俺「……う……ここは……」
俺が目を覚ました場所は先程と同じ医務室だった。
ただし、今度はベッドに寝かされておらず、椅子にロープで縛り付けられていたが。
バルクホルン「ミーナ中佐、目を覚ましたようだ」
俺が顔を上げると、先程自分を殴り飛ばした少女の他に数人が周りを囲んでいた。
ミーナ「悪いけど拘束させてもらったわ。まず、逃げた理由を聞かせてもらえるかしら」
質問には答えず、俺は周囲の様子を観察した。
周りにいる少女は一様に警戒した顔をしており、自分を縛るロープはきつく結ばれている。もはや逃げ出すことはできないだろう。
俺は観念して口を開いた。
俺「……殺されると思ったんです」
坂本「殺される? どういうことだ?」
俺は自分に起こったことを話した。
連邦に仕事を依頼され、仕事が終わった後に事故に見せかけて殺されかけた事。
自分の生存が分かれば再度命を狙われると思い、逃亡を図った事。
坂本達は黙って俺の話を聞いていたが、その表情は徐々に疑惑に溢れていった。
俺が話し終えると、バルクホルンが怒りをぶちまけるように机を叩く。
バルクホルン「黙って聞いていれば、訳の分からないことをべらべらと……!」
ミーナ「落ち着きなさい、バルクホルン大尉。俺さん、もう一度あなた自身のことを教えてもらえるかしら?」
ミーナはバルクホルンをなだめ、再度俺に尋ねる。
俺「さっきも言ったようにエレドアというのは偽名で、本名は俺といいます。U.C78年生まれ。歳は18歳。フミカネコロニー在住。ブッホ・ジャンク社デブリ回収班所属。社員番号はGX-9901──」
バルクホルン「だから! それが信じられないと言っているんだ!」
俺「疑うなら会社に確認してみてくださいよ! そういえば、ここは地球のどの辺りですか? 近くに支社があればすぐに証明してもらえるんですけど」
ミーナ「ここはブリタニアよ」
俺「ブリタニア?」
坂本「なんだ、ブリタニアを知らないのか? 宮藤、地図を持ってきてくれ」
芳佳は医務室の壁に貼ってあった世界地図を剥がし、ブリタニアを指さした。
芳佳「ブリタニアはここですよ」
俺「ありがとう。……ってここはイギリスじゃないか」
ルッキーニ「ここはブリタニアだよー?」
俺「あれ? 確かにブリタニアって書いてる。けどここは──」
そこで、俺は地図に違和感を感じた。
イギリスだけではなく、他の国も名前が違う。それどころか大陸の形さえも微妙に異なっている。
俺(どういうことだ?)
俺が混乱していると、ミーナが話しかけてきた。
ミーナ「その、俺さん? 考え込んでるところ悪いんだけど、コロニーって何処なの? 」
俺「何処って……普通、コロニーは宇宙にあるじゃないですか」
バルクホルン「ふざけてるのか!? それにブッホ・ジャンク社なんて会社聞いたこともないぞ!」
俺「ふざけてませんよ! それに、うちの会社はあまり大きくないけど無名って程では……」
そこで俺は、地図の端に書いてある文字に気が付いた。
俺「西暦1944年発行?」
俺の記憶では今はU.C96年だ。
西暦1944年と言えば、200年近く昔の話である。
やたらとレトロな雰囲気の建物と、博物館にあるような年代物の飛行機。そしてまったく噛み合わない会話。
これらが繋がり、俺の頭の中に一つの仮説が生まれた。
その仮説を確かめるため、俺はいくつか質問をした。
俺「……ここは地球連邦軍の基地じゃないんですか?」
ミーナ「地球連邦軍? ここは連合軍の基地よ?」
俺「今は……何年ですか?」
坂本「今は西暦1944年だ」
俺(やっぱり……)
間違いない。ここは過去だ。しかも──。
俺「……ちょっと聞きたいんですが。なんで皆さんパンツ丸出しなんです?」
ミーナ「これはズボンよ?」
俺「恥ずかしくないんですか?」
芳佳「パンツじゃないから恥ずかしくないです!」
俺(それでいいのか?)
──何故かは知らないが、女性は皆パンツ丸出しだ。
大陸の形が違ったことも含め、単純なタイムスリップとは思えない。ということは──。
俺(──過去な上に異世界だとでも言うのか……?)
