整備俺「俺達、別の世界から飛ばされてきたようです」
 芳佳「……?」


 おい、芳佳の目が点になってるぞ。
 そりゃそうだ。
 別の世界からやってきただなんて、どう考えてもまともな人間の発言とは思えない。

 整備俺「操縦俺さん、身分証は持ってるよね?」
 操縦俺「はい。持ってます」
 整備俺「よーし、じゃ、身分証提示」

 俺達は、制服の右胸のポケットから、身分証を差し出した。
 『航空自衛官身分証明書』と大きく書かれたカード。
 整備俺のは水色の、操縦俺のはピンク色のカードだった。
 日本語(扶桑語)と英語(ブリタニア語)の国語で書かれたカードには、
 それぞれの顔写真と、氏名、階級、そして裏面には生年月日が書かれていた。

 芳佳「整備俺さんは1987年生まれ、操縦俺さんが1986年生まれ……」
 整備俺「ところで、芳佳さん以外で俺達のことを知っているのは、
     さっきのリーネさんと、俺達を発見してくれたサーニャさんの他にいますか?」
 芳佳「…………」
 フリーズしている芳佳。
 整備俺「おーい……?」
 操縦俺「ステータス、ラッチしてますね」
 うん。芳佳のスペックじゃ足りなかったか。
 やっぱり、この問題はこの娘じゃ処理できないよなー…。
 …などと、どこかのんきなことを思いつつ。
 整備俺は、いよいよ腹をくくることにした。

 まず。深呼吸。

 整備俺「みんな、聞いて欲しい」
 操縦俺「?」
 リーネ「はいっ!?」
 芳佳「なんでしょう?」
 整備俺「まず、現状把握させてくれ」

 現在の年月日は1944年8月*日。
 場所はヨーロッパ。ブリデン島よりも南の、ドーバー海峡に面した孤島。
 1944年といえば、俺達の歴史じゃWW2の真っ只中だが、この世界はどうやら違うようだ。
 じゃなきゃ、日本海軍の下士官が、英国海軍の下士官と仲良くじゃれあってるわけがない。

 この世界における人類は、洋の東西を問わず、
 古代より“ネウロイ(怪異)”という脅威と戦っていたらしい。
 また、ネウロイに対して通常の兵器による対抗は困難であり、
 “魔法使い(ウィッチ)”が有効な対抗戦力となっている。
 そして、ウィッチというのは、そのほとんどが10代の少女であるということだった。

 何だよ、その悪趣味な魔法少女モノみたいな設定は。
 …。
 ……え?
 ごめんなさい。
 俺達、魔法少女モノは大好きです(^q^)
 ただし、それは、創作物として嗜好しているだけであって、
 現実として、そういう世界を目の当たりにしてしまうと、理不尽さが先に来る。
 (俺達が、自衛官――治安職の人間であることが、余計にそういう思いを抱かせていた)

 それから、この501JFWには、世界各国のエースウィッチが集められた精鋭部隊だそうだ。
 扶桑からは、芳佳の他にも、ウィッチが派遣されているらしい。

 芳佳「わたしの他にはもう1人います。坂本さんっていう、ベテランのウィッチです」
 整備俺「ちなみに、階級は?」
 芳佳「少佐です」
 わお。佐官の人がいたとは。
 それなら、周囲に対する影響力もそれなりにあるんだろう。

 芳佳「坂本さんは訓練のときは厳しいけど、強くて、本当はとっても優しい素敵な人ですよ」
 整備俺「わかりました。是非、取り次いでほしいですね」
 芳佳「はい。坂本さんなら、きっと力になってくれると思います」
 芳佳が、その坂本少佐という人を尊敬しているのはよくわかった。
 過度な期待はしてはいけないが、坂本少佐には力になってもらわなければ困る。

 この世界の地理は、さっきリーネに持ってきてもらった地図で把握したし、
 とりあえず、この世界を読み解く基礎知識はこれぐらいで十分か。

 整備俺「あと、芳佳さん。教科書、持ってますか?」
 芳佳「教科書?」
 整備俺「できれば、芳佳さんが扶桑の学校で使ってたやつがいいです。
    社会科の、地理、歴史、公民全部。あと、資料集もあったら欲しい」
 芳佳「学校の教科書なら図書館に置いてありますよ。扶桑以外にも色々な国の教科書があります」

