春の日差しが強い日、ふと執務室のカレンダーに目をやると


俺「Happy Birthday Aleksandra I Pokryshkin……熊さん?」

ラル「今日は大尉の誕生日だよ」


書類を片付け、休憩の紅茶を飲みながら、ラル隊長は少し残念そうに言った。


俺「また一つ大きくなったんですから、良いじゃありませんか」

ラル「よく見てみろ」


ラル隊長は綺麗な指でカレンダーを指差した。
小さく書かれた出撃の文字。ああ、と俺は頷いた。


俺「お小遣い下さいよ」

ラル「…何を買うか言わないとあげられないぞ」

俺「苺を買いに行きます。今が旬でしょう?」

ラル「でも苺は高いしなあ」


思案するようにラル隊長が腕を組むが、その姿は俺を興奮させた。
ラル隊長の組んだ腕に乗る大きなおっぱい……掴めたらどんな心地なのだろうか。
きっと出来たてのオムレツよりも柔らかく、指を這わせた途端痺れるような官能に襲われ
全身を雷で打たれたが如く興奮が俺の呼吸を難しくさせるのだろう
高ぶりのまま鼻血を抑えていると、ラル隊長は呆れた目で俺を見た。


ラル「そちらの意味でも残念だがな」

俺「そしたら揉み放題って事ですか?」

ラル「お小遣いをあげるから早く行きなさい」


そう言うとラル隊長はガマ口を俺に寄こして出て行ってしまった。
去り際に「留守は任せた」とそっけなく言われたのを思い出して俺は有頂天になり、
思いっ切りドアを開けたらロスマン先生に当たってしまった。
プンスキー伯爵にお小遣いを巻き上げられ、無一文になったが俺は負けない。







開け放った窓から複数のエンジン音が聞こえた。
どうやら眠っていたようで、オーブンを見ると丁度いい具合だった。
椅子から立ち上がると体の節々が痛み、果物屋での激闘を思い起こさせた。


下原「良い匂いですね」


呻いていると下原さんが厨房を覗いた。急いで立ち上がってタルトを取りだすと、ぎちぎちと体が痛む。
さり気なく下原さんは俺に湿布を貼ってくれる。薄布一枚に隔てられた幸せに鼻血が止まらない。


下原「陸軍兵の方から聞きました。基地の名前を出せばすぐに買えたんですよ?」

俺「これは俺からのプレゼントだから…内緒にしててね」

下原「匂いでばれちゃいますよ」

俺「ああ、そうか…」


クスクス笑いながら下原さんが苺を載せていく。
最後の最後で駄目だったなあと思うと涙が出そうになったが耐える。
でも、下原さんのさり気ない優しさに涙が出た。







時は流れて夕食後。
最後の食器を片づけ、俺はタルトを熊さんの所へ持っていく。
熊さんは固まった。湿布と包帯だらけの俺を見た時よりも大きく目が見開かれる。


サーシャ「どうしたんですか、これ」


熊さんが恐る恐るタルトを指す。


俺「苺のタルトです」

サーシャ「見れば分かります」

俺「あれ、もしかしてケーキの方がよかったですか?」


涙目になった熊さんに最悪の展開が頭をよぎる。
そうか、そうだった。誕生日といえばケーキだ。でもこの基地には小麦粉が足りなかった。
絶望と後悔で涙が出て来る。相変わらずプンスキー伯爵は笑いをこらえていた。


俺「そうですよね。やっぱり時代はケーキですよね。明日もう一度作りますから、その時は―――――」

サーシャ「ち、ちがいます!俺さん、私は嬉しいんです!」

俺「……傷心に優しさは毒ですよ」


ぼろぼろ出て来る涙を抑えながらタルトに手を伸ばす。
まさかこんな結末が待っていたなんて。神様はどこまでも卑怯で卑屈だ。
目をぬぐうと、淡く頬を染め、少し困ったような顔をした熊さんと目が合った。


サーシャ「覚えていてくれたんですね」


熊さんは可憐に笑った。
あまりに綺麗で意識が飛びかけたが何とかこらえ、


俺「当然ですよ。俺はここの雑用ですから」


と胸を張り、熊さんの手を握る。


俺「お誕生日おめでとうございます!」

サーシャ「…ふふ、ありがとうございます」


熊さんの手は柔らかくて、俺はどうにかなりそうだった。たまには胸以外もいいのかもしれない。
すると後頭部を殴られた。すごく痛い
何気ない風を装いながら振り向く。また涙が出てきた


菅野「大尉が困ってるだろ」

ジョゼ「ほら俺さん、小皿を取って来ましょう」


そう言ってジョゼは俺の手を引き、下原さんと三人で厨房に向かう。


サーシャ「俺さん」


すると小さい声で呼ばれた。



俺「なんでしょう」

サーシャ「タルト、ありがとうございます」


ふわりと笑いかけられた。
その微笑みに狂いそうなほどの胸の高鳴りを覚え、俺はそのまま失神した。
嬉しそうに笑ったその顔は、俺の意識を失わせるのに充分な威力を持っていた。





最終更新:2013年03月30日 02:29