坂本「クッ! 何だ、このネウロイは!」

戦闘開始から数分、ウィッチーズは普段と違うネウロイの行動に困惑していた。
通常、大型は都市部や軍事基地をまっすぐに目指し、小型の場合は大型の護衛や偵察等を担当する場合が多い。
だが、今回のネウロイは通常の行動パターンとは違う動きを見せていた。

坂本「大型が積極的にウィッチを狙ってくるだと……!?」

対ウィッチ用に特化されているのか、速度がかなり速い。
しかもその速度で体当たりをかましてくるのだ。その代わりビームはあまり強力ではないのだが、その穴を小型がカバーしてくる。

バルクホルン「ミーナ、これは……!」

ミーナ「ええ、間違いないわ。今回の襲撃のターゲットは私たちのようね」

ルッキーニ「うう〜! なんかやりづらーい!」

エイラ「こちらが射撃位置につくと攻撃してくるみたいダナ」

小型を攻撃しようとすると、大型が高速で突っ込んで攻撃の邪魔をする。大型を攻撃しようとすると、今度は小型が周囲を囲んでビームを放つ。
このコンビネーションのせいで、思うように攻撃ができないのだ。

リーネ「きゃあっ!?」

芳佳「リーネちゃん!」

リーネの側面から放たれたビームを芳佳が間一髪で防御する。

坂本「リーネ、その武装では近距離戦は不利だ! 下がれ!」

リーネ「でも、これ以上下がったら……!」

ペリーヌ「少佐、徐々に押し込まれています! このままでは……!」

ウィッチを積極的に狙っているとはいえ、ブリタニアを目指しているのは変わらないのだろう。少しずつだが、基地への距離を詰められていた。

ミーナ「まずいわね……」

ミーナはちらりとエーリカを見た。
エーリカはバルクホルンと組み、互いをフォローしながら小型ネウロイの数を減らしている。

バルクホルン「クッ! やっかいなやつらだ!」

エーリカ「ぜんぜん数が減らないよ〜!」

そうは言うが、この状況下でエーリカは既に8機を撃墜していた。流石エースと言われるだけはある。

ミーナ(普段と違う行動にこうも苦戦させられるなんて……!)

そして、今のウィッチーズにはもう一つ懸念事項があった。

エイラ「サーニャ、大丈夫カ?」

サーニャ「ハァ、ハァ……大丈夫、まだ……」

夜間哨戒をこなした後のサーニャは体力、魔力ともに限界が近付いている。
戦力が必要だったとはいえ、今のサーニャを出撃させるのはやはり無理があったか。
サーニャをカバーするため、ミーナは前に出てシールドを張る。

ミーナ「サーニャさん! 無理せずに下がって!」

サーニャ「ハァ……まだ……ハァ……いけます……!」

疲労は隠せないが、引くわけにはいかない。
サーニャは改めてフリーガーハマーを構え直した。




シャーリー『くそっ! ちょこまかと動き回りやがって!』

ペリーヌ『固有魔法で一掃しようにも、こう広範囲に展開していては……!』

インカムからウィッチーズの苦戦している様子が伝わってくる。俺はそれをハンガーの外で聞いていた。

俺「みんな、大丈夫なのか……?」

俺が目を凝らして敵のいる方角を見ると、黒っぽい何かから赤いビームのようなものが発射されているのがわかる。
戦闘開始直後は見えなかったが、戦場が近付いたおかげで基地からも戦闘の光が見えるようになったのだ。

ルッキーニ『このままじゃ、基地も俺もやられちゃうよ!』

ルッキーニの言葉を聞き、俺は己の心臓が一際大きく脈打つのを感じた。
体中がかっと熱くなり、こめかみがずきずきと疼いてくる。

俺「あんな女の子達が戦っているのに……!」

俺はウィッチーズのメンバーの顔を思い出した。
一番年齢が高そうな坂本やミーナでさえ十代後半、ルッキーニやサーニャなんて十二、三歳くらいだ。
そんなまだ子供としか言えないような女の子が、自らを危険に晒してまで戦っている?

