1944年8月17日、2250(i)、501JFW A.B RWY-12

 操縦俺「ストライク21フライト、エアボーン」
 整備俺「さて、夜のお散歩だ。気楽にやろうゼ――――」

 べったりと広がるぶ厚い下層雲を抜け、Ju52は星空のもとに出た。
 機体をさらに上昇させ、巡航高度で水平飛行に移行する。
 その後、巡航速度で安定した状態を保ち、俺達は哨戒モードに移っていった。

 操縦俺「No.2、No.3エンジン、スロットルズ・アイドル。カット・オフ・クリア?」
 整備俺「オール・クリア!」

 整備俺が計器で状況をモニターし、操縦俺がエンジン・カットの手順を遂行する。
 こうして、回転しているプロペラは機首のみとなり、Ju52は、事実上の単発機として飛行していた。
 不必要なエンジンをカットして燃料消費を抑えるのは、哨戒機が在空時間を延長するために行う常套手段だ。
 (特に、海上自衛隊のP-3Cがよく使うらしい)

 機内に、ポーン、という電子音が鳴った。

 整備俺「本日は501支援飛行班をご利用いただき、誠にありがとうございます。
    当機の機長を務めますのは、飛行時間450時間の操縦俺曹長です。
    当機は現在、高度6,500フィートを100ノットで飛行中であります。
    当機はこれより明朝05:00まで、規定の哨戒コースを周回いたしますが、
    ネウロイとの不時遭遇戦にはくれぐれもご注意ください(笑)。
    ――それでは、快適な空の旅をお楽しみください」

 たっぷり昼寝した所為で、整備俺のテンションは無駄に高かった。
 整備俺「(そら、口も滑らかになるってもんよ)」
 操縦俺の方を向き、整備俺はドヤ顔でサムズアップ。
 そして、数秒してからようやく、整備俺は機内放送のスイッチを切った、そのとき。

 エイラ「アホカー!!」

 ああ、いたよ、無駄にテンションの高い馬鹿がもう1人。エイラがコックピットにブッ込んできやがった。

 整備俺「痛だだだだだ!? もげる! もげるって!!」

 整備俺は、エイラに首根っこを掴まれ、キャビンに引きずられていった。
 そして、整備俺と入れ替わりに、サーニャがコ・パイ席にちょこんと座った。
 操縦俺「(航空法もあったもんじゃねえwww何このフリーダム空間wwwww)」

 操縦俺「いや、何か申し訳ないですね。付き合わせちゃったみたいで」
 サーニャ「いいえ。任務ですから」
 苦笑する操縦俺に、サーニャは目を合わせないまま淡々と答えた。
 サーニャ「広域探査、開始します」

 サーニャの側頭部にリヒテンシュタイン型魔導針が出現し、淡い緑色の光を放つ。
 それと同時に発現した使い魔の猫尻尾は、ピンと真っ直ぐに立っていた。
 ひょっとしたら、サーニャは、ずいぶんと騒がしいこのナイトミッションを、意外と気に入っているのかもしれなかった。

 操縦俺「(よかった。嫌われてない)」



――
――――

 長時間にわたる夜間の哨戒飛行。
 その間、俺達は、いろいろなことを話した。
 サーニャの両親のこと、ウィーンの音楽学生だった頃の思い出。エイラのスオムス時代の戦友のこと。
 そして、501JFWでに着隊したエイラが、サーニャと出会ったときのこと。

 整備俺「(エイラさん、サーニャさんの事を話したくて仕方ないみたいだな///)」
 操縦俺「(この2人、本当に仲良いんだ…な……?)」
 整備俺「(ああ、芳佳さんの目が点になってら……)」

――――
――


 結果から言えば、夜間専従班のファースト・フライトは異状なく終了した。
 それは、テイクオフから7時間近くが経過し、東の空が明るくなりはじめた頃。

 整備俺「空が明るいぜ…。ミッションコンプですね、撤収しましょう」
 フライトエンジニア席で伸びをしながら、整備俺が言った。

 サーニャ「はい。広域探査、終了します。帰還お願いします」
 コ・パイ席では、サーニャが目をこすりながら、魔導針を引っ込めた。

 整備俺「ラージャ。燃料は?」
 操縦俺「まだまだ余裕ですね。ドーバーDC、ストライク21。ミッションコンプリート、リクエストRTB」
 キャプテン席で、操縦俺が欠伸を噛み殺しながら、ドーバーDCとコンタクトを取った。

 ドーバーDC「ストライク21、ドーバーDC。RTBアプループド。グッドミッション」
 防空指揮所の当直管制員より帰投許可を受け、俺達は、ホームベースへのアプローチコースに機体を乗せた。

 整備俺「さて、家に帰るまでが遠足ですからね。最後まで気ィ抜かずに行きましょう」
 操縦俺「わーってますって」

 06:10(z)、ランディング。
 サーニャ「お疲れさまでした。明日も、よろしくお願いします」
 口数も少なく、あまり感情を表に出さないサーニャだが、このナイトミッションで
 (使い魔が出現した状態という限定付きではあるが)この娘の感情が読み取れるようになってきた、と思う。
 これからしばらく、俺達の命はこの娘に預けることになるんだ。互いの距離が近くなって、悪いことは無いはずだ。

 操縦俺「(下心なんて…、無いからな?)」
 整備俺「何ぼーっと突っ立ってるんですか。あの娘ら、もう先に帰っちゃいましたよ。
    俺らもメシ食って、とっととフロ入って寝ちまいましょうよ」
 操縦俺「そうですね。明日もありますし…」

 徹夜明けだけに、朝日が余計に眩しく感じる。
 俺達は、眠い目をこすりながら、ひとまず隊舎に引き揚げることにした。

 整備俺「(あ、風呂場でバッタリなんてベタなハプニングは無いから安心してね?)」
 操縦俺「(誰に向かって言ってるんですか……)」
最終更新:2013年03月30日 02:04