波に揺られるような感覚の中、俺は夢を見ていた。

軍から休暇を貰い、久しぶりに帰ってきた父との会話。
その中で、父はニュータイプについて話していた。
 
父「俺、ニュータイプって知ってるか?」
 
俺「うん。エースパイロットのことだろ?」
 
モビルスーツパイロットである父を持つ俺は、その影響もあって軍に興味を持っていた。
当然、エースの代名詞であるニュータイプのことも知っている。
 
父「ニュータイプってのはそれだけじゃないらしいぞ。なんでも、物事を正しく理解できるらしい」
 
俺「理解?」
 
父「相手を理解しているから相手が撃つ前に避けられるし、相手がどう動くか分かるから攻撃も当てられるんだと」
 
俺「うさんくさ……」
 
父「以前同僚だったフィリップから聞いたんだ。ほら、前話しただろう?」
 
俺「グリプス戦役で負傷退役して、パン屋になるって言ってた人?」
 
父「そう、そいつさ。もっとも、フィリップも一年戦争の時同じ部隊にいたやつに聞いた話らしいけどな」
 
俺はさらにうさんくさそうな顔で父を見た。だが、あくまで父は真剣な表情をしている。
 
父「フィリップ自身もニュータイプのせいで随分苦労したと言っていた。それに……」
 
俺「それに?」
 
父「俺自身、戦場でそういう力……言葉で表現できない何かを感じたことはある」
 
俺「ニュータイプって怖いものなの?」
 
深刻な顔で言い切った父を見て、俺は不安そうに訪ねた。
そんな俺を安心させるためか、父は努めて明るく言い切った。
 
父「そんなことはないさ。それに、俺はお前にニュータイプみたいになってほしいと思ってるんだ」
 
俺「エースパイロットになれってこと?」
 
父「そうじゃない。他人を理解してあげられる優しい人間になれってことさ」
 
俺「ニュータイプになれば、そうなれるのかな」
 
父「それは分からん。でも、お前がそうなってくれれば、母さんと妹を安心して任せられる」
 
そう言って、父は再び戦場へ戻っていった。
そして、二度と帰ってくることはなかった。
 
 
          ●
 
 
ビービーと何かのアラームが鳴る音が聞こえ、俺は目を覚ました。
 
俺「この音は……」
 
ぼんやりとした意識の中、音の正体を思いだそうとする。
そう、この音はノーマルスーツの異常を知らせる音で、確か酸素残量が残り僅かな時に鳴る。つまりこのままだと窒息死することに──。
 
俺「うわぁっ! 死ぬっ!」
 
俺は周りの確認もせず、慌ててヘルメットを取った。
 
俺「ってここは宇宙……じゃない?」
 
何度か呼吸してから、俺はふと違和感を感じた。
 
俺「なんか変な感じが──」
 
言いかけてから、側に少女が立っていることに気が付いた。
少女は固まっていたが、俺と目が合うと、
 
少女「坂本さぁぁぁぁぁぁん!!」
 
と叫び、部屋を飛び出していってしまった。
俺は呆然としていたが、しばらく経って落ち着き、自分が寝かされていた部屋を見回した。
随分レトロな雰囲気の部屋だったが、白いベッドや薬品の入った棚等からして、ここは医務室のようだ。
どうやらノーマルスーツを着たままベッドに寝かされていたらしい。
 
俺「俺は……助かったのか」
 
生き延びたことを実感し、俺が安堵していると、部屋のドアを開けて先程の少女と共に2人の少女が入ってきた。
が、何故か全員パンツ丸出しである。
 
俺「あ、あなたたちは……?」
 
ミーナ「私は第501統合戦闘航空団『STRIKE WITCHES』所属、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です」
 
坂本「同じく、坂本美緒少佐だ」
 
芳佳「私は宮藤芳佳です。それで、体の方は大丈夫ですか?」
 
俺は少し体を動かしてみた。特に問題は無いようだ。
 
俺「大丈夫みたいです。(ていうかパンツ丸出し……)ところで、俺を救助してくれたのはあなた方ですか?」
 
坂本「ああ。朝の訓練でランニングをしていた時、海岸に倒れていたのを私が見つけた」
 
俺「海岸……ってことは、ここは地球なんですか!?」
 
俺はようやく先程から感じていた違和感の正体に気が付いた。
それは匂いだ。
コロニーの人工的に作り出された空気と違い、ここの空気は海の生臭さが混ざって独特の匂いがする。
 