坂本「……俺、お前はもしかして、この時代の人間ではないんじゃないか?」
俺「えっ!?」
自分が考えていたことと同じ事を言われ、俺ははっと驚いた。
バルクホルン「少佐!? 何を言って──」
?「あたしもそう思うよ」
バルクホルンの言葉を遮り、部屋の入り口からノーマルスーツを抱えた少女が入ってきた。
シャーリー「俺の着ていた服さ。さっきこれを少し調べてみたんだが……」
ミーナ「どうだったの?」
シャーリー「見たこともない技術で作られてる。現代の技術力じゃこんなものは作れないよ」
芳佳「そんなにすごいんですか?」
坂本「私も先程見てみたが、気密性がかなり高いようだ。これはおそらく、宇宙空間で使用するものだと思う」
ルッキーニ「ほんと!? 見せて見せてー!」
シャーリーが持ってきたノーマルスーツを芳佳とルッキーニがいろいろといじり回す。
その様子を見ながら、ミーナは納得したように頷いた。
ミーナ「シャーリーさんは機械に造詣が深いし、坂本少佐はストライカーの開発に関わっていたことがあるわ。二人が言うなら可能性は否定できないわね」
俺「俺も坂本さんと同じ事を考えていました。ただ、単純に過去に来ただけとは思えません」
ミーナ「どういうこと?」
俺「大陸の形や文化が違います。もしかしたら別の世界ということも……」
バルクホルン「バカなことを……。デタラメを言っているとしか思えん」
?「それはないと思うなぁ」
皆が声の方向に視線を向けると、そこにはノーマルスーツを弄くるエーリカ・ハルトマン中尉がいた。
芳佳「ハルトマンさん、いつの間に?」
エーリカ「さっきからいたよー。で、シャーリーの言ってた通り、今の技術じゃこんなもの作れないと思うんだ。それに──」
エーリカは俺に近づき、俺の顔をのぞき込んだ。
俺「え?」
エーリカ「──嘘をついてる目には見えないし、ね」
坂本「私もそう思う。最初はスパイの可能性も考えたが、行動が非効率的過ぎるしな」
バルクホルン「確かにそれはそうだが……」
バルクホルンは微妙なところだが、他のメンバーはおおむね俺のことを信じたようだ。
早速シャーリーが俺にフレンドリーに話しかける。
シャーリー「なあなあ、俺の世界にネウロイはいるのか?」
俺「ネウロイ? 何です? それ」
坂本「ネウロイとは人類の敵だ。正体も目的も不明。瘴気を撒き散らして大地を腐らせ、圧倒的な攻撃力と自己再生能力を持つため、通常兵器では歯が立たない。現に、いくつもの国がネウロイの進攻によって滅ぼされている。分かりやすく言えば化け物だな」
俺「そんなのがいるんですか!?」
俺は耳を疑った。
『化け物じみた』という言葉は聞いたことがあるが、まさか本当の化け物がいるとは。
坂本「だから私達ウィッチーズがいるのさ。ネウロイには魔力を付加した攻撃が有効だからな」
坂本が誇らしげに言った言葉に、俺は再度耳を疑った。
化け物という空想にしかいない存在。
それに対抗できるのが、これまた空想の産物である魔法だと言うのだから。
俺「魔法なんてものが実在するんですか?」
ルッキーニ「俺の世界には魔法無いのー?」
俺「ああ……。それにしても、魔法や正体不明の化け物が存在するなんて、随分とファンタジーな世界なんですね」
シャーリー「あたしたちにとっては俺の存在の方がファンタジーなんだけどな」
ミーナ「俺さんが脱走した時、隠れている場所を探すのにも私の魔法を使ったのよ?」
「こんなふうにね」とミーナは自分の使い魔の耳と尻尾を出して見せた。
俺「耳と尻尾が……。皆さんは耳と尻尾が出せるんですか?」
俺が訪ねると、その場にいた全員が耳と尻尾を出して見せる。
エーリカ「ちなみにトゥルーデが君を殴り飛ばした時にできた怪我は宮藤が治したんだよ〜」
芳佳「えへへへ……」
エーリカは芳佳の方に手を置き、俺の前に連れてくる。
連れてこられた芳佳は照れくさそうにはにかんだ。
バルクホルン「魔法やネウロイの存在を知らないということは、本当に違う世界から来たというのか……」
エーリカ「トゥルーデまだ疑ってたの?」
シャーリー「疑り深い奴だな〜」
