弟「なんでお前なんだよォ!」

隣の部屋から壁を突き抜けて聞こえてきたのは俺の弟の怒号だった。

俺はどうしたどうしたとノックもせずに部屋のドアを開けると、テレビに凄まじい剣幕を向け、怒りとやるせなさに震える弟の哀しみが露わになっていた。

弟「なんでだよォ…!」

テレビから流れる映像を見てみると、それは弟が録画していた深夜アニメらしく、どうやら弟のお気に入りだったヒロインがポッと出の男キャラと恋愛関係になってしまったようだった。

男女キャラのキスシーンに嗚咽する我が弟。

弟「ぐわぁー!」

俺は大爆笑した。腹が痛すぎた。

当然、弟も半ば冗談でやった行動だったので笑っていた。
自分達は二人ともアニメが好きだから、兄弟としては打ち解けている方だったと思う。

それから5年経ち、俺が就活に失敗し堕落した生活をしていたある日。

大学を欠席して引きこもっていたらしい弟は、下宿先のロフト付きアパートの手摺にポリプロピレンロープを巻きつけ、首を吊り自殺した。

自分の家族にそんなことが起こるとは到底思えなかった。

葬儀から2ヶ月後、家族の今後を考えると自分の部屋にいるのが苦痛で仕方がない。
両親の心配を押し切って、家を出て散歩してくると言い、深夜の土手を走った。

就活に失敗した俺は弟の死がきっかけで、生きていく不安がより溢れ出た。だが会社を探すわけでも社会復帰するわけでもない。ただ自棄になっただけだった。

この片道しか考えていなかった夜の土手で、ありえない奇跡起きて欲しいと、心のどこかで願って。

そして、奇跡は起きた。

だけど――


――


――夜、司令室にて――

坂本「彼も大分この基地に慣れてきたみたいだな」

ミーナ「でも最初は本当に驚いたわ…まさか男の人がウィッチーズ隊のウィッチになるなんて…」

坂本「…私の見る限り、あいつは相当な魔法力と技術を持っている。珍しい男のウィッチなだけあって、素質は十分だ」

ミーナ「そうね…その魔法力のせいか、上層部も彼さんに注目している…何か裏がなければいいけど……そうだわ、美緒。明日この基地に研究中だった新型のストライカーが届くのだけど、カールスラントの試作機で――」


――早朝、男性兵用共同寝室にて――

俺「……んっ、もう朝か…」

目が覚める。

もはや現実の世界を思い出しても、そっちが夢に感じてくる。他の隊員を起こさないように、俺はベットから下りて服を着替えた。今日もまた、いつものように雑用の作業だ。
あれから、彼と宮藤のやりとりを見てから、思いもよらないほど辛い日々へと変わっていった。

初めの内はアニメの世界を目の当たりにする感動に身が響いていたが、今は特に感じない。中々多忙な軍の雑用をしているので、もう疲労のほうが強く浮き出る。
朝勃ちもしていないのが異常だ。

そんなことより、なにより俺は宮藤が好きだった。でも、それはもう叶わないだろう。 彼とは縮めることの出来ない差がある。生まれついての才能も、力も。

ここにいたって、元の世界にいたって、どうせ俺は………

俺「……とりあえず、ランニングするか…」

今の気分からして、今日は少し長めに走ろうかと思う。疲労はあるものの、日課であるランニングは続けている。あの浜辺は、いつも坂本に会えるからだ。

俺「……よし」

俺はドアを開け、外に出る出口へ向かった。


――ハンガーにて――

おじさん「おい、俺、こっちだ、手伝ってくれ」

通りかかったハンガーで、相変わらず早起きなおじさんが声を掛けてきた。

俺「どうしたんですか」

おじさん「新型のストライカーが届いたんだ。ノイエ・カールスラントからだ」

新型のストライカー?……それって…4話のジェットストライカーのことか?

