この日からネウロイの活動は活発になり、穴拭智子というエースを擁するカウハバ基地に、頻繁に爆撃へ向かうようになった。
初日ほどの数は現れなかったが、それでも護衛と爆撃機あわせて40機といった中規模の編隊だった。
そのたびに、カウハバ基地所属のウィッチ達が迎撃にあがり、これを退けた。
中でも智子の戦果は群を抜いて素晴らしく、全撃墜数のうち約4割は彼女が記録したものだった。
しかし、戦果が増えるのに比例するかのように、義勇独立飛行中隊のメンバー、特に俺との溝は深まっていった。
智子は、中隊のメンバーが戦闘に参加しようとするのを拒絶し、後ろを取られたときでさえ助けを請わなかった。
それに対し、俺はカールスラントでの経験を生かして、中隊のメンバーに指示を出し、連携して少数の敵を撃墜するようにしていた。
俺たちが食堂で、戦闘での反省点などを話し合っているときも、智子は自室に居た。
次第に、智子と俺は宿舎ですれ違っても、互いに挨拶どころか、顔も合わせようとはしなかった。
そんな関係になってから1週間。
朝からの猛吹雪で、ネウロイの爆撃機も来れないだろうと予想され、この日は第1中隊と義勇独立飛行中隊、共に警戒解除となった。
智子は、連日の出撃での疲れを癒そうと、宿舎の隣にあるサウナ風呂に向かった。
タオル1枚を膝において板の上に座り、汗を流す。その姿はとても官能的であり、また鮮やかであった。
不意に、扉が開く音がした。
振り向くと、ハルカがタオルを巻いて恥ずかしそうに立っている。
ハルカ「あの、ご一緒してもよろしいですか……?」
智子「いいも悪いもないわ。いらっしゃいな。」
ハルカは智子の隣にちょこん、と腰掛ける。
そして、横目で智子の体を見つめ、顔を赤らめる。
智子「どうしたの?」
ハルカ「あのっ!撃墜40機達成、おめでとうございます!」
智子「ありがとう。」
ハルカ「今回の戦争で、撃墜数が40機を越えてるのは、まだ5人ほどしかいないって、聞きました。
少尉、本当にすごいです。わたしも、自分のことのように嬉しいです。」
そこまで言ったところで、ハルカは少し俯く。
ハルカ「あの……智子少尉、お願いがあるんです。」
智子「なぁに?」
ハルカ「その、……みんなと仲良くしてくださいませんか?
キャサリン少尉も、ビューリング少尉も、ウルスラ曹長も……皆、反省してるんです。訓練サボって悪かったって。
今、俺少尉の話を聞きながら、皆一生懸命戦技の勉強をしているんです。こうやったら、うまくいくんじゃないか?とか……」
智子「……。」
ハルカ「俺少尉も凄いんです。
皆の長所や短所、ストライカーユニットの性能や癖をボロボロのノートのページいっぱいに書いて、私たちにアドバイスをくれるんです。
俺少尉、言ってました。智子少尉の癖が解れば、少尉を単独行動させずに一緒に戦う方法があるかもしれないって。」
智子は無言を保ったまま、ハルカの話を聞き続ける。
ハルカ「ウルスラ曹長なんて、ずっと新装備の研究をしてたんです。それで、火薬ロケットっていう新しい装備を考えついたんですって。
大型の目標に有効なんじゃないかって、みんなも言ってます。少尉、それができたら、上層部に具申していただけませんか?」
ハルカ「私たち、一人一人は、少尉ほど強くないけど……、あ、いや、俺少尉とビューリング少尉は別ですけど。
とにかく一人一人は弱くても、力を合わせれば、もっとお役に立てるんじゃないかって……。そんな風に考えているんです。
つまり、チームワークです。だから、その、智子中尉も一緒に……。」
智子「私は一人でいいの。」
ハルカ「智子少尉……。」
智子「私はひとりのほうがいいの。それに、足を引っ張られるのはもうこりごりだわ。」
