春とはいえまだ防寒着が手放せない日、俺は布モップで廊下を拭いていた。
一人楽しく石造りの床を拭いていると、誰かが目の前に仁王立ちして驚いた。
顔を上げればナオちゃんである。
菅野「なあ、肉じゃが作ってくれよ」
俺「肉じゃが?」
考え込んでいるとナオちゃんがはんと鼻で笑った。
菅野「知らないのか?」
見上げられているのに見下される感覚の屈辱と悔しさに涙ぐんだ。
が、必死に「いや急に言われたから驚いただけだよ」と言い返してやった。
俺「肉じゃがだろ?簡単さ」
菅野「ふーん。じゃあ晩飯よろしくな」
ナオちゃんは俺の反論をつまらなそうに聞いた後、作戦があるからと走り去った。
しかし困った。肉じゃがって何だ?
悶々と考えながらハンガー清掃に向かう。
ふらふらと歩いているとプンスキー伯爵にぶつかって銃を乱射された。
クルピン「試し撃ちだよ。戦闘前はしっかりしないとね」
悪どい笑みに不覚にもときめきそうになった。俺は騙されない。
俺「下原さん、肉じゃがってなんですか?」
下原「えーと、扶桑の家庭料理の一つです」
俺「なるほど。欧州的に言えば何かな」
下原「ビーフシチューが近いんじゃないですか?」
俺「ビーフシチュー?」
下原「あ、でもソースとワインは入りませんね」
熊さんが下原さんに声をかける。どうやらもう発進らしい。
今日も無事見送りを済ませた。
滑走路の雪をどける清掃班を手伝っていると、雪合戦になった。
雪玉に鉛玉を詰めて来たので鼻血で染めた雪玉を返してやった。ぼこぼこにされた。
俺「ソースもワインも入らないビーフシチュー」
ジョゼに治してもらった頬をさする。体中ぼろぼろだが俺は逃げない。
しかしビーフシチューなのにソースもワインもいらないなんて扶桑は一体どうなっているんだ。
ナオちゃんの頼みだ。何よりここにいるウィッチ達の晩御飯がかかってる。
これではいけないと、俺は包丁を握り締め、ビーフシチューの具材を切っていく。
俺「扶桑料理…こんにゃくか」
こんにゃくを叩き付けて繊維を壊し、すでに切ってあった牛肉達を大陸鍋で炒める。
泡を吹く釜を目の縁に抑え、野菜の表面が透明に近付くまで炒めていく。
俺「酒……入れよう」
今日はご飯だ。ご飯の炊ける良い匂い、今日も釜は絶好調だ。
だし汁を入れた鍋に扶桑酒を振り入れる。更に砂糖とみりんを加えてから息を整える。
俺はなんという物を作っているんだろうか。
ウィッチ達に、なによりニパにこんなわけの分からないものを食べさせるなんて
俺「ソースは醤油かな…ええい、色は一緒だ!」
どうにでもなれ。醤油を勘で入れ、蓋をしたと思ったら大きさが合わずに落ちた。
これで解雇ならいたしかたない。俺は泣いた。
鍋をゆすり、煮汁をかけたりしながらむせび泣いた。
出来た良い匂いのするよく分からないものを器によそっているとジョゼが来た。
作戦終わりにシャワーを浴びたようで、シャンプーの良い香りがした。
鼻を啜りながら匂いを嗅ごうとしたが良く分からず、啜り泣くと
ジョゼ「またナオちゃんにいじめられたんですか?」
優しく鼻をつまんで鼻水を止めてくれた。
二人で器によそい、食堂に持っていく。
泣きながら配膳していると、みんなに不信がられ、俺は興奮と悔しさでおかしくなりそうだった。
始まってしまった食事を、俺はぼうっと眺める。
今日が最後の日だ。少女達に囲まれた生活は幸せだった。
そして俺は終ぞニパのおっぱいが揉めなかった。その悔しさに俺はまた泣いた。
菅野「おい俺、おかわり」
俺「えっ」
菅野「おかわりだ」
俺「うあ、はい」
ジョゼ「あ、私もお願いします」
どうなっているんだろうか。
わけも分からず二、三回ナオちゃんによく分からないものを持っていった後
食べてみた。おいしくて涙が出た。
ニッカ「今日もおいしいな」
無邪気にニパが笑いかける。
俺は感動のあまりニパに抱き付いてそのまま泣いた
菅野「てめっ、何してんだ!」
ニッカ「何すんだ俺!やめろお!」
俺の頬を殴るナオちゃんの頬には食べかすが付いていた。
泣きそうにながら抵抗するニパと二人で可愛くて、俺はちょっと救われた気がした。
最終更新:2013年03月30日 02:28