俺はおじさんのいるところへ走って行った。 両翼にエンジンを搭載している真っ赤なストライカーユニット、そして大きな砲身の武器が並べてある。

おじさん「Me 262 v1。どうだ、なかなかイカしてるだろ。レシプロとは違うタイプだ」

俺「はい…(ジェットストライカーだ…ってことは今は4話あたりまで時間が経過してるってことか…)」

おじさん「整備やチェックもしなくちゃならない。ということで、今から整備工具と機材を一緒に運んでくれ」

俺「…あ、はい」

今日はどうやら走れそうにない。 俺はそのまま、おじさん指揮による作業に移った。

現実の世界では502のアニメ化も決まっているというのに。

今更だが、とても懐かしい感覚。


――基地周辺浜辺にて――

坂本「はッ…!はッ…!」

剣を振るう坂本は一度力を抜き、周りを見渡した。

坂本「……今日は来てないのか」


――整備終了後、ハンガーにて――

シャーリー「なぁなぁ、これ私に履かしてくれよ!」

バルクホルン「いいや、私が履こう!」

シャーリーとバルクホルンが新型ストライカーをかけて言い争う。

ミーナ「また始まったわ…」

坂本「しょうがない奴らだ…」

ルッキーニ「…ぃいっちばーん!」

ハンガーの鉄骨の上で寝ていたルッキーニが飛び降りてきて、ジェットストライカーを履いてしまった。
しかしストライカーから電撃が流れ、すぐさま飛び跳ねる。

バルクホルン「?」

ルッキーニ「なんかびびびってきたぁ~…!」

シャーリー「ビビビ?」

ルッキーニ「シャーリー…履かないで…」

ルッキーニの頼みに、シャーリーは答えた。

シャーリー「やっぱ私はパスするよ。考えてみたらレシプロでやり残したことがあるしなぁ」

バルクホルン「フッ…怖じ気づいたな。まぁ見ていろ…私が履く!」

バルクホルンがストライカーを履き魔法力を発動すると轟音が響き、地面が震動した。

バルクホルン「どうだ!今までのレシプロストライカーで、こいつに勝てると思うか?」

シャーリー「なんだと!?」

ミーナと坂本が呆れて、エーリカがあくびをする。

宮藤「みなさ~ん!こんなところにいたんですかー?」

リーネ「朝ご飯の支度ができましたよー」

彼「…って、何やってるんだ?」

言い争いの末、二人のストライカーでの勝負が始まった。


――夕方、ハンガーにて――

宮藤「夕食は肉じゃがですよ~!」

シャーリー「んん~、私は料理のことはよく分かんないけど、宮藤の作る料理は何でもおいしいな!」

ペリーヌ「それにしても、どうしてこんな油臭いところで食事することになるのかしら…」

エイラ「だから文句いうな」

サーニャ「おいしい…」

彼「うん、おいしいな。やっぱり宮藤の料理を食べると何か安心するよ」

宮藤「え…えへへ…」

エイラ「オッ、ミヤフジ…顔が赤いな…」

宮藤「え、エイラさんっ?!」

楽しそうな声が反響して俺の方にも聞こえてくる。

俺「……はぁあ(あっちは楽しそうだな……)」

リーネ「あっ……」

俺「ん?」

リーネが俺を見ている。そしてぎこちなく笑った。
と思いきや、少し申し訳無さそうな顔をして伏せた。

…あー…前のあの、謝罪合戦の会話で、俺が宮藤に叶わぬ恋をしてしまったと…やっぱりなんとなく気付かれているのか……それであんな顔を…

夕食を食べているウィッチ達から離れたところに、食事を持った俺が突っ立ている。 おじさんがジェットストライカーの整備に掛かりっきりのため俺は食事を運んできた。

俺「…本当にいいんですか?バルクホルン大尉、あんなにやつれちゃってますよ?」

おじさん「こいつはただのストライカーじゃないのは確かだ。だが、大尉の頼みとなれば、断るわけにもいかんだろ」

俺「そうですか…」

ここまでの展開からすると、きっとバルクホルン大尉は魔法力切れで墜落してしまう。
いや、しかし本編では結果的に良い方向に向かうわけだし、下手に手を出して未来を変えるのは気が引ける。
今の俺が水を差して展開を変えてしまったら、ウィッチ達や多くの兵士達に予期せぬ被害を与えてしまうかもしれない。それは駄目だ。

おじさんに食事を渡し、俺は頼まれていたドラム缶を外に置いてから自分の作業に戻った。


――夜、廊下にて――

朝に走れなかったため、この就寝までの休憩時間に浜辺へ走りに行こうとしていた。

リーネ「あの……」

俺「え?……リネット曹長?」

後ろから誰かに呼び掛けられたかと思ったら、リーネが何か言いたげそうに立っている。

え…な…なんだ…?