智子は立ち上がった。
ハルカ「わたしたち、同じ部隊じゃないですか!同じ、チームじゃないですか!」
ハルカが大声で叫ぶ。
智子「いい?私は仲良しごっこをしにこのスオムスに来たわけじゃないの。戦争をしにきたの。
戦果をあげるために、やってきたの。」
智子はそう言い残し、サウナを後にした。
脱衣所で智子が体を拭いていると、誰かが壁際にいる気配がした。
振り返ると、ビューリングがそこに居た。
智子「ビューリング少尉…。何の用?」
ビューリング「ちょっといいか?話があるんだ。」
――――
俺とウルスラは、ウルスラが研究したという火薬ロケットの実験の為に、格納庫の端っこで話し合っていた。
俺たちの目の前には、長さ約80センチ、直径約5センチ程の筒状の物体が横たわっていた。
俺「これが、ウルスラ曹長の研究してたロケット弾?」
ウルスラ「そうです。ヴェーラ・フォン・ブラウンのロケット研究を基にしました。」
俺「それを、一人で?」
ウルスラ「ええ、まぁ……。」
俺「凄いじゃないかウルスラ曹長!これが完成すれば、俺のPaK40なんて目じゃないぐらい高威力の武器が出来上がる!」
ウルスラ「あ、ありがとうございます……。」
ウルスラは、自分の研究を人に褒められたことはなかったので、俺に褒められたことが嬉しかったのだろう。
少しうつむいていた。
俺「いやぁ、楽しみだなぁ…!ウルスラ曹長、何か手伝える事はないか?」
ウルスラ「何も……。」
俺「そ、そうか……。」
ウルスラ「……俺少尉。いくつか、聞いても宜しいですか?」
俺「うん。なに?」
ウルスラ「俺少尉は何故、7.5cm砲を使わないんですか……?」
俺「あ、あぁー……その事ね。いや、実はさ、ここに来る前にある事件があって、使うのが怖くなっちゃったんだよね。」
ウルスラ「何があったんです?」
俺「随分と興味津々だね…。」
ウルスラ「教本に、『疑問に思ったことは、分かるまで調べるべし。』とあったので。」
俺「なるほどね……いい心意気だ。……分かった。ちょっとだけ、俺の話をしよう。」
俺「これは今から3ヶ月ほど前の話だ。」
――――1939年9月12日 オストマルク アイゼンシュタット臨時空軍基地
ネウロイがオストマルクに突如侵攻を始めてから10日ほどが経った。
カールスラントがオストマルク支援の為に派遣した、カールスラント空軍第1訓練航空団第Ⅳ飛行隊第12中隊は、オストマルク南端のアイゼンシュタットという街に臨時に設置された空軍基地に居た。
ネウロイの進軍速度は凄まじく、開戦からわずか2日でオストマルクの約4割を占領するほどだった。
そして、ここアイゼンシュタットの街にも、昼夜を問わずネウロイが爆撃に来ていた。
戦闘爆撃中隊だった俺達は、初めのうちは陸上ネウロイに対する爆撃任務が主だったものの、次第に航空ネウロイの迎撃が主任務となっていた。
俺は、連日連夜に渡って続く戦闘任務のおかげで、だいぶ疲弊していた。俺だけじゃなく、中隊の皆も同じように、疲れ果てていた。
しかし誰一人として、その事を口にすることはなかった。
この日も、俺達の中隊は、すっかり聞き慣れた空襲警報を耳にし、整備もままらないストライカーユニットで出撃した。
中隊長「デザート1から各機、聞こえる?」
俺「デザート3からデザート1、感度良好です。」
デザート5「こちらデザート5、問題無し。」
デザート6「デザート6、こちらも異常なしです。」
中隊長「…8人いたこの中隊も、随分と数が減ったものね。」
コールサインの番号に空きがあるのは、その番号の持ち主がこれまでの戦闘で撃墜され、戦死してしまったからだ。