バルクホルン「ぐ、軍人として当然の判断だ! お前らこそもっと警戒心をだな……!」
バルクホルンが取り繕うように声を上げる。
一方、俺はだんだん腕が痺れてきていた。
俺「あの……そろそろ縄を解いてもらっていいですか? 腕が痺れてきたんですけど」
坂本「おお、すまんすまん。もう逃げる必要もないことだしな」
坂本が縄を解くと、俺は手足を伸ばしながら軽くストレッチをした。
ミーナ「あら、ペリーヌさんとリーネさんが哨戒から帰ってきたみたいね」
ミーナが耳をぴこぴこと動かしながら言う。どうやら魔法で察知したらしい。
俺(魔法って便利だなぁ)
エーリカ「そう言えばそろそろおやつの時間じゃない?」
シャーリー「なら、場所を食堂に移すってのはどうだ? 俺も縛られてて疲れただろ? 続きはお茶でも飲みながら話そう」
俺「ありがとうございます」
坂本「サーニャとエイラも起きている頃だろう。宮藤、二人を呼んできてくれ」
芳佳「わかりました!」
芳佳が元気良く返事をして部屋を出ていく。
その後俺達は食堂へ行き、他のメンバーが集まるのを待った。
全員集まった後、改めてミーナ達が自己紹介をする。
それを聞きながら、俺は内心で驚いていた。
俺(こんな女の子達が最低でも軍曹? ウィッチってのはそんなにすごいのか?)
父の影響もあり、俺は多少の軍事知識を持っている。その知識から考えると、最低でも軍曹以上というのは十代の少女の階級としては高すぎると言えた。
ウィッチ達が紹介がを終えると、今度は俺の紹介が始まった。
ミーナ「それでこちらが俺さん。信じられないだろうけど、違う世界から来たそうよ」
ミーナが苦笑しながら言うと、案の定先程いなかった4人は唖然とした表情をした。
坂本「信じられんのも無理はない。しかし、そう断言できる証拠もあるんだ」
そう言うと、坂本は持ってきていたノーマルスーツを掲げて見せる。
そして、坂本は俺の話した内容をかいつまんで話し始めた。
俺が殺されかけた事。
気が付いたらこちらの世界にいた事。
殺されると勘違いして脱走しようとした事。
坂本が話し終えると、
初めてその話を聞いた4人は揃ってため息を吐いた。
ペリーヌ「坂本少佐の話とはいえ、にわかには信じられませんわ……」
エイラ「でも、こんなもん見せられたらナー」
エイラがノーマルスーツを指で突っつきながら呟く。
芳佳「ところで、俺さんはこれからどうするんですか?」
俺「……どうしよう?」
いろいろとインパクトの強い出来事があったせいか、俺はすっかり今後の事を忘れていた。
誰か知り合いの当てがあるわけもないし、持ち物と言えば自分が着ていたノーマルスーツくらいだ。
俺(ノーマルスーツって売れるかな……)
未知の技術が使用されているとなれば、それなりの値段で売れるだろう。その金を使い、この世界で生きていく方法を確立するまで凌ぐ。
俺が考えたプランはそんなところだ。
その場で考えた適当な計画だったが、今の俺にはその程度の計画しか思い付かない。
この計画を実行するにはコネが必要だ。そして、ちょうどいいことに軍関係者が目の前にいる。
俺はウィッチーズの顔を見渡し、協力を仰ごうとした。
俺「誰か軍の技術関係の知人でこれを買ってくれそうな──」
ミーナ「そのことなんだけど。俺さん、ウィッチにならない?」
俺&バルクホルン『……は? 今何て?』
意表を突かれた俺、そしてバルクホルンが、呆気にとられた表情で同時に聞き返す。
ミーナ「実はさっき、俺さんの手に触れた時に魔力を感じたの。正確な数値はわからないけど、かなりの力を持っているのは確かよ」
エーリカ「へー、どれどれ?」
エーリカが確かめるように俺の手に触れる。
俺は少し恥ずかしそうにしていたが、次第に手から伝わる不思議な感覚に眉をひそめていく。
それは、ハンガーに置いてあった筒のような物に触れた時と同じ感覚だった。
俺(これはあの時と同じ……。これが魔力なのか)
エーリカ「ほんとだ。めずらしー」
ルッキーニ「あたしもあたしもー!」
バルクホルン「ハルトマン! 気安く男に触れるなど、カールスラント軍人として恥ずかしいと思わんのか!」
