その日、501メンバーと俺は朝からブリーフィングルームに集合していた。
全員が座っているのを確認し、ミーナが口を開く。
ミーナ「みなさん、おはようございます。俺さんが正式に入隊したので、改めて紹介しますね」
俺「俺です。改めてよろしくお願いします」
俺が初戦闘を経験してから数日が経っていた。
その間に俺はミーナと共に軍本部へ赴き、報告や書類の手続き等を済ませ、本日正式にウィッチーズに配属されることとなったのだ。
シャーリー「俺のことはどこから来たって報告したんだ?」
ミーナ「本当のことは言えないし、記憶喪失という事にしたわ」
ミーナが苦笑しながら言う。その言葉に坂本はくすりと笑って頷いた。
坂本「容易に信じられる話ではないし、妥当な線だな。ありきたりではあるが」
ミーナ「無国籍なので扱いは義勇兵、階級は軍曹ね。同じ階級の宮藤さんとリーネさんが面倒を見てあげてちょうだい」
宮藤&リーネ『了解!』
ミーナ「では、これで解散とします」
ミーナが部屋を出ていくと、俺の回りにシャーリー達が集まってくる。
シャーリー「これからよろしくな、俺」
俺「よろしくお願いします、イェーガー大尉」
シャーリー「なんだよ、自分が軍曹だからって敬語使ってるのか? そんなの気にしないでシャーリーって呼べって」
ルッキーニ「あたしもー!」
ルッキーニの言葉に芳佳やリーネ達が続く。
バルクホルンはそれを苦々しそうに見つめていた。どうも軍の階級を軽く見ているのが気に入らないらしい。
バルクホルン「ここは最前線の軍事基地であって小学校ではない。あまりはしゃがないことだ」
それだけ言うと、バルクホルンはブリーフィングルームから出て行った。
シャーリー「俺、あまり気にするなよ」
シャーリーのフォローに俺は笑って応えるものの、その表情は少しぎこちない。
そして、ペリーヌはそれを少し複雑な心境で見ていた。
ペリーヌ(私も大尉と大体同じ意見なのですが……)
ペリーヌはバルクホルン程辛辣に言うつもりはなかったため、なんだか言い出し辛くなってしまっていたのだ。
エイラ「なんだよ、ツンツン眼鏡もなんか文句あんのカ?」
ペリーヌ「わ、私は別に……。そそ、そういえば、俺さんの使い魔は何ですのっ!?」
結局、ペリーヌは本心を言い出せず、違う話題でその場をごまかした。
俺「使い魔?」
坂本「使い魔というのは、ウィッチが魔法を使用する時にサポートをしてくれる存在のことだ」
シャーリー「俺もこの間の戦闘の時は黒っぽいのが頭に生えてたよな。あれだよあれ」
俺は精神を集中させ、魔力を引き出すイメージを脳裏に描く。少し時間はかかったものの、俺はなんとか耳を出すことができた。
サーニャ「これ……カラスですか?」
リーネ「ワタリガラスですね。ブリタニアでは王室の守り神とされてる鳥なんですよ」
エーリカ「いつの間に契約したのー?」
俺「全然覚えがないんだけど……」
ペリーヌ「この分じゃ固有魔法も持っているかどうか怪しいですわね……」
俺「固有魔法って……芳佳の回復とかですか?」
坂本「そうだな。例えば私は魔眼が使えるし、ペリーヌは電撃、エイラは未来予知と各個人で違う能力を持っている」
非常に珍しいことだが、ストライクウィッチーズのメンバーは全員固有魔法を持っている。
自分だけがそれを発現できていないという現実が、俺の心を少し重くした。
俺「俺にもそれを使えるようになるのかな……」
芳佳「きっと俺さんにも固有魔法が使えるようになりますよ!」
シャーリー「最初は使えなくても後から使えるようになるって事例もあるらしいからな」
坂本「よし、そのためにも俺は今日の午後から早速訓練だ。ああ、その前に宮藤達は俺に基地を案内してやってくれ」
芳佳&リーネ『了解!』
●
午後になると、俺にとって初の軍事訓練が始まった。
訓練の準備を終えた俺、そして芳佳とリーネの3人が坂本の前に整列する。
坂本「まずは体力作りだ。手始めに滑走路をダッシュで往復10本。では始め!」