リーネ「あっ…あの…」

男が苦手なのによく話しかけれたな…しかも俺なんかに…嬉しいけど。

俺「…なんでしょうか?」

リーネ「その……や…」

俺「や?」

リーネ「やっぱり芳佳ちゃんのことを俺さんは…」

俺「…………いや、まさかそんなわけ…」

突然なにを言い出すんだよ…

でもなんでだろう…リネット曹長とはそこまで緊張せずに話せる。冷静に考えれば相手は15歳で、歳に割と差があれば、そりゃ話せるよな…そうか。

俺「大好きでしたよ」

リーネ「へっ?」

俺「そうです」

リーネ「……あ…あ…あのぉ」

「好きなわけない」と言おうとしたが、いっそのこともう正直に言ってしまおうと決めた。どうせ叶わないんだ。

リーネ「そのその…それって…」

俺「いや…もう諦めてます。前にリネット曹長も仰った通り、俺は彼少尉と宮藤軍曹のお二人を応援してます」

リーネ「……そ、そうですか…」

俺「それにこの501は…厳しいじゃないですか、その、恋愛というか、ウィッチと他の兵士がそうなったりするのは。だから潔く諦めました」

リーネ「…その、私も」

俺「あ、別にリネット曹長が気にすることでは勿論ありません。こっちが、勝手に惚れて、勝手にフラれたんですから…」

少しの沈黙の後、リーネが微かに笑った。

俺「!?…わ、笑わないでくださいよ…俺だって割とショックなんですから」

リーネ「えへへ…ごめんなさい」

俺「あ、こちらこそ謝らせてごめんなさい…」

リーネ「あの…俺さん……一緒に、応援しましょう」

俺「……あぁー、はい…」

また同じこと言われた…というか、リーネってこんな性格だったっけ…?

