しそうだったんですよね。
でも子育てはしたこと無いって言ってましたから、やっぱり僕君なのかなーって。」
坂本「なるほどな・・・・・・」
動機は極めて不純だが慰めにはなったと言うところか。
坂本「しかし、九尾の狐と言えば伝説に残る大妖だぞ。
良く飛びつく気になったな。」
まぁ、軍規違反までしてネウロイの巣にお邪魔した事もあるのがコイツだ。
その大物振りには苦労させられる反面羨ましくもあるが・・・・・・。
宮藤「そういえばそうなんですよね、でも恐そうな感じは無かったですから。
それに、あんな一生に一度拝めるかどうかの逸品は逃せませんね。
おっぱいに貴賎は有りませんし。
僕君専用なんでしょうけど・・・・・・凄かったな~、えへへ~。」
前言撤回、こいつやっぱり只のアホかも知れん。
とりあえずこめかみをグリグリしておく。
宮藤「いたいいたい地味に痛いですぅ~。」 坂本「教育的指導だ、馬鹿者。」
そう言えば、先生はさっきからなにをゴソゴソと・・・・・・。
女医「これは・・・・・・末恐ろしいわね・・・・・・ゴクリ。」
生唾まで飲んでる所が滅茶苦茶不安をあおって来るんだが。
坂本「先生、さっきから何・・・・・・を?おおおおお?!」
宮藤「こ・・・・・・こんなになっちゃうなんて・・・。」
女医「これは充分以上に使用可能ね、サイズ的には。」
先ほどから刺激を与えられていたのであろう。
ソコには天を貫かんばかりの高射砲がそそくりたっていた・・・・・・。
坂本「あんた10歳児に一体何やってんですか!」
女医「何って・・・ナニの触診と、確認?」
宮藤「男の人のってこんなになっちゃうんだー、へ~」
坂本「宮藤!、どさくさに紛れて触ろうとするんじゃない!
お前にはまだ早いだろうが!!」
宮藤「あ、ウチの診療所ではこういう所の治療もやってましたから時々目にはしましたよ?
こうなったのははじめて見ましたけど。」
妙に冷静だったのはそのせいか、じゃなくてだな。
坂本「いい加減にしろ――――――――――――っ!!」
正直な話し、ネウロイとの戦闘より疲れたかもしれない。
しかし、玉藻の不安も最もだと思う。
こんなの相手にしたら壊れるだろ、常識的に考えて・・・・・・なぁ?
最終更新:2013年03月30日 01:39