坂本の号令で俺は芳佳達と同時に走り出した。
坂本「宮藤! お前達の目の前には何がある!?」
芳佳「海です!」
坂本「リーネ! 海の向こうには何がある!?」
リーネ「ヨーロッパです!」
坂本「俺! ヨーロッパは今どうなっている!?」
俺「わかりません!」
坂本「『ネウロイに占領されている』だ! 俺はダッシュ10本追加!」
俺「了解!(わかるかそんなの!)」
走り込みに続き、腕立て伏せ等の筋力トレーニングを終えると、今度は射撃訓練が始まった。
先に坂本が手本を見せ、それを真似て俺達が撃つ。
リーネが的確に的を狙い撃ち、芳佳はそれまでの訓練のおかげか、それなりの成績を出すことができた。
一方、初心者の俺はほとんど的に当てられない。
それをみかねた坂本がもう一度手本を見せる。
坂本「いいか、射撃は瞬発力と集中力の勝負だ! 根性入れて撃てば必ず当たる!」
俺(え、なにそれ)
訳の分からないアドバイスに困惑する俺を尻目に、坂本が再度的を狙う。
坂本「くらえぇぇぇぇぇい!」
坂本の叫びと共に弾丸が的へと飛んでいく。すると、弾は全て的の真ん中に命中した。
坂本「こんな感じだ。だが、初撃が当たっても油断するな。トドメを忘れないようにしろ」
3人『了解!』
射撃訓練終了後、今度はストライカーユニットを使った空中戦の訓練をすることとなった。
俺「うお、わ、おっとっと……」
芳佳とリーネが時々バランスを崩す俺をフォローしながら規定されたコースを飛んでいく。
リーネ「そうそう、そんな感じです」
芳佳「俺さんいい感じですよー」
坂本「こらそこー、何をちんたらやってるかー」
その後、ふらふらしながらもなんとか訓練を終えた俺達は、ストライカーユニットを装着したまま滑走路に倒れ込んだ。
坂本「まぁ、こんなものか。よし、今日の訓練はここまで。解散!」
坂本はへばっている3人を放ったまま、一人でさっさと基地へと帰っていく。
俺「あー、疲れた。芳佳、リーネ、動けるか?」
芳佳「はぁ、はぁ……俺さん、もう動けるんですか……?」
リーネ「私は無理です〜」
俺「ほら、手を貸すから。立てるか?」
俺に手を貸してもらい、芳佳とリーネはなんとか基地へと戻っていった。
●
そしてその夜。
俺は談話室でミーナ達からレクチャーを受けていた。
朝のこともあり、内容は魔法に関する知識、この世界の歴史、現在の戦況等についてだ。
教えられた情報を頭の中で整理しながら、俺は自分の世界の出来事と照らし合わせる。
俺(所々歴史に違いはあるけど、大まかな流れは大体同じ。やっぱり最大の違いはネウロイと魔法の存在か……)
この世界では太古の昔からネウロイと思われる怪異が出現していたらしい。記録によると、あの有名なナポレオンが怪異と戦ったらしいというから驚きだ。
俺(そしてパンツ……。いや、ズボンか。違いがよくわからないけど)
エーリカ「俺、どうかしたの?」
俺「いや、何でもない」
放っておくと下がりそうになる視線を強引に引き上げる。
これに関しては気にしないようにするしかないだろう。
ミーナ「ところで俺さん、俺さんの世界の話を聞いてみてもいいかしら?」
俺「ええ、いいですよ。では、とりあえず俺の世界の歴史について簡単にお話します。大まかな流れは大体同じみたいですが、1944年ごろはネウロイとではなく、人類同士で戦争をしていました」
シャーリー「ネウロイがいないのに人間同士で戦争してるのか。考えられないなぁ」
ミーナ「信じられない……と言いたいところだけど、あながちあり得ない話じゃないわね」
立場上、ミーナは各国の軍関係者と会う機会が多く、きな臭い話をよく耳にすることがある。
そのことから考えれば、この世界が今頃俺の世界と同じ道を歩んでいても何ら不思議ではない。
俺「そして約100年後、宇宙への移民が開始されたあたりに西暦から宇宙世紀に変わったそうです」