デザート2は初日の戦闘で落とされ、互いに仲の良かったデザート4、7は3日前に、そしてデザート8はつい昨日の出撃で落とされてしまった。
全員が即死か、辛うじて生きていた者も、大体12時間後には、基地の医務室で静かに息を引き取った。
そして全員共、皆成人していない少女だった。
俺「皆、しっかりとヴァルハラへ旅立てたでしょうか。」
デザート5「心配するなよ、俺。あいつらならしっかりと逝けたさ。」
そう話かけてくるのは、冷静な性格の少女、コールサイン、デザート5だ。
彼女は部隊の一番槍を勤めていた。
デザート6「でも、俺がそんな沈んでたら、4人ともおばけになって帰ってきちゃうかもよー?」
こっちはコールサイン、デザート6。僅か13歳という年齢で、部隊内でも最年少のウィッチだ。
彼女は無邪気な性格で、よく俺たちにイタズラを仕掛けては、笑っていた。
俺「そうかもしれないな。ここで沈んでたら、あいつらに顔向けできないもんな。」
中隊長「おしゃべりはそれくらいにしなさい。敵が見えてきたわ。」
そして、中隊長であるデザート1。19歳のウィッチで、撃墜数は20を越えていた。
その当時、それほどの撃墜数を誇るウィッチは、世界でもまだ少数であった。
彼女は非常に几帳面で部下思いであり、自分のノートに、部隊員の名前から、性格、癖、撃墜数などを丁寧に書き込んでいた。
俺たちはそれを参考に、スコアを競ったりしていた。第12中隊の知識と思い出が詰まったノートであった。
中隊長「見た限りだと、敵はラロスが20機に、ケファラスが15機ね。」
デザート5「味方は?」
俺「第12中隊のみ。」
デザート6「つまりー…私たち4人だけってこと?」
中隊長「4人もいれば十分だわ。私とデザート3はラロスを、デザート5と6はケファラスを落としに行ってちょうだい。」
デザート5「武装は?」
中隊長「オールウェポンフリーよ。やつらにフライングアーティラリーの恐ろしさを教えてやりなさい。
……それと、交戦規定を守ること。」
デザート6「交戦規定?」
俺「忘れたのか?この激戦地での交戦規定はただ一つ、『生き残れ』だろ?」
デザート6「そうだったー!」
中隊長「その通り。全員、生き残るわよ。」
俺達「了解!」
数は圧倒的に不利だったが、互いに支え、支えられていたからか、戦意は旺盛だった。
俺たちは編隊を組んで、太陽を背に向けて上昇し、ネウロイ達の上に躍り出る。
そして、巨大な7.5cmPak40を手に持ち、Ju88の特性を生かして、ネウロイの編隊に向けて急降下を始める。
プロペラが空気を切り裂くような独特の音を放ちながら、俺たちは一斉にPaK40の引き金を引いた。
機銃とは比べ物にならないほどの大音響を響かせながら放たれた7.5cm徹甲弾は、ラロスとケファラスの装甲を紙のように引き千切り、風穴を開けていく。
1機のラロスを貫通した砲弾が、下を飛んでいたケファラスをも貫通し、たった一度の砲撃で、10機近くのネウロイを撃墜した。
デザート5「俺!今の見た?2機抜きだよ!」
俺「見てた見てた!すごかったなー!」
デザート5「へへー!ありがとー!」
そうして、ラロスとケファラスの編隊の分断に成功した俺たちは、中隊長の指示通り、それぞれの目標を撃破しに向かった。
中隊長と俺は、7.5cm砲とMG17機関銃を駆使して、着実にラロスの数を減らしていく。
俺「中隊長!俺、中隊長のスコア抜かしちゃうかもしれません!」
目の前を飛ぶラロスのエンジンを吹き飛ばし、叫ぶ。
中隊長「今日は調子いいみたいね!でも……」
中隊長は、2機のラロスに追われていたが、ラロスが追い込もうと速度を上げた瞬間に両足を前に突き出し、急減速をする。