ミーナ「確かにここは地球だけど……。ところで──」
 
ミーナが質問しようとした時、いきなり俺の上に小柄な少女が飛び乗ってきた。
 
芳佳「ル、ルッキーニちゃん!?」
 
ルッキーニ「兄ちゃん宇宙人なのー!?」
 
宇宙人とは、主に地球に住む人間が、宇宙に住む人間やジオン軍を軽蔑して呼ぶ際使用される呼び方だ。
宇宙人呼ばわりされた俺は、多少不機嫌な声で答えた。
 
俺「俺はコロニーに住んでるけどジオンじゃない。宇宙人なんて呼ばないでくれ。れっきとした人間なんだ」
 
ルッキーニ「うじゅ? ころにー? じおん?」
 
ルッキーニは訳の分からないといった様子で首を傾げる。
 
ミーナ「ところで、そろそろあなたのことを教えてくれるかしら?」
 
俺「ああ、すいません。俺の名前は……っ!」
 
名前を言いかけてから、俺は唐突に思い出した。自分がどうしてこうなっているかを。
 
俺(連邦軍に殺されかけたのに名前を言ったりしたら……)
 
自分が生きていると知れれば、口封じのために再度命を狙われる可能性がある。
多少違和感はあるが、話した様子ではどうやらここはジオンとは関わりの無い──つまり連邦軍の基地のようだ。
まだ殺されていない以上、自分を殺そうとした部隊とは違うようだ。だが、身元照会をされればその部隊にもいずれ知られることになるだろう。
迂闊に正体を明かすわけにはいかない。
 
坂本「ん? どうした?」
 
俺(窓ガラスを破って逃げるか? いや、それはいろいろな意味でまずい。ともかくこの場をどうにかしないと……)
 
芳佳「どうかしたんですか?」
 
俺「俺の名前は……エ、エレドア・マシスです」
 
俺は咄嗟に偽名を名乗っていた。
エレドアというのは、『フロンティア』という音楽バンドのメンバーの名前だ。
俺は気に入っているのだが、なぜか知名度が低く、どの知り合いに聞いても知らないと答えられる。
 
ミーナ「ではエレドアさん、なぜあんな場所にいたか説明してもらえますか?」
 
ミーナ達は特に不振に思っていないようだ。
幸か不幸か、誰も知らないらしい。
 
俺「その前にトイレに行かせてもらえませんか? ちょっと我慢できなくて……」
 
坂本「まあいいだろう。宮藤、案内してやってくれ」
 
芳佳「わかりました。エレドアさん、歩けますか?」
 
俺「ああ、大丈夫だよ」
 
廊下を歩きながら、俺は思ったよりも簡単に部屋を抜け出せたことに驚いていた。
さらに幸運なことに、監視も目の前の少女くらいしかいない。
このチャンスを逃す手は無かった。
 
俺(逃げるなら今だ!)
 
先導する芳佳の後ろをついて行くふりをし、俺は少しずつ歩くスピードを落としていった。
距離が離れたところで違う通路へ入り、足音に気を付けながら俺は走り出した。
 
俺「とにかくこの格好をなんとかしないと……!」
 
俺は未だにノーマルスーツを着ていた。地上で宇宙用ノーマルスーツを着ていたら目立つことこの上ない。
俺が当てもなくさまよっていると、突然広い空間に出た。
 
俺「ここは……ハンガーか?」
 
物陰に姿を隠しながら、俺は辺りの様子を探った。
隅の方を見ると、整備員用のつなぎが干してあるのを発見した。
 
俺「よし、あれに着替えよう」
 
多少生乾きではあったが、俺は気にせず服を着替え、ノーマルスーツを物陰に隠した。
 
俺「さて、後はどうやって逃げるかだな……」
 
運良く見つからずにここまで来ることができたが、これ以上の幸運は期待はできない。
服は着替えたが、それだけでは不十分だ。
階級証等を持っていないため、基地の入り口から出ようとすれば、身分不詳の自分は不審者としてあっと言う間に捕まるだろう。
しかし、どこか抜け道を探そうにも基地の地理がわからない。
博物館にあるような年代物の飛行機がハンガーの外に留めてあったが、俺は飛行機の操縦経験など持っていない。
 
俺「何か他に使えるものは……」
 
俺がハンガーの中央に目を向けると、不思議な機材が置いてあった。
 
俺「なんだ? あれ」
 
筒のようなものが2本、大きな台に固定されている。俺は台に近づき、その筒にそっと触れてみた。
 
俺「何だろう、何か不思議な感じがする……」
 
坂本「見つけたぞ!」
 
俺が少し気を抜いた瞬間、ハンガーに鋭い声が響き渡った。
ハンガーの入り口を見ると、坂本を筆頭に数人の少女がなだれ込んでくる。
 
俺「クッ! しまった!」
 
俺は反射的に、反対方向の出入り口へ駆け出した。
 
坂本「行ったぞ! バルクホルン!」
 
坂本が名前を呼ぶと、反対方向の出入り口から別の少女が飛び出してくる。
ハメられた——。
俺がそう思ったときには、既に少女は全力で俺に拳を叩き込んでいた。
 
バルクホルン「ずおりゃああああああああああ!!!」
 
そのあまりの威力に、俺は数メートルは吹っ飛ばされた。
そして何かに強く叩きつけられ、そのまま気絶してしまった。
 
 
 
 
最終更新:2014年10月22日 23:40