坂本「宇宙への移民か……。私達の世界ではまだまだ先の話だな」
俺「そして宇宙世紀0079。この年、一年戦争と呼ばれる戦争が起きて、その時の被害は──」
視界に芳佳やルッキーニを捉えた瞬間、俺は急に言葉を止めた。
坂本達が不思議そうに俺を見つめる。
俺(子供に聞かせるようなことじゃないか)
もっとも、ルッキーニは歴史の話など興味なさそうな顔をしていたが。
リーネ「俺さん?」
俺「ああ、ごめん。ともかく、その後もデラーズ紛争、グリプス戦役、第一次、第二次ネオ・ジオン抗争と戦争が続いて、ついこの間もラプラス戦争とかいう戦争があったんだ」
具体的な被害などを省略し、俺は手短に話を締めた。
エーリカ「なんか殺伐としてるね」
芳佳「なんでそんなに戦争ばっかりするんでしょう……」
俺「理由は色々あるけど、どれも普通に暮らしている人達には関係ないようなことばかりさ。それはともかく、俺の世界の歴史についてはこんなところかな。何か他に聞きたいことはあります?」
シャーリー「えっと、それじゃあ俺の──」
その後、俺達の雑談はルッキーニが眠くなるまで続けられた。
●
俺が訓練を受け始めて数日が経ったある日。
芳佳とリーネが洗濯物を干している後ろで、坂本はミーナと共に空を見上げていた。
その上空では、エーリカとバルクホルンが飛行訓練をしている。
坂本「バルクホルンのやつ、乗れてないな」
ミーナ「ええ、遅れがちね」
二人の視線の先では、エーリカの動きにバルクホルンが呼応するように飛んでいる。だが、バルクホルンの動きは少々遅れ気味だ。
坂本「体調でも崩したのか? 次のシフトからは外すべきだろうか……」
ミーナ「エースが使えないとなると、少し不安ね」
坂本「他が使えるようになったとはいえ、火力が不足するな」
ミーナ「何かが気になっているみたいなの。宮藤さんが来てから……」
坂本「宮藤が? ……組ませてみるか」
坂本は視線を正面へと向ける。そこには、バルクホルン達の訓練を見つめる芳佳とリーネがいた。
ミーナ「ところで、俺さんの方はどうなの?」
坂本「基礎体力については合格だ。おそらく、以前からトレーニングをしていたんだろう」
坂本達には話していなかったが、俺は以前、軍を志していたこともあって体を鍛えていた。
家族を失い、軍を諦めた後も、習慣となっていたそれは続けていたのだ。
坂本「射撃や飛行技術に関してはまだまだだが、筋はいい方だ。……だが、そういうことだけを聞きたいわけではないだろう?」
ミーナ「ええ……。怪しいところは無いの?」
ミーナは依然として俺を疑っていた。と言っても、本気で疑っている訳ではない。
しかし、組織を束ねる者として、用心深くあらなければならないのも事実だ。
坂本「特に無いな。むしろ期待していた通り、このままいけばいい戦力になってくれそうだ」
ミーナ「そう……。じゃあ、当面の問題はこちらかしら……」
ミーナは再びバルクホルン達の飛ぶ空を見上げ、小さく呟いた。
●
俺「……どうしよう」
俺は手にした包みを見つめて困惑していた。
中身は先程ミーナに貰った半月分の給料だ。
エーリカ「私お菓子買おっと」
シャーリー「これで欲しかったパーツが買えるよ〜」
俺以外のメンバーは既に使い道が決まっているようだが、俺は使い道どころか金銭の価値自体がわからない。
俺「なあ、10ポンドってどれくらいの価値なんだ?」
シャーリー「んー、口で説明するのはちょっと難しいかなぁ。街に出て店でも回ってみれば分かるんだろうけど」
ミーナ「それなら丁度足りない物資があったから調達してきてくれるかしら。すぐに外出許可証を発行するわ」
芳佳「じゃあ私も行っていいですか? お給料を実家に送りたいと思っていましたし」
シャーリー「車の運転ならあたしができるから、道案内は……リーネに頼むか」
リーネ「はい。任せてください」
ミーナ「じゃあ許可証は4人分ね」
エーリカ「お土産はお菓子がいい!」
ルッキーニ「あたしもあたしもー!」