ラロスも慌てて速度を落とすが、時は既に遅く、オーバシュートしてしまう。
中隊長はその瞬間を見逃さずに、追い抜かれ様に左手の機関銃でエンジンと吸気口を吹き飛ばす。
そしてもう1機が目の前に躍り出た瞬間、7.5センチ砲の引き金を引く。
徹甲弾がラロスの尾翼から機首に向けて貫通し、ラロスをバラバラにする。
中隊長「まだまだ、私の足元にも及ばないわね。」
俺「確かに…。中隊長、敵が撤退していきます。」
中隊長「やったかしら……。デザート5,6、そちらはどう?」
デザート5「こっちも大体片付いた。」
デザート6「みーんな逃げていくよー!私たちの勝ちー!」
中隊長「それは良かったわ。じゃあ一旦合流しましょう。」
ここで俺は、ある違和感を感じていた。いや、俺だけではないだろう。
多分、中隊の皆が感じていたことだと思う。
俺「……中隊長、やけにあっさりしてませんか?」
中隊長「やっぱり、俺もそう思う?」
今回の敵編隊は今までのそれと比べて、あまりにも簡単に撤退して行ったのだ。
前回など、80機ほどの敵を相手にしたというのに、今回はあまりにも手応えがなさすぎた。
デザート6「きっとネウロイも疲れてるんじゃないかな?」
デザート5「案外、私たちに恐れをなしてたりな。」
中隊長「だといいけど………嫌な予感がするわ。念のために残弾を確認してちょうだい。」
俺「7.5センチ砲が7発に、機関銃は弾倉が3つ。」
デザート5「意外と余ってるんだなぁ。私なんてもう機銃の弾が無いよ。」
デザート6「デザート5は、機関銃でばら撒いてたもんねー。」
俺「おいおい、あまり無駄遣いするなよ?ほら、俺のを1つやるよ。」
デザート5「ありがとう。基地に帰ったら、昼飯分けてあげるよ。」
俺「どうせほとんど水みたいなスープだろ?いらねーよ。」
デザート5「バレたか。」
デザート6「わたしあのスープきらーい。」
中隊長「好き嫌いしてると育たないわよ?」
デザート6「だって味がないんだもん。」
俺「ははは……。」
俺たちは再び編隊を組んで、他に敵がいないか哨戒飛行を続けながら、談笑する。
そこに、基地司令部からの通信が入った。
内容は、敵の少数の増援部隊が接近中。第12中隊で迎撃せよという命令だった。
俺「司令部は相変わらず無茶言いますね。」
中隊長「基地内で飛べるのは私たちだけだしね。」
デザート6「どーせ、またラロスかケファラスだよ。さっさと片付けて一緒にご飯食べよー!」
デザート5「そうだな。そろそろお腹が空いてきたんだ。」
俺「中隊長の嫌な予感ってのも、これの事だったかもしれませんね。」
中隊長「そうみたいね。じゃあ、増援部隊を落としに行きましょう。」
そうして、俺たちは司令部に指示された方角に飛び、比較的気楽な態度で、ネウロイの増援を見つけた。
しかし、そいつを見た瞬間、俺たちは絶句した。
なぜなら、そのネウロイは、俺たちが今まで見てきたどのネウロイよりも巨大だったからだ。
デザート5「なんてでかさなの……。」
デザート6「おっきい……。」
俺「こんなの見たことない!」
そのネウロイは、4発のエンジンによって飛び、翼の径は学校のグラウンドほどの大きさはありそうなほどに大きい。
そして、分厚い装甲と、ハリネズミの様に大量の防御機銃を備え、空中の要塞と言っても差し支えないほどの禍々しさを持っていた。
中隊長「新型のネウロイかしら……。私たちだけじゃ、あれは無理だわ……。」
俺「増援を呼ぶとか?」
中隊長「そうね、基地に問い合わせてみましょう。」
そう言って、中隊長は基地に増援を要請する。
しかし、返答は『ノー』だった。
デザート5「どうだったの……?