一緒に応援しようだなんてフォローになっていないけど、彼女の提案の仕方は可愛いので当然同意してしまう。

ただその笑顔は、わざと作ったような、少し影が落ちていることに気が付いた。

この顔は何処かで見覚えがある。

リーネを初めて間近で見た時のは、あの食料庫だったっけ…確かあの時……

俺「…リネット曹長、一緒に外へ行きませんか?」

リーネ「外ですか…?」

俺「この後、自分は習慣というか、訓練で浜辺を走ろうとしていたので」

って、何誘ってんだ…!?気持ち悪いな俺……

俺「…し、失礼しました!こんなの許されるものではありません、では!」

俺はあたふたして早口になり、直ぐさま振り返ってその場から離れようとした。

リーネ「あのっ、俺さん…!」

俺「……は、はい…」

リーネ「今日は遅い…ですけど…明日でしたら」

俺「…え?」

リーネ「また、私と一緒に話してくれませんか…?」

俺「……」

この世界に来れて、やっぱり良かったのかもしれない。


――翌日、基地の外にて――

ジェットストライカーを履いたバルクホルンが、おかしな軌道を描いて海へ墜落する。 すぐさま救助が行われ、看護室へ運ばれた。


――ハンガーにて――

おじさん「おれのせいだ……いくら大尉に頼まれたからって、危険なジェットを整備してなければ…」

おじさんが頭を落として落ち込んでいる。ジェットストライカーが鎖で巻かれていた。

俺「まぁ…大尉も無事だったことですし」

そのうちまた大尉がジェットストライカーを使うことになりますし…

その後、ネウロイの出現を伝える警報が鳴った。


――司令室にて――

ミーナ「目標はローマ方面を目指して南下中!ただし徐々に加速している模様!交戦予想地点を修正、およそ」

坂本『大丈夫だ。こちらも捕捉した』

宮藤、リーネ、彼の3名が待機を命じられ、坂本、シャーリー、ハルトマン、ペリーヌ、ルッキーニの5人が出撃した。

坂本からの通信が聞こえた後、レーダーに映るネウロイの数が増殖する

ミーナ「分裂した!?」

5対5の空中戦が始まり、シャーリーがコアのネウロイを狙う。しかし苦戦しているため、坂本が増援を要求した。

ミーナ「リーネさん、宮藤さん、彼さん!」


――ハンガーにて――

バルクホルン「お前達の足では、間に合わん!」

バルクホルンは魔法力を発動し、ジェットストライカーの鎖を引きちぎる。

彼「何をしているんです!ジェットストライカーを使う気ですか!?」

彼がストライカーを履こうとしたバルクホルンの腕を掴んだ。

バルクホルン「離せ、彼!こうしている間にも…!」

彼「…今のあんたの体力じゃ無理だ。間に合ったとしても、また墜落するぞ!」

彼の目が鋭く真剣になり、向き合う。

バルクホルン「しかし…」

彼「おれがジェットを使おう」

バルクホルン「なっ…」

リーネ「でも彼少尉…そんなことをしたら…」

彼「罰なら受ける。それに、こいつを履くことに興味があったんだ」

宮藤「…彼さん……」

彼「…この501で一番魔法力が高いのはおれだ。心配すんな宮藤。無事に帰ってくるから」

宮藤「…はい!」

リーネ「……」

彼「いくぞ…!」

ジェットストライカーを履いた彼は、瞬く間に大空へ駆け上がった。


――待機室にて――

俺を含めた男性兵達が待機している。

俺「…ん?(あれはジェットストライカー…ってことはバルクホルンが出撃したのか)」

窓の外を覗くと、ウィッチが高速で飛び立っていき直ぐに見えなくなった。

あぁ、これでネウロイも倒せて、やっと蒸し暑い待機室から出られる…

しかし溜息を吐きながら腰を上げ再度窓を見ると、空から急接近する異変に気付いた。

俺「えっ…?」


――司令室にて――

ミーナ「なっ!?基地周辺に、大量のネウロイが発生!」

何処から発生したのかも分からない多くのネウロイが、基地の周りを囲みながら侵攻してきた。

坂本『なに!?』

ミーナ「(まさか、美緒達が撃墜に向かったのは…囮!?)基地にいる全ての隊員は護衛に向かって!私も出撃するわ!」

基地に残った6人のウィッチ達が出撃する。

二度目の警報が鳴った――


――基地の周辺にて――

兵士「武器を用意しろ!どうして奴らすぐ近くに出てきたんだ…!」

基地の周りはすでにネウロイに囲まれてしまっている。基地にいる大勢兵士は、初の防衛態勢により必死になって戦闘準備に取り掛かった。

どういうことだ!?こんな展開は無いし……やっぱり、未来が変化しているのか……!?

「―――ぁぁあ!!」

ビームが降ってきて、地響きと爆風が粉塵を巻き上げた。

人の叫び声…だれか巻き込まれたのか…!?

『…き、基地の対空砲火が破壊されました!これでは』

兵士「くそ、手持ちの機銃で小型ネウロイを狙え!」

無線からも兵士達の必死な声が、ひっきりなしに聞こえる。

信じたくない光景が目の前に広がっていた。大量のネウロイが浮遊し、しかも基地めがけて攻撃している。

あの時と…同じ………戦争…

兵士「おい!銃を持て!」

俺「は…は……は…い」

目の前に映る多くのネウロイにより、火に包まれた街を思い出して俺は震えが止まらなくなった。恐怖で立ちすくんでいる。

先程の爆発が起こった場所へ向くと、何人かの兵士が地面に顔を伏せ倒れている。

基地はずっと安全だから、安心していられる。雑用でもいい、あんな怖いものと戦うよりマシだ。ウィッチ達がなんとかしてくれる。俺は死にたくない。誰よりも生き残りたい。
本当は心の中でそう思っていた。

隠しても隠しきれない。ネウロイを倒したい、もし魔法力があればと俺は自分に言っていたが、今は違う。

すぐに…逃げ出したい……早く、ここから……

兵士「あ、あっ、ウィッチがきたぞ!援護しろ!天使達に当てるなよ!」

6人のウィッチ達、昨日あんなに楽しそうに食事をしていた少女達がネウロイと戦っている。

俺「よ…よかった…」

宮藤たちだ…!