かくして、俺を含む4人が外出する事となった。
ロンドンに着くと、4人はまずミーナから頼まれた物資の調達を行い、それから色々な店を見て回る事となった。
しかし、思ったよりも物資の受け取りに時間がかかってしまったため、店を何件か回っただけですぐに帰る羽目になってしまっていた。
シャーリー「お〜、意外とうまいじゃないか」
俺「ああ、基本は変わらないみたいだからな」
その帰り道、車を運転しているのはシャーリーではなく俺だった。
シャーリーに運転の仕方や車の仕組み等を教えてもらい、人通りの少ない道に差し掛かってから運転を交代したのだ。
きっかけは俺がこの時代の車に興味を持った事だ。
俺「違うのはシフト操作くらいか。さすがにこの時代にオートマは無いよなぁ」
シャーリー「でもさ、こうやってマニュアルで運転する方が運転してるって感じするだろ?」
リーネ「あのぅ……それ以前にこれって無免許運転なんじゃ……」
俺「……大丈夫だよ。多分」
リーネの指摘を適当に流し、俺は車を運転し続ける。
ちなみに芳佳は基地に着くまでずっと眠っていた。
●
基地に着き、夕食を終えた後、俺達は留守番をしていたメンバーにお土産を渡していた。
芳佳「お土産のお菓子ですよ〜」
エーリカ「わーい! お菓子だー!」
俺「もう夜なんだから食べ過ぎるなよ。ほら、これはエイラとサーニャの分だ」
エイラ「おー、俺気が利くじゃないカ」
サーニャ「ありがとうございます」
芳佳「はい、これは坂本さんとミーナ中佐の分ですよ」
ミーナ「ありがとう、宮藤さん」
坂本「すまんな、宮藤。そうだ、お礼に風呂で背中でも流してやろう」
坂本がそう言うと、ソファに座っていたペリーヌが勢い良く立ち上がった。
ペリーヌ「みっ、宮藤さん! あなたという人はどれだけデリカシーがないんですのっ!」
芳佳が悪い訳ではないのだが、何故かペリーヌは芳佳に詰め寄り、激しい勢いで責め立てる。
ペリーヌ「大体あなたという人は! 食事には腐った豆を出すは! モップを頭にぶつけるは! 紅茶は音を立てて啜るは! 挙げ句の果てに少佐とお風呂ですって!? この田舎者の豆狸!」
俺「あー、あれ納豆って言ったっけ? 食べてみると意外と美味しかったぞ?」
坂本「そもそも、風呂のことは私から言い出したんだが」
坂本に冷静な切り替えしをされ、ペリーヌは一瞬たじろいだ。
一方、まくし立てられた芳佳はしばらくぼーっとしていたが、やがて気がつくとペリーヌに言い返した。
芳佳「坂本さんとは同じ国ですし……ていうか、豆狸だなんてあんまりです!」
ペリーヌ「大体! 何故軍曹のあなたが坂本少佐をさん付けで呼んでいるんですの!」
芳佳「坂本さんがそう呼べって言ったんです!」
ペリーヌ「だから!少佐とお呼びしなさいと……!」
周りの仲裁の声を無視し、二人の言い争いがヒートアップしていく。
その時、ミーナが口を開いた。
ミーナ「二人とも、落ち着きなさい」
静かに響いたその一言に、一瞬でその場が静まりかえった。
俺(なんだこれは……プレッシャー?)
俺が感じている重圧を他のメンバーも感じているらしく、皆押し黙ったまま身動きをとれないでいる。
ペリーヌに至っては小さく震えてさえいた。
芳佳「ごめんなさい」
ペリーヌ「……ごめんなさい」
ミーナ「はい、これで喧嘩はおしまいね」
ミーナが喧嘩を収めると、その場の空気が目に見えて弛緩する。
俺「えっと、バルクホルン大尉は……」
気を取り直した俺は、お菓子を持ってバルクホルンの姿を探す。
だが、談話室の中に彼女の姿は見当たらない。
エーリカ「多分部屋にいるんじゃないかな」
俺「じゃあ俺が持っていくよ」
エーリカ「あ、ちょっと待──」
エーリカが止めようとしたが、俺はその前に部屋を出て行ってしまう。
上げかけた手を下ろし、エーリカは心配そうに呟いた。
エーリカ「俺大丈夫かなぁ……」
最終更新:2014年10月22日 23:43