 その国のなりを知るには、その国の教科書を読んでみるとすぐにわかる。
 大学時代に、教育学の講師がそんなことを言っていたのを思い出した。

 整備俺「なら、図書館に連れて行ってほしい。図書館なら新聞も置いてあるよね?」
 芳佳「はい。扶桑語の新聞もありますよ」
 整備俺「そいつはありがたい。じゃ、お願いしますよ」
 芳佳「はいっ!」

 という訳で、俺達は、芳佳の案内で基地の図書館に向かうことにした。
 俺達から3歩ぐらい下がって、恐る恐るついてくるリーネが気になる。
 気になる…。
 気になる……。


 芳佳「こちらが図書館です」
 芳佳に案内された図書館は、少々薄暗いことを除けば開放的なつくりで、大学の図書館のようなモダンな雰囲気だった。

 整備俺「調べ物には時間かかると思うんで、午前中一杯は出てこないと思います」
 芳佳「お昼になったらまた食堂に来てくださいよ。お昼ごはん作って待ってますから」
 整備俺「わかりました」
 芳佳「そのときは、わたしたちの仲間もみんな、一緒だと思いますから」
 整備俺「了解。楽しみにしてますよ、って言いたいとこなんですが……」
 芳佳「どうしたんですか?」
 整備俺「これはリーネさんにも聞いてほしいんですが…」
 リーネ「…どうしたんですか?」
 整備俺「俺達が、別の世界から来たというのは、ひとまず忘れてほしい。
    俺達は、遠く離れたヨーロッパで戦う扶桑ウィッチの活躍を取材するために、
    扶桑の百里ヶ原基地からやってきた従軍記者だ。
    そういうことにしておいてください」
 芳佳「わかりました」
 整備俺「それじゃ、ちょうどいい感じの時間になったら呼びに来てください。
    多分、ずっと図書館で調べ物してると思うので……。
    あと、坂本少佐って人にもよろしくね」

 じゃ、と言って図書館の中に入る。
 教科書類が置いてある場所はすぐにわかった。
 黒板や勉強机のある学校か塾の教室のような一角、そこにある背の低い本棚のなかにあった。

 近くにあったソファに足を投げ出して座り、
 中学校の、扶桑史、と書かれた教科書をぱらぱらとめくる。
 中学にしてはやけにレベルの高い内容だと思ったら、いわゆる旧制中学、
 ――つまり、戦後の高校に相当するレベルの教科書のようだった。

 資料集を手元に置きながら、教科書を読んでいく。
 現実世界においても、戦前日本の歴史の教科書は建国神話から始まっていたが、
 扶桑史の教科書もそのような感じのレイアウトだった。

 扶桑の歴史は、中世まではほとんど日本の歴史と同じであったが、
 織田信長が本能寺の変で殺されず、そのまま天下統一を達成した頃から大きく違ってくる。
 この世界の歴史では、関が原の戦いも、大坂の役も起こっておらず、
 近世扶桑を統治していたのは江戸幕府ではなく、安土政権であったということになる。
 そして、俺達の近世日本においては、江戸幕府が鎖国令を敷いて海外との交流を著しく制限したのに対し、
 この世界の近世扶桑における安土政権は海外との交易を奨励し続けたため、
 貿易国家として近世世界史上においても有数の列強国となっている。
 そして、17世紀の後半から18世紀の頭にかけて、
 同じく貿易国家として列強国となっていたブリタニアと戦争をしている。
 俺達の世界で言えば、元禄文化全盛期の江戸幕府が、アルマダを破ったイギリスと戦争をするようなもんだ。
 しかも、その後、ちゃっかり同盟まで結んでいる。

 日本を勝者サイドに立たせるために、過去にさかのぼって歴史の改変を行う。
 改変はあくまでもIFの範囲だが、それにより日本の国力を大幅に底上げし、
 外交的にも常に有利な立場に立てるようにする。
 整備俺「佐○大輔作品にありがちな歴史改変、みたいだな」
 ちなみに俺達は、2人とも、佐藤○輔のファンだったりする。

 整備俺がそんな阿呆なことを考えていると、操縦俺がちいさく呟いた。
 操縦俺「整備俺さん、やっぱり幹部なんですね…」
最終更新:2013年03月30日 01:55