自分の命が助かることに、安堵を覚える。

しかし、

バルクホルン「くっ!……手強いな…!」

バルクホルンが大型の裏へ回り込み銃弾を撃ち込むが、ネウロイの装甲が堅く、ダメージを与えられない。

ミーナ「トゥルーデ!近過ぎよ!あなたはまだ回復していないのよ!?」

バルクホルン「しかし、今は少佐達が戻るまで耐えなければ……!」

サーニャ「打ちます…!」

フリーガーハマーが命中し、堅い装甲がはがれた。

ミーナ「今よリーネさん!そこを狙って!」

リーネ「はいっ!」

だがリーネの放ったライフルの弾は瞬時に回復した装甲に当たってしまう。

ネウロイは基地侵略を完遂するためか、今迄の敵機とは一線を越えた速度と性能を兼ね揃えていた

エイラ「弾いた!?」

ミーナ「再生速度が速い…!」

一度剥いた装甲がすぐに再生し、銃弾を弾く。これではコアを見つけるどころか、傷一つ与えることが出来ない。

攻撃を受けたため、ネウロイは更に激化し反撃する。
体勢を変えたネウロイが俺達がいるところをめがけて光熱線を放った。

大型ネウロイ「――!!!」

俺「…え」


死にたくな…い……――


涙が溢れ出た目を閉じて、自分の死を感じ、一瞬、自分の弟を思い出した――


宮藤「――はぁぁぁあ!!」

目を開けると、そこには宮藤が間一髪のところでシールドを張っている。

宮藤「早く…逃げてください!」

俺「あ……あぁ……」

そうだ…宮藤がビームを食い止めてくれている…いまのうちに逃げなくちゃ…助からない…

しかしシールドを張っている宮藤の真横に小型のネウロイが接近し、狙いを定めた。

俺「あっ…危ないっ!」

叫んだときにはすでにビームが放たれていた。宮藤が横からのビームに反応する。しかし、今シールドの位置をずらしたら俺に当たってしまうことを宮藤は分かっていた。

彼「宮藤ィィィィィィ!!」

その時、高速で飛んできた彼が横からのビームをシールドで防いだ。

宮藤「彼さんっ!」

彼「悪い、遅れた。しかしこんなことになってるなんて」

俺は彼がジェットストライカーを履いていることを知る。そうか、バルクホルンではなく彼が。彼と再会した宮藤の嬉しそうな顔が目に入った。苦しくなる。

俺「!…かっ、彼少尉ー!」

その時、彼の真下から、もう一体の小型のネウロイが迫り、俺は咄嗟に声を上げた。

だが、もう遅かった。

彼「うぁぁぁあ!」

ビームが右足のストライカーに命中し、彼が吹っ飛んだ。被弾によりジェットストライカーの不良が更に悪化する。彼の魔法力を吸い、基地の後ろの陸地まで、被弾部分から漏れる煙が不規則な軌道を描いて飛んでいく。木々が生い茂る森のところで見えなくなった。

彼が墜落した。

宮藤「…彼さぁぁぁぁぁんっ!」

俺はその一部始終を見ていた。墜落した彼と、泣き叫ぶ宮藤。

嘘だろ……でも、だからって…俺がいたって…何も出来ない……

俺は怖くなって、足が勝手に逃げ出していた――


俺「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…!」

さっきの光景で、俺は指先まで恐怖で震えていた。

どこかへ…どこか安全なところへ……!

