時刻は、13:00(z)。
 昼休み終了を告げる課業ラッパとともに、俺達は芳佳と合流した。
 向かうは坂本の執務室。

 芳佳「こちらが坂本さんの部屋になります。坂本さん、いますか?」
 芳佳が、坂本の部屋のドアをノックし、ドアを開けた。
 半身だけ坂本の部屋に入った芳佳は、2、3言頷き、こちらを向いた。
 芳佳「いいですよ」

 整備俺「入りますッ!」
 整備俺は、できる限り声を張り上げ、坂本の部屋に入った。
 さて。ガチガチの入室要領をやるなんて、整備俺にとっては幹部候補生学校のとき以来だ。
 一発、かましてやろうじゃないか?

 整備俺「左向けーッ、止まれ。整列ッ!」
 操縦俺を指揮しつつ、坂本の前で直立不動の姿勢を取る。
 整備俺「敬礼!」
 無帽なので、挙手ではなく10度の敬礼。坂本の答礼を確認し、直れをかける。
 整備俺「整備俺少尉及び操縦俺候補生は、坂本少佐の元に参りました」
 坂本「休め。まあ、楽にしろ。座ったらどうだ?」

 俺達は、坂本が指した応接用のソファに座った。(もちろん、下座の方に)

 坂本「宮藤から話は聞いた。百里基地から来たそうだが、訳ありのようだな?」
 整備俺「率直に申し上げます、坂本少佐。我々を助けていただきたい」
 坂本「どういう事だ」
 整備俺「まずは、こちらをご覧ください」
 俺達は、身分証を坂本に差し出した。

 坂本「扶桑語とブリタニア語で書かれているようだが。日本国、航空自衛隊というのは何だ」
 整備俺「我々のいた国で、扶桑にとてもよく似た国家です。
    航空自衛隊というのは…、ちょっと、国内法規の問題でして。
    国防空軍と読み替えていただいて差し支えありません」
 坂本「ほう。お前達は日本空軍の軍人というわけか。おもしろい」
   ところで、3等空尉というのは、2nd Lieutenant、少尉でいいのか」
 整備俺「はい。そういうことです。裏面もご覧ください」
 坂本「整備俺少尉が1987年生まれ、操縦俺曹長が1986年生まれというのは?」
 整備俺「我々は異世界の未来から来たのだ、と。そう考えます」
 坂本「異世界の…、未来から来た、だと……!!」
 整備俺「我々は、2011年の、日本国防空軍百里基地から来ました。――そういうことになります」
 坂本「――――!?」
 整備俺「今すぐ信じてくれ、ということは出来ません。我々自身も信じらませんでしたから。
    ですが、我々が未来からやってきた証として、見せたいものがあります」

 整備俺は、操縦俺に、i-podを差し出すよう命じた。
 整備俺「携帯型の音楽再生機です。動画も見れます。イヤホンで聴いてください」

 そうして再生されたのは、海軍軍人である坂本ならば、知らないはずはない曲であった。
 坂本「守るも攻めるもくろがねの、か」
 軍艦行進曲。
 曲の再生が終わり、坂本はイヤホンを外した。
 坂本「こんなに小さいのに、鮮明な映像だな。それに、見たことの無いフネや飛行機械ばかりだ」
 そりゃそうだ。背景にあるのは、海上自衛隊の護衛艦や航空機だからな。

 整備俺「他にも、こんなのもあります。
    こちらは携帯型の電話になりますが、電話以外にもいろいろなことができます。
    たとえば――――、芳佳さん、失礼しますね」
 電子的なシャッターの音。
 整備俺「このように、写真を撮影して、保存することもできます」
 芳佳「え、これ、わたし…?」
 坂本「かなり鮮明な画像だな。それに、撮ってから画になるまでが早い」

 整備俺「1944年の技術で、このような電子機器を作れるはずがない。
    状況証拠といえばそれまでですが、これらが、我々が2011年から来たという証になると思います。
    あ、今の写真はすぐに削除したので、安心してください」

 整備俺「…話を戻します。
    我々が、2011年の百里から、1944年のブリタニアに転移した理由はわかりません。
    原因が不明である以上、元の世界に帰るのは難しいと考えます。
    それならば、この世界で生きていくしか無いと思います。
    幸い、我々は正規の軍人で、士官と士官候補生です。
    この世界でも軍人を続けたいと考えますが、我々にはこの世界では後ろ盾が無い。
    少佐は、この部隊でナンバー2だと聞いています。
    我々がこの世界で生きていくために、この世界の軍に編入できるよう、後ろ盾になっていただきたい。
    よろしくお願いします」

 そして、俺達は、深々と頭を下げた。
 坂本「そうか。……頭を上げてくれ。同郷のよしみということになるんだよな、一応。
   私がどれだけ力になれるかわからんが、隊長にも相談してみよう」
 整備俺「ありがとうございます」
 芳佳「よかったですね!」
 坂本「わっはっはっ! まあ、成せば成るというものだ。
   扶桑男児なら扶桑男児らしく、どーんと構えておれば道は開けるだろう」
 坂本は豪快に笑った。
 この人は、俺達よりもよっぽど男らしいと思うのは失礼だろうか?

 坂本は、俺達が拍子抜けなぐらいあっさりと協力を約束してくれた。
 俺達が難しく考えすぎていただけ、案ずるよりも生むが易し、ということなのだろうか。
 それとも、情に厚い武人タイプなだけに、真っ正面から「助けて欲しい」とお願いしたのが良かったのだろう。
 そして、芳佳は、まるで自分のことのように喜んでくれていた。

 ともかく、一定の目処が立ったので、俺達は、ようやく一息つくことができた。
 …できたはず、だったんだけど。
 静かなノックとともに、申し訳なさそうに執務室の扉が開いた。
最終更新:2013年03月30日 01:57