」
中隊長「私たちだけでこれを食い止めろだそうよ……。」
デザート6「そんな、無理って言ったじゃん!ここは1回基地に帰って、また来ればいいじゃん!」
俺「そうです!デザート6の言う通りです!」
中隊長「今、基地に引き返したら間違いなくこの新型は、アイゼンシュタットの街を破壊し尽くすわ。
私たちがここで引き止めないと。」
デザート5「そんな……。」
普段は陽気な俺たちの間に、沈痛な空気が流れる。
中隊長「…任務を更新します。我々第12中隊は、新型ネウロイの迎撃に向かいます。」
俺「…武装は?」
中隊長「オールウェポンフリー、です。各機、交戦規定を遵守してください。必ず、生き残りましょう。」
デザート6「……りょーかいっ!」
デザート5「了解した!」
俺「了解!全員、必ず生きて帰るぞ!」
俺たちは、たった4人で、その巨大なネウロイへと向かって行った。
太陽を背にして上昇し、ネウロイの上空へ出る。
そして、いつも通りに砲撃を加えようとしたとき、新型ネウロイは、猛烈な数の対空砲火を浴びせてきた。
俺たちは慌ててシールドを張り、その対空砲火を防ぐが、そのおかげで全く攻撃のチャンスが無かった。
そのうち、護衛についていたラロスが上昇し、俺たちを追いかけ回しはじめる。
編隊を解いて回避行動をとらざるをえなかった俺たちは、だんだんとバラバラに散らばり、個人で多くのラロスと対峙することになった。
それでも、俺たちは無線で互いを励ましあいながら、ラロスを落としていく。
俺「護衛の数が多すぎる!」
デザート6「っ……でも、稼ぎ時かもよっ!ね、デザート5!」
デザート5「……え、えぇそうね……。」
俺「どうしたんだ?いつもの元気がないぞ?」
デザート5「平気よ。ちょっと疲れただけ。」
中隊長「……デザート5、被弾したのなら下がりなさい。」
近くのラロスに7.5cm砲を撃ち込んで撃墜を確認した後に、少しだけ余裕の出来た俺は、中隊長の言葉に、デザート5が交戦していた空域に目を移す。
彼女のストライカーユニットは、右のエンジンが止まり、片足だけで少なくとも5機のラロスの追撃を躱してた。
しかし、その片方からも黒煙が噴き出し、今にも止まりそうだった。
武器の類は一切持っていない。もうとっくに残弾は無くなっていたのだろう。
デザート5「あちゃー……やっぱり隊長にはバレてたかー……。下がりたいけど、これだけ囲まれちゃ、無理だよ。」
ラロスは、彼女を弄んでいるのか、機銃を撃つものの、当てようとはしない。
デザート5「ネウロイも性格悪いねー。一思いにやってくれればいいのに、ああ、……もう片方も止まっちゃった。」
俺「待ってろ、助けに行く!」
デザート5「無理だよ、もう両方共止まっちゃった。あとは落ちていくだけ。」
両方のエンジンが止まった彼女は、グングンと高度を下げていく。
俺は彼女を助けにいこうとするが、新たなラロスが邪魔をし、近づくことすらできない。
本当に意地の悪いやつらだ。
彼女は、段々と地面へと近づく。
デザート5「……先にヴァルハラへ逝くよ。俺、スープ分けてやれなくてごめんな……。」
彼女は最後に、俺たちに向けて敬礼をした。その言葉と同時に、彼女の華奢な身体は地面に叩きつけられた。
その瞬間を、俺は見たくなくて目を逸らしたが、見なくても彼女がどうなったかは、容易に想像できた。
俺「ちくしょう……!またやられちまった!忌々しいネウロイめ!」
中隊長「くっ……!一旦、編隊を組みなおします……。」
俺たちは、なんとかラロスの追撃を振り切り、一旦編隊を組みなおす。
しかし、編隊を組み直した時、デザート6の様子がおかしかった。
デザート6「あーあ……次は私かー……。」
俺「デザート6、まさか……!」
デザート6「……そのまさか、だよ、俺。おなかと腕、撃たれちゃった。」
見ると、彼女の腹は真っ赤に染まり、右腕が何かに引きちぎられたかのように、無くなっていた。
俺は、急いでデザート6の傍により、肩を貸す。
デザート6「もう、頭がぼーっとしてきちゃった……。」
俺「喋るな!すぐに救援が来るってよ!ですよね、中隊長!」
中隊長「……ええ、すぐに来るわ。それまでの辛抱よ……。」
デザート6「うそばっかり。さっきはこないっていったじゃん……。」
俺「来てくれる事になったんだよ…助かるから、助かるから…だからもう喋るな……。」
デザート6「そっか……それなら良かった……。」
彼女の目はすでに閉じられ、虫の息だ。
デザート6「ちょっと、つかれた……。すこしだけねるね……。」
俺「あぁ、ゆっくり休め……。」
俺は彼女の体を抱きしめ、彼女の足から、重いストライカーを外してやった。
ストライカーは真っ逆さまに落ちていく。
デザート6は、そのまま、呼吸を止めた。
俺「ちくしょう……ちくしょう……なんで、なんで……!」
俺たちは地上に降りて、デザート6の亡骸を小高い丘の上の木の下に横たえる。
そこで中隊長は空を見上げ、忌々しげにあの巨大なネウロイを睨む。
中隊長「……見てて分かったんだけど、あの新型のネウロイ、銃座を一箇所でも潰せば、装甲の薄い部分を露呈させることが出来るはずよ。」
俺「隊長、やっぱり基地に戻りましょう!司令部の命令なんてクソ食らえだ!」
中隊長「俺さん、私たちは軍人よ!いかなる命令であっても、守るのが絶対なのよ……。」
俺「でも、もう無理です!あんなデカいの、俺たちで止められるわけがない!」
中隊長「私たちがノコノコ帰ったとして、アイゼンシュタインに居る人達が助かるの!?」
俺「そ、それは……。」
中隊長「私たちが、少しでも足止めをして、彼らが生き延びるチャンスの可能性を多くするの!
