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 その日のナオちゃんはえらく不機嫌だった。
 朝起こしに行ったら脛を蹴られ、朝食の時には久しぶりにフォークを刺された。
 しかし俺は焦らない。こういうときは扶桑料理が切れた時なのだ。
 ナオちゃんはいつも口に出さず、俺にぶつけて来るので分かりやすい。


ジョゼ「こんな感じですか?」

俺「うん。ジョゼは上手だね」

ジョゼ「えへへ、ありがとうございます」


 そう言って笑うジョゼの手にはぬるま湯を張ったボウルとおたま。
 寸胴鍋と向きあい、浮いた団子を楽しそうに取っていく。
 ジョゼは待機だったので本日のおやつ、みたらし団子づくりを手伝ってもらっていた。


ジョゼ「扶桑のお菓子は不思議ですね」


 七輪に向かう俺に団子を差し出す。
 竹串に五つの団子が刺さるキョウトで学んだ形の団子。
 それを炭火で焼き、こんがりと焼き目をつける。


俺「おいしいから大丈夫だよ。ほら」

ジョゼ「まあそうなんですけど」


 相変わらず試食が早い。
 でもいつもの事なので気にせずにそのまま団子を焼き続ける。
 すると扉が開いて下原さん。
 思いのほか数が少なかったので戻って来たらしい。


下原「特に問題も無かったし、もう少しだと思いますよ」


 たれの味見をしながら言う下原さんからは、珍しく石鹸の香りがしなかった。
 まだ石鹸は換えてないし、まさかシャワーを浴びてないのか?
 それはそれで興奮する。

 そんな心の内を悟られないようにさりげなく聞くと


下原「ちゃんと浴びましたよ?ほら」


 もにゅっと柔らかい感触。
 何の戸惑いも無く抱き寄せ「砂糖の匂いに紛れたんですかね」と笑う下原さん。
 俺はそんな和やかな場合じゃない。
 触れあって分かる石鹸のあの爽やかな甘い香り。シャワーを浴びた後の潤んだ熱、しっとりとした肌。
 きっと下原さんの肌は甘い。
 団子のように柔らかく、舌を這わせた途端、痺れるような甘さが俺を駄目にするのだ。
 そう思うと呼吸は辛く、目は霞み、立っているのも辛くなる。
 だがここで鼻血を出すわけにはいかない。
 下原さんの洗いたてを汚すわけにはいかないのだ。
 俺は最後の力を振り絞り


俺「続きは夜にお願いします」

ラル「少しお話しようじゃないか」


 振り返ればラル隊長。
 目の笑っていないラル隊長は相変わらずぞくぞくする。
 「大歓迎です」の「だ」の母音の途中で俺は床にキスをした。

                               ◇ ◇◇


 ゆるゆると意識が戻ると、どうやら誰かの膝の上で寝ているらしかった。
 ふわふわとももっちりとも取れるそれに思わず顔がニヤケそうになるが耐える。
 そんな小さなことでこの幸せを離してたまるか。


ラル「ふむ、少し強くやり過ぎたかな?」


 どうやら俺はラル隊長の膝の上では無いらしい。
 じゃあこのふわふわは誰なんだろう。


ロスマン「これ位が丁度いいですよ」


 揺れない。
 どうやらロスマン先生も違うらしい。


下原「分かってるのに、意地悪ですね」


 下原さんでもなかい。
 遠くの鐘の音から今が三時だと分かる。
 戦闘後の事後処理も済ませて、どうやらベストタイミングだったようだ。


クルピン「さて俺君。君が起きてくれないとボクらはおやつが食べれられないんだけど」

サーシャ「……起きませんね」

クルピン「あれ?今動いた気がしたんだけど」


 プンスキー伯爵のニヤニヤ笑いが目に浮かぶ。
 この人は気付いている。
 止めてくれ。貴女には俺の心が分かっているはずだ。
 俺の夢を壊さないでくれ!


菅野「ほら起きろよ。ニパがいるからさ」

俺「―――ニっ……」


 呆れたようなナオちゃんの声にカッと目が開く。
 目の前には薄金色が揺れていた。
 真っ白な肌に目の覚めるような空色の瞳。
 まだ見ぬスオミの雪原は、きっとそんな色をしているに違いない。


ニッカ「わ…だ、だいじょぶか?」

俺「……ぱ……」


 目の前にはニパ。ニパで全てが埋め尽くされるこの喜び。
 ニパの膝の上、ニパの膝枕、Ci mi sono sul ginocchio di una bella persona!!
 頭の中はニパでいっぱいという現実に、俺は鼻血が止まらない。


ロスマン「……ほんとにどうしようもないわね」

下原「扶桑茶も入りましたし、おやつにしましょう」


 お茶の用意は完璧だった。
 ナオちゃんなんかはすでに二本目を食べている。
 なんだか申し訳ないのと恥ずかしいのとで涙ぐむと


クルピン「これはご褒美だから安心してほしいな」


 隣に座るプンスキー伯爵は小さく笑って湯呑を差し出す。
 俺はニパの隣、二人に挟まれてお茶を啜る。軍事基地には似合わない、いい香りがした。


菅野「茶、換えたんだな」

俺「うん。知り合いのルートから分けてもらったんだ」

菅野「そうか」

俺「うん」


 ナオちゃんは五本目の団子を食べる。
 もくもく食べるナオちゃんは幸せそうだった。
 串を置いてお茶を啜って俺を見て


菅野「ん」


 そう言ってまた食べ始める。
 その一言で幸せになれる俺は
 とてもおめでたい頭をしているんだろう。





最終更新:2013年03月30日 02:31