基地の後ろへと走っていく。すると無線で聞いた、破壊された対空砲火の位置まで来た。俺はそのまま走って通り過ぎようとする。

そうだ、早く…逃げな――

「彼少尉はどこに墜落した!?」

「ここから三時の方向、約5km離れたところです!しかし車で救助に向かったとしても、ネウロイの的です!」

その兵士達の会話を聞いたとき、俺は立ち止まった。

彼の話だ…

彼が被弾した時、俺がもっと早くネウロイに気付いていればと自分を責めた。

でも……それと同時に心の奥底では、俺は喜んだんだ……彼が、いなくなるって……

そうすれば…宮藤はきっと……俺に……

諦めたのに…なんで…宮藤を

………

彼が…彼が……いなくなったとしたら……どうなる……

『そこから5kmですね…!』

「リネット曹長!?」

俺「え…?」

兵士がやりとりしている無線機からの声を聞き、ふと空を仰いだ。

そこには彼の墜落地点へ急行するリーネの姿があった。

俺「リーネ…」

ペリーヌ『リーネさん!?』

ルッキーニ『ネウロイの攻撃が激しすぎて…近づけないよぅ!』

坂本『駄目だ宮藤!お前がここからいなくなったら誰がこの基地を守るんだ!』

宮藤『でもっ、彼さんが…彼さんがっ…!』

『嫌だよこんなのっ…彼さん…彼さぁん!彼さぁん…!』

無線機から聞こえてきたのはリーネの声だけでなく、戦っているウィッチ達の声と、泣き叫ぶ宮藤の声だった。

宮藤……

リーネの行く手は、彼が墜落した周辺に浮遊する多数のネウロイに邪魔されてしまう。抵抗することで精一杯だ。

リーネ『そんな…』

……彼が…いなくなったとしたら…

宮藤は………俺に振り向くのか?

いや、彼が死んで、それで振り向くなんて……

どうすればいい……俺は…宮藤を救えないのか?

何も出来ない、それにどうせ救っても報われないんだ…

彼と宮藤が惹かれ合ってる限り…

宮藤『彼さんっ…』

…彼の名前なんて呼ぶなよ

でも、それでも、もし俺でも…彼女を救えたら、救いたい。

悲しんで欲しくない。

どうしても笑顔でいて欲しい。

俺は魔法も使えない。ネウロイと戦うこともできない。

なら俺にできること、俺にしかできないことは……

ふと自分の家族である、自殺した弟をまた思い出した。

…この世界でも、俺はこの先もどうせこのままで死んでいく…

…ならせめて今だけは、やるんだ。


――


リーネ「これだと彼さんのところにいけない…」

幾ら倒せども湧き出るように浮遊する小型ネウロイの壁を突破出来ない。ましてやリーネ一人だけでは。

『…ーネ』

リーネ「えっ?」

インカムから雑音と共に聞き覚えのある声がした。

俺『リネット曹長…!』

リーネ「俺さん!?」

俺『…俺はまだ…』

リーネ「…え?」

俺『俺はまだ…宮藤さんが好きです。…応援するだなんて嘘です…諦めきれません』

リーネ「…俺さん」

俺『だから…どうか、力を貸してください…車の無線でまた通信します…!』

そう言って俺は無線を切った。

リーネ「……はい!」


――


その時、俺はふと思った。
彼が主人公でなく俺が本当の主人公であるから、この世界に来れて、このまま宮藤ではなくリーネと惹かれ合う、いわばリーネルートの世界なのではないかと。

俺が宮藤に惚れたのも、リーネと知り合う理由だからではないかと。

だから俺は、この世界で主役として生きられると。

現実と別世界が混同している為か、そう思えることで自分を奮い立たせた。

兵士「お、お前…なんて勝手な」

俺「……彼少尉が…墜落した地点はここから5kmって言いましたか?」

兵士「?あぁそうだ、少尉が墜落したのはあの地点だ」

その兵士は煙が上がっているところを指で示す。

俺「…車を使わせていただきます」

俺はすぐ近くの車両庫へ走り、手前の車の車両番号を確認して鍵置き場からそのジープの鍵を取る。

咎める兵士の腕が俺の肩を掴んだ。

兵士「おい、さっきから一体なんだ!そんな許可は下りていない――」


この世界の主人公なんだ俺は、絶対に…
奇跡が起きたんだから、この世界に来れたんだから…きっと選ばれたんだからここにいるんだ!

だからこのままならリーネと恋に落ちることだって、絶対出来るんだ…!
せめてこの世界でなら…幸せになるぐらい、いいだろ!

俺は主人公だから死なない、俺だけにできるんだ…!

それでも手は恐怖で震えたままだ。

俺「…俺が……彼少尉の救出に向かいます」

そして、リーネよりもやっぱり頭に浮かぶのは、宮藤の顔だった。



つづく




この世界に来ても、俺は変わらなかった。

でも今はやるべきことがある。いや、ここから変わるんだ。

宮藤のため、リーネと共に俺は彼の墜落地点を目指す。

いつか振り向いてくれることを信じて。

次回、第4話「じぶんのために」
最終更新:2017年06月13日 23:48