……だから、私たちは戦わなくてはならない……きっと、彼女たちもそれを望んでいるわ。」
中隊長はデザート6の亡骸を見下ろす。
俺「……分かりました、俺も中隊長についていきます。」
互いに見つめあい、頷きあった俺たちは、再びネウロイが我が物顔で飛ぶ空へと舞い上がる。
俺たちは、一直線にあの巨大なネウロイへと向かう。
対空砲火をシールドで防ぎ、空戦機動で避け、徐々に徐々に、そのネウロイへと近づいていく。
中隊長「俺さん、見えてきたわ!それじゃあ、手筈通りに!」
俺「了解!」
俺たちの作戦はこうだ。まず、俺が遠距離からネウロイの銃座の一つを吹き飛ばす。
そして、その箇所に、中隊長が零距離射撃で装甲の薄い部分を撃ち抜くという、無謀にも思える作戦だった。
だが、もはや失うものは何もないと、2人は必死に突貫し、ついに目の前に巨大ネウロイを捉えた。
俺「フォイア!」
俺は、PaK40の引き金を引く。
大きな反動と共に、勢い良く飛び出した7.5cm徹甲榴弾は、一寸の狙いも違わずに、ネウロイの銃座に突き刺さる。
一際大きな爆発を起こしたネウロイからの銃撃は、幾分か少なくなっていた。
俺「中隊長、今です!」
中隊長「了解!」
中隊長は魔導エンジンを全開にし、潰された銃座へと近づく。
中隊長「よし、取り付いたわっ……って、え?」
俺「どうしました?」
中隊長「再生してるわ……。」
俺「な、なんだって!?」
今まで、ネウロイが再生するなんて知らなかった俺たちは、驚愕した。
しかもそのスピードは異常な速さだったのだ。
中隊長「しまった……ストライカーユニットを巻き込まれた……!」
俺「お、俺が拾いに行きます!ユニットを脱いで下さい!急いで!」
中隊長「……俺さん、私がいるところはまだ装甲が薄いわ。ここを撃ち抜きなさい。」
俺「そんなことしたら中隊長まで!」
中隊長「どっちみち、私はネウロイの瘴気に犯されている。
……正気を保っている間に、私は死にたい。」
俺「俺には、俺には無理です……。お願いです中隊長、脱出を!」
中隊長「……俺少尉、命令です。今すぐにここを撃ち抜きなさい。」
俺「……中隊長。」
中隊長「やりなさい!今すぐに!」
俺「くっ……了解しました……。」
俺は静かに、Pak40を中隊長に向ける。
涙で視界が霞み、照準がうまく定まらない。
中隊長「俺さん、基地にあのノートは置いてきてあります。今後、役に立つでしょう。
あれは俺さんにあげます。」
俺「了解……。」
中隊長「さぁ、最後の命令です。撃ちなさい。」
俺「了解、です。中隊長……!」
俺は涙を拭き、照準を合わせる。そして、ゆっくりと引き金を引く。
弾底を叩かれた砲弾は、俺の意思とは裏腹に、一瞬で砲身内を抜けて、一直線にネウロイへと向かう。
中隊長は撃ち抜かれる寸前、最後に口を動かした。 あ り が と う だろう。
砲弾は中隊長とネウロイを一緒に貫通した。
真ん中を撃ち抜かれたネウロイは、内部から爆発を起こし、真ん中から胴体をへし折りながら、地上へと落下していく。
再生すると言っても、連続した爆発の中で再生するのは不可能だった。
地上へと落ちるまでに、ネウロイは爆発四散し、真っ白な破片を辺りに撒き散らした。
俺「……大型ネウロイの撃退に成功。……これより、帰還します。」
途中でデザート6の亡骸を拾い上げ、基地へと帰還する。
基地に戻ると、整備兵や町の人々が、俺を囲って、ネウロイ撃墜を称えた。
しかし、俺はそれに反応せずに、真っ直ぐに格納庫へと向かう。
