基地上空に敵襲を告げるサイレンの音が鳴り響く。
心の内から沸き上がる衝動を抑え、俺は冷静に指示を下した。
俺「各機訓練中止。地上に降りて装備を換装するぞ」
ハンガーに戻り、訓練用の模擬銃と13mm機関銃を交換して刀を背負う。
俺が他のメンバーの準備を待っていると、背後から声をかけられた。
竹井「……俺さん」
俺「なんだ」
俺は振り返らずに応じた。
それを咎めることもなく、竹井はそのまま言葉を続ける。
竹井「出撃メンバーは俺さん達四人と諏訪少尉、私の六人。戦闘時は私が指揮を執ります」
俺「そうか」
竹井「……今回は勝手に出撃しないんですね」
俺「して欲しいのか?」
竹井「いえ……」
少し苛立った声で俺が応える。
本当なら他人など放っておいてさっさと出撃したいのだろう。
竹井(それをしないってことは、一応私たちのことを気にしてくれてるのかしら)
フェルナンディア「竹井、みんな準備できたわよ」
竹井「ええ、わかったわ。では……各員出撃!」
竹井の号令に従い、隊員達が順次飛び立って行く。
俺は今回はきちんと連携をとるつもりらしく、隊を先導する竹井の横を何も言わずに飛んでいる。
竹井(少しずつでもいい。この調子で俺さんが立ち直っていってくれれば……)
昔の俺に戻ってくれるはず。
竹井はそう信じようとするが、なぜか不安を振り払いきれない。
心に気がかりを残したまま、竹井は戦場へ向かう速度を速めていった。
●
数十分ほど飛んだ頃だろうか。
眼下の景色が深い森林地帯になってくると同時に、前方に黒い点のようなものが見えてきた。
天姫「竹井大尉、敵機です!」
竹井「ええ、見えてるわ。大型の爆撃機1、中型3、小型の護衛機が……12機。都市部への爆撃が目的というところかしら」
高高度を飛行してきたおかげで、敵はまだこちらに気付いてはいないらしい。
敵部隊の侵攻方向は南東。
その方角には、小さな町があったはずだ。
フェルナンディア「最優先目標は大型ね。あれを落とさないと町に大きな被害がでるわ」
竹井「ええ、でもまずは周囲の護衛機の数を減らさないと。各機は先程指示した通りのフォーメーションへ移行して」
竹井と天姫、フェルナンディアとルチアナ、そして俺とマルチナの三組がロッテを作り、攻撃の体制を整えていく。
その最中、フェルナンディアはマルチナの様子に違和感を感じた。
フェルナンディア(ティナ……? なんだかいつもと様子が……)
長い付き合いのフェルナンディアだからこそ感じ取れた小さな違和感。
彼女は言葉に表せないほど微かなそれを指摘するかどうか迷い、結局、何も言わないことにした。
フェルナンディア(今下手に話しかけたら集中力が切れちゃうかもしれないし……。後でいいか)
迷っていた時間は十数秒程度だった。
しかし、既に敵部隊は姿形がはっきりとわかる距離にまで接近している。
フェルナンディアは気を取り直し、竹井の攻撃指示を待った。
竹井「……全機、攻撃開始! 先鋒は俺大尉の隊にお願いします」
俺「了解。行くぞ、曹長」
マルチナ「り、了解!」
俺は竹井に言葉少なに応え、敵へ向けて一気に速度を上げていく。
最初の標的は一番手前にいる小型ネウロイ。
それに対し、俺はほぼ垂直に近い角度で突っ込んでいった。
落下速度も加わり、そのスピードは一時的にストライカーユニットの性能以上の数値に達している。
俺「落ちろ……!」
距離をギリギリまで詰め、引き金を引く。
銃口から連続で吐き出された弾丸が敵機へ降り注ぎ、一瞬の静寂の後に爆発四散した。
その爆発の横を俺とマルチナが通過し、速度を保ったまま安全圏内へと離脱する。
それはまさに、教科書に載っているような理想的な一撃離脱戦法だった。
フェルナンディア「……ふん、やるじゃない。私達もいくわよ!」
ルチアナ「了解しました」
俺達に続き、フェルナンディア達が間髪入れずに再度攻撃を仕掛けた。
奇襲に気付いた敵部隊が迎撃体制をとろうとしている隙を突いて接近し、数瞬の間に大量の銃弾を叩き込む。
