俺達は、ミーナ隊長から隊付将校というポストが与えられた。
隊付将校といっても、階級だけがあって、実際の権限が与えらているわけではない。
早足で基地内各部署における研修を済ませた俺達は、特に与えられた仕事もなく、宙ぶらりんな状態だった。
なので、ここ数日は、午前中は図書館で情報収集、午後は坂本らと訓練、
というスケジュールが俺達のお決まりのパターンになっていた。
現場に足しげく通えば見えてくるモノも多いとは思うんだけどね。
意外と出不精な俺達であった。
そして、ある日。
海上での墜落を想定した訓練が実施されることになった。
訓練とはいえ、ほとんどのウィッチにとっては、息抜きのようなものらしいが、
俺達は、その訓練に同行することになった。
操縦俺「夏サバ訓練ですか。懐かしいですね」
夏季保命訓練。通称、夏サバ。
航空機搭乗員が洋上に脱出した際、救助されるまで、いかに耐えるかという訓練である。
その内容は、サバイバルキットの使用法の実践から、救難ヘリによるピックアップまで。
遠泳もあり、時にはバーベキューもありの、
パイロット学生にとっては、年に1度の(どちらかといえば)楽しみといえる訓練であった。
どの世界でも、似たような訓練はするんだな、と、操縦俺は思った。
――基地本島、東側海岸。
照りつける夏の陽射し、青い海と白い砂浜。
そして、その風景を彩るのは、水着姿のウィッチ達。
整備俺「(で、俺達に何をしろっての…)」
操縦俺「(水着、水着、水着…。あ、へばってるサーニャかわいい)」
整備俺「あ、芳佳さん、沈んでる…?」
操縦俺「俺、引っ張り上げてきましょうか?」
坂本「その必要はない」
整備俺「(ま、そうだろうな)」
坂本の訓練を受けるペリーヌ、リーネ、芳佳の3人。
水際ではしゃぐ
シャーリーとルッキーニ。
物凄い形相でエーリカを追いかけるバルクホルン。
…バルクホルン、意外と子供っぽいところもあるじゃないか。
そして、パラソルの下でへばっているサーニャと、その面倒を見ているエイラ。
その横の本部テントでくつろぐミーナの後ろに、俺達は休めの姿勢で控えていた。
各々がそれぞれの時間を過ごすなか――――。
そんな、平和ボケした空気をぶち破るかのように、基地にサイレンが鳴り響いた。
坂本「敵は1機! レーダー網を掻い潜って侵入した模様!」
警報を耳にし、岩場に設置されていた電話で本部と連絡を取った坂本は、ミーナに伝えた。
坂本「速力1,500ノット? “ヴィルベルヴィント”か…!」
整備俺「1,500ノット?」
操縦俺「2,800km/hだって!?」
1944年に1,500ノットとか、どこの世界の超兵器ですかコノヤロー?
操縦俺「(しかも、低空でレーダーを回避しながらだと!?)」
ミーナ「もう! まだ予定よりも2日早いわ!」
坂本は憎々しげに空を見上げ、ミーナは厳しい表情をした。
坂本「誰が行く!?」
ミーナ「すでにシャーリーさんたちが動いているわ」
坂本の問いに、砂浜を走るウィッチたちの後ろ姿を見ながらミーナは答えた。
シャーリー「まわせ――――ッ!!」
物凄い勢いで走っていくシャーリーと、対照的に足元がおぼつかない芳佳とリーネ。
操縦俺「あの大尉さんはいいとして、あの2人、大丈夫ですかね?」
ミーナ「さあ…?」
整備俺「あ…、こけた」
操縦俺「あ…、立ち上がった」
芳佳とリーネを置き去りにし、格納庫方面へと突っ走るシャーリー。
シャーリー「501TWR、リクエストタクシー、スクランブル!」
管制官「シャーリー。ベクター1-2-0。クライムANGEL-20、コンタクトch.1。リードバック」
シャーリー「ベクター1-2-0。クライムANGEL-20。コンタクトch.1」
管制官「CORRECT。ウインド・カーム、RWY-12、CLEAR FOR TAKE-OFF」
シャーリー「ラジャー、CLEARD FOR TAKE-OFF」
管制官「Good-Luck」
爆音。定格一杯までエンジン出力を上げ、離陸滑走開始。
シャーリー「シャーリー、エアボーン!」
推力100%、フラップを使用せず離陸、ギアアップ。
超低空のまま水平飛行で加速し、十分に機速が乗ってから急激に高度を上げる。
俺達にとってはジェット戦闘機の緊急発進では見慣れた光景だったのだが、その手法は、
1962年の“ハイジャンプ計画”の際、離陸から至短時間で高速度・高高度まで達するために
アメリカ海軍のテストパイロット、ジョン・W.ヤング中佐によって編み出されたものだった。
(余談だが、ヤング中佐が生まれていれば今は14歳だ。
この世界のヤングは、今はリベリオンでどんな生活をしているのだろう?)
整備俺「ローアングルテイクオフからのハイレートクライム…! いい腕だ」
操縦俺「いや、他に驚くところあるでしょう!?」
基地内研修中にストライカーユニットを見学した俺達だったが、
実は、にウィッチが穿いて飛行しているのを見たのははじめてだった。
(ただし、初日にサーニャとエイラが夜間哨戒に出くわしたのを除く)
整備俺「(俺達の科学では不可能だと思うんだがな、これは)」
少し遅れて、芳佳とリーネも上がった。
空へ舞い上がる2機を見送り、ミーナが言った。
ミーナ「私たちもハンガーに向かいましょう」
エイラ「そうダナ。サーニャ、大丈夫か?」
サーニャ「大丈夫よ、エイラ」
気丈に答えるサーニャだが、顔色はあまり優れない。
格納庫内のほうが陽が遮られるぶん、海岸よりも多少はましだろう。
という訳で、俺達は、残りのウィッチ達とともに格納庫に向かうことになった。
最終更新:2013年03月30日 01:59