食堂に向かう途中、俺達は色々な話をした。
 芳佳は本物の海軍軍人であること。海上自衛官ではなく、あくまで海軍軍人。
 そして、芳佳の実家は鎌倉の農村にあり、診療所を営む傍らで農業もやっていること。
 ある日、ふとしたことからウィッチとしての才能を見込まれ、横須賀の学校で訓練を受けたこと。
 “守るために戦う”
 ――そう言った芳佳の横顔は、どこか複雑な表情が浮かんでおり、
 最初に俺達が抱いた印象よりも、数段大人びて見えた。

 整備俺「横須賀か~。昔っから海軍の街だよな、あそこは」
 旧海軍の史跡、海上自衛隊や在日米海軍の基地、そして防衛大学校。
 あそこはいい街だったな。
 ただし、『あそこ』で生活しようとは、今でも思わないが……。

 芳佳「ところで、お2人はどこの出身なんですか?」
 整備俺「俺は名古屋の外れだな。実家も半分は農家みたいなものだった」
 操縦俺「俺は東京の下町生まれです」
 芳佳「へえ。東京の下町なら近いですね。親戚もいますよ」
 操縦俺「そりゃ良いや。くにに帰ったら遊びに行ってみたいね」

 整備俺「あ、言うの忘れてましたね。
     俺は百里基地所属、整備俺少尉です。本職は航空機整備。
     こっちは操縦俺士官候補生で、本職は輸送機のパイロットです。
     すみませんね、何からなにまでお世話になりっぱなしですみません」
 芳佳「いえいえ。そういえば、お2人はどんな関係なんですか?」
 整備俺「同じ部署の同僚、と云うか……」
 操縦俺「上司と部下です」

 上司と部下。
 学生気分が抜けず、軍隊特有の上下関係に馴染めない整備俺だったが、
 操縦俺は、2人の関係をきっぱりと言い切った。
 これが、軍隊経験の差、社会人としての経験の差なのだろうか。

 操縦俺「俺は来年、曹長から少尉に任官する予定だったんですが、
     この人は今年少尉なったので、ある意味先輩ですね」
 芳佳「2人とも、ウィッチじゃないですよね」
 整備俺「(ウィッチって何? 魔女?)」
 芳佳「ウィッチじゃない士官の人って、あまり見ないけど、優秀なんですね」
 操縦俺「しかも、整備俺少尉は大学出て士官になってますからね」
 芳佳「そうなんですか。頭良いんですね」
 操縦俺「頭は良いんだからしっかりして下さいよ、整備俺先輩」
 整備俺「うおぉう!? そう来ましたか……」

 扶桑。
 ブリタニア。
 そしてウィッチ。
 知らない言葉だらけだ。
 と云うか、ここ、本当に2011年の日本じゃなくて、1944年の欧州なのか?
 俺達は、異世界に放り込まれたことが、未だに受け入れられなかった。

 芳佳「こちらが食堂になります」
 そんな話をしているうちに、俺達は食堂に到着した。

 芳佳「お2人のぶんは持ってきますから、座って待っててくださいね」
 整備俺「了解。ご馳走になります」

 そして、芳佳が持ってきたものはというと…。
 白米と味噌汁、焼き魚と納豆という、純和風の朝食だった。

 俺達「いただきます」
 整備俺「あ…、美味い」
 操縦俺「本当ですね。百里や、防府のメシよりも美味いかもしれませんね」
 芳佳「それはよかったです!」
 そう言う芳佳は、本当に嬉しそうだ。
 整備俺「しじみの味噌汁が、2日酔いの身には嬉しいですね」
 この娘は、きっと、将来はいいお嫁さんになるに違いない。

 芳佳「納豆、好きなんですか?」
 整備俺「俺は好きですね。生卵と、胡麻があったらもっと良かった」
 操縦俺「整備俺さん、胡麻入れるんですか?」
 整備俺「それが結構合うんだ。体にも良いしな」
 芳佳「(そんな組み合わせもあるんだ…)」