俺「俺は何をやっているんだ……!」


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彼女達とは縁もゆかりもない。
夢や守りたいものがあるわけでも無い。
それでも、うまく言葉に表せない何かが自分の中で暴れている。

俺「理由なんて──知ったことか!」

そう叫ぶと、俺は全速力で走り出した。足は無意識にハンガーを目指している。
俺はハンガーに飛び込むと、隅にあったストライカーユニットの発射台の側へ駆け寄った。発射台の上によじ登り、何のためらいもなくユニットを装着する。
装着すると、使い方が自然と頭に浮かんでくる。何故分かるのか、とは考えなかった。
エンジンを起動させ、徐々に出力を上げていく。すると、床に青白く輝く魔力フィールドが現れた。
ロックを解除し、自由になった体がフィールドの上を滑るように加速していく。

俺「飛べえぇぇぇぇぇぇぇ!!」

小さくなっていく滑走路を眼下に、俺は戦場へと飛び立っていった。




ミーナ「何ですって!? いったいどういうことなの!?」

基地からの連絡を受け、ミーナは声を荒げた。

芳佳「ミーナ隊長、どうしたんですか?」

ミーナ「基地から連絡があったの。誰かが勝手にストライカーユニットを装着して飛んでいったらしいわ」

坂本「基地にはウィッチは誰も残っていないはずだが……まさか!?」

坂本は基地の方向を振り返り、接近してくる者の正体を魔眼で確認した。

坂本「俺!?」

ウィッチーズが基地の方へ振り返ると、そこには確かにこちらへ飛んでくる俺の姿があった。

芳佳「え!? 俺さん!?」

ルッキーニ「ほんとだ! 俺ー!」

ところが、俺の存在に気付いたのはウィッチーズだけではなかった。
ネウロイ達が一斉に俺に向かい始めたのだ。
だが、俺は怯むどころか、ネウロイの集団へ一目散に向かっていく。

バルクホルン「あいつ……! 何か策でもあるというのか!?」

エーリカ「いや、多分飛ぶのに精一杯で方向転換できないんだと思う」

シャーリー「やばいぞ! 俺のやつ武器も持ってないじゃないか!」

小型ネウロイが俺に向かってビームを放つ。
俺は本能的にビームに向かって手をかざした。間一髪、ビームが当たる寸前にシールドを展開し、防御に成功する。

坂本「俺はシールドを張れるのか……」

坂本が安心したようにつぶやく。一方、ミーナは厳しい表情を崩さず、皆に指示を飛ばした。

ミーナ「各員、俺さんを援護して!」

ウィッチーズが小型ネウロイに向かって攻撃を仕掛ける。
その中を俺がシールドを展開させたまま、大型ネウロイへ突っ込んでいく。
大型ネウロイがビームで迎撃してくるが、俺はそれをシールドで受け止め、さらには押し返していった。

エイラ「アイツ、ビームを押し返してるゾ!?」

坂本「なんて強力なシールドだ……。強度は宮藤以上だな」

大型ネウロイはビームだけでの迎撃を諦めたのか、ビームを撃ちながら俺に向かって突進していく。
俺はそれに真正面から立ち向かっていった。

ペリーヌ「いくらなんでも無茶ですわ!」

ルッキーニ「俺ー!」

そして、俺のシールドと大型ネウロイが凄まじい音を立ててぶつかり合った。
両者の動きが止まり、お互いの力が拮抗する。

俺「ここから——」

俺がかっと目を見開き、溜め込んだ感情を爆発させるように叫んだ。

俺「ここから、いなくなれえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

目の前の光景は現実なのか?
俺を除く誰もがそう思った。
何倍もの大きさの大型ネウロイを、俺が凄まじい勢いで押し返していくのだから。
数瞬唖然としていたウィッチーズだったが、坂本がいち早く我に返って指示を飛ばす。

坂本「奴らの陣形が崩れた……! バルクホルンとハルトマン、サーニャとエイラは大型を攻撃しろ! 残りは小型を大型に近付けさせるな!」

ウィッチーズ『了解!』

坂本「ミーナ、私はコア破壊の指揮に向かう。そちらの指揮を頼む」

ミーナ「ええ、任せて」

坂本は改めてコアの位置を再確認し、攻撃の指示を出そうとした。だが、俺がネウロイを押し返し続けているので攻撃ができない。

坂本「俺! 射線から退避しろ!」

坂本が言うと同時に、俺がネウロイを弾き飛ばして離脱する。

エイラ「アイツ、さっきより飛び方がうまくなってないカ?」

エーリカ「まだぎこちないけど、動き回れるようにはなったみたいだね」

坂本「よし、攻撃開始!」

エイラがネウロイの周囲を飛び回りながら攻撃し、サーニャがフリーガーハマーを撃ち込んで打撃を与える。
すると、サーニャの攻撃によって装甲が大きくえぐれ、赤く輝くコアが露出した。

