俺達は、着慣れた航空自衛隊の制服ではなく、坂本からプレゼントされた扶桑皇国海軍の制服に袖を通した。
 今回の任務は、他部隊の人間と接する類のものであるため、
 元の世界の制服ではなく、この世界の軍服を着ていくべきだという判断であった。

 俺達が選んだのは、濃紺の第1種軍装でも、純白の第2種軍装でもなく、若草色の扶桑皇国第3種軍装だった。
 だが、同じ3種でも、その着こなしかたには俺達のキャラクターの違いがよく出ていた。

 整備俺は、刀帯も斜革も何も装着せず、背広タイプの軍服を普通のビジネススーツのように着こなしていた。
 やや癖毛が目立つものの無個性な髪型と相まって、優男風の若手インテリ役人といった印象であった。

 一方、操縦俺は刀帯に乗馬靴、ズボンの裾をたくし上げた海軍陸戦隊スタイルだった。
 若草色の3種は、陸上自衛隊の常装と似た色合いであり、
 また、操縦俺自身も陸上自衛隊で歩兵をやっていただけに、陸戦スタイルは良く似合っていた。
 本人曰く「サバゲーで一度だけこの格好をしたことがある」とか。


 08:00(z)、501JFW庁舎。
 朝食後、俺達はシャーリーと合流し、3人で隊長室へ向かった。
 隊長申告を済ませた俺達は、手荷物を携えて玄関に降りた。
 そして、俺達を迎えに来た公用車は、砂漠色のキューベルワーゲン82型だった。
 整備俺「(マジかよ、歴史的名車じゃないか、これ…!)」
 シャーリー「(なんだこいつ、目が輝いてるぞ)」

 この世界のロンドンは、朝の通勤ラッシュとはあまり関係ないらしい。
 俺達は特に渋滞に巻き込まれることもなく、ドーバー駅に到着した。

 ケンブリッジ駅まで向かう急行列車のなかで、俺達は色々な話をした。
 シャーリーが、ボンネビル・ソルトフラッツで2輪車の最高速世界記録(178.24mph=286.9km/h)を樹立したこと。
 そして、更なる速度記録に挑戦するため、ウィッチを目指したこと。
 現在は人類初の音速突破を目指し、ストライカーを改造してた(過去形)らしい。

 シャーリー「音速突破の代償に、“あの子”は海底に行っちまったよ」
 整備俺「自分でいじってたんですよね。愛着はあったんですか?」
 シャーリー「ああ。だけど、後悔はしちゃいるが反省はしていない」キリッ

 整備俺「(まる映画『でライトスタッフだ』な…)」
 操縦俺「(チャック・イェーガーは職務に忠実な軍人で、スピードに興味は無かったと聞くけど…)」

 色々と話すうちに、俺達とシャーリーは似た者同士なんじゃないかという気がしてきた。
 シャーリーも堅苦しいことは嫌いだというので、いつのまにか俺達は普通の友達同士のように会話していた。

 シャーリー「そういえば、操縦俺はバイク好きって言ってたよな。どんなバイクに乗ってたんだ?」
 操縦俺「カワタキZRZ400っていう、レーシングタイプのバイクに乗ってたよ。
    飛燕っていう、Bf109と同じ液冷エンジンを積んだストライカーとかを作ってるメーカーだ」
 シャーリー「どのぐらいパワー出てるんだ?」
 操縦俺「1万1,000までぶん回して53馬力ぐらいだったかな。
    でも、ツーリングがメインで、スピードはあまり出さなかったな。
    加速重視でギア比の低いマシンだし、出てもせいぜい150km/hぐらいじゃないか?」
 シャーリー「そうか…」
 整備俺「でも、R1とかのレース用のリッターバイクは普通に300km/h出るらしいぜ」
 シャーリー「未来の技術って凄いんだな。それならぜひ長生きしたいね。整備俺は?」

 整備俺「俺もクルマ好きだけど、250km/hぐらいしか出したことないな」
 シャーリー「へえ…。どんなクルマ乗ってたんだ? 未来のクルマって凄いのか?」
 整備俺「1990年式のR32型ニッサン・スカイライン。長島飛行脚の流れを汲んだ名車だよ。
    俺が幼稚園だった頃に出たクルマだけど、未だに傑作だと言われているモデルだ。
    直列6気筒DOHCの2リッターターボで、少しいじって250馬力ぐらい出てた。
    ブーストコントローラー付けて、湾岸でテストランしてたときだったな」
 シャーリー「2リッターターボで250馬力だって!? レーシングカーかよ!?」
 整備俺「いや。いたって普通の大衆向けスポーツカーだよ。凄いのはその上級モデル、GT-Rさ。
    2.6リッターDOCHツインターボで、ノーマルで280馬力だけど、
    意図的に性能が抑えられていて、ちょっといじれはすぐに400馬力ぐらいは出る。
    本気で金かけていじれば800馬力ぐらいは簡単に出ちまう」
 シャーリー「800馬力か~。一昔前の飛行機よりもパワーあるじゃないか」
 整備俺「あの性能は20年経っても一線級さ。
    なんせ、デビュー当時は唯一ポルシェとタメ張れる扶桑車だったからな」

 クルマやバイクの話で盛り上がっているうちに、俺達はケンブリッジ駅に着いた。
 ケンブリッジ駅には、迎えの公用車――黒塗りのホルヒ930――が待っていた。
 ホルヒの柔らかいリアシートに揺られ、俺達はダックスフォード飛行場に到着した。

 ダックスフォード飛行場の列線地区には、
 OD色のC-47“スカイトレイン”をはじめ、連合国軍の各種輸送機が所狭しと並んでいた。
 また、飛行場には補給処が隣接するかたちで設置されており、
 この基地は、西ヨーロッパにおける重要な物流拠点のひとつとなっていたのだった。

 そして俺達は、基地の隊員に道を尋ねながら、ミーナから指定された司令部庁舎に向かった。
最終更新:2013年03月30日 02:01