 芳佳「あ、リーネちゃん」
 芳佳の視線の先には、お下げの女の子がいた。
 そして、俺達と目が合った。
 女の子「お、男の、ひと…?///」
 お下げの女の子は、半身を壁に隠した。
 なんだか、めちゃめちゃ警戒されてるぞ、俺達。

 芳佳「リーネちゃん、こっちこっち~」
 女の子「すみません。男の人って、ちょっと苦手で…」
 芳佳が元気に手を振り、お下げの女の子が申し訳なさそうに俯いた。
 活発な芳佳とは対照的な、大人しくて、箱入り娘って感じの女の子だ。

 整備俺「はは…、異性が苦手なのはお互い様ですね」
 ちなみに整備俺は年齢≒彼女いない歴だったりする。
 「=」じゃないよ、「≒」だよ!
 整備俺「…くそ、言ってて自分で悲しくなってきた」
 リーネ「どうしたんですか?」
 整備俺「なんでもないです。なんでもないんです…」

 リーネ「えっと、ブリタニア空軍所属、リネット・ビジョップ軍曹です」
 芳佳「リーネちゃんって呼んでくださいね」
 整備俺「整備俺少尉です。扶桑の、百里ヶ原航空基地から来ました」
 操縦俺「操縦俺曹長です。同じく百里ヶ原から来ました」
 整備俺「ま、よろしくお願いしますよ」

 …とは言ったものの、リーネはどう見ても白人の娘さんだ。
 しかも、リーネは芳佳と同じく、ズボンもスカートも穿いていない。
 この世界じゃこれが当たり前なのか?
 俺達は、ここが、現代日本ではない1944年のどこか――
 ――…未知の文化が発展した場所だということを、認識せざるをえなかった。

 俺達「ご馳走様でした」
 操縦俺「本当に美味かったよ。ありがとうね」
 芳佳「食器はそのままでいいですよ」
 整備俺「あいよ。それと、世界地図持ってきてくれないかな?」
 芳佳「わかりました。リーネちゃんはどうする?」
 リーネ「わたしも一緒にいくよ」
 整備俺「ん…、どっちか残ってくれるとありがたいんだけど…。
    知ってる人が居ないっていうのは、ちょっと心細くてね」
 リーネ「それじゃ、わたしが行ってくるよ。芳佳ちゃんは残ってて」
 芳佳「行っちゃった…」
 そう言うと、リーネは、お下げの髪をぱたぱたと揺らしながら走っていった。
 ……俺達、やっぱり避けられてる?
 リーネを待っている間に、食器を洗う芳佳。

 リーネ「持ってきました」
 リーネが、食堂のテーブルの上に地図を広げた。
 欧州の地図って、ど真ん中に欧州大陸があるんだよね。
 んで、東の端にある島国が、俺達の国。

 整備俺「これが日本…って、おい、“FUSO”てなんだよ。これ、日本じゃないのか……!?」
 操縦俺「まじかよ……!!」
 整備俺「中国や朝鮮が黒く塗りつぶされている。どういう事なんだ…!?」
 芳佳「黒くなっている土地は、ネウロイに侵食されて、人が住めなくなっている土地です」
 整備俺「何だそれ……」
 操縦俺「ところで、ネウロイって何です?」

 操縦俺の言葉に、芳佳が驚いたような表情になる。
 その瞳は、『何でそんな事も知らないんですか?』とでも言いたげだ。
 あたりまえだ。俺達のいた2011年では、そんなの無かったからな!!

 芳佳「ネウロイは、正体不明の人類の敵だって、そう言われています。
    それと戦うことが出来るのは、私達、ウィッチだけなんです」
 整備俺「何だそれ……」

 くそ。
 異世界に来てしまったということはなんとなく理解していたが、
 改めてその現実を突きつけられると、ショックだ。
 頭を抱える俺達に、芳佳は心配そうに声をかけた。

 芳佳「どうしたんですか?」
 整備俺「聞いてください。芳佳さん」
 芳佳「どうしたんですか?」
 整備俺の口調に、芳佳は戸惑いながら答えた。




 整備俺「俺達、別の世界から飛ばされてきたみたいです」
最終更新:2013年03月30日 01:55