私「……ふぅ」

どさり、と私は設けられた自室のベッドに身体を沈めた
窓から差し込む薄い月明かりが室内を照らしている

私「あ、いけないいけない」

ついつい眠ってしまいそうになるが、とても大事な事を思い出して起き上がった

私「よっ……と」

ベッドから這い出し、椅子に座る

私「えーっと……」

私は机の上に置いた鞄をまさぐり、長方体のソレ――――『通信機』を取り出した
そして軽く操作して、耳に押し当てる

私「……」

ザーザーとノイズ音が響いた後、ブツリ、と何処かに繋がる音。これで、よし

私「あっあー、こちら『ピジョン』こちら『ピジョン』、聞こえますかどーぞー?」

『……心配せずともちゃんと聞こえとるわい」

私「あ、ホントですか?よかったー」

通信機からは、壮年の男性の声――あの人の声が聞こえてきた

『……して、ピジョンよ、無事『潜入』に成功したか?』

私「はっ!このピジョン!何事もなく501基地に潜入成功しました!『マロニー大将』っ!…………あっ」

……やってしまった

『……バカモン、ワシの名は呼ぶなと言っただろうが』

通信相手――ブリタニア空軍、トレヴァー・マロニー大将はため息と共にそんなことを言った
通信機越しだがその声色は相当怒っている。不味い不味い、これは帰って何を言われるか

私「すみません、ついっ!」

マロニー『……まあいい』

マロニー『ピジョンよ、今回君に与えた任務を覚えているか?』

私「はっ!」

マロニー『よし、ならば改めて言うぞピジョン。今回の君の任務はただひとつ』

私「……ゴクリ」

マロニー『501に潜入し、彼女達の決定的な『弱み』を握ることだっ!』

私「よ、弱み……ですか?」

マロニー『ああ、そうだ。部隊の運営に関する重大な弱みを見つけるのだっ』

がっはっはっ、と愉快な笑い声が受話器から聞こえてくる

私「はぁ、それで、その後は?』

マロニー『例の作戦の決行の際にその情報を晒し、奴らを吊るし上げる』

私「……」

マロニー『そして生意気なあやつらを501基地から引き摺り下ろし、晴れてそこはワシの物となるのだ!!』

私「……」

マロニー『ぶわーっはっはっはっ!完璧な作戦よ!そして作戦が成功すればこのワシが国を世界を支配しっ、世界のイニシアチブを取る事が出来るのだァ!どうだ?素晴らしいとは思わんかね、ピジョンよ!』

私「……」

マロニー『……おい、ピジョン、聞いているのか?ピジョン!』

私「…………そーやって」

マロニー『……む?』

私「そーやって、すぐ意地張っちゃうのがおとーさんの悪いクセだと思うよ?」

マロニー『…………』

マロニー大将……おとーさんは私のその一言で押し黙る 
あ、おとーさんと言っても私とおとーさんの血は繋がっていない 
早い話、私はおとーさんの拾い子なのだ

私「私知ってるよ?おとーさんはそんなひどい事言ってるけど、ほんとは1番私達を心配してくれること」

マロニー『ぐぬぬっ!』

そうなのだ

この人はイニシアチブ()とか世界の主導権()とか言ってるが、本当は20歳にも満たない私たち少女が魔女として戦うことがイヤなだけなのだ
女のくせにチョーシ乗ってんじゃねーぞ?あん?とか言うのではなく、ただ純粋に私達を心配しているだけなのだ

だから私が『魔女になる!』って言った時もすっごく反対したっけ

それで珍しく―多分私が拾われて始めて―大喧嘩しちゃったのだ……もう、五年も前の話

まぁ、とにかく

おとーさんはとても不器用な人なのだ

今回の任務も『魔女達を探って弱みを握ってやるぜげへへへへ』とかではなく『魔女達が怪我しないかパパ心配だから写真送ってきて!』と言うような感じだろーな、うん

私「ね?だからおとーさんも、もっと素直に――――」

マロニー『ええい、黙れ黙れぃ!!』

私「わっ!?」

マロニー『ピジョンよ勘違いするな!ワシは奴らが我々男を差し置いて活躍しているのが許されんだけで、別にあやつらを傷つけさせたくない訳ではないのだっ!!!!!!』

はい、勘違いするなよ頂きましたー

私「り、了解です、大将……ブフッ」

私は笑いをこらえつつ、言った……いやこらえきれてないけど

マロニー『フン、わかればいいのだ、わかれば』

マロニー『それで、だ、ピジョンよ。例のブツの送信はまだかね?』

私「はいっ、ただいま!」

再び私はごそごそと鞄をまさぐり、直方体のソレを取り出し机の上にゴトリと置く……っと、その前にまず試し刷りをしておかなければ

私「よっ…と」

鞄から真白の紙と手のひらサイズのインクビンを取り出し、サッと紙を一枚机の上に広げて、慣れた手つきでボタタッとインクを垂らす

純白の紙に漆黒のソレが染み込んだのを確認したら、私はスッと息を吸い込んで――

私「……んっ!」

――頭の中の、スイッチを入れる

すると私の頭とお尻から、ぴょこっと使い魔の羽根と尻尾が生えてきた
そう、私の使い魔は鳥――――ハトなのだ

だからおとーさんから与えられたコードネーム(笑)も『ピジョン』

実に単純だ

私「……」

意識を小さなキャンパスに集中する

瞬間

ぞぞぞぞっ!と紙に染み込んでいたはずのインクが、イキモノの様に蠢き始めた
まるでそれは地上を這いずる蟻の大群の様で、私は思わず顔をしかめる

我ながら女の子っぽくない能力だなぁ……

私「……こんなもんかな」

魔力を流し続け、十数秒後には――――1枚の絵が出来上がっていた
これぞ我が固有魔法、『念写』なのだ!

