そこにいたのはニパだった。
風は春。俺は彼女の膝枕で目を覚ます。
俺「に、ニパ?どうしてこんな……」
ニッカ「おはよ。体の方は大丈夫?」
俺「なんでそれを…」
ニッカ「ん~?なんか変だぞ俺。隠し事はしないって言ったじゃないか」
ぷんすかと怒るニパに可愛いなと思うと同時に、
少し引っ掛かる言葉に俺が
俺「隠し事はしない?…それじゃまるで――――」
と言うと、ニパはこてんと首をかしげて
ニッカ「夫婦、だけど?」
驚愕しているとニパはころころ笑いだす。
ニッカ「あはは、大丈夫?寝過ぎて駄目になったんじゃないか?」
あまりの衝撃と喜びに思わず鼻血が出てきてしまった。
しかし何とか「いや、そうだったよね」と続けると、ニパはまた笑う。
もう退役したのだろうか、ニパの中性的だった顔は少し女性らしくなっていた。
ニパは立ち上がって俺に手を差し出す。
前から大きかったおっぱいは、更に素晴らしくなっていた。
ニッカ「さ、早く帰って仕込み始めないと」
お客さんが待ってるぞ。
そう言ってニパは背中に付いた芝をはらってくれた。
どうやら俺は店を持っているらしい。
昼は喫茶店。間に俺の昼寝を挟んで夜の酒場。
ニッカ「今日もいつもの人が来るから早く帰らなきゃ」
店を持つのはぼんやりと憧れていた事だった。
ああそうか。俺はあの時ニパを助けて、そのまま502で働き続けたのか。
俺「ねえニパ、子供はどうしたの?」
ニッカ「……お前なぁ、いつも言ってるけどそんなに早く出来ないからな!」
顔を真っ赤にして手を引っ張るニパは最高に可愛い。
引っ張られるがままに歩いていると、急に止まって、振り返って
ニッカ「その、さ、…もうちょっと待ってくれよ。後少しで軍の活動も終わるからさ」
などと可愛いことを言う。
もう辛抱堪らんと抱きしめると、ほっそりとしていて、折れてしまいそうなほど柔らかい。
ややあって腕の力を緩める。
そうして見つめ合うと、なぜだか俺は琥珀色を思い出した。
切なげに細められて、そのまま閉じられる琥珀色。
おかしいな、ニパの瞳は空色なのに。
俺「君が言うなら俺も待つよ」
ニッカ「…いつもそう言うじゃないか」
俺「ちゃんと分かってるから大丈夫」
ニパの隣に行って、二人で歩く。
少し手が触れて笑う。
体つきも女性らしく成長していて、さぞや自慢の奥さんなんだろうと思う。
俺はなんと幸せ者なのだろうか。
その旨を伝えると、ニパはまた顔を赤くした。
ニッカ「う、うるさいな!早くしろよ!」
芝生が終わって、田舎道に出る。
雨上がりなのか、道には水たまりが多くあった。
その一つに二人で映る。
丈の長い腰巻エプロンをしていて、頭に赤い布を巻き付けえている俺。
可愛いワンピースを着ていて、ちょっと背が伸びて、ベラよりも少し小さい位のニパ。
俺「えっ」
ニッカ「どうした?」
俺「いや、なんでも…」
何で俺は布を巻いているんだ。
ニパは隠し事はしないと言っていた。
いやそれよりこれは、もう知っている人がいるのに。
ベラ?何だ、美しい女性?
俺の傍にはニパがいて、胸は一杯のはずなのに、
どうして俺は“ベラ”を否定できない。
何も言わない俺に、ニパは溜息をひとつ。
ニッカ「とりあえず帰ろう?」
そう言って俺の手を取って歩き出す。
ニッカ「ほら、一緒に、さ」
彼女の手を、俺は振り払う。
俺「違う」
ニッカ「ど、どうしたんだよ?」
あの人は細いけど、ちゃんとした強さがあった。
あの人は背が高くて、俺よりも少し大きかった。
あの人は俺を受け入れてくれた。俺の心の一部になった。
俺「違うんだよ、ニパ」
振り返ったニパのおっぱいを揉む。
ニパはびっくりしたように息を飲む。俺はその柔らかさに息を飲み、言った。
ニッカ「いきなりなん―――――」
俺「ッ柔らかすぎる!」
俺はベラが好きだった。
ヴァルトルート・クルピンスキーを愛していた。空の心が崩れるほどに。
俺「それに、ニパがこんな簡単におっぱいを揉ませてくれるわけがない!!」
ニッカ「お、お前なにいってんだ!」
俺「君の胸はもっと包み込む温かさがあって、もっと指が沈むのに抵抗があって!ただ柔らかいだけのおっぱいを、俺は認めない!」
これはきっとこうなるはずだった未来。
だが、俺のいる場所はここじゃない。俺の帰る場所は―――――
俺「ニパのおっぱいにはなぁ、もっと……もっと夢が詰まってんだよおおおおおお!!!!」
耳を打つのは白魔の唸り声。
温かかった春の気は消えさり、引き裂かれるような寒さが帰る。
すでに両手は振り上がっている。
出刃包丁を握り締め、俺の右腕は紅く輝き、その輝きはコートの袖を焼き切った。
レッドフレイム
俺「これが俺の――“紅い一撃”だあぁぁッ!!」
咆哮と共に振り下ろす。雪は蒸発し、ごがっ、と閃光と共に大地が砕けた。
突き立てた地面、ギィッと呻いて紅い光を点滅させるネウロイ。
俺「…男の夢を、壊すなよ」
空気を入れるように刃を捻ると、ネウロイは歪に鳴いて砕け散った。
ニパはその少し先で、仰向けに倒れていた。
無造作にリュックを投げ捨て、ゆっくりとニパに向かって歩く。
俺「来たぞ、ニパ」
俺は少し雪に埋もれた彼女の手を取る。
俺「生きていてくれたんだね」
こんな吹雪の中でも、感覚が鋭くなっている俺には心音が聞こえた。
気を失っているなら、あのネウロイの見せたものでも見ていたのだろうか。
俺「ニパは帰れるのかって言ったね。
あの時は答えられなかったけど、今なら言える」
光の所為で右袖がずたずたになったコートを脱いで、彼女に被せる。
俺「これは嘘じゃない。だから聞いてくれ」
ニパを背負って、震える歯を噛み締めて、俺は歩き出す。
俺「君は帰れる。君の思っているより多くの人が、君を必要としている」
ニパはまだ眠っている。俺は喋り続ける。
俺「だから生きろ。君は、俺と一緒に帰るんだ」
そう言って、一歩踏み出して、倒れた。
瞳の光は無くなっていて、腕も足も力が入らない。
それでもこの子だけは、と手を伸ばす。
散りゆく雪を握りしめ、俺は意識を失った。
最終更新:2013年03月30日 02:34