1944年8月17日、06:30(z)、“ストライクウィッチーズ”隊舎厨房

 整備俺「なんだこれ…」
 ザルに山のように盛られたブルーベリー。
 操縦俺「パねえっすね、この量…」
 ザルは全部で3つ。俺達の隣では、ペリーヌがティーカップ片手に呆気に取られていた。
 そこに、さらにもうひとつ、ブルーベリーが山盛りのザルを持ってきた、エプロン姿のリーネが微笑んだ。

 リーネ「わたしの実家から送られてきたんです。ブルーベリーは目にいいんですよ」

 最近知ったのだが、リーネの実家はロンドンでも有名な商家らしい。
 故に、送られてきたブルーベリーの量も半端ではない。

 バルクホルン「ブリタニアでは夜間戦闘機のパイロットがよく食べるという話を聞くが…」
 整備俺「ちょっと待て。あれって、ブルーベリーじゃなくてニンジンじゃなかったっけ?」
 操縦俺「(いや、その話は、新型レーダーの性能を隠蔽するために広めた与太話だから)」

 確かに、ブルーベリーに含まれるアントシアニンは目に良いとされているが、
 効能の持続時間が短いため、継続して摂取し続けなければ効果は現れない、らしい…、
 …おい、聞いてるのか、ちびっこども?

 ルッキーニ「んべ~~」
 芳佳「んべ~~」
 シャーリー「んべ~~」
 ペリーヌ「……まったく、ありがちなことを」
 整備俺「真っ青になっちゃったwwwww」
 操縦俺「あんたもかい!」

 そして、その馬鹿騒ぎから一歩離れた場所では。
 サーニャ「……おいし」
 意外とブルーベリーが気に入ったような様子のサーニャ。
 操縦俺「(なごむなァ)」
 今度、ブルーベリージャム入りの紅茶でも淹れてやろうかな。
 ロシア…じゃなくて、オラーシャ式の紅茶はジャムを混ぜて飲むらしいから、きっとサーニャも気に入るはずだ。

 坂本「さて、朝食も済んだところで。お前たちは夜に備えて……寝ろ!」
 整備俺「(ktar)」
 芳佳「え……?」


――
――――

 臨時夜間専従班員の詰め所となったのは、サーニャの部屋…ではなく、俺達が間借りしている休憩室の一角だった。

 芳佳「おじゃまします」
 サーニャ「…………します」
 整備俺「いらっしゃい。野郎2人の部屋だけど、気ィ遣わなくても全然構わんからな」
 エイラ「アイヨ」
 整備俺「んで、てめえは畳の部屋に土足で上がるな」

 整備俺は左手を伸ばしてエイラの首根っこを掴んだ――が、その細さに整備俺は思わず手を緩めてしまった。
 整備俺「(罪悪感、ってもんでも無いんだけど。何なんだろうな、これ)」

 エイラ「なんだヨ~、もう…」
 サーニャ「駄目。エイラ。畳の部屋は靴を脱がなきゃ」

 悪態をつくエイラに、サーニャが珍しく凛とした調子で嗜めた。
 本来なら、夜間専従班員の詰め所は、作戦指揮官のサーニャの部屋となるはずだったのだが。

 操縦俺「(さすがに俺らが女の子の部屋に上がり込むのはマズいだろうよ)」
 整備俺「(それにココは元々パブリック・スペースでしたからねえ)」

 ちなみに、ミーナからその旨の連絡を受けてから、一晩中必死こいて部屋を片付けていたのは絶対に秘密だ。
 おかげで眠気絶好調、今から二度寝できるなんて最高だね!

 芳佳「さっき起きたばっかなのに」
 薄暗い和室を見渡し、座椅子にもたれながら、
 パジャマ姿の(といっても、丈の短い和服のようなものだったが)芳佳が不平を漏らした。
 芳佳「何も部屋の中まで真っ暗にすることないよね」
 エイラ「暗いのに慣れろってことダロ」

 操縦俺「それもあるけど、ちょっと違うね。要は、生活リズムを昼夜逆転させるためなんだ」
 整備俺「人間の体内時計っていうのは、光を浴びることで補正される。
    部屋を暗いままにすることで、まだ朝が来ていないと体に認識させるのさ。
    そうやって、体内時計をずらすことで強制的に昼夜を逆転させるんだ」
 芳佳「おばあちゃんが、『朝はお日様を見るとスッキリする』って言ってたけど、その事なんですか?」
 整備俺「うん。そういう事さ」

 その横では。
 サーニャが『ペンギンのようだが耳と尻尾がついているずんぐりとした正体不明のヌイグルミ』を抱いて横になっていた。

 操縦俺「(で、何の生物だよ、これ……?)」
 サーニャ「…………?」
 思わずガン見する操縦俺、その様子に、目を逸らしたまま首を傾げるサーニャ。

 他の3人はタロット占いやら何やらしていたようだったが、
 残念ながら、俺達は直に畳みの上に寝転がって爆睡していた……。合掌。

 操縦俺「(くっそおぉぉぉフラグへし折っちまったあああああああ)」
 整備俺「(やべえマジでやおいEND一直線じゃねえかよ……!!)」


 ……後悔しても遅せえよ。俺達の明日はどっちだ!!


 「夕方だぞ~、起っきろ~っ!!」
 障子の向こうから聞こえてくる能天気な声は、ルッキーニのものだった。

 整備俺「う~ん…。ユーラシア大陸なんぞ核で吹っ飛ばしたるがな……!」
 操縦俺「(何この寝言!!)」

 どんくさい仕草で上体を起こした整備俺は、思わず吹き出した。
 整備俺「(…凄い寝相だな、おい)」
 布団の上で身を横たえていたのは、お互い逆向きになって眠る、エイラとサーニャ。
 そして、その間に、芳佳が埋まっていた。

 芳佳「あう…」
 整備俺「あ、起きた?」
 操縦俺「(眼福眼福)」

 食堂で軽い夕食を済ませ、俺達は夜間哨戒に向けたブリーフィングを開始した。
 ハーブティーとか肝油とか知らんがな。ペリーヌまじ涙目。

 そして、夕食後。
 夜間哨戒飛行に向けてフライトプランを作成し、プリ・ブリーフィングを実施した。
 サーニャに対して操縦俺がフライトプランについて説明し、エイラからの質問に対して整備俺が補足するような感じだった。
 そして、22:50――TOT(テイクオフタイム)。

 操縦俺「ストライク21、エアボーン」
 整備俺「さて、夜のお散歩だ。気楽にやろうぜ――――」

 短いランウェイを滑走し、俺達の機体は、雲に覆われた夜空に向けて離陸した。
最終更新:2013年03月30日 02:03