俺の機体以外に見当たらないない格納庫は、妙に広く、寂しく感じられた。
俺「俺以外、皆居なくなっちまった……。」
ストライカーユニットを置いた俺は、魂が抜けたように、宿舎へと戻る。
そして、死んでしまった仲間たちの部屋を回って、遺品を集め、基地の裏の小高い丘へと登った。
そこは中隊の皆とよく昼食を食べた場所だった。
しかし、今ではそこに4つの粗末な十字架が建てられていた。昨日までの戦闘で戦死した仲間たちのものだ。
俺は、その横に、まず一つの大きな穴を掘る。そこに、すっかり冷たくなって硬くなったデザート6の遺体を容れ、土を被せてやる。
そして、十字架を作り、その盛り土の上に突き立てる。
同じように、その横に穴を掘り、デザート5の部屋から持ってきた遺品を容れ、土をかぶせ、十字架を立てる。
最後は中隊長の分だ。中隊長の遺品もいれて、土を被せようとしたところで、ノートの存在に気づく。
そこで俺は、中隊長の最後の言葉を思い出した。『これは俺にあげる。』と。
俺は手を震わせながら、そのボロボロになったノートを拾い上げる。開いてみると、びっしりと文字が書いてあった。
目からは涙が溢れ、ノートのページに染みを作っていく。
俺「こんなの貰って、どうしろって言うんだ……!俺は、何もできなかった!」
俺は叫び、ノートのページを乱暴に開いていく。
全体の半分をすぎたところで、真っ白なページが続く。
しかし、最後のページには、殴り書きされたような文字でこう書いてあった。
『何があっても、死ぬことは考えるな。罪を犯したら、生き延びて、それを悔い改めよ。』
カールスラント空軍第1訓練航空団第Ⅳ飛行隊第12中隊の交戦規則『生き残れ。』の元となった言葉である。
俺は、それを見たとき、ピタリと泣くのをやめた。俺は、生き続けなければいけない。
生きて、これまでの罪を償うべきだ。
いつの間にか、俺の後ろには基地指令と憲兵が立っていた。
司令「……俺少尉、上官を発砲し、死亡させたことに間違いはないな?
私も、こんな事は言いたくないのだが……軍規なのでな……君を拘束させてもらう。」
俺「えぇ、間違いありません。」
司令「案外、すんなりと認めるんだな。」
俺「事実ですから。」
司令「……すまないな。彼を拘束しろ。」
憲兵が俺の腕に手錠をはめ、ジープへと連行する。
俺「俺は、町を救えましたかね。」
憲兵「……お前がそう思うなら、そうなのだろう。」
俺「ですかね……。」
こうして俺は、カールスラントの軍事裁判所に連行され、有罪を言い渡されて、重営倉に収監された。
本当にあっという間の出来事だった。予定されていたのではないかと思えるほど。
その後、カールスラント空軍第1訓練航空団第Ⅳ飛行隊第12中隊は無期限の部隊活動停止になり、オストマルクはネウロイの手に落ちたと聞かされた。
重営倉を出た俺が、行く当てもなく、フラフラしていると、アイゼンシュタット基地の司令官に、スオムスに行かないかと言われた。
俺はこれに即答し、俺のスオムス行きが決まったのだ。
――――
俺「これが、俺の話。これ以来、PaK40は使ってないんだ。」
ビューリング「…その話は本当か?」
気づくと、格納庫には智子とビューリングが居た。
俺「本当さ。あのノートも、今はなした中隊長のものだ。」
ビューリング「俺、お前の気持ちはよくわかるさ。」
俺「分かるもんか。」
ビューリング「いいや、分かるさ。私もオストマルクに居たからね。」
最終更新:2013年03月30日 01:44