バルクホルンが騒ぎ立てるのをよそに、俺は坂本に話しかけた。
俺「ウィッチになれるのは女性だけじゃないんですか?」
坂本「ごくわずかだが、男性のウィッチは存在する。何故違う世界の人間である俺に魔力があるかはわからないが……」
芳佳「じゃあ俺さんもウィッチになれるんですね!」
全員の視線が俺に集中する。
俺は何かを考えているようだっだが、視線を感じると躊躇うように口を開いた。
俺「それは……ウィッチになって、ネウロイと戦うってことですよね。それも軍人になって……」
坂本「ああ、そうだ」
俺「……考えさせてください」
それっきり俺は喋らなくなってしまった。
食堂になんだか気まずい空気が流れ、沈黙がしばらく続く。
その場の雰囲気を変えるべく、ミーナは話題を変えることにした。
ミーナ「えっと、では返答は明日聞くということにして、今日はここに泊まっていったらどうかしら?」
坂本「ああ、そうだな。今から近くの町まで行って宿をとるのは大変だろう」
いつの間にか時刻は夕方。
これから町まで行き、さらに宿を探すとなるとかなり時間がかかる。というより、それ以前に俺はこちらの世界の通貨を持っていない。
俺「……では、お言葉に甘えさせていただきます」
坂本「よし、宮藤とリーネ、俺を空いている部屋へ案内してやってくれ」
芳佳&リーネ『了解しました』
俺が芳佳とリーネに連れられて部屋を出ていくと、バルクホルンはミーナに食ってかかった。
バルクホルン「ミーナ! いったいどういうつもりだ!? 何故あんな男をウィッチーズに誘った!?」
坂本「落ち着け、バルクホルン。サーニャが怯えているだろう」
エイラの側で震えているサーニャを一瞥し、バルクホルンは声量を抑えた。
バルクホルン「……すまない。ともかく、理由を聞かせてくれ」
ミーナ「この間、マロニー空軍大将に会ったときにちょっと……ね。今のところ手を出す気はないようだけど、私達を疎ましく思っているのは確かだわ」
坂本「ウィッチを好ましく思わない軍幹部というのはよくいるが、マロニー程の奴はそうはいない。口出しをさせないためにも結果が必要だ。だから俺をウィッチーズに入れて、戦力強化を図りたい。そうだろう? ミーナ」
坂本が聞くと、ミーナは微笑みながら頷いた。
ミーナ「ええ。でもそれだけじゃないのよ?」
エイラ「なんか他に理由があるのカ?」
エイラが以外そうな顔で聞く。
ミーナ「俺さんは優しい人だと思うの。だって、逃げ出した時に何もしなかったでしょう?」
シャーリー「確かに……ただ逃げただけで何の被害もなかったな」
坂本「人は追いつめられると極端な行動に走ることが多い。だが、俺はそういうことはしなかった」
坂本が腕を組み、うんうんと頷く。
ミーナ「それに、ルッキーニさんも気に入ってるようだし、ね」
ミーナはちらりとルッキーニの座っていた席を見た。つられて他のメンバーも一斉に同じ方を見る。
そこはいつの間にかもぬけの殻になっていた。
●
ミーナ達の予想通り、俺が部屋へ案内された直後、ルッキーニが遊びに来ていた。
ルッキーニ「ねーねー! 俺の世界の話聞かせてー!」
芳佳「私も聞いてみたいです!」
リーネ「よ、芳佳ちゃん……」
次々と質問をしてくるルッキーニと芳佳に、俺は苦笑しながら答えていく。
リーネは最初は恥ずかしがっていたが、徐々に慣れてきたのか、最後の方には俺に話しかけられるようになっていた。
芳佳「あ、そろそろ夕ご飯の支度しなきゃ。リーネちゃん、行こ!」
リーネ「うん。じゃあ俺さん、ありがとうございました」
ルッキーニ「あたしもシャーリーのとこ行かなきゃ。俺、じゃあね!」
3人がいなくなると、急に人気が無くなった事もあって部屋の中が妙に静かに感じる。
手持ちぶさたになった俺は、ごろりとベッドに寝ころんだ。
俺「知らない天井だ……って当たり前か」
疲れが溜まっていたのか、俺は急に瞼が重くなっていく感覚を感じていた。
俺「このままじゃ考え事もできないし……寝るか」
己の欲求に身を任せ、俺はそのまま眠りに落ちていった。
最終更新:2014年10月22日 23:41