……念写と言っても映るのは記憶の中の映像だけで、超能力みたいに未来が見えるわけじゃないけど

私「うん、バッチリバッチリ!」

紙に描かれた一枚の絵は、綺麗に整列された長机に座る、501の魔女達だった
ちなみにこの絵は私がエーリカちゃんに頼まれて刷ったのと同じ絵でもある

この固有魔法のおかげもあり、私は諜報員()、エージェント()として501に送られた訳だ……伝書鳩とはよく言ったよ

私「……それじゃーマロニー大将!準備が出来たので今から送りますね!」

通信機を手に取りながら、私

マロニー『だから私の名前を呼ぶなと……ああもう!さっさと送らんか!』

私「ヤー!(了解っ!)」

ビッ!とノリで敬礼をして、すぐさま私は取り出した直方体の機器に手を添え、やはりさっきと同じ様に魔力を流し込む
そして数秒の後、私の脳内に――――何処かと繋がった感覚

私「……よしっ♪」

そのままもう暫く魔力を送り続け、頃合いが来たところで使い間の羽尾をしまう

私「もしもしおとーさん?ちゃんと届いた?」

マロニー『だぁからおとーさんとも呼ぶなと言ったであろうが!……全くお前を送ったのはワシの間違いだったかもしれん……』

私「む、そんなひどいこと言わなくてもいいじゃん……で、届いたの?届いてないの?」

マロニー『心配せずとも届いとる』

私「そう、よかったよかった!」

マロニー『……それと、今は任務中だ、もう少しシャキッとせんか』

そう、私が魔力を流し込んだ直方体の機械は『おとーさん特注魔力パス型画像送信機』――有り体に言えば私の固有魔法専用に作られたFAXの様な物だ

私はたった今おとーさんにさっきの絵を送ったのである

……何かとんでもなくご都合と言うかなんと言うかな装置だが、細かいことは気にしないでいて欲しい、送れればよかろうなのだァー

私「で、どうですか?」

マロニー『フム……中々良く写っている。見事な仕事だ、ピジョンよ』

私「お褒めに預かり光栄であります、サー」

マロニー『……ところで、だが』

私「?」

マロニー『会議中だというのに何故寝ている者が三人もいるのだ』

私「あー……カールスラントのエーリカ・ハルトマン中尉とロマーニャのフランチェスカ・ルッキーニ少尉はまぁ置いておくとして、1番左で寝ているオラーシャのアレクサンドラ・ウラジーミロヴナ・リトヴャク中尉……サーニャ・V・リトヴャク中尉は仕方のないことかと」

マロニー『……ナイトウィッチ、か』

私「ええ、その通りです。彼女は先日も夜間哨戒任務に当たっていたと聞いています」

マロニー『フン、鼻タレの小娘の分際で夜間哨戒などするからだ。大人しくガキは餓鬼で毛布にくるまっておけばいいものを』

私「しかし大将、彼女らナイトウィッチに頼らなければ我々が安心して眠れないというのが今の現状です」

マロニー『……解っておる』

受話器越しからおとーさんの重たいため息が聞こえてくる

私「……」

マロニー『忌々しい話だ、あの小娘共に頼らねば安心して眠ることすらままならないとはな』

私「……彼女達が夜を駆ける事に何かご不満でも?」

マロニー『あるに決まっとろう』

マロニー『…………何を考えているか知らんがピジョンよ、勘違いするな』

私「は?」

マロニー『ワシは奴らが垢抜けん子供の癖に我々を差し置いて夜間哨戒を行っているのが許せんだけで――――』

私「言われずとも理解しています」

別に彼女達が夜に眠っていないのが嫌だというわけじゃないのだ――――とでも言いたいのだろう
全くこの人は本当に親バカと言うかなんというか…………そんなに私の腹筋を破壊したいか

マロニー『ならばよい』

私「…………それでは大将、そろそろこの辺りで通信を。私、明日も早いですし」

マロニー『……ふむ、もうこんな時間か。ならば今日の報告はここまでだ。明日も期待しているぞ、ピジョン』

私「はっ」

マロニー『それと、だが』

私「?」

ごほん、とひとつ咳をして、大将
まだ何かあるのだろうか

マロニー『くれぐれも夜更かしをしないように、直ちに布団にくるまって寝ることだ。それといくら夏だからと言って腹を出して寝てくれるな、風邪を引いては君の任務に関わる。もう一つ、寝る前の歯磨きを――――』

ブツン

私は無言で通信を切った

私「……」

私「む、無自覚……?」

このおとーさん、ツンデレの癖に無自覚でたまにあんなことを言う

馬鹿か?馬鹿なのか?

私「……まーいいや」

今日はもう、さっさと寝よう

おとーさんに怒られるのは、イヤだしね
最終更新:2013年03月30日 23:24