坂本がネウロイによって撃墜され、戦線離脱して数日が経過した。
芳佳が自室禁固処分となり、ストライカーや各種武装の可動率という条件をあわせると、
“ストライクウィッチーズ”の戦力は、全力発揮の70パーセントを割り込んでいた。
――戦力の、枯渇。
俺達までもがアラート要員として駆り出された理由とは、要するに、そういうことであった。
アラート要員にアサインされるにあたり、俺達のJu52にも改修がなされていた。
Ju52には軽爆撃機仕様に改造された機体もあり、それらの機体には自衛用の火器が追加装備されていた。
それに倣って、俺達の機体にも、MG15航空機関銃×3が取り付けられたのだった。
とはっても、鈍重な輸送機に出来ることは限られている。
機銃を取り付けたといっても、所詮は豆鉄砲程度であり、ネウロイとACMをやらかすことは全く期待されていなかった。
俺達のアラート待機中にスクランブルオーダーが発令された場合、
離陸後は防空指令所の指示に従ってネウロイの攻撃範囲外から接触を保ち、有力なウィッチの到着を待つということだった。
俺達の任務は、いわば強行偵察――要するに時間稼ぎと、できれば囮の役割を果たせれば良いかな、的なものだった。
俺達にとって、通算3回目のアラート待機。
俺達が夜間シフトを担当するのは
初めてだったが、事件が起こったのは、まさにその夜のことだった。
501基地、管制塔。
ランウェイに向かってタキシングする機影を認め、当直の管制官が訝った。
管制官A「離陸許可は出していないぞ。どこの馬鹿だ?」
それは、謹慎処分中であるはずのウィッチ、宮藤芳佳の姿だった。
管制官B「指揮所に問い合わせ…って?」
そのときには、芳佳はすでにランウェイ上に魔方陣を展開させ、離陸滑走態勢に入っていた。
管制官A「アボート! アボート・テイクオフ!!」
しかし、芳佳は管制官の制止を無視し、夜空の向こうへ飛び立っていった。
ミーナ「宮藤さんが脱走したわ!」
バルクホルン「あの馬鹿が!」
ミーナ「これが司令部に知られたら厄介だわ…」
急いで連れ戻す。その言葉と、俺達のいたアラートパッドのベルが鳴り響いたのは、ほぼ同時だった。
そして、それが意味するところとは。
操縦俺「ホット・スクランブル!?」
整備俺「とんだババを引いちまったな!?」
操縦俺「5分以内に上がりますよ!」
整備俺「まわせ――――ッ!!」
投げ捨てられた雑誌、こぼれたコーヒー。
それらを全て無視し、俺達は体当たりするように扉を開いてアラート格に走った。
機体に飛び乗り(ああ、まさに飛び乗るという表現が相応しい)、
エンジンを始動するなり、操縦俺は無線機のマイクにがなり立てた。
操縦俺「501TWR、ストライク21。スクランブルオーダー! リクエストタクシー」
管制官『ストライク21、501TWR。クリヤー・フォア・テイクオフ。RWY-12』
操縦俺「ストライク21ラジャー、ブレーキリリースナウ。…ストライク21、エアボーン!」
管制官『ストライク21、Good-Luck』
離陸後、俺達は、無線でドーバー防空指令所を呼び出した。
しかし、無線の相手は、本来この空域を担当するドーバーDCではなく、
それよりも上級の組織であるロンドンの中央防空指揮所だった。
管制官『ストライク21、セントラルDC。ユア・ミッション、サーチ・オブジェクト』
整備俺「(俺達の任務は迷子の捜索か?)」
管制官『ベクター2-6-0、16マイル、オルト20。メイク・ビジー・アイディ』
操縦俺「ストライク21ラジャー。レフトターン、ヘディング2-1-0。トゥーG23E回り込むぞ」
操縦俺は左に機体を傾け、渦巻きを描く要領で予測接触点に回り込んだ。