すぐさま離脱し、振り返って撃墜を確認する。
フェルナンディア「よし、1機撃破!」
ルチアナ「でも、今ので敵は完全にこちらに気付いたみたいですよ」
フェルナンディア「そんなの計算の内よ。あとはいつも通りにいきましょ」
迎撃を始めた敵部隊を観察しつつ、軽い調子で言うフェルナンディア。
特別に難しい任務ではない。気を抜かずにいつも通りに戦えば問題はないはず。
その時、彼女はただ単純にそう思っていた。
●
敵護衛機を粗方撃墜した頃、俺は空中で突然停止し、マルチナに向き直った。
マルチナ「ど、どうしたの……?」
俺「お前は竹井の隊に合流しろ」
竹井「いきなり何を言ってるんですか!?」
俺「腕が未熟なやつに着いてこられても迷惑なだけだ。大型を相手にする場合は特にな」
大型ネウロイを撃墜する際、一番手っ取り早い方法は格闘戦を仕掛けることだ。
格闘戦は一撃離脱戦法より攻撃時間が長いし、なおかつ火力を一点に集中させやすい。
防御力や再生力の高い大型ネウロイには有効な戦い方だと言えるだろう。
だが、その分敵に肉薄する必要があるため、敵からの反撃も当然厳しいものになる。
マルチナ「僕だってやれるよ!」
俺「俺は一人で戦う方が馴れている。お前は下がっていろ」
竹井「いいえ、却下です。戦闘隊長として単独行動は認められません」
互いに無言で睨み合う俺と竹井。
そしてその二人を不安そうに見つめるマルチナと天姫。
戦場に似つかわしくない静寂が漂う中、その静けさをインカムからの怒号が打ち破った。
フェルナンディア『ちょっと何グズグズやってるの!? 早く大型を落とさないと町が攻撃されるでしょうが!』
俺「……仕方ない。好きにしろ」
マルチナ「了解!」
フェルナンディアの催促を受け、俺がマルチナを伴って大型ネウロイへと突っ込んでいく。
その後ろ姿を見て安堵の表情を浮かべたのも束の間、竹井は改めて気を引き締め、隊員達へ指示を下した。
竹井「俺大尉の隊が大型に攻撃を仕掛けるわ! 他の隊は敵機を近づけさせないで!」
フェルナンディア&ルチアナ『了解!』
●
マルチナは数十メートル先を飛ぶ俺を必死で追いかけていた。
俺は敵の迎撃の隙間を縫うように飛び、大型ネウロイへの距離を詰めていく。
回避機動をとっているのにそのスピードは全く衰える様子を見せず、むしろますます速度を増している。
マルチナ(ストライカーの性能だけじゃない。フェイントを織り混ぜて敵の動きをコントロールしてるんだ)
サッカーに同じような意図の動きがあるからわかる。
自分もそういった動きを機動に活かして戦ってきたが、俺の動きはまた一段と実用的な動きだ。
マルチナ「はぁっ……はぁっ……! くっ……!」
隊の中では遊撃を担当し、常に先頭で戦ってきたこともあって空中での機動には自信を持っていた。
だが、今の自分の姿はどうだろう。
置いていかれないように着いていくのが精一杯ではないか。
マルチナ(このままじゃ俺に認めてもらえな──)
フェルナンディア『ティナッ! 後ろ!』
考え込んでいたところに突然声をかけられ、マルチナは思わず無防備に後ろを振り返ってしまう。
そこには、大型ネウロイを護衛していた小型ネウロイの内の1機がいた。
マルチナ(敵!? なんで……っ!?)
俺達が大型を攻撃する間、敵の護衛機は他の隊が抑えていることになっている。
とはいえ、敵を完全に抑えることは容易ではない。
そういった場合に備えて周囲警戒を行うのがマルチナの役目だったのだが、俺の事に気をとられて警戒を怠ってしまったのだ。
竹井『離脱して! 早く!』
慌てて回避しようとするが、頭ではわかっていても体がうまく動いてくれない。
妙にゆっくりと流れる時間の中、敵機の銃口が自分へ向けられ、その銃口から弾丸が放たれた。
マルチナ(やられる……!)
思わず目を閉じるマルチナ。
だが、次の瞬間に彼女が感じたのは痛みではなく、誰かに突き飛ばされる鈍い感触。
そして、仄かな煙草の香りだった。
最終更新:2013年03月30日 02:44