坂本「コアが見えた……! バルクホルン!」

バルクホルン「了解! 行くぞ、ハルトマン!」

エーリカ「了解! 先に行くよ〜!」

エーリカがネウロイの表面スレスレを飛行して敵の攻撃を引きつけ、その隙にバルクホルンが両手のMG42でコアを狙う。
バルクホルンの放った弾丸がコアを打ち砕くと、ネウロイは白い破片となって崩れていった。

坂本「敵大型ネウロイ撃墜。サーニャ、周囲に敵機の反応はあるか?」

サーニャ「反応ありません。小型機も全て消滅しました」

坂本「そうか。……ところで俺、お前飛べたのか?」

少し離れていた所であたふたと浮かんでいる俺に坂本が問う。
が、俺は何故か口をパクパクさせているだけで答えない。

エーリカ「あ。俺に音声の送り方教えてなかったんだった」

エーリカが俺に近付き、インカムの使い方を教え、ついでに手を引っ張って坂本達の近くに連れてくる。

俺「飛べたっていうか、やってみたらできたって感じですけど……」

エーリカ「へ〜、初めてなのにすごいね」

坂本「他にも聞きたい事は色々あるが……基地に戻ってからにするか」

その後、坂本達はミーナ達と合流し、基地へ帰還した。
ちなみに、俺はエーリカとルッキーニに手を引かれて基地へと戻った。


          ●


ミーナ「さて、俺さん。あなたは民間人でありながらストライカーを無断使用し、さらには戦闘空域へ乱入しました。間違いありませんね?」

基地へ帰還した直後、ミーナは俺に問いただした。

俺「はい。間違いありません。処罰されるのも覚悟しています」

俺はミーナの目をまっすぐに見つめ、静かに答えた。
俺の言葉に芳佳やルッキーニが不安そうな顔をする。

ミーナ「いえ、処罰する気はないわよ?」

俺「え?」

ミーナの意外な言葉に、俺はぽかんと口を開けた。
くすくすと笑いながら、ミーナは言葉を続ける。

ミーナ「俺さんが大型ネウロイを押し返してくれなかったら、きっと基地まで攻め込まれていたわ。そうしたら人や施設にまで被害が出ていたかもしれない」

坂本「その功績に免じて、今回はお咎め無しということだな」

芳佳「安心しましたぁ〜」

ルッキーニ「よかったね、俺!」

芳佳達が安堵の声を上げる。
俺も表情を和らげたが、すぐに顔を引き締め、ミーナに話しかけた。

俺「ところでミーナさん、昨日のお話ですが——お受けしようと思います」

シャーリー「俺、決心がついたのか?」

俺「ああ。この世界で生きていく以上、ネウロイと無関係ではいられないんだ。それに……」

エーリカ「それに?」

出撃前、自分を突き動かしたあの衝動が、今は何故かおぼろげにしか感じられない。

俺「(……どんな感じだったっけ?)あー、ほら、女の子だけに戦わせるわけにいかないだろう?」

結局、俺はあの時感じた衝動を説明することが出来ず、適当なことを言ってその場を誤魔化した。
俺の言葉を聞き、全員が一瞬きょとんとした顔をする。

坂本「はっはっはっ! 気に入った! 男はそうでなくてはな!」

坂本が豪快に笑いながら俺の肩をばしばしと叩く。
その光景に笑みをこぼし、ミーナは俺の前へと歩み寄った。

ミーナ「わかりました。俺さんの入隊を許可します。ようこそ、ストライクウィッチーズへ!」

俺「俺です。よろしくお願いします!」

俺は背筋を伸ばし、ミーナの言葉に答える。
この日、俺は連合軍第501統合戦闘航空団『STRIKE WITCHES』に入隊した。
最終更新:2014年10月22日 23:42