月明かりを背景に、夜空に静止する2つの人影。
操縦俺の『パイロットとしての眼が』それらを捉えた。
旋回半径を絞り込み、距離を詰める。
その片方とは、紛れも無い、俺達の仲間のうちの一人だった。
操縦俺「タリホー! ヘッドオン2オクロック。オブジェクト、アンノウン・アンド・ストライク11――ミヤフジ」
管制員『ザッツ・ユア・ターゲット。キル・ミヤフジ』
整備俺「…ッ!?」
操縦俺「セイ・アゲイン!」
管制員『アイ・セイ・アゲイン。キル・ミヤフジ』
操縦俺「……ストライク21ラジャー。キル・ミヤフジ」
整備俺「くそ…。フレンドリーファイヤしろってか、俺達は督戦隊か憲兵隊か!?」
向こうは、経験が浅いとはいえ、実戦を生き抜いているウィッチ。
こちらは、たった3丁の豆鉄砲(7.62mm)を積んだだけの鈍重な輸送機。
どう贔屓目に見ても無茶振りでしかないような命令だが、残念ながら俺達は軍人だった。
下された命令に対して、俺達はそう返答するしか出来なかった。
“今、必要とされているのは小娘(ウィッチ)ではない。訓練された男達の軍隊だ――――”
ミーナに向かってそんな趣旨の科白を吐いていたマロニー大将閣下は、
今頃は、参謀本部の安楽椅子でほくそ笑んでおられるに違いない。
ミーナ『ストライク21、リード。聞こえてる?』
整備俺「コピーオール」
ミーナ『司令部から、宮藤さんの撃墜命令が下ったわ』
整備俺「俺達もさっき聞きました。どうなってるんだ…」
ミーナ『上級司令部でも混乱があるみたい。
こちらは現在ブリーフィング中です。状況を報告してください。手短に』
操縦俺「ラジャー」
混乱といえば。
上位の統制系統から直接指示を受けるのも、それと関係しているのかもしれない。
とにかく、俺達は、現在の状況を端的に報告した。
すると、無線機の向こうで、ミーナが狼狽している気配が伝わってきた。
整備俺「身内の不始末は身内で処分しろって事なんですかね」
ミーナ『…すぐに出撃できる人からそちらに向かわせます。貴男達は、それまで宮藤さんとコンタクトを維持してください』
整備俺「それまで、こちらで上手くやるしかありませんね。OVER――」
俺達は、無線のスイッチを切り、深いため息をついた。
さて。
ミーナは、いや、“ストライクウィッチーズ”の全員は、あくまで芳佳を守ろうとしている。
しかし、セントラルDCからは、撃墜せよとの指示が出されている。
統制系統と指揮系統の指示が食い違った場合、どちらに従うべきか。
それは、空軍組織にとって命題ともいえるジレンマであった。
(一応、その場合は、直属の上司の命令に従うべきだということになっていたが)
芳佳は良い子すぎる。だから、味方であるはずの俺達に撃たれるなんて思ってもいないだろう。
その心の隙を突いて、シールドを張られる前に7.62mm弾を叩き込めば、芳佳をキルすることはできるかもしれない。
でも、そんなので良いのだろうか?
俺達は、そんな大人になっちまったのだろうか?
小銃射撃の座学のときに見せられた資料映像が、俺達の頭をよぎった。
7.62mm弾の1発で、体の一部がグチャグチャの赤い塊になっている人間の映像。
(恐らく、米軍のM14で頭を吹っ飛ばされたベトコンや、イスラムのテロリストだろう)
それらの姿が、芳佳の姿と被って見えてしまった。
年端もいかない女の子をキル(“撃墜”ではなく、本来の“殺す”という意味)することに、抵抗は、当然、ある。
だけど、軍人、士官という身分が、俺達の感情を複雑なものにしていた。
――ガキの頃、あんな奴になってたまるかと思っていたクソな大人に、気付けば自分自身がなってしまっているような気がした。
最終更新:2013年03月30日 01:53